プライベート CROSS HEROES reUNION 第2部 Episode:19
「Prologue」
【特別編:EPISODE ZERO】
時は遡り。魔殺少女ペルフェクタリアがCROSS HEROESの一員になる前のこと。
ペルはアベレイジとの決戦後、暗黒結社バダンの時空破断システムとの戦闘中に
異世界へ転移し、勇者特急マイトガイン、仮面ライダーZX、艦娘、
天空の勇者に導かれし者たち、ウルトラマンギンガら多くの戦士たちと共闘した。
ティターンズ、雷張ジョー、仮面ライダー王蛇、ダークルギエル、ブラックノワール、
バダン総統らの連合軍との総力戦を制し、世界の平和を取り戻す。
しかし帰還したリ・ワールドは、世界終焉をもたらす男・禍津星穢によって
崩壊寸前だった。穢の一撃で重傷を負ったペルを、ペルの半身たる平坂たりあが自身の存在を
犠牲に救い、彼女だけを時空の狭間へ逃がす。
リ・ワールドは滅び、たりあは精神体として肉体を失った。
一方、暁美ほむらは崩壊と同時期に「交響界事件」に巻き込まれ
記憶を失ったまま戦乱の世界へ。やがて彼女は鹿目まどかを円環の理から引き裂き
悪魔へと変貌。世界の法則を改変し、まどかを守るためだけの聖域・偽りの見滝原を
創造する。
禍津星穢は自らを「最後の葬儀屋」と称し、グランドクロスにより生み出された
純粋破壊の器。かつてアベレイジが開発した最後の兵器「ブーゲンビリア」も
彼のもとで覚醒する。穢はペルフェクタリア、日向月美、そして暁美ほむらを
“葬り残した汚点”として狙い、並行世界の終焉を進めていくのだった。
【ユートピア・アイランド 完結編】
ユートピア・アイランドが空から迫り、人類最後の希望・CROSS HEROESの拠点
トゥアハー・デ・ダナンは、メサイア教団の水雷戦隊の攻撃を受ける。
甲板では仮面ライダージオウ=常磐ソウゴが仲間たちと防衛戦に臨み
「王とは民と共に未来を歩む者」と決意を新たにする。
海上ではゲッターロボが参戦し、圧倒的火力で艦隊を撃破。
プーアル救出に現れたヤムチャの奮闘もあり、ユートピア・アイランドの中枢システムが
停止。ルフィ、承太郎、Z戦士たちが教団兵や兵器を押さえ込み、計画を崩壊させる。
一方、地上防衛戦ではジオウ、ゲイツ、ツクヨミ、ウォズが教団の審問官と死闘を展開。グランドジオウとバーニングアギトの共闘により審問官を撃破する。
しかし島は崩壊しながら落下を開始。ゲッター、レオパルドン、魔法少女いろはの
ドッペル、七海やちよの氷結、仮面ライダーオーズ・プトティラコンボ、
仮面ライダーウィザード・ウォータードラゴン、Z戦士の総攻撃で落下速度を抑える。
元教団兵も避難と補助に加わり、全勢力が一丸となって落下阻止作戦を遂行。
最後の一押しで島は海上に着水し、崩壊は免れた。
生存者たちは感謝の声を上げ、救出に奔走した17号とガンマ1号も人造生命の行く末に
思いを巡らせる。こうして、英雄たちの連帯は、
人類に新たな希望をもたらした。
【暗黒魔界編 SIDE:心の怪盗団】
暗黒魔界でCROSS HEROESは、復活を遂げたターレスとスラッグに遭遇する。
かつて倒したはずの二人は、以前を凌駕する戦闘力を身につけており、
ベジータやピッコロと激突。そこへ異形の悪魔軍団が乱入し、
アビダイオーを狙って攻勢をかける。ジョーカー、フォックスらの奮闘で
魔物を撃退しつつ、悟空と霧雨魔理沙は「かめはめ波」と「マスタースパーク」を
同時発射し、ガルードの魔矢を殲滅する。
続いて心の怪盗団(ジョーカー、フォックス、クロウ)は、
新たに現れた魔界の反英雄・アクマイザー3(ザタン、イール、ガーラ)と交戦。
三位一体の必殺「魔法陣アタック」によりジョーカーは胸を貫かれるが、
即死防止アイテム「ホムンクルス」によって生還。逆に至近距離から祝福弾を撃ち込み、
アクマイザー3を撤退させる。
しかし戦場はなお混沌の渦中にあり、アビダイン隊と合流すべく、
怪盗団は急ぎ主戦場へ戻るのだった。
【暗黒魔界編 side.ノーバディ】原文:霧雨さん
暗黒魔界の空を征くのは、アビダインだけではなかった。
命蓮寺は聖白蓮らが搭乗する『聖暈船』、アビダインを誘導するために進軍する。
それを狙うのは、魔界の弓兵ガルード。
船を一撃で沈めんとする、轟絶の一矢を次々に放ち続ける。
しかしガルードには誤算があった。
聖暈船とアビダインには数多もの勇士、戦士たちが乗っていたことを。
魔矢の数々を撃ち落としていく突入部隊。
その中で、ノーバディのザルディンはついにガルードの姿を捕捉する。
返す刀に放たれるは、轟沈の一矢。
ガルードはそんな状況に屈することなく矢を撃ち続けるも、
ザルディンの突貫によってついに倒された。
かくて轟沈の危機は避けられたが、まだ終わっていない。
この先に待ち受けるのは、鬼か蛇か――――?
【救世の罅】原文:霧雨さん
ユートピア・アイランド陥落。
『女神』の魔力炉心とするがための計画はとん挫した。
失意の中撤退するアルキメデスと、リベンジを誓うビショップ。
この両者間でも軋轢が生まれつつあった。
そのころ、存在しなかった世界では。魅上はかつてないほどに苛立っていた。
救済のイコンとして担ぎ上げていたはずのカール大帝の「裏切り」、相次ぐ教団大司教の死亡。
そして今回のユートピアアイランド『献上』の失敗。
吐血するほどのストレスに苛まれる魅上。
しかして彼の眼から黒き炎は消えていない。
彼が出す次なる一手は――――?
【暗黒魔界編 SIDE:Z戦士と凶戦士】原文:ゼビウスさん
復活したターレスとスラッグは、驚異的な成長を遂げていた。
悟空と拳を交えたターレスは、一瞬の攻防の後、悟空を凌駕して意識を一瞬奪ってみせた。
超サイヤ人2となった超ベジータですら、全くと言って良いほどダメージを与えられない。
どころか、仲間である筈のグラキアすらも一撃で消滅させる暴威を振るう。
全ては、この魔界を贄にして生み出した『暗黒神精樹の実』によってもたらされた力だ。
スラッグもまた例外ではなく、相対したピッコロに完全に優っていた。
…だが、幾度か拳を交えたピッコロは、彼から懐かしい気配がする事に気付く。
それは、神様。
ここにいるスラッグは、『悟空達に勝った世界線』から来訪した者であり、その世界線で彼は神様を吸収していたのだ。
その上で、神様の意思を踏みにじった事も。
悍ましい邪悪を前に、ピッコロは静かな義憤に燃えた。
それまでの劣勢を一気に覆し、激烈光弾をスラッグに直撃させてみせる。
ピッコロの逆転劇が、今始まる_
【特異点大乱戦編】原文:ノヴァ野郎さん
CROSS HEROES、ミケーネ、竜王軍ジオン族連合、完璧超人軍など
様々な勢力が入り混じり特異点各地で激しい激戦が繰り広げられた。
しかしそんな戦いもカグヤそしてシャドウアビィの乱入による
ミケーネの撤退という形で終わりを告げる。
だがしかし、この戦いは後のさらなる激闘の序章でしかなく、
既に竜王軍ジオン族連合は次なる戦いに向けて動き出そうとしていたのだった。
〈断章:孤高の友情と孤独な完璧(前編)〉
楽園を名乗り下界を脅かした島は、天空より降ろされた。
CHを初め、異なる次元から召喚された戦士、またRR軍から差し向けられた謎の戦士を含め…全てが一丸となったのだ。
島も、見捨てられた教団員すらも救い…
「_俺達、助かったんだ。」
メサイア教団の掲げる、『救済』等と言う代物では無い。
人の命を守る『本物の救い』が、今ここに成された。
_これはその裏側に起きた、ほんの小さな断章である。
◇
_スパイダーマンが去ってから、国連軍の輸送機部隊が到着するまでの間。
CHの救い。
その象徴たる元楽園島に横たわり、ウルフマンは荒い息を吐いた。
「…見たか、ビショップの野郎。これが、人だ!」
疲労困憊の様相ながらも、勝ち誇った声色。
人は、勇気と友情を併せ持つ戦士は、血に塗れても誰かを穢す事無く、光を見せれるのだと。
そんな人の生き方が、仲間達と共に、確かに証明されたのだ。
これが誇らしくない訳が無かった。
「良い顔をする様になったな、ウルフマン。」
「おう、ネプチューンマン。俺ぁもう清々しい気分でよ!」
「ハハッ!だろうな、顔付きが違う!」
ゆっくりと立ち上がったウルフマンは、満面の笑みだ。
かと思えば一度深く息を吹き、少し影の差す表情に変わった。
「…最初はな、頭にチラつくモンを捨てる為の無茶だったんだ。」
思い返すは、クラッシュマンに敗れた雪辱の記憶。
ソレに怯える病院暮らしの日々…
だが楽園島の事を知り、彼は敢えて渦中に飛び込んだ。
「奴の植え付けたトラウマ、か。」
「あぁ…結局、戦ってる途中でまた過ぎっちまった。」
メサイア教団の繰り出した結界は、自らの身体と心を圧殺しかけた『完掌・アイアングローブ』を想起させた。
恐怖が、再び心を飲み込んだ。
「けどよ。オメェは此処に来て、あの時からの俺を励ましてくれたんだ。お陰で頭にへばりついてた余計なもんも、捨て切れた。」
「…そう、か。」
「それに、見失ってたもんも取り戻せた。やちよ達に助けられてな。」
そう言って彼が顔を向けたのは、やちよ達だ。
「俺は一人で戦っているんじゃねぇ。出来る事を補い合って、いざという時も託せる仲間と一緒に戦ってる。」
互いを労わり合う魔法少女の談笑を見て、ふっと笑みを浮かべる。
「あの崩落の中で教団の者達を助けられたのも、皆、仲間を信じられるから出来たんだ。」
彼等の健闘に、ウルフマンは人間賛歌を見た。
そして再びネプチューンマンの方を向き、ガシッと彼の右肩に手を置く。
「何よりネプチューンマン。オメェが俺の全身全霊に答えてくれたから、漸く自分を取り戻せた。」
自らのトラウマに抗った戦いに、ネプチューンマンは共にクロスボンバーを放つ事で答えた。
「オメェが俺に示してくれた友情が、希望になったんだ。」
彼の右手を取って、握手をしながら言う。
「感謝してもしきれねぇぜ…本当に、ありがとうよ!」
「フッ…俺との友情か。」
噛み締める様に呟くネプチューンマン。
少しの間の後、彼は万感の思いを込めて告げる。
「人がこれ程に強く逞しくあれる、完璧な物…やはり、それは友情だ。間違いなくな。」
人の繋がりが織りなす無限に等しい力と、そのキセキ。
友情という人同士の織り成した『軌跡』が、人々を救う『奇跡』を成したのだと。
その意図を組んだ時、ウルフマンは。
「応ともよ!これが正義超人の…いや、俺達の友情パワーよッ!」
そう言ってのけた。
ネプチューンマンは口元を綻ばせて、ただ静かに頷いた。
「……」
…少しの間の後、不意に視線を空へと向ける。
先程までの戦いが嘘の様に、戦いの跡など見当たらない美しい空。
それを見据えたネプチューンマンは、小さく声を漏らす。
「あぁ、成すべき事は成せた。十分過ぎる程に満足したさ。」
まるで誰かへ答えたかの様なその台詞に、ウルフマンは首を傾げ…同時に気付く。
彼のマスクから見える口元が、先程と違って全く笑ってない事に。
それが合図かの如く、彼は告げる。
「_ウルフマン、お前達の友情は、不可能を可能に変えた。」
先程と一変して、極めて平坦な声色。
彼は、ただならぬ剣幕を纏っていた。
「敵とすら分かり合える、お前達の友情を…私は、彼等とは結べなかった!」
そう言い放つと左腕を天高く掲げ…その腕から、磁場嵐が巻き起こりだす。
その原因たるマグネットパワーを突如振るった事に、ウルフマンは驚愕した。
「オメェ、どうしたんだ!?」
「完璧超人という冷え切った土壌を顧みず、友情が芽吹くと盲信した!」
そんな動揺をも意に介さず、ネプチューンマンは独白の如く続ける。
「土壌を耕し、芽吹かせるに相応しい努力もせずに…これはそんな傲慢さへの、贖罪だっ!」
懺悔の如き叫びと共に、ネプチューンマンが海に向かって飛び上がる。
同時に島の各地や周囲の海から集まってくる、大小様々な鉄くず。
破壊された兵器の成れ果て…それ等が、ネプチューンマンの左腕へと集結していく…
「な、何をする気だ!?」
ウルフマンの声も意に介さず、ネプチューンマンの左腕に集まった鉄くずが、円柱めいた全容を形作っていく。
そして露わになったソレは…巨大な『鍵』だった。
無数の鉄くずが圧縮され形作られた、鍵先だ。
彼は鍵と化した左腕を携えると、声を張り上げて急降下する。
「メサイア教団は、マグネットパワーを悪用した。その連鎖は、此処で断ち切らねばならん!」
その怒声には、後悔と同時に義憤をも感じ取れる。
だが真意を読み取る前に、彼は水飛沫を上げて海へと突入した。
彼の後ろ姿は、あっという間に海の底へと吸い込まれた。
「ネ、ネプチューンマン!?」
そんな彼の様子を、ウルフマンは半ば呆然とした様子で見ていた。
彼の様子が一変してから、殆ど一方通行の会話をされ、突然飛び込んだのだ。
一歩遅れるのも当然だろう。
「…な、何だ?」
だがその間が有ったお陰か、奇妙な事に気付いた。
「水飛沫が、まだ立ち続けてる?」
彼が飛び込んだ跡。
そこに小さな水柱が無数に密集し、立ち昇っていると。
すぐさま追いかければ、気付かなかったであろう。
「こいつぁ、一体…?」
ウルフマンは水柱へと歩を進め、手を伸ばす。
そうして水柱が手に当たる…直前だった。
『おっと、お触り厳禁だ。』
そんな声と共に、水柱がウルフマンの手元からグイッと離れた。
同時に、水柱の上から粉の様な物が現れる。
それを見た時、ウルフマンの顔が再び驚愕に染まった。
「な、何ィー!?『無数の鎖』だとぉー!?」
水柱の正体、海中に飛び込む『透明な何か』は、『空色の付いた粉を纏った鎖』だったからだ。
横薙ぎに動いて顕になった鎖…その大元へと、目線を向ける。
そこには、先程まで何も居なかった空中から鎖を伸ばす『超人』がいた。
「ジャララ…随分と目敏い奴だな。」
目に見えて見下した態度をしたソレは、紫色の『鎖』を全身に巻いている。
それは透明だった線の正体でもあった。
陶器の様なマスクを付けた、この男は一体_?
「赤髪と赤い彗星」
青い空と蒼い海が、見渡す限りに無限に広がる。
「――乾杯!」
樽酒をぶつけ合う音。赤髪に髭面、左目に三爪傷を走らせた男は一気に飲み干す。
対する表情を読み取らせない無機質な仮面から金髪を覗かせる全身真っ赤な軍服の男は
あくまで静かに酒を傾ける。まるで相反する静と動。
ただ互いに共通する事は……「赤」。
「いやはや、生きてりゃ面白ェもんに出会うもんだ。何せ空飛ぶ船から
巨人族と見間違えるような機械仕掛けの鉄巨人! おまけに乗ってるのはアンタみたいな
仮面の男だろ。まったく退屈しねェや。あっはっはっはっは……」
赤髪の男……シャンクス。大海賊時代にその名を轟かす悪名高き男。
海賊王に最も近い者と称する声もある。豪放快活、質実剛健、そのカリスマ性から
「赤髪海賊団」の仲間たちは皆、彼を心酔している。そして、麦わらのルフィこと
モンキー・D・ルフィの恩師でもある。
「そちらこそ。私が知る限り、貴殿らのように腕の立つ猛者は
そうそうお目にかかれるものではない」
仮面の男……シャア・アズナブル。巨大人型兵器・モビルスーツを駆る
ジオン軍の「赤い彗星」。若干ながらその卓越した操縦技術で瞬く間にエースの名を
恣にした男。
シャアとシャンクス……彼らは世界を同じくする者たちではない。
時を少し戻そう。
風は穏やか、波も静か。赤髪海賊団の船は陽光を浴びながら、
ゆったりと航行していた。甲板では仲間たちが笑い、酒を酌み交わす。
船長シャンクスも陽気に笑みを浮かべていた。
「――か、頭ァ!! 海からバケモンが……!!」
だがその平穏は、突如として破られる。
深海から這い出したのは、見たことも無い巨大な怪物。
無数の触手と甲殻を持ち、船一隻を覆うほどの化け物が海上へ姿を現したのだ。
「キシャオオオオオッ……」
「モンスターだ!」
「船を狙ってやがる!」
船員たちが叫ぶ中、シャンクスはただ立ち上がり、剣を抜いた。
「来るぞ……みんな構えろ!」
海から伸びる触手が船を薙ぎ払う。
マストがきしみ、甲板が揺れる。砲弾を撃ち込んでも、分厚い甲殻には通じない。
「頭! このままじゃ沈む!」
仲間の声に、シャンクスは静かに頷いた。
「やるしかねェ。つあああああああッ!!」
シャンクスの一閃。
触手を切り裂くも、怪物は呻き声をあげてなお襲い掛かる。
船員たちが奮闘し、必死で抗う。だが、怪物は圧倒的だった。
その時――空に影が差した。
見上げると、太陽を覆うほど巨大な戦艦が雲を切り裂いていた。
「な、なんだありゃあ!?」
「空を飛ぶ海賊船だと!?」
赤髪海賊団の面々が目を剥く。
それは宇宙海賊クロスボーン・バンガードの象徴――マザー・バンガード。
艦首に立つ三人の姿があった。
赤き仮面の男、シャア・アズナブル。
海賊の名を背負う男、キンケドゥ・ナウ。
そして巨躯の格闘戦士、アルゴ・ガルスキー。
「……到着するなり、荒事か」
キンケドゥが口角を上げる。
「海賊ならば、いつもの事だ」
本業の宇宙海賊であるアルゴは冷淡に返す。
「エターナル・ベースとやらも無理難題を言う。やってみるか……ザク、出るぞ」
マザー・バンガードのカタパルトから、シャア専用ザク、
キンケドゥのクロスボーン・ガンダムX-1改、アルゴのボルトガンダムが出撃。
「こ、今度はバカでけェ巨人だと!?」
「一体何がどうなってんだァ!?!?」
困惑する海賊団員を他所に、シャンクスは不敵に笑っていた。
「ふっ……面白ェ……!」
「直撃させるッ!!」
上空から降下しながら、シャア専用ザクが肩に背負ったザクバズーカを発射。
その反動によるホバリング効果を機体制御に利用しながら、一発、二発と射角を巧みに
変えながら包囲爆撃。
「ギャオオオッ……」
仰け反るも、すぐさま触手をシャア専用ザク目掛けて伸ばす怪物。
「させるかッ!!」
そこにキンケドゥのクロスボーン・ガンダムX-1改が立ちはだかり、
ビーム・ザンバーで無数の触手を一刀両断。黒いマントに十字骨を象ったバーニア、
海賊帽を被ったような頭部の意匠。まさに海賊のガンダムだ。
「むおおおおおおッ! グラビトンッ!! ハンマァァァァァァッ!!」
先ほどまでの寡黙さとは一転、戦いの中でガンダムファイターの血が滾るのか、
アルゴの咆哮と共にビームアンカーで接続された巨大な鉄球が怪物の頭部に
振り下ろされる。
「グギャアアアアアアッ……」
頭蓋が拉げる程の衝撃……
シャンクスが剣を握り直し、口元に笑みを浮かべる。
「やったか!?」
手応えあり……団員のひとりが勝ちを確信したその瞬間……
「ギギギオオオオオオ……!」
怪物はまだ生きていた。途轍も無い生命力……もはや人智を超えている。
「な、何なんだよこいつはァ!?」
「……ベックマン。頼む」
「あいよ」
副船長、ベン・ベックマンへの合図と共に、シャンクスが船体を飛び出した。
「生身で!?」
さしものキンケドゥも驚く。だがヤケを起こしたわけではない。
「来いよ、怪物。赤髪海賊団を舐めるな」
「――……!!」
シャンクスの挑発を理解したのか定かではないが、怪物が触手を繰り出してくる。
だが……
「狙い通りだ」
その攻撃がシャンクスに届くことは無かった。後方から放たれたベックマンの精密射撃が
触手を次々と撃ち貫く。しかも先程のように再生する事も無い。
「あの弾丸……ただの弾丸ではない」
アルゴの読みは正しかった。ベックマンの弾丸には覇気が込められており、
相手の特異能力を封じる効果があった。シャンクスはそこまで織り込み済みで、
戸惑うどころか、さらに戦速を増して行く。
「チャンスは最大限に活かす……それが私の主義だ」
ニュータイプの直感が働き、状況を瞬時に読み取ったシャアは、
怪物の側頭部へ強烈なキックを放って体勢を崩す。
「まだだ……! 喰らえッ!!」
続けざまにX-1改の射撃ビーム銃、ザンバスターの連射。
光熱と爆発を怪物に見舞う。
「グギャェッ……」
やはり効いている。
たまらず横倒しになる怪物目掛けて、愛刀・グリフォンを抜き放つシャンクス。
「見えたぜ、頭ァ! そいつの弱点は……!!」
狙撃手・ヤソップが見聞色の覇気で視覚を共有し、怪物の再生能力の元である核の位置を
報せる。
「相変わらず良い目をしてやがるな、ヤソップ。トドメを打たせてもらう」
「……!!」
「終わりだ……!!」
その瞬間、その場にいるすべての時が凍りついたような威圧感。
「な、何だ、このプレッシャーは……!?」
「戦士の闘気……それに近しい……が、威力は比べ物にならん……!」
「これほどの使い手がいるとはな……! 化け物か……!?」
「ギャ、オ……!」
キンケドゥ、アルゴ、シャア……歴戦の戦士たちをも金縛りにする程の
シャンクスの「覇王色の覇気」……その戒めが解けた瞬間、
怪物の巨体は真っ二つとなるに留まらず消し炭になって消滅、ついには大海をも割った。
〈断章:孤高の友情と孤独な完璧(中編)〉
突如としてマグネットパワーを振るい、左腕を鍵先に変えたネプチューンマン。
海中へ飛び込んだ彼を追わんとした時、ウルフマンは『透明な鎖』を海中に垂らす謎の超人と遭遇した。
「オメェ、何者だ?」
「ジャララ、見ての通り鎖を垂らしてる男だ。」
「ッそういう事じゃ…!」
ウルフマンの問いを、謎の超人ははぐらかす。
「それより、ネプチューンマンは良いのか?」
「!」
謎の超人の指摘に、ウルフマンもハッとなる。
(そうだ。今はアイツが何しようとしてるかを…!)
謎の男も、鎖も気になる。
だがそれ以上に、ネプチューンマンの動向を追わねばならない。
故に出た決断は…
「_チィ!」
海中に身を投じる事。
男の言い分に従う形になるが、納得せざるを得なかった。
だがただ従った、という訳でもない。
(どうせ鎖は海の中だ。それに、アイツは空を見てから様子がおかしくなった。アイツを追ってりゃ、鎖が何なのかも分かるだろ!)
奴はネプチューンマンの挙動不審に居合わせたのだ、ならば彼から奴についても知れるだろう。
そう結論付けて、静寂の海中を泳ぐ。
陽光すら霞む薄暗い世界は、感覚を鋭利にさせ…そのお陰か、視界の端に映る物に気付く。
(ネプチューンマン!)
目を凝らして漸く見える、深海に薄っすらと浮かぶ彼の後ろ姿。
追いすがらんと、泳ぎを速めるウルフマン。
そうして近づき…ウルフマンは再び驚愕に包まれた。
「なッ!?」
ネプチューンマンの全身に突き刺さる、無数の鎖を見てだ。
「この鎖、さっきの奴のか!オイ、その鎖は大丈夫なのか!?」
「ウルフマン、着いてきたのか…だが心配は要らない。傷になっている訳では無いからな。」
ネプチューンマンが言う通り、鎖による深傷の形跡は無い。
よくよく見れば、鎖は肉に溶け込み同化していた。
だがいずれにしてもこの禍々しい様相は、異常に違いなかった。
ウルフマンは追及を重ねる。
「それにしたってよ…その鎖、上に居るアイツから繋がってる物だろ?」
「…奴に会ったか。だが今はそれどころではない、下を見ろ。」
「アイツもオメェも、何だってんだ…!」
またもはぐらかす様な口ぶりに、苛立ちが募るウルフマン。
だが今度は言われるがままに海底へと目を向ける。
直後、彼が目にした物は…
「な、何ー!?海の底が鉱石まみれじゃねーか!!?」
所狭しと並ぶ、バミューダクリスタルの群れ。
それだけではない。
「どれもこれも、赤く光ってやがる…!」
放つは、赤褐色の輝き。
それが示す事実を、ネプチューンマンが答える。
「そうだ、『マグネットパワー』に満ちている!そしてマグネットパワー有る所、必ず『アレ』がある!」
彼がそう言った時、鉱石群の中心に『鍵穴』が見えた。
前方後円墳の形をしたその穴は、紛れもない。
「ありゃ、『アポロンウィンドウ』じゃねぇか!?」
マグネットパワーの源、噴出孔。
鍵穴の形をした底の見えぬ穴が、そこにあった。
「あぁ。そして命を賭してでもこれを閉じる為に、私は遣わされた。」
「命を、賭して?」
動揺するウルフマンを背に、ネプチューンマンは左腕の鍵を掲げると、周囲の鉱石や楽園島底部の爆撃用鉱石から、磁気を帯びたエネルギーが鍵へと伸びていく。
同時に赤みが失われていく鉱石。対してネプチューンマンの輝きは、目に見えて増していく。
次第に、彼の口元が険しい物になる。
「お、おぉ…おおおぉ!!!」
「ま、待て!そんな大量のマグネットパワーは、流石に不味いんじゃねぇのか!?」
「ぐ、ぅ…そう、だ…!だが、やらねば…いや、元より"やる他は無い"のだ!」
その危険性に気付いたウルフマンだったが…既に時遅く。
最高潮に達した輝きと左腕を構えて、咆哮と共にネプチューンマンが鍵穴に突っ込む_!
「うおぉーーーッ!!!」
_ガチャンッ!
アポロンウィンドウに鍵が刺さる。
すると彼の左腕から鍵先が外れ、彼の纏う輝きがフッと消え…腕先から、アポロンウィンドウへと光が放たれる。
瞬間、アポロンウィンドウが眩いばかりに光り輝きだした。
彼の貯めたマグネットパワーが流れこんでいるのだ。
そして…
「 うぅ…」
「ネ、ネプチューンマン…?」
「ぐおぉぉッ!!?」
苦しみ悶えるネプチューンマン。
あの量のマグネットパワーを、体に通した代償だろうか。
左腕をアポロンウィンドウに向けながら、全身を痙攣させ血反吐を吹き出す。
余りに惨い姿に、ウルフマンが駆け寄ろうする。
「だ、大丈夫か_」
その時だった。
彼に繋がった鎖が、音を立てて張り詰める。
ソレが合図の如く、悶えていた彼の体が一瞬で構えを取った。
「『近づくな。』」
瞬間、彼の右ラリアットがウルフマンに向かって振り抜かれた。
実戦の挙動と何ら変わらないソレに、油断していたウルフマンは直撃を貰う。
「ぐ、あぁぁーーー!!!?」
腰の入った強烈な一撃に、ウルフマンは大きく吹き飛ばされた。
「ネ、プチューン、マン…!」
腹から腰まで突き抜ける、痛烈な激痛。
それでも腹を押さえながら、ネプチューンマンを…彼を取り巻く鎖を見据え、叫ぶ。
「ぐぅ…オメェ、やっぱ、その鎖に縛られてるのかっ!?」
「…あぁ。」
彼の震えた声を聞き、ウルフマンは確信する。
右腕を振るってきた時も聞こえた、ネプチューンマンと重なる『何者か』の声…その正体。
_ジャラジャラ。
示し合わせる様に、鎖の音色と共に上から異質な気配が舞い降りる。
「テメェが、こんな鎖を刺しやがったのか!」
「ジャララ~…いかにも、この私『完鎖』チェインズマンが、この結末を手繰らせて貰った。」
「その異名…『完璧・無量大数軍』かっ!」
空から海中へと鎖を垂らしていた、謎の男…もとい、『完鎖』チェインズマン。
全ての元凶を確信したウルフマンは、彼に怒りの眼差しを向けた。
「声まで操りやがって…例え条約破りだろうが、あそこでテメェをとっちめるべきだったっ!」
その声色には、悔しさと憤りが滲んでいた。
「…いい、や。それは、違う。」
だがソレを否定したのは、他ならぬネプチューンマンだった。
ゲホゲホと血を吐き続ける容態で、それでも彼は声を上げる。
「ズタボロに、なろうとも…穴を閉じると、決めたのは、他でもない…私だ。」
「何…!?」
「ゲホッ…操られてでは、無い。地上での言葉も、この行いも、全て…!」
震えた声でも分かる、彼の決意。
しかしウルフマンにはにわかには信じ難かった。
何せ、発声すら操るのだから。
「けどオメェは、その鎖に声まで…」
「聞け、ウルフマンッ!」
ウルフマンはそう言いかけたが、ネプチューンマンの言葉と行動に遮られた。
動揺する彼に、ネプチューンマンは精一杯声を張り上げて、宣告する。
「さっき、お前を殴った事以外には…私の言葉と行動に、『偽り』は無い…!」
重みの有るその言葉は、紛れもなくネプチューンマン自身の決心だった。
「悠久の聖母、新時代の歌姫」
シャア、キンケドゥ、アルゴ……大海賊時代とは異なる世界からやって来た者たち。
モビルスーツ、モビルファイターと言った巨大人型兵器を操縦する、と言う共通点以外は
生まれた時代も世界もまるで異なる。
そんな彼らが拠点とする宇宙の深淵、時空の狭間に浮かぶ巨大な砦――
エターナル・ベースである。 そこはあらゆる「ガンダムの世界」のパイロットが
時空を超えて集う拠点であり、終わりなき戦乱の記憶と可能性が交錯する場所だった。
無数の格納庫にはRX-78から最新鋭機までが並び立ち、ブリッジには各世界の戦士が
交代で詰めている。その中心で全体を統括・運営するのが、
メインオペレーター、マリア・オーエンス。
落ち着いた栗色の髪に黒い軍服の肩から白い外套をまとい、聖母の名に相応しい慈愛と
それでいて冷静沈着の声はベース中に響いていた。
「時空震の観測結果が出ました。
異常なエネルギー波が偉大なる航路と呼ばれる海域で確認されています」
マリアの瞳は端末に走る赤い線を凝視する。
それはただの自然現象ではなかった。かつて幾多の世界を食い荒らした“穢れ”の兆候に
酷似していたのだ。
「派遣部隊を編成します。指揮は……シャア・アズナブル。随伴にキンケドゥ・ナウ、
アルゴ・ガルスキー」
名を呼ばれた三人が、静かに一歩前に進み出た。
「我々が向かうのは未知の世界……“海”を中心とした文明だ」
仮面の奥から低い声が響く。シャア・アズナブル、赤い彗星と呼ばれた男。
「その世界には『海賊』の旗を掲げる者がいると聞く。俺のように宇宙海賊の名を
隠れ蓑にしているわけじゃない。正真正銘の海賊だ。だが、今回は今までと違い、
ガンダムに紐付く世界ではないようだが?」
応じたのはキンケドゥ・ナウ。宇宙海賊クロスボーン・バンガードを率いた
経歴を持つ男である。宇宙世紀、未来世紀……彼らが元いた時代の名。
だが、今回の行く先は大海賊時代。モビルスーツなども存在しない世界。
「はい。今回、皆さんに向かっていただくのは……世界を蝕む穢れによるものです」
「穢れ?」
「このエターナル・ベースは時の狭間にある拠点……皆さんは各々の世界で
それぞれの機体を駆り、戦い抜いた……それが歴史の道標となり、建造されたのです。
砂時計の砂粒が永い永い悠久の時を紡ぎ、やがて満たされるように。
ですが最近、異変が起きました。まるで世界が腐り落ちる果実のように黒く、朽ちていく。
歴史そのものを蝕み、やがて無に帰す……それは私達にとっても悪影響を及ぼします。
それが自然現象なのか、何者かによる仕業なのか、それは現在も調査中です」
「まるでデビルガンダムのような話だな。『奴』がここにいたのなら、放っておくまい」
アルゴ・ガルスキーは豪腕を組み、彼が戦った地球、ひいては宇宙存亡の危機を招いた
怪物との死闘、そしてその怪物に人生を狂わされた戦友に思いを馳せていた。
マリアは三人を見回し、厳かに告げる。
「任務は二つ。第一に、その世界で進行する異変の阻止。
第二に――行方不明となった“可能性の戦士”たちの調査。座標から判断するに、
この二つは同一の事象に連なるはずです」
ブリーフィングルームに重苦しい空気が流れる。だが三人は頷いた。
「了解した。我々が世界や出自を超えて集められたのも、何かしらの意味があるのだろう」
「地球を汚染するのに躊躇いが無い奴ってのは、何処の世界にもいるもんだ。
そう言う奴を止めなきゃならんだろうさ、誰かがな」
「曲がりなりにもシャッフル同盟、ブラック・ジョーカーの紋章を継ぐ男だ。
歴史の影から世界の調和を保つ、それが使命だ」
かくして、停泊していたマザー・バンガードが起動し、
時空を越える光へと飛び込んでいった。そして、現在……
戦いの後、酒が振る舞われた甲板で、シャンクスは杯を置き、低く語り出した。
「最近、麦わらのルフィと海賊狩りのゾロが消息を絶ったと言う報道があった。
ルーキーとしちゃ名を上げて来てる連中だった。そして、七武海のドフラミンゴも……」
シャンクスの背後に立つ仲間たちの表情が険しくなる。
彼らにとっても、ルフィは幼い頃から知る間柄だ。いずれ大きく成長し、
赤髪海賊団に匹敵する海賊となって自分たちの前に姿を現すかも知れないと
期待をかけていた。その彼らが現在はCROSS HEROESの一員として
リ・ユニオン・スクエアを股にかけ、時空を超えた戦いに身を投じているなどとは……
「お前たちがここに現れたのと、やつらの失踪は無関係じゃないんじゃないか?」
シャンクスのその眼差しは、鋭く三人を射抜いた。見聞色の覇気。嘘偽りは隠せない。
並の人間あらば心臓を握られているような錯覚に陥るだろう。
だが、仮面の奥でシャアは至って平静を保ち杯を傾け、沈黙の後に言う。
「残念ながら、そのルフィくんとやらの事は私達も窺い知る所ではない……
だがその推察、否定はできん。我々の任務は、この世界に及び始めた“穢れ”の調査だ。
並行世界を食らう存在……それに、ルフィくんたちも巻き込まれた可能性が高い」
「穢れ、だと?」
「我らが追っている存在は、世界の境界すら踏みにじる。恐らくこの海も例外ではない。
先ほど現れた怪物がその兆候だ」
(そいつは、まるで……)
人智を超え、世界を丸ごと蹂躙するほどの怪物……心当たりが無いわけではない。
シャンクスは深く息を吐き、やがて笑った。
「異世界の人間……やはりそうか。その格好、あのデカブツ、腕前、
どっからどう見たって普通じゃねェ。となれば、ルフィ達も今頃同じような目に遭ってる
可能性もあるって事だよな」
「かも知れん。貴公は鋭い洞察力を持っているようだな」
「血の気の多い連中ばかりを船に乗せてるんでね。考え無しじゃやってられん。
導火線に火のついた爆弾みたいなヤツらさ」
「アンタが言うのかよ、頭!」
「一番キレたら何しでかすか分かんねェくせによ!」
「うるせェよ、話の腰折るなよな! がはははははははは……」
シャアは黙して杯を上げ、キンケドゥとアルゴも応じる。
「ふっ、気持ちの良い連中だな」
「こいつらこそ、紛う事無き海賊って奴だ」
「ルフィ達の居所が分かんねェのはまあ、気がかりではあるが……大丈夫だろ。
そう簡単にゃくたばらねェさ。何せ、俺が麦わらを預けた男とその相棒だ」
やがて時空の裂け目が再び開き、マザー・バンガードは帰還の時を迎える。
「次に会う時は、もっと大きな宴にしようぜ」
シャンクスが片腕を振り、仲間たちが声を上げる。
「世界は違えど、再び相まみえよう」
シャアが短く応じ、光に包まれて消えていった。
残された赤髪海賊団は、ただ杯を掲げる。ルフィ、ゾロ、そして消えたドフラミンゴ。
その行方の裏に、“穢れ”と異世界の戦士たちが絡むことを、確信しながら。
「……もしや、マリアが言っていた可能性の戦士とは……む……? 歌、だと……?」
世界を去る前、シャアは確かに耳にした。まるで魂ごと別世界に導かれてしまいそうな、
魔力にも似た魅力を伴う、歌姫の歌を……
〈断章:孤高の友情と孤独な完璧(後編)〉
周囲のマグネットパワーを集め、アポロンウィンドウの奥底へと封印したネプチューンマン。
反動によって深手を負った彼を助けるべく近寄るウルフマン。
だが彼に刺さっている鎖が張り詰めると、そのネプチューンマンによって逆に攻撃を受けてしまう。
そして混乱するウルフマンの前に、鎖の主たる『完鎖』チェインズマンが現れる。
彼がネプチューンマンを操っていると確信したウルフマンだったが、当のネプチューンマンは諭すように告げた。
「さっき、お前を殴った事以外には…私の言葉と行動に、『偽り』は無い…!」
欺瞞は、感じられない。
雄々しき決意に満ちた言葉だった。
「例え、この様な体になろうとも…ゴホッ、ゲホッ!」
「ネプチューンマン!?」
告げれるだけの全てを伝え切った、と言わんばかりに意識が途切れるネプチューンマン。
そんな彼の身体に刺さった鎖が、再び音を立てて張り詰めた。
彼の身体は無抵抗のまま、チェインズマンの元に行く。
「いやはや、この男は実に協力的でな。私は殆ど監視するに留まっていた。貴様がソイツに寄らねば、或いは操らなかったかもしれんな。」
チェインズマンが彼を巻き取りながら、詭弁に肯定する。
一見、彼を操ってそう言わせているのかとさえ思える光景。
だが、ウルフマンには何故か真実だと感じた。
「本当、なんだな?」
「信じるかは任せるが、本当だと言わせて貰おう。元々は操ってでもアポロンウィンドウを閉じさせるつもりだったが、そうするまでも無く自分から全てを行ったのだと。」
そう告げたチェインズマンの口調は、やけに厳かだった。
「…この男は、今も完璧超人の誇りを忘れていないとのたまっていた。この仕事を告げた時もだ。」
(何だ、この男の眼…)
陶器の様なマスクから覗く、チェインズマンの眼。
ソレを見た時、ウルフマンは僅かに動揺する。
(さっきまでの見下した眼付きとは、まるで違う…?)
「そしていざこの悪趣味な島に連れてきた時、この男は決して逃げ出そうとせず、最後まで仕事を完遂した。」
羅列される言葉は、どれも重々しい。
妙に複雑な物を感じる口調だが、ある感情の名が過ぎった時、ウルフマンは全てに合点が行く。
(そうか、コイツは…!)
「この男に、『偽り』は無かった。正直に言おう、『感服』したよ。」
一種の敬意、心意気への肯定をチェインズマンは示した。
「認めざるを得まい。この男が、完璧超人に相応しい誇りを抱いていることを。贖罪の意志さえ持っている事もだ。」
「……」
「そう睨むな。全てはこの男の選択…だからこそ、私は彼に『敬意』を示している。」
そう断言した彼の眼付きはやはり厳かで、しかし何処か尊重の意があるとウルフマンは感じた。
…しかし。
「…『敬意』だと?ぬけぬけとぬかしやがって!!」
ウルフマンの内に秘めた憤りが、堰を切ったように吹き出た。
「忘れちゃいねぇぞ!テメェ等の身勝手で不可侵条約を破って、ネプチューンマンを縛り上げて晒し者にして、今日まで幽閉してやがった事をよぉ!」
そう、結局はそこなのだ。
彼等『完璧・無量大数軍』が、あの日どれだけネプチューンマンの尊厳を踏みにじったか。
縛られた彼を見た時の義憤を、ウルフマンは片時も忘れた事は無かった。
「何より、そんな鎖で縛っておいて何が『選択』だ!?監視だの何だの、結局はネプチューンマンを徹底的に下に見ているんだよ!」
「……」
「てめぇ等に、『敬意』を口にする資格はねぇ!!」
燃え上がる怒りの念と共に詰め寄るウルフマン。
しかし、チェインズマンの態度はまるで変わらない。
「フン、あの条約は我等の大義に反する故に、調印を勝手に取り仕切ったこの男は罪人相応の立場になっただけの事。寧ろ贖罪の機会を得られただけ、運が良い方よ。」
「テメェ、言うに事欠いて…!大体、テメェ等の計画は集合無意識(メメントス)とやらを使った洗脳_!」
再び激昂し、腕を振りかぶるウルフマン
…だが、ふと気付く。
「…待て、何でテメェ等は、わざわざ不可侵条約を破った?ほっといときゃあ、誰にも知られず洗脳で世界は変わったってのに。」
「_少し、お喋りが過ぎたな。」
ぽつりと、チェインズマンが俯いて漏らす。
かと思うとウルフマンを見据え、問い掛ける。
「それよりもだ。貴様が私を攻撃すれば、休戦協定破りとなるぞ。」
「ッ!」
「魔界に向かったとかいうキン肉マン達が、悲しむだろうな?ジャララ…」
完全な煽り文句に血が上りかけるが…ウルフマンは堪えた。
条約破りを指摘した側が休戦協定を破れば、己の言葉に一切の道理は無くなる。
何より…
(あくまでアイツの事は、完璧超人の内情でしかねぇ…!)
「どうやら、理解したようだな。話が速くて助かるよ。」
迷いを看破したチェインズマン。
そして振り上げたまま止まった彼の腕を見てか、ネプチューンマンを担いで海面へと急上昇しだした。
「…クソッ!」
何か出来る訳でも無く、しかし黙って見送る気にもなれず、追いかける。
すると瞬く間に、海面が見えてきた。
だが、ウルフマンの顔色は暗い。
(俺の心を救ってくれたネプチューンマンに、俺は何も出来ねぇのか…!?)
何も恩返し出来ない不甲斐なさを、嘆くばかり。
陽光が差して鮮明になっていく視界に反比例して、ウルフマンの胸中は暗雲に染まっていく…
『_その正義心は、嬉しかったさ。』
(…いや、そうじゃねぇだろ。)
頭を過ぎる、彼の言葉。
直後、両者は海上へと飛び出す。
そのまま空高く飛んでいくチェインズマンに対し、ウルフマンは島へと着地し、精一杯声を張り上げて叫ぶ。
「この借りは、ぜってぇ忘れねぇ!テメェ等の企み諸共、蹴りを付けてやるからなッ!」
(そうだ、出来る出来ないじゃねぇ…!)
宣戦布告めいた絶叫。
例え通じぬとしても、内に滾る怒りは大きかった。
既にチェインズマンの後ろ姿は豆粒の様に遠かったが…しかし、彼は振り返った。
「良い気概だ。その日が来るのを待っているぞ、正義超人。」
先程の様な嘲りでも無く、ただ求められた様な応えを返した。
そして再び背を向けると、そのまま飛び去る。
後には、潜る前と変わらぬ晴天にさざ波の音が響くのみだった。
「_ウルフマンさん!」
そんな静寂を裂いて、若い声が後ろから響く。
顔を向ければ、そこにはいろは達がいた。
「さっき、凄い磁気嵐が起きて…何か知りませんか?」
「あぁ…なぁに、敵が出ただけだ。」
「敵襲ですか!?一体何者が…?」
周囲へ警戒を払いながら、いろはとやちよが聞いてくる。
彼女達や他の者にとっては不明瞭な事なのだから、当然の反応だろう。
ウルフマンは一呼吸入れ、答える。
「_アイツは、俺が越えるべき壁だ。」
「へっ?か、壁?」
予想だにしなかった返答に、いろは達は困惑気味に声を漏らす。
余りに抽象的な表現だ、無理も無い
だが、ウルフマンにとってはこれ以上無く明確な表現だった。
そしてチェインズマンの去った空を再び睨み、口を開いた。
「必ず助けるからな、ネプチューンマン_」
◇
断章:孤高の友情と孤独な完璧 完
「竜たちの挽歌 phase.1」
暗黒魔界
赫空を滑空する旋風の六槍。
ザルディンは空から次に襲う敵を見ている。
多くの魔物たちが彼の斬槍の餌食となってゆく。
「無限に湧き続けるか、しかも奥へ行けば行くほどしぶとくなる!」
奥地に進めば進むほど、敵の強さは次第に強くなっていく。
しかも緩やかなんてものじゃない。
RPGで例えるならば、最初のダンジョンをやっとこさクリアしたら次のダンジョンで魔王城レベルの雑魚敵がわんさか出てくるような落差だ。
(こいつら、奥にいる個体であればあるほど謎の『実』を持っていた。)
迫る敵を迎撃しながら、頭の中で考察する。
彼らが持つ小さくも禍々しい謎の「実」、神精樹の実。
(恐らくはあれを食らうことで戦闘力が高まるのだろう、『食いすぎると死ぬ』みたいな副作用もなさそうに見えるが……やれる方法はある。『実』があるのならばどこかに『樹』があるはずだ、それを伐採すれば奴らに『実』の供給はなくなる……だが、それでいいのか?それは半年以上奴らと戦う場合の話だ、戦争をするわけではない以上は速攻を……。)
口にしながら、ザルディンはさらに魔界の奥へと進んでいた。
そこにあったものを見た彼は、即刻サイクスに連絡を取った。
あまりにも信じがたいものを見たように、策士としての面も持っている彼らしからぬように、焦って。
「サイクス、今俺が目にしているものは……あれは、なんだ?」
『どうしたザルディン、何が見えた!』
「樹だ、禍々しく巨大な樹が見える……!!」
暗黒の魔界を支える、禍き赫大樹。
巨神アトラスの如き雄大、魔界の天蓋を支える木々梢枝は鋭い針のよう。
一見穏やかそうに見える木の葉すらも魔界の瘴気にあてられ異形の模様と色味を帯び、見る者すべてを恐怖させる。
心がなく、恐怖すら踏み越える勇猛を持つザルディンすらも例外ではない。
槍を持つ手が、恐怖か武者震いか震えているのだから。
「なんだあれは……まさか、あれが……!?」
◇
少し前 エジプト地下遺跡
今まさに始まろうとしていた、海馬vs藍神/ディーヴァのデュエル。
空には虚空が開き、敗者を低次元に飲み込まんとしている。
その様子を、遠くの物陰から見ている男の姿があった。
「ディーヴァ。奴は、海馬瀬人は強いぞ。しかもあの指輪を追って、悪しき教団の刺客が迫ってきている……!」
「オレのターン、ドロー!!」
最新鋭のデュエルディスクから、ホログラムのカードをドローする。
立体映像に映された手札を見て、海馬は二度驚いた。
「モンスターのレベルが、ない?」
「この次元領域デュエルでは通常召喚に代わってモンスターをレベルに関わらず次元召喚できる。だから上級モンスターもリリースなしで召喚できるのさ。そして、モンスターが持つステータスをその範囲内の数値で決めて戦う。」
「ステータスを決めるだと?」
「そう、だがそのステータスはデュエリストの気力によって決定される。」
「ふん、それが貴様らのデュエルだというのなら……この俺が!土足で踏み込んでくれる!次元召喚!! うおおおおおおおおおーーーーーッッ!!」
気力全開、闘志燃焼。
海馬は、最初から全力全開だ。
「現れよ!『クリスタル・ドラゴン』!!」
かくて出現する、巨大な結晶を刺々しく装備した水晶竜。
本来そのレベルは6、モンスター1体のリリースがなければ特殊召喚できない。
だが、そんなことはこの次元領域デュエルでは取るに足らぬ些事である。
『クリスタル・ドラゴン』 攻撃力:2500
「さあ、貴様のターンだ。」
海馬 LP:8000
・『クリスタル・ドラゴン』
・伏せカード2枚
手札4枚
「モンスターの攻撃力を限界まで引き出すとはな。だがこのデュエル、通常の戦闘ダメージに代わってモンスターが破壊された時、そのモンスターのステータス分のダメージを受ける。覚えておくことだ!!」
その瞬間、空中に無数の小さなキューブが集まっていく。
ディーヴァが何かしらのモンスターを次元召喚したのだろう。
だが、海馬のそれとは明らかに違う演出。
まるでそのモンスターだけが、特別扱いされているような。
「手札から『方界胤ヴィジャム』を次元召喚!」
ディーヴァの目の前に、海馬の目の前に、異形が現れる。
羽根を生やした、複数の眼球を組み合わせた壺のような異形。
『方界胤ヴィジャム』 攻撃力:0
「攻撃力……0だと?」
海馬が呆気にとられるのも無理はない。
普通、デュエルモンスターズの戦闘は「攻撃力の高い方」が勝利するシンプルなもの。
一部『ユベル』や『御巫』と言った攻撃を反射する例外は存在するが、少なくともこのヴィジャムにそのような「禍々しさ」は感じない。
ましてやデュエリストの気力、闘志によってステータスの数値が決定される次元領域デュエル。
気力もクソもないステータスを見せつけられては、完全に海馬を嘗めているとしか思えないのは一目瞭然である。
「じきに分かるさ、じきにね! ボクはカードを4枚セットして、ターンエンド!」
〈第一次魔界大戦:死の縁より憎悪を籠めて〉
神精樹の実を取り込み、より一層凶悪さに磨きを掛けたスラッグ。
だが、そんな彼をピッコロは『追い詰められている』と断言した。
「その得体の知れない実を食っても、気が弱ってる。死んでないだけだ。」
「ほぅ、消耗しているとでも?」
ピッコロの顔色は、確信に満ちていた。
事実消耗しているスラッグは、それが面白くなかった。
「一度まぐれを当てた程度で、調子に乗りおって…ハァ!!」
癪に障ったのか、ピッコロへと突撃するスラッグ。
砲撃めいた風切り音を轟かせ、鋭い右ストレートを顔へと放つ。
だがピッコロは、これを左手で受け止め、そのままスラッグの右腕を押し返しだす。
先程のスラッグによる蹂躙劇は、今は兆しすら見えなくなっていた。
「パワーが落ちている。こうして止められたのが、証拠だ。」
(ぬぅ…まともに食らったのは、やはり不味かったか。)
薄っすらとだが、冷や汗を浮かべるスラッグ。
それを見てか、ピッコロが続けて指摘する。
「その様子だと、再生も追い付いてはいるまい。」
「ッ!」
スラッグの静かな驚愕を、ピッコロは得意の聴力で聞き取った。
四肢の一つ二つならば、神精樹の実も合わさり再生し切れた。
だがピッコロの激烈光弾は、彼の再生能力を機能不全にしたのだ。
「ぬ、おぉ!?」
それを見抜かれた途端、スラッグの膂力が揺らぐ。
まるで露わになった事実によって、現実が変わるが如く。
「見えたぞ、隙がっ!」
好機と見たピッコロは右側から潜り込み、横っ腹を殴る。
溜まらず、体を崩すスラッグ。
崩れる均衡に巻き込まれ、曝け出される無防備な体。
「ハァッ!!」
「ガッ…!?」
そこへ叩き込まれる鋭利な蹴りに、スラッグは苦悶の声を漏らし。
「そこだっ!でやぁーーー!!!」
「グ、ア、ガァァァッ!!!」
そのままよろめいた所に、怒涛の連撃が重ねられる。
鳩尾、頭部、首といった人体の急所に叩き込まれる殴打の嵐。
鈍い音が絶え間なく鳴り響き、紫色の体液が吹き出る。
やがて飛ぶ事さえ覚束なくなったスラッグに、ピッコロの鋭い蹴りが突き刺さった。
「タリャーーーッ!!!」
「アッ、ガァ…!!」
錐揉み回転しながら、大地を抉りながら埋まっていくスラッグ。
やがて止まった頃には、彼を中心とした巨大なクレーターが出来上がっていた。
先程の意趣返しめいた、大逆転劇だった。
「ハァ…ハァ…クソォォッ!認められるかぁー!!」
地に這いつくばりながらも、ピッコロを睨むその眼に諦観は無い。
抗う力が残っていない事に、彼はとっくに気付いている。
「このまま負け犬となる等…オレの誇りが、許さん…!」
だが、誇りが…否、傲りが彼に死を許さない。
大宇宙の王という野心が、自身を勝者たれと駆り立たせ、突き動かす…
「いいや、ここまでだ。」
そんな執念を、ピッコロは静かに吐き捨てた。
瞬間的に高まる気。
比例して張り詰める周囲の空気が、彼の秘めたる怒気を露わにしていく。
腰を深く落とし、力強く構える。
「今度こそ、引導を渡してやる。」
「ッ!?」
酷く底冷えた声を前に、金縛りの如く身体を強張らせる。
その一瞬は、致命的な隙となる。
次の瞬間、ピッコロは空を裂いてスラッグへと肉薄し…
「ハァーーーーーーッ!!!!!」
勢いそのままに、全体重を載せた渾身の右ストレートが叩き込まれ、血飛沫と共にスラッグの体が殴り飛ばされた。
地を割り、一直線に吹き飛ぶスラッグ。
制御の効かない体は、進路上にあった小山に叩きつけられ、辺りを破砕。
立ち昇る土煙から、小石の雨がパラパラと降り注ぐ。
「ア、ガ、ガァ……!?」
遅れて全身を襲う激痛に、ただ悶絶するしか無い。
成す術の無い屈辱感が、スラッグを襲った。
「畜生…ゴホッ、ちぐしょう、ヂグショウ…!!」
もはや、怨嗟と血反吐を吐くだけの屍だ。
そんな彼に、ピッコロは徐に声を掛けだす。
「…畜生か、悔しいだろうな。」
その一言にスラッグは、血走った目を彼へ向けた。
「ぐ、ぎぎ…貴様に、オレの何がわ"が_!!?」
だが、激情に任せた言葉も最後まで紡がれる事は無い。
ピッコロの右ストレートが、スラッグの顎を捉えて砕いたからだ。
「だがなスラッグ。貴様と同化した神は、もっと悔しかった筈だ!」
ピッコロの激高は、遂に怒髪冠を衝く。
「貴様のような外道に頭を下げてでも、神は地球を、人間を守ろうとっ!!」
スラッグの顎に、再び打ち込まれる右ストレート。
突き抜ける一撃に血の塊が噴き出し、スラッグの肢体が宙を舞う。
「あがぁぁぁ!!?」
「だが貴様は踏み躙った!その屈辱は、貴様が覚えたソレより重いぞっ!」
即座に飛び上がって叩き込まれたハンマースレッジが、宙にいるスラッグの体をまたも地に叩きつけた。
血は最早土煙と混じり合い、屍との区別は付かない様相だ。
そこで漸く、ピッコロは一息付いて己を落ち着かせた。
「ハァッ…感情任せに動いたか、俺らしくも無かったな。」
静かになった空気、圧倒的な死の静寂。
その中で、ピッコロはいつもの声で告げる。
「もういい、とっとと終わらせてやる。ハァァ…!」
「が、ぁ。」
もう喋る事も困難なスラッグを見下ろし、両手を合わせ全身の気を集中させていく。
先に見せた、激烈光弾だ。
瞬く間に溜まった気の奔流が、スラッグへと向けられる。
「コイツで消え去れ!激烈光弾っ!」
淡い黄金の光球が、放たれる。
太陽の如き、死という夜明けの輝きが、スラッグを照らしだす。
(クソッ…アレさえ、アレさえ間に合えば…)
スラッグはその輝きを前にして、遂に諦観を覚えた。
目を閉じて、現実逃避に走るのみ。
そんな彼を、光球は容赦無く包み込まんとし…
「_お前にしちゃあ、諦めが早いんじゃないか?」
不意に、聞き慣れた声が傍から聞こえ、目を開けると。
(ター、レス?)
「いや、そのザマじゃ当然か…だが、今死なれちゃ困るんでな。」
彼が片手から放ったエネルギー波が、激烈光弾を掻き消す光景が、そこにあった。
「ターレス、だと…!?」
「ククク…ただの人殺しで、そうカッカすんなよ。」
スラッグに次いで、ピッコロもまた驚愕した。
激烈光弾を片手で搔き消したのもあったが…
「ベ、ベジータはどうした!?」
ターレスは、ベジータと戦っていた筈だ。
ピッコロの疑問は至極当然だ。
「アイツか?今頃そこらで野垂れ死に_」
その時だった。
ターレスに一迅の風が吹き、直後に衝撃が巻き起こった。
「誰が、野垂れ死ぬか…!」
ターレスに殴り掛かったのは、ボロボロのベジータ。
まだまだ健在ではあるが、旧式の戦闘服は所々が欠け、素肌も傷だらけ。
超サイヤ人すら解除されており、息は粗い。
何より、今の一撃すら空いた片手でターレスに止められていた。
スラッグよりも明らかに強いターレスに、ピッコロは底知れぬ不安を覚えた。
「此奴、化け物か…!」
「おいおい、この強さはお前達がくれた物だろう。」
「何…?」
訝しむピッコロに、ターレスは告げた。
「サイヤ人は、死の淵から蘇る度に強くなるからな…!」
「獣を超え、人を超え、出でよ神の戦士・断空我」
――我、空となりて、煩悩を断つ……名付けて……
「キーワード! D・A・N・C・O・U・G・A! ダンクーガ!
やああああああああああってやるぜ!!」
それは、CROSS HEROESが結成されるより前に遡る……
Dr.ヘル率いる地底勢力、迫りくる怪獣、宇宙の帝王フリーザ、ルール破りの悪の超人、
歴史を捻じ曲げるタイムジャッカーなど……
リ・ユニオン・スクエアを脅かす悪の根は絶える事が無かった。
マジンガーZ、ウルトラマントリガー、正義超人、Z戦士、仮面ライダー……
かつて、平和を守る英雄の中にその名を連ねる者たちがいた。
「獣戦機隊」。
宇宙からの侵略者を想定し開発が進められていた、人間、いや生物の原初の力
「野性」を増幅させる事によって無限の力を引き出す巨大人型兵器の開発プロジェクト。
獣を超え、人を超えた、神の戦士……超獣機神ダンクーガである。
藤原忍の イーグルファイター、結城沙羅のランドクーガー、
式部雅人の ランドライガー、 司馬亮の ビッグモス……人型形態と動物形態への変形を
可能とする獣戦機のパイロットに選ばれた4人は皆、飢えた野獣さながらに気性が荒く、
命令違反、素行不良は何のその。心を縛る理性があっては、ダンクーガへの合体に
必要な精神エナジーを発生させる事は不可能であるからだ。
そして、その時は訪れた。星々を飲み込み、文明を蹂躙し、絶望だけを残す帝国。
その名はムゲ・ゾルバドス。幾千の艦隊、幾億の兵がその旗の下に集い、
銀河全域を支配するべく進軍を続けていた。ムゲ・ゾルバトス率いる宇宙帝国軍が
地球に飛来。地球の科学力を超越する軍事力……リ・ユニオン・スクエアを守る戦士たちもまた、人知れず果敢に立ち向かった。
そんな中、獣戦機隊の戦闘教官を務めていた軍人、シャピロ・キーツは
獣戦機隊の未熟さ、己の実力を評価しない連邦軍への失望、そしてムゲ帝国の強大さを
目の当たりにした事で地球を見限り、ムゲ・ゾルバトスへの造反を図ったのである。
宇宙は燃えていた。だが地球は屈しなかった。
「獣の心」を呼び覚まされた若者たち――獣戦機隊が立ち上がったのだ。
かつては沙羅と恋仲でもあったシャピロの裏切り、我が物顔で破壊の限りを尽くす
ムゲ帝国への怒りを燃やし、ついにダンクーガへの合体を成功させた忍たち。
猛威を振るうダンクーガの活躍に後押しされ、ムゲ帝国は徐々に
その勢いを押し留められていく。そして……
「俺のブラックウィングに隠された最後の秘密が、これか……」
「アラン! 地獄まで付き合ってもらうぜ! キーワード! F・I・N・A・L!
ファイナルダンクーガ! 獣を超え、人を超え、神をも超える!
やああああああああああってやるぜ!!」
幾度となくダンクーガの窮地を救ってきたブラックウィングのパイロット、
「黒騎士」ことアラン・イゴール。父にして連邦軍長官、ロス・イゴールに
反目し続けてきた彼であったが、ブラックウィングに密かに搭載されていたダンクーガとの
合体システム……それは獣戦機隊と共に地球を守る使命を託した父からの願いであった。
「親父……俺はやるぞ。必ずムゲ・ゾルバドス帝国を討ち滅ぼして見せる」
ついに宿命の対決……シャピロ・キーツ専用メカ、デザイア対ファイナルダンクーガ。
「所詮、この俺の崇高なる理想について来れる者など、地球と言うちっぽけな星には
誰一人存在しなかったと言う事だ」
「裏切り者が何ほざいてやがる!」
灼熱の戦場に轟音が木霊する。漆黒の巨人――シャピロ・キーツ専用メカ「デザイア」。
対峙するは五機の意志を一つにした戦士、ファイナルダンクーガ。
両者の間に張り詰めた空気は、地球と宇宙の未来そのものを賭けた戦いを物語っていた。
「貴様らの力では、我が理想には届かん!」
シャピロの嘲笑が戦場を震わせる。かつて獣戦機隊の教官であり、
沙羅と未来を語り合った男。その瞳には今、支配と破壊への狂気しか宿っていない。
「知るか! てめぇの理想なんざ、仲間を裏切った時点で地に堕ちてんだよ!
亮! あの大馬鹿野郎に鉄拳をぶちかましてやれ!」
「OK、忍! 奴から放たれる邪気、狙いを付けるまでもない! そこだァッ!!」
亮が叫び、ダンクーガの拳が唸りを上げる。デザイアの鋼鉄の装甲を打ち砕き、
火花が四散した。だが、敵もまた容易には倒れない。デザイアの銃から迸る破壊光線が
ファイナルダンクーガの胸部を撃ち抜き、コクピットに衝撃が走る。
「くっ……このままじゃ持たない!」
雅人の額に汗が浮かぶ。
「耐えろ! 俺たちの野性は、こんなもんじゃねぇ!」
だが、次の瞬間。通信越しに聞こえた声が沙羅の胸を貫いた。
「沙羅……お前もやはり、獣だったな。俺の理想を理解できぬ愚か者だ」
「……それでいい! 私は獣で構わない! アンタを倒すことで、人として
生きていけるなら!」
「断・空・剣ッ!」
忍の叫びと共に、ファイナルダンクーガが突進。
断空剣が閃き、デザイアの片腕を切断する。
「ぬううっ……やりおったな……!!」
激戦の中、ブラックウィングの操縦席でアラン・イゴールは父の声を思い出していた。
『お前に託す。人類が未来を切り拓くための翼を』
憎み続けてきた父の言葉。その意味を今、理解する。
「親父……あんたの思い、受け取った。最後まで、こいつらと戦うさ」
アランはブラックウィングをダンクーガに再ドッキングさせ、
出力を極限まで引き上げる。
「藤原! これが俺の最後の力だ! 断空砲を撃て!」
「アラン……!」
忍が振り返る。
「迷うな! お前らは生きろ! 俺は、この戦いで翼を燃やし尽くす!」
ブラックウィングの全エネルギーが転送され、ファイナルダンクーガが白く輝く。
「くたばれ、シャピロ! ファイナル断空砲――マキシマムレベル!!
シュゥゥゥゥゥゥトッ!!」
奔流する光がデザイアを直撃。
「ぐううっ……くっ…はははっははは……俺は……神に、神になる男だ!
こんなところで、死ぬわけ、が……」
シャピロの断末魔が戦場に響き渡り、愛憎渦巻く巨体は爆炎と共に散った。
しかし、その光の余波でブラックウィングは限界を超え、ダンクーガと分離。
操縦席のアランを炎が包む。
「アランッ! 脱出しろ!!」
「……もう遅いさ。けど、後悔はない」
アランの唇がかすかに笑みを形作る。
「獣戦機隊……お前らと戦えて、悪くなかったぜ。じゃあな――」
最後の通信が途絶え、ブラックウィングは光の尾を引いて墜ちていった。
悲しみも束の間、デザイアの残骸が消し飛んだその先に、宇宙を覆う巨大な影が現れる。
「……来たか」
忍が息を呑む。ムゲ宇宙とも呼ばれる自らの宇宙をも生み出す事さえ出来る暗黒の帝王。
「沙羅、亮、雅人。ムゲ野郎の根城に乗り込む。もう戻っちゃ来れねえかも知れねえ。
覚悟はいいな?」
「今更だよ」
「言うまでもあるまい」
「毒を喰らわば皿までってね!」
「聞くまでも無かったな……行くぜッ!!」
〈第一次魔界大戦:鉄拳と双槍〉
遂にスラッグを追い詰めたピッコロ。
トドメに放たれた全身全霊の激烈光弾は、スラッグを葬る…かに思えた。
ターレス。
彼がベジータとの戦いの最中、片手間で激烈光弾を防いでみせたのだ。
遅れてターレスに殴り掛かったベジータは、何と超サイヤ人を解除させられていた。
「さて、お前達の相手は俺が全部、受けるとしよう。」
「貴様、俺を舐めているのか!」
「そんなボロボロの体で、俺の相手は務まらんだろう。惑星ベジータの王子様?」
ターレスの煽りに、ベジータは青筋を浮かべる。
鋭い殺意がベジータから向けられるが、本人はどこ吹く風だ。
どころか、明後日の方を見て好き勝手に語りだす。
「だが…他の奴が先に行ってるのがちょいと面倒でな。そっちで戦わせて貰うとしよう。」
そういうと、彼はスラッグを片手に抱えて飛び上がる。
そのまま矢が飛んできた方角…アビダインの方へと、一瞬で飛んで行った。
「クソッ、馬鹿にしやがって!」
「ベジータ、無理をするな!」
「煩い!この程度、傷の内に入らん!」
怒りのままに口を開くベジータ。
だが事実として、彼の体は満身創痍だ。
超サイヤ人にすら成れない状態でターレスと戦うなど、無謀も良い所だろう。
「だが、奴の力は認めねばならん…」
「なら分かっている筈だ。」
「…チッ!」
実際、実力の差は拳を交えた彼が一番分かっている。
地道な修行も、劇的な進化も重ねてきたベジータであったが…ターレスの進化はそれ以上だ。
現状では、勝ち目などほぼ無いと言って良い。
故に出た結論は。
「…足を引っ張るなよ、ピッコロ。」
「フン、その気になったか。」
共同戦線、それ以外に無かった。
そこに、新たな声が掛かる。
「その話、オラも乗った!」
「む、悟空…!」
「オラもアイツと戦いてぇんだ、いやとは言わせねぇぞ?」
「俺達も、アイツには一発ガツンと言わせてぇ!」
悟空とビッグ・ボンバーズの二人だ。
ターレスの一撃でダウンしていた悟空だったが、漸く復帰した様子である。
「ふん、勝手にしろ。」
「ヘヘッ、サンキューベジータ!」
そう言って、一同はターレスの飛んで行った方角へと飛び去った。
◇
「なんだあれは……まさか、あれが……!?」
先行していたザルディンは、驚愕した。
血の様に赤黒く禍々しい、この世のものではない大樹を見て。
そう、それこそが。
『あれが、この魔界の神精樹らしいね。僕は神精樹自体、初めて見たけども。』
答えたのは、同行していたアビダインを操縦するアビィだ。
艦の望遠機能で先に発見していた彼は、驚いた様子を見せない。
代わりに、忌々し気な口振りで言う。
『悍ましいね、星の命を奪って育つ樹なんて。』
そのセリフは、何処か自嘲気味だった。
命を奪って糧にする、という彼の特性ゆえか…
そんな心の機微に、しかしザルディンは気にかけず目的を定義する。
「とにかく、あれを壊せば実は無くなるだろう。とっとと破壊して_」
「_そいつぁちょいと困るな。」
「っ!?」
その時、ザルディンの背後から聞こえた男の声。
咄嗟に振り返って槍を振るうも、帰ってくるのは空を切る感触のみ。
「おっと、危ない危ない…」
『君は…確か、ベジータ君達が相手していた筈だけど?』
「生憎、王子様じゃ力不足でね…それより奥に来ている、お前達に目を付けたのさ。」
「ぬぅ…!」
声の主は、ターレスだった。
一瞬前まで背後にいた筈が、今は頭上の宙に佇んでいる。
静かに驚愕するザルディンに構わず、彼は続ける。
「ガルードを遣ったんだ、少しは楽しませてくれよ…?」
言うが早いか、ターレスは拳を引き絞って真上からザルディンへと迫る。
ザルディンが咄嗟に構えた二本の槍に、強烈な一撃が叩き込まれる。
「ぬおぉ…!?」
強力な一撃に、大きく後退させられるザルディン。
しかしただの一撃では、双槍は折れない。
逆に彼の闘争心にエンジンを掛けた。
「でぇいやぁ!!!」
槍を回転させ、その石突きでターレスの顎を狙う
が、ターレスは軽く首を傾け躱した。
「ハァア!」
そのまま流れる様に放たれた蹴りが、ザルディンの胴を穿つ。
更に追撃の拳が放たれ、今度は顔面へと迫るが…それは槍の柄によって阻まれた。
拳を槍で振り払い、距離を取るザルディン。
その顔色は、芳しくなかった。
「ぬぅ…パワーもそうだが、スピードは次元が違うか。」
パワーはまだ拮抗出来る。
だがターレスのスピードは、それすら軽く上回る。
その差が、今の攻防に表れた形だ。
「どうした、こんな物じゃないんだろう?」
対するターレスも、余裕の表情だ。
思わず顔を顰めるザルディン。
そこに、声が掛かる。
「やぁ、手こずってるみたいだね?ザルディン君。」
「…えぇい、君付けされる謂れは無いわ小僧!」
「アビィと呼びたまえ。」
先程までアビダインを操縦していたアビィだ。
いつの間にか、彼の足場になっている槍に立っていた。
彼の口調に一寸苛立ちながらも、切り替える
「小僧。貴様確か、速さが売りだったな?」
「だからアビィと…まぁ、速度なら誰にも負けないと思うよ。」
「なら丁度良い、奴の足を止めろ。」
再びターレスを見据え、そう言い放った。
その提案に、アビィは快諾の意を見せる。
「OK、任せたまえ。」
そして槍の穂先に立つと、一歩踏み込む。
槍先が一瞬沈んだと同時、彼の姿は掻き消え…
「おっと、すばしっこい…」
「へぇ、これを受け止めるんだ。」
ターレスの背後に現れた。
しかし直後に放った回し蹴りは、裏拳に止められている。
ターレスは、ちらりと横目を向けるだけだった。
「ぬえぇい!!」
だがその隙だけで十分だと、ザルディンが双槍を振り上げ斬りかかる。
延髄斬り、突き、唐竹割りと、その猛攻はまさに苛烈の一言に尽きる。
更にアビィが連続して蹴りを繰り出し、後ろからも攻める。
「成程、ガルードを遣ったのも頷けるな。」
静かに呟く彼は、余裕そのもの。
体を最小限だけ揺らして、連撃を躱していく。
そして軽く柄を叩き、ザルディンの槍を逸らした。
「そら、隙だらけだ。」
胴体ががら空きになった所に、間髪入れず放たれる回し蹴り。
鋭利な一撃は、ザルディンの首筋に迫り…
「割り込み失礼。」
「…チッ。」
そこに、アビィのカットが入り込む。
膠着状態を悟った両者は一旦距離を取り、仕切り直した。
「ぬぅ、予想よりもずっと手強い。」
微かながら、肩で息をするザルディン。
対するターレスは、軽く肩を解すのみ。
実力差が、如実に表れている。
「…だが。」
それでもザルディンは、槍を構える。
「貴様のような者が出るなら、この戦い、大局的にも重要と見た。ならば戦う他あるまい。」
彼の眼には、いまだ闘志が宿っていた。
「_なら、オラ達も混ぜてくれっか?」
「む?」
そこに、ターレスに似た声が掛かる。
双子か…そう身構えた彼の前に現れたのは。
「貴様、悟空か…あやつと声も姿も似てるから、驚いたぞ。」
「オラだって好きで似てるわけじゃねぇぞ!?」
ターレスを追ってきた、悟空達だった。
「魔の者たちが次に狙うもの」
特異点での激しい戦いが終わったその頃、同じく特異点で行われていた黄金の騎士こと騎士シャアとネオブラックドラゴンの戦いはというと……
「フハハハ!死ねい!騎士シャア!」
「クッ…!まだだ!まだ終わらんよ!」
圧倒的な力の差でネオブラックドラゴンは大きく優勢であった。
「いいや、貴様はここで終わる…!消えろ!」
ネオブラックドラゴンは光線を黄金の騎士にトドメを刺すため、光線を放つ。
「っ!ぐわぁああああああああ!?」
黄金の騎士は光線を受けて崖下へと落下した。
「クックックッ……これでやつと決着をつける妨げとなる存在は減った……だがしかし、まだ足りん。
炎の剣の力が我が身体に完全に馴染みきってないとはいえ、それでもやつを……騎士ガンダムを確実に完膚なきまでに叩きのめすのにはまだ力が足りぬ……炎の剣以外にもなにか力を手に入れるべきか……」
そんなネオブラックドラゴンに天より声が響く。
『……聞こえるかネオブラックドラゴンよ』
「……ジークジオンか。なんの用だ?」
『今すぐ戻ってこい、我々の次なる戦い……そこには貴様も参加してもらう』
「ふっ、断る。クォーツァーの一件では憎き騎士ガンダムと戦うために仕方なく貴様に従ってやったが、今は違う。
今の我の目的はただ一つ……騎士ガンダムとの決着!そのために今はこの炎の剣を身体に馴染ませ、決着の邪魔となる可能性のある者たちを潰していき、そしてさらなる力を手に入れる……貴様や竜王なんぞに付き合っている暇はないのだ!」
『そのさらなる力を……騎士ガンダムを倒せる力が手に入るとしてもか?』
「……どういうことだ」
『我々の次の戦い……それはリ・ユニオン・スクエアへ総攻撃を仕掛け、そこにある伝説の秘宝『エタニティコア』を手に入れること…!』
「エタニティコアだと?なんだそれは?」
『エタニティコア……それは手に入れれば超越者すらも凌駕するほどの力を得られ、制御できれば宇宙を創造することも滅ぼすことも自由自在になる神秘の超エネルギー……かつてのラグナロクではその力を手に入れるべくミケーネ含めた数多の勢力がリ・ユニオン・スクエアへと侵攻し、リ・ユニオン・スクエアはあらゆる世界の中でももっとも激しい戦場と化したほどだ』
「それを手に入れに行くということのか?」
『そのとおりだ。ミケーネが復活し、暗黒魔界を始めとした様々な勢力が動いている以上、もはや新たラグナロクの勃発は時間の問題……その前に我々が先にエタニティコアを手に入れることで、我々の勝利を確実なものとする。そうなればもはやミケーネも超越者共も敵ではない!今まで利用してきたグランドクロスやメサイア教団、丸喜一派の奴らすらもその力でねじ伏せ、この特異点もスダ・ドアカワールドも、そして最終的には全ての世界を我々のものとするのだ!』
「超越者すらも凌駕し、宇宙の創造や破壊を己の意のままに可能とすることができるほどの力か……」
ネオブラックドラゴンは考えた。それだけの力をわずかでも手に入れることができれば、騎士ガンダムを確実に倒せるんじゃないかと……
「……いいだろうジークジオンよ。今回も貴様や竜王に従ってやる……だがしかし、そのエタニティコアなる力、我にも分けてもらうぞ?」
『フッ、いいだろう。あれだけ膨大な力とエネルギー……貴様ごときに多少分けたとしても、我々の野望を確実に果たせるだけの量は残るだろうからな』
「ふん。……待っているがいい騎士ガンダムよ。我はジークジオンの言うエタニティコアとやらの力を手に入れて、今度こそ貴様を殺してやる!」
ネオブラックドラゴンは翼を広げ、竜王城へと飛び去った。
「……エタニティコアか……」
一方黄金の騎士こと騎士シャアは崖下へと落ちたもののなんとか生き延びており、ジークジオンとネオブラックドラゴンの会話を聞いていた。
「今の話が本当ならば、それをジークジオンが手にすればとんでもないことになる……なんとかして阻止せねば……」
騎士シャアは落下の衝撃で外れた仮面を再びかぶり、どこかへと歩き出す。
「……ガンダム族もこの特異点と呼ばれる世界に飛ばされていた……ならば、彼らと合流してこのことを伝えるのが一番確実な方法だろう……」
騎士シャアは……黄金の騎士は騎士ガンダム達との合流を目指し、先ほどの戦いでボロボロになった身体を引きずりながら特異点を進んでいくのであった。
「地下迷宮よりの凱旋」
『メメントスより 帰還しました お疲れ様でした』
特異点・メメントスの深層の探索に向かっていた調査隊。
ペルフェクタリア、日向月美、門矢士/仮面ライダーディケイド、
イリヤスフィール・フォン・アインツベルン、太公望、沖田総司・オルタ、煉獄、
宇津見エリセ、モルガナ、スカル……
「ふへぇー、疲れたァ……半年ぐらい潜ってたような気がするぜェ」
スカルこと坂本竜司が両手を頭に組み、天を仰ぐ。
「いくら何でもそれは言い過ぎだろ?」
モルガナが冷静に突っ込みを入れるが、その声にも安堵が混じっていた。
彼らは生還したのだ。メメントスの暗闇の中で再起の時を図っていた大ショッカー。
さらに月美の心の弱さから生み出された闇・日向月光……予想外の強敵との戦いの連続。
だが、それぞれが己の力を解き放ち、互いを信じて結束したことで、
辛うじて勝利を収めることができた。ペルや月美も視線を潜り抜ける中で
新たなる力に目覚めた。
『お前たちは先に行け。ここは俺が食い止める』
メメントス深層。瘴気が充満し、影の奔流が空間そのものを押し潰そうとする中。
最前線に立ったのは結城丈二だった。頑強な肉体に孤高さを漂わせる戦士。
右腕にはアタッチメント型の大型銃・ブラスターアーム。
彼は仲間を背に、躊躇いなく一歩を踏み出した。
シャドウの群れが襲いかかる。丈二はそれを斬り払い、撃ち砕きながら影の嵐に
身を晒した。
『これは……』
『門矢士に渡せ。そうすれば分かる』
戦いが終わり、月美たちの捜索を行っていたところに通りすがったペルに
結城丈二が託したもの。丈二は振り返らず、ただ静かに背中を向け、
メメントスの闇の中へと消えて行った。
「結城丈二、か……」
「知っているのか?」
「まあ、な。話に聞いたその出で立ち、大ショッカーの事情にも詳しい。
加えて、「これ」だ。思い当たる節はそうそう無い。
まさかメメントスを彷徨いていたとはな。未だに俺の命を狙っているのか、それとも……」
士の声音は冷ややかだったが、その奥には複雑な感情が滲んでいた。
何を隠そう、結城丈二の右腕を奪った男こそ、大ショッカー大首領時代の士自身。
ある時は復讐の鬼として、またある時は戦う意思を失った士を奮い立たせる者として。
幾度となく士の前に立ちはだかってきた因縁浅からぬ存在だった。
メメントスで直接刃を交えることはなかった。だが士には確信があった。
その男は結城丈二に他ならない、と。或いはこのメメントス空間の力が作用し、
彼らを再び巡り会わせようとしたのかも知れなかった。
――そして、帰還の時。
「あーっ、やっと帰ってきた!」
「んん……?」
イリヤが大きく伸びをしたその瞬間、出迎えに走り寄る二つの影があった。
「みんなっ! 無事だったんだね!」
メメントスから帰還した一行を出迎えたのは、クィーンとパンサーだった。
二人の姿を見た瞬間、緊張の糸がようやく切れたかのように、
イリヤや月美は胸を撫で下ろす。だが、その安堵も束の間。
クィーンとパンサーの表情には、笑みとは程遠い硬さがあった。
「アンタたちがメメントスに行ってる間、地上は大変な事になってたんだからね!」
「はあ!? こっちだって必死だったんだっつーの! 死ぬかと思ったぜマジ!」
顔を合わせるなり、口論に発展するパンサーとスカル。安堵した表情でクィーンが続く。
「ミケーネ残党、ジオン族、竜王軍の混成部隊が攻めて来て、リビルド・ベース総掛かりで対抗したの」
「何だって……!? それで、みんなは!?」
「美遊やクロは!?」
「無事よ。被害は小さくなかったけど、人的被害は奇跡的にゼロ。死傷者は無かった」
「はぁ……良かったぁ~」
クィーンの瞳にはまだ戦場の残像が焼き付いている。
「CROSS HEROES、カルデア、ミケーネ、ジオン族竜王軍、完璧超人軍……
勢力が入り乱れて、特異点各地で戦火が広がったの」
特異点の地上は混沌そのものだった。
空は黒煙に覆われ、特異点の大地は爆炎と瓦礫で寸断されていた。
逃げ惑う杜王町の市民を守るため、各地で英雄たちが必死の防衛戦を展開していたが、
戦況は一進一退。わずかな綻びがあれば全てが押し潰されかねないほどの激戦だった。
「……っ」
月美が息を呑む。
彼女の心に、自分が不在の間に苦しむ人々の姿が鮮烈に浮かんだ。
「クソッ……!」
竜司が唇を噛み締める。
「俺らが潜ってる間に、そんなことになってたとはよ……!」
彼女らの目に映っていたのは、炎に包まれた戦場と、
瓦礫に押し潰されそうになった人々を必死に救い出す仲間たちの姿だった。
戦況はあまりにも苛烈で、幾度となく心が折れかけた。
メメントスから帰還した仲間たちは黙り込んだ。戦い抜いた身体に安堵が広がるはずが、
クィーンとパンサーの報告によって緊張が再び胸を締め付ける。
「けど、メメントスの方も無視出来ない状況だったみたいね。もしも放置してたら、
私達は地底からの大ショッカーやシャドウにも挟撃される格好になって、
いよいよ危なかったかも知れない」
「ありがとうね、みんな」
「そう言ってもらえりゃ、少しは地上の戦列に参加出来なかった悔しさも
濯げるってもんだ」
「あたしたちももう駄目かも、って思ったんだけど……」
そんな戦局を変えたのは突如現れた二つの影――カグヤ、そしてシャドウアビィだった。
彼女らの乱入は予期せぬものだったが、あまりに圧倒的だった。
ミケーネ軍はその力を前に、持ちこたえることができず撤退を余儀なくされた。
瓦礫の街に吹き荒れる暴風のようなその戦闘は、敵味方すべてを飲み込み、
ただ存在するだけで戦場を支配した。
リビルド・ベースの地下に直結するメメントス。それはさながら、地獄の亡者が
隙あらば足首を掴んで引きずり込まんとする底なし沼だ。
クォーツァー・パレス時代から根深く絡みつくその関係性は、未だ続いている。
しかし、これは終わりではなかった。むしろ新たな幕開けである。
竜王軍・ジオン族連合は撤退ののち、再び牙を研ぎ澄まし始めている。
彼らは敗北を恥じたのではなく、次なる戦いに備えて力を蓄えているのだ。
報告を終えたクィーンとパンサーの言葉に、一行は重苦しい沈黙を落とす。
その沈黙を破ったのは、沖田オルタの愛刀の姿へと戻った煉獄だった。
『ならば俺達も備えねばならんだろ。戦いは終わったのではなく、
次の戦いへの序章に過ぎないって事なんだろう』
煉獄の声に、皆がはっと顔を上げる。
月美は震える指で胸元の御札を握りしめ、ペルは小さな拳を固く結んだ。
沖田オルタはくすり、と笑い、
「皆の士気が上がった。良い事を言うな、煉獄。偉いぞ」
『へいへい、そりゃどーも』
「丈二さんの想いも背負って、あたしたちは進まなきゃ」
エリセの言葉に、誰もが強く頷いた。
「やれやれ、のんびりと釣りにでも洒落込みたいところですが、
そうも言っていられないようです」
太公望の糸目の奥の鋭い眼光が覗く。
嵐はまだ遠ざかってはいない。次なる戦乱は、すぐそこまで迫っていた。
「蘇りし暗黒の神」
リ・ユニオン・スクエアの宇宙の果て……そこに無数の怨念が集結していた。
その怨念は一つに集まり、かつて巨大な宇宙帝国を従えてフリーザ軍を始めとした様々な宇宙人達と銀河制覇の座をかけた激しい戦争を幾度も繰り返し、地球を侵略しようとし、そして獣の怒りを超え、人の憎しみを超えた、神の戦士『ダンクーガ』とそれに乗り込む4人の若者『獣戦機隊』を始めとした地球の戦士たちの手によって滅ぼされた悪の帝王を蘇らせた。
その名は……『ムゲ・ゾルバドス』…!
「……時は来た。全ての世界を巻き込む乱世が起ころうとしている今こそ我が再びこの現世に蘇るとき…!」
ムゲは集まった怨霊の力を使い、かつてのムゲ・ゾルバトス帝国の兵士や機動兵器を次々と復活させていく。
「この宇宙を彷徨う悪霊たちよ、我と共に来い!再びこの宇宙を……いや、全世界を手に入れるのだ!」
……場面は変わってTPU本部、リ・ユニオン・スクエアで他のCROSSHEROES達がメサイア教団のユートピア・アイランドの対処をしていた中、GUTSセレクトは待機していた。
本来なら既にトゥアハー・デ・ダナンに合流する予定であったが、ユートピア・アイランドが出現した都合上、今合流するのは危険だと判断しトゥアハー・デ・ダナンに残っていたメンバーがユートピア・アイランドをなんとかするまで待機することになったのだ。
「……ああクソ!本当なら俺たちも合流してメサイア教団と戦いたかったてのに!」
「落ち着いてくださいテッシンさん。今僕達が合流しても力になるどころかむしろ足手まといになるかもしれません」
「トゥアハー・デ・ダナンから共有された情報によると、ユートピア・アイランドの周辺には無数の機雷が浮いていて、下手に攻撃すれば周辺地域に大きな被害を与えかねない」
「この機雷のせいで、ナースデッセイ号やガッツファルコンじゃ対処しようにも対処できないのよね……」
「はい。
もちろん、僕が変身するトリガーやハルキさんが変身するZさんも例外ではないです」
「恐らくだがあの機雷は、我々GUTSセレクトを含めたCROSSHEROESの巨大戦力への対策として用意されたものだろうな……」
「メサイア教団の奴ら、こっちと違って悪霊とか一部の巨大兵器ぐらいしか巨大戦力を持ってないからな」
「だからこそ、こちらの戦力の一部である巨大戦力を出すことができないように対策したんだろう。
……恐らく、奴らはこれからも何かしらの手段でこちらが巨大戦力を出動させられないようにしてくる可能性は高いだろうな……」
「ふざけやがって…!」
GUTSセレクトの各メンバーが話をしていたその時、突如として警報が鳴り響いた。
「っ!?な、なんだ!?」
「警報…?怪獣でも出現したのか?」
すると突然爆発音と共にTPU本部が大きく揺れる!
「うぉおおお!?」
「トキオカさん!これってまさか…!?」
「あぁ、どうやらここが攻撃されているらしい……」
「もしかしてライラーが…!?」
「それともメサイア教団や他の勢力か…!?」
そこにシズマ会長が駆けつけた。
「皆無事か!?」
「お父様!」
「シズマ会長、これはいったい……」
「……信じられないかもしれないが落ち着いて聞いてほしい。
今現在、このTPU本部とその周辺地域は……
……ムゲ帝国の機動兵器部隊による攻撃を受けている」
「「「っ!?」」」
「うそでしょ…!?」
「そんな…馬鹿な…!?」
「な、なんなんですか?そのムゲ帝国ってのは……」
ムゲ帝国……その名を聞いたGUTSセレクトの面々が顔を青ざめ驚愕している中、別の世界から来たハルキだけはそれがいったいなんなのか分からずにいた。
「……ムゲ帝国、それはかつて地球を侵略しに来たムゲ・ゾルバトス率いる宇宙帝国です」
「けどよ!アイツらはもう倒されたはずじゃなかったのかよ!?」
「その通りだ。奴らは獣戦機隊を始めとした多くの戦士達の手によって滅びた……だがどういうわけか今こうして奴らの兵器がここを攻撃しているのだ……
……とにかく、今はこれ以上被害が出る前に奴らを撃退するしかない…!」
「わかりました。GUTSセレクト、出動!」
「「「ラジャー!」」」
「押忍!」
かつて地球を侵略しようとし、そして滅ぼされたはずのムゲ・ゾルバトス帝国の出現。
突然のことに困惑しつつもこれ以上の被害を抑えるために、GUTSセレクトはナースデッセイ号に乗って出撃する。
「竜たちの挽歌 phase.2」
ディーヴァが伏せた4枚のカード。
それが何を意味するのかは分からない。
その上ステータス分のダメージを受けるという次元領域デュエルの特異性を加味してもなお、異質さを孕んだ『方界胤ヴィジャム』という謎のモンスター。
だが、それでも海馬のすることは変わらない。
「ふん、よかろう。望み通り貴様を吹き飛ばしてくれる!現れろもう一体の『クリスタル・ドラゴン』!!」
ステータスを全開にして『クリスタル・ドラゴン』をもう一体次元召喚する海馬。
これで『クリスタル・ドラゴン』が2体、攻撃力0の『方界胤ヴィジャム』さえ突破すれば大ダメージを期待できる。
「やれ『クリスタル・ドラゴン』!まずは奴のモンスターを巻き物にしろ!!」
実際、彼はそうした。
水晶竜の口から放たれる、無数の水晶のつぶて。
それは壺のような形状の『ヴィジャム』を撃ち砕――――かない。
「なんだと!?」
次元の彼方に消えた『ヴィジャム』。
攻撃をかわされた事に動揺する暇はない。
「ふふ、ボクの『ヴィジャム』はキミが攻撃できない次元に消えたのさ。それにほら。」
ディーヴァが不敵に、海馬の後方にいるはずの『クリスタル・ドラゴン』を指さす。
振り向いた海馬がそれを見た時、激しく動揺した。
「こ、これは!」
勢いのまま攻撃したはずの『クリスタル・ドラゴン』が、くすんでいる。
輝きは失われ、錆のような立方体が水晶を錆び付かせ石化させた。
考えられるのはただ一つ。
「『ヴィジャム』とバトルしたモンスターの効果は無効化され、今後攻撃宣言もできない。低次元(アンディメンション)化されるのさ!」
「こざかしいマネを……だが俺にはもう一体の『クリスタル・ドラゴン』がいる!」
それで状況が有利になったのはむしろ海馬の方だ。
盾としての役を果たしていた『ヴィジャム』は1体、後続の攻撃までは防げないはず。
だが、ディーヴァはそれも予見済みだ。
「ふっ、罠発動――――『方界降世』!デッキから新たな『ヴィジャム』を特殊召喚し、その『ヴィジャム』と強制バトルを行ってもらう!」
もう一体の異形『方界胤ヴィジャム』が現れ、虚空の彼方に消える。
そして水晶竜は石化し、今度こそ海馬を振りに貶める。
「これでもう一体のドラゴンもアンディメンション化された、ダメージを与えられず残念だったな。」
不敵に笑うディーヴァ。
その不敵さを隠していないのは海馬も同様だった。
まだ、諦めていないと言わんばかり。
「馬鹿め、罠発動『ドラゴンズ・オーブ』! この効果により効果が無効になったフィールドのドラゴン族モンスターの効果を復活させる!これにより『クリスタル・ドラゴン』の効果は復活!そしてこいつらの効果によって俺はデッキから2体のブルーアイズをデッキから手に入れる!そして――――俺はこのドラゴンたちの魂によって、新たなしもべを導く!!」
『クリスタル・ドラゴン』2体を生贄にして、新たな白き龍の魂が顕現する。
海馬瀬人という男が、手段すら問わず固執したかのカード。
伝説の白き龍――――その進化系!
「現れよ――――『青眼の亜白龍(ブルーアイズ・オルタナティブ・ホワイト・ドラゴン)』!!」
◇
暗黒魔界を、六体の竜が飛ぶ。
正確には竜の名を冠する六槍『竜牙閃』の風舞。
その内の2本を器用に組み合わせ、残った4本でターレスを追尾ミサイルの如く攻撃する。
気弾をばら撒き、槍を撃ち落とそうとするがなかなかうまくいかない。
「しつこい槍どもが!」
「どうした、その程度か!」
ターレスはザルディンの追撃を回避しながら、周囲からも迫る悟空たちの攻撃にも対応している。
これだけでも相当の苦労、じりじりと追いつめるが如き
「嘗めるな!」
岩盤をも砕く気弾を数発、ザルディンに向けて放つ。
しかしそれらすべてを彼は弾き『逸らし』た。
「ほう、風か……。」
ザルディンの周囲を、バリアのように疾風が吹き荒れている。
槍による防御も相まってか、これでは遠距離攻撃は難しい。
(風か……あれがある限り気弾も逸れる……。)
冷静に考える。
足元から周囲に至るまで、風の結界は彼の身を防御している。
だが、その風は完璧に彼を防御しているわけではない、どこかに弱点があるはず。
「なるほどな。」
気流の流れを見切ったターレスは気弾を目くらましにし、飛びあがった。
眩い閃光が薄れて悟空が気づくと、ターレスは魔界の上空にいた。
「拙い、上だ!」
「!」
「もう遅い、死ねぇ!!」
右手に溜め込んだ赤き気弾を、ザルディンのバリアが『最も弱い』『真上』から叩き付けようとする。
放たれたソレは堕ちる隕石の如く彼の頭蓋めがけて迫る――――!
「上か、そう来ると思ったわ!」
「何!?」
その刹那、彼を襲ったのは『上方向』への槍の一撃。
起動するパイルバンカーの如き風鉄の穂先。
致命的な一撃とまでは至らないものの、それは気弾を弾き、ターレスの脇腹を傷つけて、ダメージを与えた。
「馬鹿な……読んでいたというのか!?」
「昔同じようなことをする男がいてな、同じ手は二度も食わん。」
そう。
ザルディンの風の防御は、確かに『上から叩き付けるような攻撃』には弱い。
それは■■たちとの戦いで看破され、それゆえにザルディンは敗北している。
ターレスはその弱点に気づき、上からの一撃を与えようとした。
だが、ザルディンはそれを反省していないわけではなかった。
上からの攻撃を迎え撃つかのように、ザルディンの足元直下に仕掛けていた槍の一本を急速的に射出、ターレスを貫かんとしたのだ!
「貴様……!!」
「月女神が照らす影」
地下の深層、メメントスを踏破した調査隊一行が地上へと続く階段を抜けて戻ってきた。
「……帰った、のか」
ペルフェクタリアが無機質な声で呟いた。そこでは、早速傷ついたリビルド・ベースの
修復を急ぐCROSS HEROESとカルデアの面々の姿があった。
「こりゃまた派手にやったな……幻想郷の戦いを思い出すぜ」
スカルの記憶にも新しい、メサイア教団が仕組んだ悪霊との戦い。
幻想郷全土を巻き込んだ戦いも、熾烈を極めた。
「せめて、復興のお手伝いくらいはしないとね」
「ああ。留守にした分を埋め合わせる」
メメントスから帰還したばかりの月美やペルも早速作業に加わる。
「元気だなぁ、あいつら」
「猫の手も借りたい、って奴だ。俺達だけサボってらんねーぞ、モルガナ」
「ワガハイは猫じゃねーけどな!」
「俺は休ませてもらう。疲れた」
やる気に溢れた少年少女とは裏腹に、士は休憩所へとスタスタと直行していく。
「協調性ねえなぁ、あの人……腕は立つんだが」
「クロ、美遊!」
イリヤが駆け出した。 仲間の姿を見つけた瞬間、瞳から大粒の涙が溢れる。
「イリヤ……!」
イリヤが腕を広げて飛び込み、美遊が静かにしっかりと受け止めた。
ふたりはそのまま固く抱き合い、再会の喜びを噛み締める。
「大丈夫だった!? 何処も怪我してない!?」
「う、うん。イリヤこそ……」
「よかったぁ……」
「あーあ、帰ってくるなり人の心配なんて、相変わらずね。
それに見せつけてくれちゃって」
ぽんぽんと興奮気味のイリヤの背中を擦る美遊。照れながらも互いの無事を心から
喜ぶ……その様子を傍らで見守りながらクロエが両腕を後頭部に回してからかった。
「クロも、無事?」
「……おかげさまで、ね」
そんな皮肉もお構い無しのイリヤの屈託のない微笑みを向けられて、
クロエはバツの悪そうに視線を逸らす。
その頃、別の場所でも復興作業が続いていた。
「よいしょっと……へへ、マジンガーZは、こう言う事にも役立つんだぜ」
甲児の操縦するマジンガーZが崩れた瓦礫を片付け、資材を運ぶ声が飛び交う。
「甲児さん、休んでくださいよ!」
作業員の一人が声をかけるが、
「心配すんな! 俺はこういう地道な作業も嫌いじゃねぇ!」
ミケーネとの激闘直後とは思えないタフネスさで元気よく答える。
ふと、遠くを見る目が懐かしさを帯びた。
「しかし、今回もハードな戦いだった……獣戦機隊の連中でもいてくれりゃあな」
「獣戦機隊?」
と、同じくグレートマジンガーで作業する鉄也が尋ねる。
「ああ、鉄也さんは会ったこと無かったかな。
連邦軍が開発したスーパーロボットのパイロットたちで、あいつらも命を懸けて戦った。
Dr.ヘルの機械獣軍団相手に共闘した事もある。荒っぽいが、熱くて真っすぐな奴らだった」
甲児は笑みを浮かべ、拳を握った。
「戦場で叫ぶんだ。“やってやるぜ!”ってな。どんな状況でも覆してやる! って魂を
燃やしてた。あれを聞くと、こっちもそんな気分になるんだよ」
ムゲ・ゾルバドスとの最終決戦に臨み、ムゲ宇宙へと単騎で突入した獣戦機隊。
見事ムゲ帝王を討ち果たしたものの、すべての力を使い果たし、ダンクーガも大破。
その後、彼らの消息は知れない。
「彼らは連邦軍の特殊部隊として今も活動しているらしい。後進の育成にも
携わっているそうだ」
ミスリル所属の相良宗介もまた、獣戦機隊と近しい立場にある。
ダンクーガを失った今も、彼らの戦いは続いているのだ。
「へえ、あいつらが……」
ペルが無表情のまま呟いた。
「……わかる。例えそばにいなくとも、その魂は私たちと一緒にある」
メメントスでの戦いでペルは識った。リ・ワールドで共に戦った仲間たちの
意志をも背負い、自分がここに立っているのだと言う事を。
(そう……私の命も、お父さんに救われたもの……だから、私も……)
父・月光の名と姿を偽った闇・月光を仲間たちと共に討ち滅ぼした月美も同様だ。
彼女たちもまた一歩、成長と進化を遂げた。しかし……
「ん……?」
温かな空気の中に冷たい緊張が混じっていた。
「みんなぁー、がんばれ♡ がんばれ♡」
水色の髪を靡かせて現れた少女――虚数姫・カグヤが復興作業に勤しむ人々を
応援している。
「カーグヤちゃーん♡ 俺疲れたー♡ ハグしてえ~♡」
「きゃー、かわいいクマちゃん♡ いいわよー♡」
ギリシャの大英雄、オリオン。ヘラクレスにも匹敵する剛腕と怪力を誇り、
星座にまでその名を刻まれたそれも今は昔……何故かクマのぬいぐるみのような姿で
召喚された。生来の浮気性だけは健在どころかさらに悪化している。
いやらしいよだれを垂らしながらカグヤのたわわな胸目掛けていざ進めやダイビング……
「――おべふッ」
が、オリオンの脳天を一条の矢が貫き、その勢いのまま壁に突き刺さった。
「ダーリン? まだなーんにもしてないでしょ? 復興作業♡」
片手で構える弓の弦に指をかけもせずに、必殺必中の矢を放つクラス:アーチャーの
月の女神・アルテミスだ。オリオンの力の大半はアルテミスに持って行かれ、
さらにはオリオンが浮気できないようにクマの姿に変えたのも彼女の仕業と言う説もある。
わがままで嫉妬深く、特にオリオンが他の女性に手を出そうものなら、
殺してでもそれを阻止する、重すぎる愛の持ち主なのだ。
「きゃー、大丈夫ー、クマちゃーん? わ、中身の綿が出てるー」
「いいの、ダーリンは私が助けるの! あなたは触らないで!」
(お前がこんな目に遭わせたんだが? 痛い痛い痛い痛い痛い!!)
ぶちぶちと音を上げながら矢を引っこ抜くアルテミスが奪い取るように
オリオンを抱き締めた。
「何だ、あいつは……」
そんなカグヤに、周囲の者たちが険しい目を向ける。
「……あいつとシャドウアビィとか言うのが戦いの幕を引いたのさ」
罪木オルタが鼻を鳴らす。
「お前は……」
「また会ったな、チビスケ」
罪木オルタとペル。港区を牛耳っていたメサイア教団大司教、キング・Kを巡る戦いに
おいてコロシアイを繰り広げた間柄。
「シャドウアビィだァ!?」
その名を聞いて、吠えるのはスカルだ。何せ、アビィ・ダイブとアビダインを
丸喜パレスにおいて再起不能寸前にまで傷めつけた張本人なのだから。
メメントスの力を取り込んでいる事もあり、心の怪盗団との因縁も浅からぬものだ。
そのシャドウアビィが、自身が不在の間にCROSS HEROESとカルデアの窮地を救う……
スカルの胸中は複雑だった。
「あの野郎、一体どう言うつもりだ……」
「さらにあのカグヤと言う者、特異点に侵入したメサイア教団の師団を
一瞬にして消滅させたとの事……」
特異点の調査に回っていた望月千代女が目撃した、アディシェス騎士団が
拠点の残骸を残して全滅した事件。それをカグヤ本人が何の奥面も無く告白したと言う。
罪木オルタ、シャドウアビィ、虚数姫カグヤ……
かつての敵、味方が目まぐるしくその情勢を変化させていく。
「竜たちの挽歌 phase.3」
存在しなかった世界 謁見の間
「この役立たずが!なぜあの時、島を爆破しなかった!」
ユートピアアイランドから帰還したビショップを、魅上は叱責していた。
その様子を後方から見ているのは、大司教1位のエイダム。
ビショップのサーヴァントたるアルキメデスはここにはいない。
顔を手で抑え、歪んだ怒りを体現する。
「あのまま奴らの思い通りにさせるくらいなら!いっそのことみんなまとめて…「無茶を言うな魅上!」……なんだと貴様!!」
役立たず、という言葉に頭に来たのかビショップも普段の様子とは思えないほど苛烈に反論する。
「もしあの場かその近くの陸地に残る最後のソロモンの指輪があったらどうするつもりだ、指輪ごと壊れても良かったというのか!!もう少し大局を判断してからものを言え!」
残る最後の『ソロモンの指輪』。
四季彩世界に存在するのでそれこそ杞憂ではあったが、彼らはその世界の存在を知らないためにこの結論に至るのは必定だった。
「そんなものがどうした!貴様らはかの『女神』に!夜神月に!キラに忠を尽くすのではなかったのか!!」
激昂しながら、本末転倒な言葉を吐く。
魅上も本当は分かっているのだろう。
こんな暴言は、自分の感情に任せた狂奔の発言であるという事を。
「ふん!最重要目的も忘れるとは話にならんな!狂気と激情にとらわれ、大局すらも見えなくなったか!?」
「黙れぇええええ!!」
ついにストレスが限界を超えたのか、絶叫しだす始末。
エイダムの正論すら聞く耳を持たない。
「ビショップゥ……虚数進撃艦隊はできているのか!!」
怒り任せに問いかけるも、ビショップは答えない。
ふてくされているような態度だ。
「3日あれば最低限の進撃はできる、あと少しの辛抱としか言えんな。そうだろうビショップ?」
エイダムの代答に、黙ったまま頷くビショップ。
その態度が、対応が、狂気と激情にさらされた魅上には、自身を侮っているようにしか映らなかった。
「エイダムゥ……お前も私に歯向かうか!」
「落ち着け魅上。」
彼は魅上を諭すように問いかける。
「思い出せ、我らの最終目的はなんだ?」
「……地上世界の滅亡を前提とした純化と、世界の狭間にあるこの『存在しなかった世界』を方舟とし、新たな世界へと飛び立つこと……。」
「そして先の世界で貴様等と『女神』とやらが新たな秩序をもたらし、理想の新世界を創造することだ。ここで激情に駆られ潰しあうことを、貴様が狂崇するかの夜神月が、『女神』が!心の底より望んでいるのか?」
「ッッ!!」
「教団の頂点に立っている貴様がそのような醜態をさらしてどうする!駄々をこねる童(わらべ)を教団の頂点に立たせた覚えはないぞ!」
確かにその通りだ。
だが、正論は時としてどんな言葉よりも人を傷つける、とはよく言ったもの。
彼の言葉は、魅上を更なる激昂へと導いた。
「このクソカス共がぁあああ!」
白目をむくかの如き怒り。
その果てに魅上は、ついに異変をきたした。
「だったら貴様も少しくらいは……こふっ。」
口から血を大量に吐き出し、前のめりに倒れる。
幸い死に至るほどの出血ではないものの、尋常ならざる光景には変わらない。
「魅上様、お気を確かに!」「生きてはいるが、出血がひどい……!」
「私も手伝おう、彼を医務室に運んでやれ!直ちに!」「「はっ!」」
エイダムの指示で、魅上はそのまま担架に乗せられ医務室に運ばれてゆく。
(魅上……あと少しというに、こんなところで終わるのか。)
◇
青き真光を纏い、顕現する新たな『ブルーアイズ』。
そして今、藍神/ディーヴァを守るモンスターは存在しない。
「さあ奴を焼き尽くせ―――滅びのバーンストリーム!!」
すべきことは一つ。
一気呵成に畳みかけ、ディーヴァを粉砕することのみ!
青白い閃光が、彼を吹き飛ばす。
青き爆風が、逆巻いている。
「流石だな海馬。」
だが―――その中でディーヴァは。
「だがボクは罠カード『方界輪廻』を発動していた。キミの攻撃はボクには届かない!」
まだ、笑っていた。
「何だと!?」
「さらに3体目の『ヴィジャム』も召喚させてもらった。 代わりにキミの手札のブルーアイズを特殊召喚してあげるよ、そしてすべてのブルーアイズはアンディメンション化される!」
一挙に石化する、海馬の『ブルーアイズ』軍団。
苦々しい顔で、彼はカードを1枚セットする。
「ッ!」
海馬 LP:8000
・『クリスタル・ドラゴン』×2 アンディメンション化(効果無効・攻撃不能)
・『青眼の白龍』×2 アンディメンション化
・『青眼の亜白龍』 アンディメンション化
伏せカード1枚
「海馬、方界モンスターの真の恐ろしさを味わうのは、これからだ! ボクは『方界胤ヴィジャム』1体を墓地に送り、次元特殊召喚!」
『ヴィジャム』が黄金の立方光に包まれ、変形する。
増大し、拡大し、生まれ変わるがごとくそれは変身した。
「我の前に姿を見せろ、『方界獣ダーク・ガネックス』!!」
聖象ガネーシャの名を冠する、黒き異形象。
その禍々しい姿には、どこか神聖さすらも感じる。
『方界獣ダーク・ガネックス』 レベル2 攻撃力:1000
「モンスターが変形した!?」
「『方界獣』モンスターは『ヴィジャム』を組み込むことで攻撃力を増やす。行け!奴のドラゴンを打ち砕け!!」
投げられた『ダーク・ガネックス』の黒曜石が如きこん棒。
命中した、アンディメンション化した『青眼の白龍』の1体はまるで路傍の石のように砕け散った。
「くっ……!」
「まだだ!『方界獣』モンスターがバトルで相手モンスターを破壊した時、分離・合体を繰り返し姿を変える!そして組み込んだ『ヴィジャム』の数だけ攻撃力を増やし、攻撃回数を増やす!」
『ダーク・ガネックス』の姿が、元の『ヴィジャム』の姿に変わったかと思うと、また新たな姿へと変化した。
「再び次元特殊召喚!現れよ『方界獣ブレード・ガルーディア』!!」
聖鳥ガルーダの名を冠する方界の獣。
宿した鋭き眼光を燃やす、赤き神の鳥。
『方界獣ブレード・ガルーディア』 レベル3 攻撃力2000
「さあ、連続攻撃を受けるがいい!」
その名にたがわず、研ぎ澄まされた光輝く二振りの剣がブーメランの如く投擲される。
それらは石化した、残る2体のブルーアイズに突き刺さり、爆散させた。
「っ……『ブルーアイズ』が……!」
「破壊されたキミのモンスターたちの攻撃力は0、よってバトルダメージは発生しなかった。だが次は違う!」
ディーヴァは、続けて3体の『ヴィジャム』を墓地に送る。
それに呼応するかの如く、■■■■■を思わせる逆三角形の光が橙色に輝いていた。
顕現するは、輝ける黄金の都を思わせる立方体の異形獣。
聖なる墓を荒らす悪しき独裁者に裁きを下す、黄金の乾闥婆城。
「次元特殊召喚!降臨せよ―――『方界超獣バスター・ガンダイル』!!」
「ラグナロク、その再来」
メメントス探索、リビルド・ベース攻防戦、そして、もうひとつ。
特異点に出土した遺跡の調査に向かった者たちがいた。
マジンガーチーム、バーサル騎士ガンダムとアルガス騎士団、そして勇者アレクとローラ。
彼らは仲間たちの待つリビルド・ベースに戻った後、
アルガス騎士団やマジンガーチームはリビルド・ベースの復旧作業へ、
アレクとローラ、バーサル騎士ガンダム、騎士アレックスが代表してその調査結果を
報告した。
『ラグナロク……』
レオナルド・ダ・ヴィンチやシャーロック・ホームズなど、有識者たちを交え
遺跡に描かれた壁画についての情報。
ラグナロク。その語源は北欧神話に記された、神々の最終戦争によってもたらされる
世界最後の日を示すものである。
生命を凍てつかせる永遠の冬。
空から墜ちる星々。
万物を焼き尽くす炎。
ありとあらゆる厄災と武力が渦のように混ざり合い、滅びへと突き進む。
それはかつて、グランドクロスの幹部・禍津星穢の残した不吉な予言にも似ていた。
「壁画に刻まれていたのは――ラグナロクの真実だ」
アレクの言葉に、誰もが目を見開いた。
それは単なる神話ではなかった。かつて別世界のCROSS HEROESの敵対勢力が
引き起こした“世界の融合”。それこそがラグナロクの始まりであり、
その混乱に乗じてミケーネ帝国が全世界への侵攻を仕掛けた――と、
古代の記録には記されていたのだ。
「然るにラグナロクとは、異なる世界がひとつに溶け合い、際限の無い戦いが
永遠に続く様……つまり、今のわたくし達はそのラグナロクの再来へと突き進んでいると
言う事です」
ローラ姫が唇を噛みしめながら呟く。その場にいた全員が重苦しい沈黙に包まれる。
「さらに驚いたのは……壁画に描かれていたCROSS HEROESの姿です」
そこには、数え切れぬ異世界の英雄たちの影が刻まれていた。
中にはかの世紀の大泥棒・ルパン三世の姿やゲッターロボに敗れた悪の陰陽師
安倍晴明に似たものも含まれている。時代も世界も違う者たちが、
まるで一つの運命に導かれるかのように。
「ラグナロクの記録は、それだけではありませんでした」
騎士アレックスが低く告げる。
壁には、ゼウスとミケーネの激突、CROSS HEROESメンバーと邪悪なる軍勢の
戦いの記録に加え、さらなる古代の戦いの記録があった。
超古代文明と闇の巨人との死闘。
勇者ロト伝説に語られる竜王との戦い。
スダ・ドアカワールドに残る古き伝承。
「全ての伝説は、一本の線で繋がっていた……そう言わんばかりだった」
それは歴史の寄せ集めではなく、一つの巨大な叙事詩。
遥かな昔より世界は繰り返し交わり、英雄と悪が衝突していた証だった。
「そして――最大の問題はこれです」
バーサル騎士ガンダムの声がさらに低くなる。
壁画の最後には、こう記されていた。
――“悪しき者たちが再び現れ、全ての世界が繋がろうとした時、
再びラグナロクは起こる”――
「つまり……今また世界が繋がりつつある。奴らが暗躍している今、
この予言が現実になる可能性があると言う事です」
言葉を聞いた瞬間、空気は凍りついた。
ラグナロクは過去の災厄ではなく、未来に再び起こりうる脅威。
悪しき者たちが動き出している今、世界は再びその運命へと近づいているのだ。
誰がラグナロクの壁画を遺したのか。それはもはや分からない。
しかし、度重なる激闘の連続が、その予言に疑いようのない説得力を増していた。
既に、ラグナロクはもう始まっているとさえ言えるだろう。
重苦しい沈黙を破ったのは、リビルド・ベース防衛を指揮していたひとりである
藤丸立香だった。
「でも、だからこそ――私たちは立ち向かわなきゃいけないんだよね?」
彼女の言葉に、仲間たちの目に光が宿る。
マシュは傍らで微笑み、バーサル騎士ガンダムは静かに頷いた。
「その通りです、先輩!」
「再びラグナロクが起ころうと、私たちは諦めない」
「我々と同じく、いつか、何処かの世界のCROSS HEROESがそうしたように、
俺たちも戦う」
仲間たちの誓いが、拠点の大広間に響き渡った。
世界が交わるなら、それを悪用する者に抗い、再び英雄たちは立ち上がる。
こうして、遺跡で得られた情報は仲間たちに共有された。
それは過去の真実であると同時に、迫り来る未来の脅威を示すものでもあった。
(私はガンダムと言う名である事以外の記憶を持たず、スダ・ドアカ・ワールドへと
流れ着いた。同じくガンダムの名を持ち、世界を脅かすサタンガンダムを倒す……
それが私に与えられた使命だと思っていた。だが、違う。私の戦いは……)
バーサル騎士ガンダムたちは知る。
伝説も歴史も、神話さえも、全てはひとつの物語として繋がっていることを。
そして――ラグナロクの再来を阻むために、自らが集ったのだと言うことを。
「む……!?」
「あれは……」
決意も新たにしたその時だった。
リビルド・ベースの入口付近にボロボロに傷つき、黄金の鎧を血と煤で汚した騎士が
現れたのだ。
「あの人……!」
「私達を助けてくれた……」
ルイーダの酒場を襲撃したジオン族を迎撃するクロエと美遊の窮地を救った
「黄金の騎士」と呼ばれた男――騎士シャアだった。
ネオ・ブラックドラゴンに敗れ去ったものの、奇跡的に一命を取り留めたのだ。
「ごふっ……」
シャアはよろめきながら進み、仮面の奥の赤い瞳が微かに光った。
頭頂部には獣人の耳……彼は皇帝ジークジオンの呪いによって半人半獣に変えられた素顔を
仮面に隠し、復讐を誓っていたのだ。
「……時間が無い。奴らは……ジオン族共はエタニティ・コアを狙っている」
「エタニティ・コアだって!?」
リ・ユニオン・スクエアにて、ウルトラマントリガーをも復活させる程の
超エネルギーを秘めたエタニティ・コア。
その力に目をつけたDr.ヘル軍団や正義超人粛清を掲げる完璧超人マックス・ラジアル、
第三勢力・髑髏部隊など、CROSS HEROESとの大乱戦が繰り広げられた、
バーサル騎士ガンダムやマジンガーZらも参加していた大一番だ。
「カグヤやシャドウアビィに打撃を受けたとは言え、
やけに呆気なく引き下がったと思ったら、エタニティ・コアを狙っていやがったとは」
「まずいな、急いで追撃部隊を編成して、元の世界に帰らないと」
「その御仁を急いで医務室へ!」
世界の命運を左右するとされる、全次元の心臓とも言える力。
それを狙う敵が動いていると、黄金の騎士は告げたのだ。
緊張と決意が、仲間たちの胸に火を灯す。
騎士シャアの言葉は雷鳴のように響き渡り、誰もが息を呑んだ。
エタニティ・コア――それは世界を救う光であると同時に、全てを滅ぼす刃にもなり得る。
もし敵の手に渡れば、予言は現実のものとなるだろう。
英雄たちは視線を交わし、決して退けぬ戦いの始まりを悟った。
ラグナロク。その予言は現実になろうとしている。
英雄たちは、否応なくその渦中へと引きずり込まれていくのだった。
〈虚数と影の邂逅〉
戦火に巻き込まれた跡の残る、杜王町の一角。
そこに差す巨大な影、外骨格生物を思わせる有機的なデザインの腕をしたソレは、シャドウ・カタクラフトだった。
「あぁーあ、アイツ等、めちゃめちゃに壊しちゃって…」
そうぼやくのは、シャドウアビィだ。
無人のシャドウ・カタクラフトが瓦礫の山をどかしていくのを、彼はただ無感情に見つめていた。
「ぽぺー、君はさっきの子……かな?」
そんな彼へと声を掛けたのは、カグヤだ。
不意に聞こえた問いに、シャドウは瓦礫に向けた感情の抜けた顔を、カグヤに向ける。
「君は…そうか、確か町の人達を守ってくれた人だよね?」
かと思うと途端に顔を明るくさせ、カグヤの手を取って屈託のない笑顔を見せると、こう続けた。
「いやぁ、さっきはありがとうね!僕はアビィ、君は?」
すると、眩いばかりの笑顔で彼女は返す。
「あたしカグヤ!よろしく!ちょっと用事があってここに来たら、変なことに巻き込まれちゃったんだ。」
用事とは、即ちCROSS HEROESとの邂逅。
だが、"まだ心底信用していない"彼には言わない。
「町の人を守った……のかな?まあ、できることがあったからしただけだよ?」
誰も見た事のない超兵器を使用していた謎の人物、という立場な事さえ頭から抜け、対照的に信用を見せるシャドウ。
「そっか、カグヤちゃんは巻き込まれちゃった訳か…それでも守ってくれた事には変わりないからね、ありがとう!」
うんうん、と頷くと、腕を組んで困ったような顔をする。
「アイツ等、神だから~って理由だったかで、ここを征服しようとしてたみたいでさ。お互い困っちゃうよね…」
「ほんと、失礼しちゃう!神様だからなんだとか、王様だから支配するとか自分勝手!」
そうして頬を膨らませている。
ぷんすこ、と効果音が出そうな勢いだ。
「……ところでさ、さっきのあのロボット……もしかして、君のかな?」
そんなことを言うカグヤ。
しかし、どこか目が輝いている。まるでかっこいいものを見たかのような対応だ。
そんなカグヤの様子を見てか、自慢げな表情を浮かべたシャドウは、嬉々として語る。
「そう、そうなんだよ~!シャドウ・カタクラフトって名前の船なんだ!」
若干上擦った声で指差す先には、無人で動くシャドウ・カタクラフトの姿。
有機的なデザインのソレは、細長い腕の先から出た力場の様なもので、倒壊した建物の瓦礫を綺麗に集める。
そして瓦礫が撤去された跡地に、内部から出たであろう多種多様なアンドロイド及びドローンが工場道具を携え、工事の準備をしていた。
「いつか宇宙を旅しようと思って作った、僕の自慢の発明なんだ!」
「宇宙を旅する、かぁ……キミってもしかしなくても、天才少年?うらやましぃ~!」
純粋にそんなことを言っているカグヤ。その目には輝きしかない。
どうやら本当にそう思っているようだ。
「あたしはただ優しすぎるだけでちょっと魔術が使えるだけだから、そういう才能と華はないんだよね。」
魔術というにはあまりにも規格外、へりくだるにもほどがある発言をしつつ、カグヤは切り出す。
「ところでさ、君の方こそそんな船を此処に持ち込んで、何をするつもりだったのかな?」
何、というのが宇宙への旅という本来の発明目的を指してない事は、シャドウにも分かった。
だが、シャドウは変わらず笑顔を浮かべて、語る。
「僕はね、今はここの人達を守るのが使命なんだ。命も、暮らしも、全部。」
その言葉自体には、嘘は一切無い。
純真な、しかし何処か怖さを覚えるような眼で、彼は続ける。
「人間が、より良く楽しく、何より理不尽無く生きられるように。」
その言葉の羅列は、壮大な夢物語を思わせた。
「だから、出来る全力を注ぐんだ。あの船を出したのも、出せる限りの内だからだよ。」
「今は、か。」
夢物語の裏、何が糸を引いているかまでは彼女は理解していない。
怖さも、彼女は感じていない。
だが同時に、何か底知れないものを感じ取っていた。
「そっか。それはとっても――――優しい夢、だね。誰も傷つかない優しい世界、いつかはその理想は叶うかもしれないけれど……」
カグヤはどこか真剣な、まるで本物でも見たかのような表情で言った。
「あたしが一つ忠告してあげる。傷つかない世界の隣には必ず『堕落』がついて回る。誰も傷つかない、理不尽もない楽しかない世界となれば堕落という悪魔は大きく、強くなっていく。」
「楽しく傷なく生きていられる理想世界、でもその『楽しみ』はいつかどこかでぶつかり合うし、何よりその世界にいつか飽きる人が現れる。人間ってああ見えて飽きっぽいからね。そして、そういう人たちから順番に堕落し始める。」
彼女は続ける。理想の世界が辿るであろう悍ましきバッドエンドを。
「もっと強い『楽』が『幸福』が欲しい!って叫び出す人も出るし、そのために手段を択ばない人も出始めるかも――――ってのはただのたとえ話だけどもねー。」
「もし君と、今後できるであろう君の協力者たちが本気でそんな世界を作りたいと願うなら、そのための犠牲と次に戦うだろう堕落という悪魔と、どう向き合ってくのかを真剣に考えたほうがいいよ。」
彼女の言葉を聞いていたシャドウの顔には、少しばかりの驚嘆の色がずっと浮かんでいた。
「……」
僅かな沈黙が場を支配し、工事の音が静かに響く。
そして、目を閉じたシャドウを、ふぅ、と一息付く。
「そっか。人間の幸せを、こんなにも深く考えてくれる人が他にも居たんだ。」
「人間は、『傷』が無いと『堕落』する…『堕落と向き合う』事が重要だって、皆も確かに言っていた。そういう意味だったんだ_」
噛みしめる様に、カグヤの言葉を反芻する。
そうして一考の素振りを見せると、やがて思考に纏まりが付いた様で、再びカグヤへと顔を向けた。
「ありがとうカグヤちゃん。この夢と真っ向から向き合ってくれて。そんな人、外にはいなかったからさ。嬉しいんだ。」
屈託のない笑顔を浮かべて、感無量の感謝を向けるシャドウ。
「人がより良くあれる世界の姿が、今確かに見えた気がするよ。理不尽な犠牲も堕落も無く、人が前を向いて歩ける世界が。」
そう告げる彼の眼は、一点の曇りも無かった。
「そっか、期待しているね。それじゃ、あたしはそろそろ作業にもどらなきゃだ。」
そう言って彼女は作業に戻ろうとする。
だが何か最後に言おうとした言葉を思い出し、振り返って言った。
「最後に、あたしはメサイア教団とその『裏』の敵ではあるけど『誰かの味方か?』って言われたら違う。誰の味方でもない放浪者くらいだと思ってていいよー。」
去り際に聞いたその台詞を、シャドウは再び反芻する。
「メサイア教団と、その『裏』…かぁ。」
先程までの笑顔から一転、気だるい表情を浮かべ、天を仰いで呟く。
だが、次の瞬間には好戦的な顔付きに変わった。
「世界には、敵が多いなぁ。ま、そうでなきゃやり甲斐が無いって思っておくか。」
そう締め括ると、彼は工事現場へと戻っていく。
彼の、今目指す夢の為に_
「次元を超える舟/神になろうとした男たち」
ラグナロクの再来を告げる予言。
リ・ユニオン・スクエアに眠るエタニティ・コアを狙うミケーネ、竜王、ジオン族連合。
そして……
リビルド・ベースの司令室。窓外には修復作業の灯が瞬いていた。
だが司令室の中に漂う空気は、静謐と緊張に包まれている。
思い起こされるのは、サーヴァントたちからの疑念の目も何のそのと
杜王町に繰り出していった異世界からの来訪者――虚数姫・カグヤから告げられた言葉。
おっとりとした声音ながら、その瞳は星々を映すように深い光を宿していた。
――回想、リビルド・ベース。
カグヤに全員の視線が集まる。彼女は胸の前で両手を組み、ゆっくりと語り始めた。
それは、CROSS HEROES、カルデアにとって衝撃の事実であった。
メサイア教団の本拠地の所在である。その言葉に、会議室はざわめきに包まれた。
マシュが小さく息を呑み、ホームズの鋭い視線がカグヤに注がれる。
「存在しない世界……?」
藤丸立香が思わず問い返す。
「ん。あの人の拠点は虚数空間の最奥にあるの。現実の座標には存在しない、
いわば“忘れられた世界”。私の家の近くに徒歩で行けるところにあってね。
でもそこに到達するのは、今のあなた達にはちょっと無理かな」
まるでコンビニかファーストフード店の話でもしているかのような語り口。
虚数空間――英霊召喚や魔術の基盤に関わる理論上の深淵。厳密に言えば
カルデアの知識上における虚数空間とはやや異なるものではあるが、
そこを拠点にしているとなれば、常識の外にある存在だ。
「ペル、どうだ?」
「……嘘の匂いはしない」
手掛かりの匂いを嗅がされる警察犬さながらの扱いのペル。
(と言うかあの女……人ではない……)
嘘か真か、白か黒か、そう言った二元論で語れる次元にいない。
故にこそ、人を虚言で惑わせる悪意も無いと言えようか。だが、メサイア教団の一個師団を
一瞬で消滅させた存在でもあると言う事実も忘れる事は出来ない。
「虚数空間と言ったら、BBの出番では? ダ・ヴィンチちゃん?」
『それが……「実家に帰らせていただきます♡」と言う書き置きを残して
いつの間にやらカルデアから姿を消してしまっていたんだ』
「ぬうう、肝心な時に役に立たんな、あのポンコツAI!」
ネロが地団駄を踏む中、会合は続く。
「じゃあ、どうすればそこへ行ける……?」
甲児が唸るように呟く。
カグヤはゆるやかに首を振り、微笑んだ。
「虚数空間の最奥に辿り着くには、“舟”が必要」
『舟の強化……!』
ダ・ヴィンチが反射的に立ち上がり、タブレットに何やら数式を書き込む。
『単なる舟の出力増強では駄目。虚数潜航のための理論そのものを改造しなければ……!』
ホームズがパイプを燻らせる。
『つまり、我々の移動手段を“次元を超える舟”へと作り変える必要があるのだな』
マシュが隣で拳を握る。
「でも、先輩……そんなこと、今の私達にできるでしょうか?」
アビダイン、セッちゃん、時空のオーロラ、レイシフト……世界を飛び越える技術は
幾つかある。だが、それらとはまた異なる術……答えは出せない。だが、進むしかない。
すべての元凶、メサイア教団。その本拠地へと突入するための術は示されたのだから。
「それともうひとつ……」
その声に、全員が息を詰める。
「メサイア教団は――“女神”と呼ばれる存在を目覚めさせようとしてる」
「女神……?」
「彼らにとってそれは“救済の兵器”。すべてを包み込み、すべてを終わらせるために
造られた、人智を超えた存在。教団はそれを“人類の救済”と言うけど……
私には、それは滅びのための女神にしか見えないな。あの人達があちこちから
すごい力を集めてるのも、そのため」
ソロモンの指輪の収集、ユートピア・アイランド、悪霊量産計画、人造ホムンクルス、
要人誘拐、暗殺、爆破テロ、警察組織の傀儡化、信者たちによる港区の占拠、
特異点トラオム……彼らのこれまでの悪事のすべてが、女神覚醒へと繋がる計画であった。
――そして現在。
「ラグナロク……エタニティ・コア……そして“女神”」
ダ・ヴィンチがカルデアの机に額をつけるように身を乗り出す。
「虚数空間の最奥に拠点を置き、そのうえ救世を騙る兵器を抱えているとなれば……
これはもはや単なる組織の野望ではない。世界そのものを賭けた決戦だ」
彼女は指先で机を叩き、早口に数式を並べ始めた。
「船の強化は急務。だが、虚数座標を越えるには未知の理論が必要……
いくら世紀の大天才である私一人の頭でも足りない」
ホームズが静かに頷き、深い眼差しを向ける。
「可能性はある。我々が持つ魔術理論と、ダ・ヴィンチ君の工学技術を融合すれば」
「だが……時間が無い」
ダ・ヴィンチの声が震える。
「敵はすでにエタニティ・コアを狙って動いている。ラグナロクの予言が現実になるのを
待ってはくれない。我々は常に後手後手に回っているんだ。
その時間差が、いずれ致命傷になる」
「……難しいことは分かりません」
アレクが立ち上がり、胸に手を当てて言った。
「だが、女神だろうと、虚数の深淵だろうと。俺たちは諦めません。
戦う理由がある限り、何度だって剣を取ります」
ローラも隣で頷く。
「きっと、この仲間たちとなら、どんな暗闇の奥でも辿り着けるはずです」
その言葉に、マシュの瞳が強く輝いた。
「先輩……わたしたちも、負けません!」
藤丸は深く息を吸い込み、仲間たちを見渡した。
「虚数の海の果てにだって行ってやる。メサイア教団がどんな兵器を隠していようと
立ち向かうしかないんだ」
ダ・ヴィンチは静かに目を閉じた。
悩み、苦しみ、それでも彼女は笑みを取り戻す。
「ふふ……流石だね、君たちは。私が頭を抱えている間に、
もう決意してしまうのだから」
彼女は立ち上がり、タブレットを叩きつけるように閉じた。
「分かった。ならば私も腹を括ろう。虚数潜航船の建造計画を始める。
君たちが女神に立ち向かえるように、必ず準備を整えてみせる!」
その言葉に、場に集う全員の胸に熱が宿った。
こうして、ラグナロクの予言、エタニティ・コア争奪戦、
そして“女神”という未知の兵器。すべての脅威が一本の線で繋がり始めた。
戦いは避けられない。
だが、英雄たちは確かにここに立ち、未来を選び取る意志を抱いていた。
そして、当のメサイア教団にも風雲急を告げる者が現れる。
「ふふ、大分焦っているようだな。メサイア教団」
「!? 誰だ、貴様!」
CROSS HEROESに煮え湯を飲まされ続け、冷静さを失う魅上の前に現れた男が
エイダムによって通される。
「紹介しよう。シャピロ・キーツ氏だ」
エイダムの声に呼応するように、重厚な扉が音を立てて開く。
ダンクーガとの戦いに敗れ、果てたはずのその鋭い眼差しは、
長らく煮え湯を飲まされ続けたメサイア教団の幹部たちを一瞥すると愉快そうに
口角を吊り上げた。
「エイダム……貴様、誰の許しで部外者を……」
「かくて神は再臨せり」
『方界超獣バスター・ガンダイル』 レベル4 攻撃力:3000
「覚悟はいいか海馬!『バスター・ガンダイル』よ!まずは奴のドラゴンを消し飛ばせ!」
黄金の奔流が、水晶の竜を破壊する。
その圧倒的な火力は、一度アンディメンション化が解除され元の攻撃力に戻った彼らを大いに爆散させる。
そして――――その二撃は、海馬に致命的なダメージを与えた!
「がああああああ!」
「兄様――――!!」
海馬 LP:8000→3000
『クリスタル・ドラゴン』の攻撃力2500、その2体分のダメージを受けてしまった。
大いに吹き飛ばされたものだから、弟のモクバが駆け寄るほど。
「ぐぅ……!」
そして『バスター・ガンダイル』の攻撃力は3000。
あと1度の攻撃を残している上に、海馬に残されているのは伏せカード1枚のみ。
「これで終わりだ海馬!」
『バスター・ガンダイル』の眼球部に、光が収束する。
立方体状の閃光が、『クリスタル・ドラゴン』を容易く粉砕した奔流となって海馬めがけて放たれる!!
絶体絶命の危機、このままもろに受ければ海馬の敗北。
「罠(トラップ)発動――――『カウンター・ゲート』!攻撃を無効にし、俺はカードを一枚ドローする!それがモンスターカードだった場合、その場で召喚することができる!」
奔流が海馬の眼前で、扉状の盾に吸い込まれてゆく。
ひとまず、敗北の危機は避けられた。
そして、続けてモンスターを召喚すれば、いくら『バスター・ガンダイル』であろうとも突破の希望はある。
「無駄な足掻きを!罠カード『方界曼荼羅』を発動!」
「破壊されたキミのドラゴンたちを戻してあげるよ、これでキミは新たにモンスターを召喚できず、さらにそのモンスターたちがいる限りキミはモンスター効果も発動できない。」
「!」
もはやどうすることもできない。
このまま放置すれば、ディーヴァの『バスター・ガンダイル』にいずれは各個撃破され敗北する。
「そんな……このままじゃ兄様は……。」
負ける。
誰もがそんなことを絶望と共に感じていた。
ただ、当の海馬瀬人だけは別のことを考えていた。
(■■■、奴とここで戦い魂を封印すべきだったのは俺だった。)
運命の如く訪れてしまった、あの日。
光と影、二つの心の別れの詩。
戦いの儀、その果てに王は冥府へと帰っていった。
それをただ見送ることしかできなかった自分。
あの日から、彼の行動は固定された。
そうあれかしと決めつける強迫観念。
(それが果たされなかった俺の心には、今も奴の亡霊がさまよっている―――!)
だからこそ、このデュエルは負けるわけにはいかなかった。
どんな手を使ってでも、それが欲しかった。
それを復元するより他はなかった。
「―――ぅおおおおおおおおあああああああ!!」
大地に手を置く。
渾身の力を込めて、冀う。
かの力を、此処に。
「ドォロォオオオオオーーーーーッッ!!」
大地からのカードドロー。
もはやこれは、通常のドローではなかった。
そして、3体の『ブルーアイズ』が虚空に消える。
「な……何が起こっている!?」
その瞬間、異空間の遺跡が崩壊を開始した。
まるで大いなる存在を出迎えるかのように。
大地が震え、天が啼き叫ぶ。
その威容を仰げ、愚昧。
ここに在るは、王の威容が一つ―――。
「オベリスクの……巨神兵!?」
青黒き神。
大地の全てを砕き、全てを破壊する巨大。
『オベリスクの巨神兵』 レベル10 神属性 攻撃力:4000
「馬鹿な!遺跡に眠る残留思念を、海馬!キミは読み取ったというのか!!」
「遊戯……俺は『オベリスクの巨神兵』の効果発動!俺のモンスター2体をリリースし、貴様のモンスターを全て粉砕し、貴様に4000のダメージを与える!!」
凄まじく豪快で絶対的な効果。
なるほど、全てのモンスターを破壊しつくせば何もかも解決しよう。
だが、それでも一つ覆しようのない定理がある。
「馬鹿な!モンスター効果は無効のはず!!」
そう、ディーヴァの『方界曼荼羅』の効果によって、海馬はモンスター効果を封じられている。
だが、神にそんな効果など通用しない。
「モンスターではない―――『神』だッ!!」
絶対定理を粉砕する例外の存在―――三幻神。
それを証明するように、その場には『方界曼荼羅』を彩るモンスターは存在しない。
後はそのまま打ち砕くのみ―――!!
「ゴッド・ハンド・インパクト―――!!」
呻る神の拳。
およそ砕けぬものはなく、最後に残るのは何もない。
超然の獣を破砕し、主たるディーヴァをも吹き飛ばした。
「ぐぅ……うああああああああああああああああ―――ッッ!!」
ディーヴァ LP:8000→1000
超絶の一撃を受けてもなお、まだ生存しているのはさすがというべきか。
よろめきながら立ち上がり、デュエルを続ける構えだ。
「海馬……デュエルはまだ……!」
その時だ。
「こ、これは……!」
海馬の側近の一人、磯野が驚愕する。
設置した監視カメラに映っているのは、数十名の兵士。
少なくとも海馬コーポレーションのものではない。
腕についたエンブレムの模様を、磯野は知っている。
(このエンブレム……ニュースで見た、例のカルト教団のか!)
そして同時に、千年パズルを覆っていた電磁レーザーが消滅した。
異空間も神の攻撃で消えた今、彼らは逃げようと思えば逃げれる。
「瀬人様!回収の準備が整いました!」
「運べ!」
(くっ……このままではパズルが!)
デュエリストとして逃げてはいけないとは思っている。
だが放置すれば千年パズルは海馬のものとなってしまうだろう。
「ディーヴァ!もうすぐメサイア教団の刺客が来る!デュエルは中断だ、すぐにそこを離れろ!」
同時に隠れていたディーヴァの仲間も影から現れ撤退を勧告する。
「ダメだ!せめて、この男だけでも!」
「我らの力を合わせてもあの数は対応できない!低次元に送る前に、全員撃ち殺されるのが関の山だ!」
「くっ!」
迫る教団の刺客たち。
彼ら全員機銃を装備している以上、いくら集合意識の力を使っても対応できない量だ。
ディーヴァはその最中、理由を探している。
(まさか……この指輪を追ってここまで駆け付けたというのか?それほどの力を持っているとでもいうのか?)
教団の基地より簒奪した、ソロモンの指輪の一つ。
それを追って教団の刺客が来たのだろうと推察する。
ディーヴァは悔しそうに、唇をかみしめるしかなかった。
「くそ……!」
「シャピロの目的」
「……醜いものだな」
シャピロが今の魅上の姿を見てそう答えた。
「なに!?」
「先ほどから貴様の様子を影からこっそり見させてもらったが……ここまで愚かで醜い小物がメサイア教団とやらのトップとはな……」
「き、貴様…!」
「確かにこのメサイア教団は、技術も人材も連邦軍どころかムゲ・ゾルバトス帝国に匹敵するほどに素晴らしいものばかりだ。
……だが、せっかく優秀な人材や技術が揃っても、貴様みたいなやつがトップでははっきり言って宝の持ち腐れだ。
今のままでは話に聞く女神とやらが完成するよりも前に確実にメサイア教団は潰されるだろう」
「部外者の分際で、好き放題と!」
「落ち着け魅上。勝手に連れてきたのは謝罪しよう。
……だがこのシャピロ・キーツという男ははかなり使えるやつだ。なにせあのムゲ・ゾルバトス帝国で指揮官をしてたとのことだ」
「ムゲ・ゾルバトス帝国……過去に地球を侵略しに来た宇宙帝国か……くだらん。要するに宇宙人共に寝返ったということだろう?そんなやつは信用ならん」
「寝返りや裏切りに関しては貴様にだけは言われたくないな。夜神月を最後の最後に裏切っておきながら、こうしてやつの名前ややつの信者を利用してカルト宗教団体なんぞを作って暗躍している貴様ごときにはな」
「……チッ、勝手にしろ」
「では、お言葉に甘えてそうさせてもらおう」
シャピロはそう言うと、魅上とエイダムを残してその場を去った。
(……メサイア教団、あんなのがトップでは長く持ちそうにないな……だがそれでも奴らにはなんとしても女神とやらを完成させるまで生き残ってもらねば困る……
……私が貴様らの作る女神の力を手に入れ、今度こそ神となるためにもな……)
復活したシャピロがメサイア教団の協力者になった目的、それはメサイア教団の作り出す女神を利用して、自分自身が神となることであった。
〈第一次魔界大戦:超(Super)だけがサイヤ人じゃない〉
ザルディン、アビィの二人と激闘を広げるターレス。
悟空達が合流し、数の差で不利を取ったターレスは、結果としてザルディンからの槍の一撃を貰う。
明確に一撃が入った瞬間だったが…
「貴様…」
「どうした、プライドでも傷ついたか?」
挑発気味に問うザルディン。
だが、ターレスは寧ろ口角を上げた。
「…ククク、ハハハハ!」
「何が可笑しい?」
「成程、確かに貴様は強い。ガルードを遣ったのも頷ける。」
ザルディンの問いかけを気にも留めず、戦闘服の脇腹に出来た傷口を撫で、喜色の声を上げる。
よく見れば、傷は肌を裂いていなかった。
(ぬぅ、紙一重で躱されたか、或いは弾かれたか?)
「魔界に来たのも、伊達や酔狂じゃなかった訳だな。」
「チッ、白々しいお世辞を並べやがって。いちいちカンに触る野郎だ…!」
大仰に説かれる賛美に、ベジータは苛烈に返した。
ただひたすらに、謙遜したフリが気に入らない。
つい先程、己の全力である超サイヤ人2を下したのもあった。
「_待て貴様、スラッグを何処へやった?」
そんな中、冷静に物事を見抜いたのはピッコロだ。
ターレスが連れ去った筈のスラッグは、どこにも見当たらない。
疑問が生まれた所で、ターレスがクツクツと笑い声を上げた。
「あぁ、アイツか。俺が持ってた神精樹を、ちょいと分けてやったんだ。」
「やはり、お前も持っていたか…!」
小賢しい真似に苛立ちながら、目を閉じてスラッグの気を探るピッコロ。
だが、すぐさま険しい顔になる。
「クソッ、下手に弱らせたせいで、スラッグ自体の気が感じられん!」
「オラも探れねぇ…アイツの気が、他の奴が食った神精樹の気に紛れてんだ!」
続けざまに悟空もそう告げた。
悟空が探れないのならば、スラッグを瞬間移動で強襲する事は不可能になった。
ターレスは思い通りと言わんばかり顔を愉悦に歪める。
「貴様達にはそれがあるからな。念の為、一掴み程度にしたのさ。」
「考えたな…!」
そう吐き捨てるピッコロ。
だが実際、ターレスの思う通りに事が運んでいるのは事実だ。
しかし、そこで意外な人物の指摘が入る。
「ならば、実を食らうためにあの大樹へと戻ったのでは無いか?」
「…つくづく目敏い奴だ。」
今までの会話から仮説を立てたのは、ザルディンだ。
ターレスは一瞥するが、否定はしない。
暗に、正解だと答えている様なものだった。
「なら、神精樹へ行けば…!」
そう口にした悟空に掌を向け、ターレスは気弾を撃ち込む。
悟空は咄嗟に身を捩って回避し、空を切った気弾は彼らの後方で盛大に爆ぜる。
轟々と吹き荒れる烈風の中で、ターレスは嘲笑を浮かべた。
「オメェ…!」
「わざわざここに場所を移した時点で、分かっているだろ?この先に立ち入られては困るんでね。」
そう、神精樹の元へ行かせない為に、ターレスはザルディン達の元へとやってきたのだ。
ターレスを睨む悟空達だが、ターレスは余裕の表情を崩さない。
数の劣勢を被る中で浮かべる余裕は、酷く不気味に見えた。
しかし、だ。
「_どの道、貴様を倒すことには変わりは無い!」
そう言うと、彼の思わせぶりな態度を一蹴して構えを取るピッコロ。
己の覚悟に揺るぎを見せないその姿に、悟空も感化された。
「そうだな。なら全力だ!ハァァ…!!」
ターレスを見据え、構える悟空。
その気は高まり、やがて臨界点を超えると、爆発する様な勢いで膨れ上がる。
そして黄金色の気が一帯を覆いつくしたかと思うと…
「ハァッ!!!」
「ガハッ!?」
不意に響く嗚咽。
閃光が収まったかと思うと、そこにはターレスのどてっぱらに膝打ちをめり込ませる黄金の長髪の男。
「な、その姿は…!?」
「カカロットめ、最初っからその姿に変身すれば良い事に、漸く気付いたか。」
「さっきのベジータに勝ってたんだ、だからこうしたのさ。」
『超サイヤ人3』へとなった悟空が、そこにいた。
「お前には初披露だったか、超サイヤ人3と言った所だ。」
「チッ、どいつもこいつも伝説をファッション感覚で…」
落ち着き払った悟空に、ターレスは舌打ちする。
下級戦士というコンプレックスを刺激された故か…腹に走る痛みを堪え、腕を薙ぐ。
だが悟空は最小限の動きで距離を取り、躱して見せる。
そして一瞬の後、ターレスの全身各部に衝撃が走った。
「ガハッ…何だと!?」
刹那の攻防を制した悟空。
先の『超ベジータ』を上回るのは、今ので分かった。
…しかし。
「成程、そうでなきゃ面白くない…!」
そう言って不敵に口角を上げると、今度は気弾を連射する。
一発一発が巨大であり、大地に風穴を開ける威力を秘めている。
だが悟空は両腕を向け、その場から動かない。
「ふんっ!」
同じ様に気弾を連射し、迎撃。
立ちどころに爆炎が巻き起こり、砂煙が濛々と立ち昇る。
「ほう…!」
軽く感嘆するターレスだが、直後に煙の向こうを見据えると、顔を引き締めた。
「まさか、この程度で終わりではあるまい_」
「その通り。」
「っ!?」
独特の風切り音と共に、後ろから聞こえる声。
いつの間にか背後を取った悟空の回し蹴り。
「ほう、防ぐか。だがいつまで続くかな?」
頭部に迫ったそれを、ターレスは腕を構えて防ぐ。
だが悟空は追撃の手を緩めず、一歩踏み込んで連撃を繰り出した。
「だぁりゃりゃりゃりゃりゃぁぁぁ!!」
「チィ、やはりか!この力は…!」
腕で何とか凌ぎながら、踏み込みの一撃を搔い潜り、腰を入れて腕を薙ぐ。
「遅い。」
「ガッ…!?」
だが悟空は身を翻し、カウンターパンチを顎に叩きつける。
強烈な一撃に、思わず仰け反るターレス。
「ハァッ、ウリャア!テヤァ!!」
「ぐぅ…!」
更に続く追撃。
頭部に一発貰ったせいか動きが緩慢になり、全てを防ぎきれず胴体に何発か貰ってしまう。
溜まらず距離を取るターレス。
「俺を忘れたか?セヤァ!」
「っ!」
そのガラ空きの背中へと、ピッコロが強襲を仕掛けた。
突き抜けるような蹴りの一撃。
強大な威力に、肢体が吹っ飛んだ。
「がふっ…」
胸を穿つ威力に、肺の空気を吐き出して屈みこむターレス。
最早、満身創痍だろう。
だが、ベジータの顔は険しかった。
(妙だ…奴の実力なら、もっと優勢になれた筈だ。)
自身が死力を尽くして戦った相手だからこそ分かる、違和感。
その正体を探るべくターレスを観察すると、彼の左腕はある物を口元に運んでいた。
ソレに気付いた時、ベジータは大声を上げる。
「や、奴め…神精樹の実だッ!」
「「何?」」
大声に反応して、二人が視線をベジータへと向けた一瞬。
神精樹の身を頬張り、一挙に胃へ流し込む。
瞬間、彼の邪悪な気が爆発的に膨れ上がった。
「ククク、地獄がちょいと見えたよ。お陰でまた、パワーアップしたぜぇ…」
ゆらりと立ち上がるターレスに、先程までの疲労は見られない。
サイヤ人の特性と神精樹…二つが合わさった彼は、またも別人が如く生まれ変わった。
「超サイヤ人で無くとも、俺は戦闘民族だ。伝説なんざ打ち破ってやる。」
「グランドクロス・暗黒首脳会議」
メサイア教団に突如として姿を現した、シャピロ・キーツ。
かつて地球を蹂躙しかけ、ムゲ・ゾルバドスの名の下に星々を征服してきた
その最終局面において、シャピロはムゲ・ゾルバドスに見限られた末に凄惨な最期を迎るが、
今こうして現世への復活を遂げた。
(そう……こうして再誕した私こそ神に選ばれし、いや、神になるべき男なのだ)
魅上照と、シャピロをここへ呼び寄せたエイダムの間には重苦しい沈黙が残っていた。
メサイア教団の総帥を自称する男が侮辱され、なおかつ言い返す余地すら
与えられなかったことが、彼らの組織の脆さを露呈していた。
そしてエイダムが単なるメサイア教団の一員に留まらず、
渾沌結社グランドクロスの使者である事も、魅上は知らない。その裏で進んでいたのは
単なる一人の傲慢な男の野望では終わらない、大いなる陰謀であった。
(……メサイア教団が作ろうとしている女神。その力を手にした時、
私は誰にも従う必要がなくなる。グランドクロスも、ムゲ・ゾルバドスも、
すべては私の駒にすぎん)
シャピロは冷ややかな笑みの裏で既に新たな計画を練っていた。
彼は己の裏切りを恥じない。寧ろそれを戦略の根幹と考えている。
勝者の側に付き、敗者を見限る。冷徹なその論理こそが彼の生き残りの術だった。
(ムゲ・ゾルバドス……貴様も必ず私の前に跪かせてやるぞ……)
再びこの世に生を受けた彼にとっての新たなる目標……それは自らを利用した
ムゲ・ゾルバドスへの復讐も兼ねていた。一方……
「我が使役する亡霊共を討ち滅ぼすとはな……ダンクーガ以外にも
それなりに骨のある人間がいたと見える……」
ムゲ・ゾルバドスの声が発せられるたび、空間はその一語一語を咀嚼するかのように
重く反響した。
虚無に浮かぶ円卓。現実と虚数の境目に作られたその空間には
闇の中を這うような冷風だけが通り抜けていた。壁も天井もない。黒い裂け目からは
遠い星の狂い咲きのような光が零れ落ちるのみだ。
以前、暁美ほむら、巌窟王エドモン・ダンテス、藤丸立香が平坂たりあを狙う
グランドクロスの亡霊たちを迎撃した一戦。それは死者の魂を操る事が出来る
ムゲ・ゾルバドスの力の一端によるものであった。
奇しくも英霊をサーヴァントとして使役する藤丸、希望と絶望を凌駕し
魔法少女と魔女の境界を超えた悪魔と化したほむら、
悪霊の王・ムゲの力は表裏一体のものと言えるのかも知れない。
「我が力……まだ完全なものではないとは言え、な」
グランドクロスにとってムゲ・ゾルバドス帝国の兵器技術は喉から手が出るほど
欲しいものだった。ゾルバドス側にしても、異次元から湧き出る悪意の集合体たる
グランドクロスと組むことで、滅びかけた自らの勢力を再建できる。
――「人類の征服、そして滅亡」。 それは彼らが共有する、最も単純で残酷な動機だった。
『シャピロ・キーツはメサイア教団の力を利用し、やがては帝王に
刃を向けるつもりのようですが……?』
「捨て置け。ギルドローム、ヘルマット、デスガイヤー……我が誇る部下たちを差し置き、
奴は蘇った……我は力ある者を評価する。利用できるものならば、利用する」
グランドクロスの老人たちに囲まれるムゲ。
地球を裏切った余所者でありながらシャピロの手腕を買い、帝国の幹部へと迎え入れたが
結局は自身の手駒として利用していた。
神に至る道を進まんとする傍ら、ムゲへの下剋上をも狙うシャピロと、
それを知りつつも戯れに興じるムゲ……互いに互いを出し抜くべく、
内なる野望を滾らせていた。
秘密裏に行われた会合の場。漆黒のマントを羽織ったグランドクロスの幹部と、
ゾルバドス残党の将軍が対面していた。
虚空に浮かぶ会議室のような空間。壁も天井も存在せず、代わりに星々が煌めく。
そこは現実と虚数の境界にある、両勢力専用の中継拠点だった。
真紅の外套を纏い、仮面の奥から禍々しい声を響かせる・ショッカー大首領。
不滅の頭脳を誇る、奇怪な不死者・マモー。
ジオン族の紋章の裏側に潜む皇帝、ジークジオン。
そして、グランドクロスの老人たち。
最後に、沈黙しながらも燃え盛る憎悪を抱く ムゲ・ゾルバドス。
会議が始まるなり、ジークジオンが低く吐き捨てた。
「かつて銀河を震撼させた帝王を破った獣のごとき機械兵器。
それも今や失われしものか……」
ムゲとの決戦で、アラン・イゴールは戦死。ダンクーガも大破した。
獣戦機隊の消息も、現在は定かではない。
かつてムゲを討ち取った戦士たちは今はいないのだ。
「フフフ……復讐の念で以てこの世に再び転生を果たされたムゲ帝王閣下。
あなたの存在はとても興味深いものです。それは私でさえ未だ到達し得ない、
まさに不滅不死の究極……」
マモーが愉快そうに笑う。
その言葉にショッカー大首領が続ける。
「不滅、そして支配――我らはみな同じ理想に向かって歩む。だが方法が異なるだけだ。
ムゲ・ゾルバドスの技術、ジオンの軍勢、マモーの叡智、我らショッカーの信仰と改造術、そして……」
大首領は老人たちに視線を送った。
「……そして我らが求めるは、均衡の破壊。女神の器をもって次元を超え、
世界を一つに呑み込むこと」
グランドクロスの老人たちは、深く皺の刻まれた顔に不気味な笑みを浮かべた。
「女神……人間如きが神の名を騙るものを生み出す、か。超獣機神ダンクーガのように……
まったく、愚かしい事よ。だが、かつて我を討ち取ったダンクーガは、もういないのだ」
「――我らが求めるのは、均衡の破壊だ。女神の器を経綸に据え、
次元の境を押し広げ、世界を一つに呑み込む」
グランドクロスの老人たちが揃って告げる。年輪のように刻まれた皺が、
薄笑いを浮かべた顔の陰影を深めていた。
しばしの沈黙の後、ムゲ・ゾルバドスが小さく吐息を漏らす。
「女神か。人間ごときが“神”の名を騙る代物を産むとは、哀れだな。超獣機神ダンクーガのあの一件――愚かな面を見せたものだ。」
仮面の奥から冷たい声をもらすのは、ショッカー大首領だ。
「メサイア教団が形にせんとする虚ろな神体。それが我らの覇道を覆す可能性を秘めているのなら──されば利用するのみだ。完成を待つことなく、種を撒こう。女神の出現まで英雄たちを消耗させ、手が出せぬ状態に追い込むのだ。」
マモーは歯車の噛む音のような嗤いを洩らす。
「舞台作りは私の役目。幻惑と迷宮で彼らを誘い込み、疲弊させる。
戦場を設えるのは知略の仕事だ。そこは心得ている」
ジークジオンは、声を震わせて次なる作戦を宣言した。
「我が軍勢を矢面に立てよ。ジオン族は戦を渇望している。
炎を以て地表を包み、連中を戦場に縛り付けてやる!」
円卓の縁に並んだ影が、さざめくように反応する。古い計略が息を吹き返し、
破滅へと続く序曲がゆっくりと奏で始められた。
ジークジオンの次なる企み……それはミケーネ、竜王軍と共に
リ・ユニオン・スクエアに眠るエタニティコアの力を手に入れる事であった……
「執念の果てに」
存在しなかった世界 医務室
魅上は、頭の中で言われた言葉を反芻していた。
『寝返りや裏切りに関しては貴様にだけは言われたくないな。夜神月を最後の最後に裏切っておきながら、こうしてやつの名前ややつの信者を利用してカルト宗教団体なんぞを作って暗躍している貴様ごときにはな――――。』
「違う……私は見限ったのだ……いや、それすらも同じ意味なのか……最早頭も回らん。」
顔を手で押さえ、憎悪と殺意に歪ませる。
狂気に苛まれ、絶望に侵された彼の脳髄はもはや正常な判断すらおぼつかない。
「魅上様、こちらを。」
教団の医師が、魅上にレントゲン写真を見せる。
それを見た魅上の顔は、一気に青ざめた。
彼に医学知識はほとんどない。
だが、それでも直感で自分の肉体がどうなっているのかがわかることもある。
「これは……。」
結論から言えば、彼の肉体はストレスによりボロボロになっていた。
度重なるストレスにより、肉体・精神のダメージが深刻化していた。
吐血するのも無理はないほどに、身体も心も荒み切っていた。
「このままだと、どうなる?」
「貴方の心と考え次第ですが、最悪の場合貴方は廃人になってしまうかと。」
「直せるか?」
医師は俯きながら答える。
「肉体面は治療である程度は緩和できるでしょうが……精神面となると、薬や外来的治療による完治は難しく、後は貴方の気力次第かと。」
「そうか、ならば仕方あるまい。」
そう言って、魅上は懐から何かを取り出す。
小さな袋の中の試験管、その中に銀色の何かがある。
どろりとした水銀のような、或いは水をかけられた砂のような「何か」。
「……これを私に打ち込め。」
医師にはこれの正体がすぐに分かった。
「ナノマシン、ですか?」
「ビショップに渡されたものだ。通常時は何の意味もなさないが……。」
魅上はナノマシンの持つ『機能』を説明した。
それを聞いた医師はため息をつき、言葉を返す。
「……なるほど、しかしそのナノマシンが起動するとき『貴方は、貴方とキラが望んだ新世界を見ることができなくなってしまう』。それでもよろしいので?」
「構わない。」
魅上は空を仰ぎながら言う。
「悔しいが、私はあの時心の中で整理がついた。『夜神月を最後の最後に裏切っておきながら』か、その言葉は正論過ぎて返しようがない。」
「私は……キラが死んだとき世界に絶望した、最早この世界に私が求めた希望はない。だからせめて、次の世界に期待したいのだよ。」
「貴方が望んだ世界とは……。」
「……『誰も傷つかない世界』だ。戦争もなく犯罪もいじめも差別もなく、実行者には惨たらしき死をもって世界に知らしめる。漫画やアニメの中にもそう言ったものや、曇らせや絶望などという邪悪もない、そんなものを描いた者は吊るし上げてでも浄化する。その全てを実行するのが、かの『女神』だ。」
そう零す魅上の目には、諦観があった。
諦めたが故の冷静。
冷静さの中の失意。
失意の中で見出した、絶望。
「そうまでしてでも、『誰も傷つかない世界』を望むと。」
「ああ。だが……最早その夢も望めまい。」
虐げられたもの、虐げられるものを救いたかった純粋な想い。
それはいつしか歪み、捻じ曲がり、虐げるものを滅ぼすという殺意へと変わった。
しかし、滅亡と殺戮の恐怖を振りかざしてもなお、己の願いはかなうことはなかった。
「だから、せめて私の意志を彼女に託したい。だから、頼む。」
一通りの話を聞いた医師は、ナノマシンを注射器に入れ始めた。
「分かりました、すぐにでも執り行いましょう。」
◇
エジプト 地下遺跡
「ディーヴァ、逃げるぞ!」
迫る教団兵士の靴音。
駆け迫るような銃口。
「あーばよ!」
コンテナに収められた千年パズルも、上空からのヘリによって運び込まれる。
このままではまずい。
「くっ……せめてパズルだけでも!」
その瞬間、ディーヴァは移動した。
跳躍でも疾走でもない、移動。
彼は瞬間移動としか言いようのない方法で運び込まれるパズルのコンテナへと移動し、そのガラスを腕で突き破る。
「なっ、この!」
ちょうどコンテナに乗り合わせていたモクバが、ディーヴァを突き飛ばす。
幸い地上までの高さはそうでもない以上、転落死の心配はない。
「パズルが……。」
上空のヘリを忌々し気に睨む。
「ディーヴァ!勝負は預けたぞ!」
そう言い残して、海馬もその場を飛び去った。
自身の相棒たる龍の姿を模した、白いジェット機に乗って。
「海馬……くくっ。」
パズルも取り逃し、海馬とのデュエルも闖入者の存在によって中断されてしまった。
しかし当のディーヴァは不敵に笑っていた。
その手に、黄金に輝くピースの欠片を握って。
「しかしメサイア教団……我らの波動を乱す、狂気の連中め。」
「ディーヴァ、我々もここを去ろう。兵士がいつ地上まで来るか分からん。」
「そうだな、マニ。」
そう言って、二人はその場を立ち去るのだった。
「エターナル・ベースへの帰還」
光の奔流がようやく収束し、マザー・バンガードの巨体は漆黒の宇宙に帰還した。
外殻の一部には焼け焦げた痕がまだ残っており、船そのものが戦いの証言者のように
沈黙を守っていた。内部を伝う微かな振動は、まるで長旅から戻った老兵の荒い呼吸を
思わせる。
格納庫の壁面には、戦闘中に刻まれたかすかな歪みが残る。
艦内を行き交う兵士たちの顔には安堵が浮かんでいたが、心の奥底には言い知れぬ不安が
張り付いていた。戻ってきたこと自体が奇跡であると同時に、この先を阻む
新たな脅威の前触れに思えたからだ。
「マザー・バンガード、降下開始! 速度安定、ガイドビーコンに合わせろ!」
アストナージ・メドッソがメカニック班を率い、声を張り上げる。
青白い光の筋が宙に浮かび、誘導する。巨大な船体はわずかに傾きながら、
ゆっくりと収容口へと吸い込まれていく。艦橋に響く計器の電子音が徐々に収まり、
やがて低いブザーが最後の合図を鳴らした。
「……戻ってきたな」
艦内の照明が落ち着きを取り戻したその瞬間、アルゴ・ガルスキーが分厚い腕を組み、
太首をぐるりと回す。 しかし、その声音に安らぎは乏しい。
まるで次の嵐を前にした水夫の呟きのように、重く沈んでいた。艦橋の窓から覗くのは、
暗黒に沈む宇宙と、そこにぽつねんと浮かぶ巨大要塞――エターナル・ベースである。
鋼鉄の砦が広がるその光景は、過ぎ去った歴史の記憶と、未来への可能性を抱き合わせた
言わば「時の墓標」であった。
無数のドックに整然と並ぶ機体群は、まるで歴史そのものを刻んだ碑文の列。
冷たい鋼鉄の要塞は、過ぎ去った戦争の残滓と未来への可能性を同時に抱えていた。
着艦完了のアナウンスが響き、空気がようやく緩む。だが緊張の糸は切れない。
此度の作戦報告が、この帰還を安堵に変えるか、それとも絶望の序章とするかは
定かではなかった。
三人――シャア、キンケドゥ、アルゴは言葉少なに廊下を進む。
靴底が硬い床に打ちつけられる音は、冷えた空気に乾いた拍子を刻んでいた。
沈黙は彼らの間に漂う緊張をさらに強め、互いの呼吸さえ耳に届くほどに鮮明だった。
やがて彼らの前にブリーフィングルームの扉が現れる。自動扉が音もなく開いた瞬間、
ひんやりとした空気と共に、白い外套の人影が目に入る。
そこに立つのはマリア・オーエンス。栗色の髪を後ろで束ね、淡い光に照らされた横顔には聖母のような穏やかさと、ベースの総合オペレーターとしての冷徹さが同居していた。
瞳は鋭く、しかし三人を見た途端、その奥に柔らかな光が差し込む。
「おかえりなさい」
彼女の声は静かに響き、戦士たちの緊張をわずかに解きほぐす。
「無事に帰還されたことに、まずは感謝を。……では、報告をお願いします」
シャアが一歩前に進む。仮面に隠された視線は鋭く、声は氷の刃のように平坦であった。
「異世界“偉大なる航路”にて穢れの兆候を確認。討伐に成功し、拡大は阻止した」
マリアは目を細め、唇を閉じたままわずかに頷く。白い外套の裾がわずかに揺れ、
彼女の吐息が緊張を帯びているのが伝わる。
「……やはり、穢れは拡がっているのですね」
マリアは深く息を吐き、指先で胸元を押さえた。キンケドゥが腕を組み、
険しい調子で言葉を継ぐ。
「だが問題はそれだけじゃない。あの世界で俺たちは“赤髪海賊団”と接触した。
そこの船長、シャンクスって男……あいつは俺たちが異世界から来た存在だと
直感で見抜いた」
マリアは端末を操作し、投影装置が赤髪の海賊を映し出す。光の粒子が集まり、
映像となったその姿は、豪放な笑みと同時に人を射抜く眼差しを併せ持っていた。
「データベース、照合確認。赤髪のシャンクス。ただの海賊ではありませんね。
あの世界の運命を左右する大人物ですよ……人心を掴み、未来をも変え得る力を感じます」
アルゴが低く唸り、巨腕を組み直す。
「それは直に会って、ひしひしと感じた。
実際に対峙してみれば分かる。あの眼は戦士の内側を覗き込むようだった。
加えて、生身でMSを渡り合える程の腕前……」
重苦しい空気の中で、キンケドゥがさらに言葉を放つ。
「それと、もう一つ重大なことがある。“麦わらのルフィ”、
それに“海賊狩りのゾロ”、さらに七武海・ドンキホーテ・ドフラミンゴの消息が
途絶えていたとか。あの世界じゃ結構な有名人と、注目のルーキーだったらしい」
「……なんですって?」
マリアの声色が一瞬だけ鋭さを増した。 キンケドゥの報告にシャアが静かに補足する。
「シャンクスの話によれば、彼らは忽然と姿を消した。死体も痕跡も無い。
ただ、消えた。そう表現するしかない」
キンケドゥが肩を竦め、苦々しく言った。
「俺たちがこうして世界を渡り歩くように、もしかしたら彼らも似たような状況に
陥ってるのかも知れない」
マリアは端末を閉じ、深く頷いた。
「観測データと一致します。以前から“可能性の戦士”の反応がその海域から
消えていたのです。やはり彼らが……」
「可能性の戦士……」
マリアの手が端末を握る。指先に力がこもり、静かな空気が震える。
アルゴの眉間に深い皺が刻まれる。握った拳が鳴り、低い声が零れる。
「狙われてるのは、未来を担う連中ってことか」
ブリーフィングルームの空気は一層重くなった。、沈黙が壁のように立ちはだかり、
呼吸までもが圧迫されるように感じられる。
マリアはしばし思案の色を浮かべ、やがて机上に指先を軽く添えた。
「……穢れは、ただ世界を侵食するだけではありません。
あれは“可能性”そのものを喰らう。選ばれし者の未来を奪い、時にその存在すら
歴史から消し去る。記録からも、人々の記憶からも」
淡々とした説明でありながら、その声には深い憂慮が滲んでいた。
シャアが静かに目を伏せる。仮面越しで表情を読み取ることはできない。
それでも、沈黙に込められた重さは容易に察せられた。
「世界の均衡を崩す力……。奴らが“穢れ”と呼ばれる所以か」
彼の言葉は冷たくも、確固たる真実を突きつけるものだった。
一方でキンケドゥは顎に手を当て、思索に沈む。
「未来を喰う怪物……。もし行方不明になった連中がそうした存在に囚われているなら、
今この瞬間も奴らの“可能性”が削られていることになる」
アルゴは壁の背に体を預け、苦々しい声を漏らす。
「悪辣極まりない話だ。人から未来を奪うなど……」
マリアは三人を順に見回し、言葉を選ぶように口を開いた。
「だからこそ、彼らは“可能性の戦士”と呼ばれるのです。世界が無数の道を選び取る中
その道を開き、導く者たち。もし彼らを失えば、ひとつの未来が丸ごと潰えることになる」
その説明に室内の温度がさらに下がったように感じられた。
やがて、シャアが低く呟いた。 マリアは深く頷き、決意を込めて宣言する。
「これより観測網を再編します。穢れの反応と共に、それがもたらす異常を追跡する。
必ず行方不明の戦士たちを取り戻しましょう」
三人は同時に頷く。彼らの心には既に次の戦いへの覚悟が刻まれていた。
〈第一次魔界大戦:最凶戦士の目覚め〉
超サイヤ人3となった悟空との激闘の末、満身創痍かに見えたターレス
だが、彼は隠し持っていた神精樹の実で復活を果たしてしまう。
死の淵から蘇る度に強くなるという特性も合わさり、彼の邪悪な気は、未だかつてない程にまで膨大なものへと変貌していく…
「こいつぁ良い…貴様の超サイヤ人3とやらとも、渡り合えそうだ。」
変わらず、不敵な笑みだ。
だが、先程より悍ましさが格段に違う。
「オイオイ、さっきまでの勢いはどうした?」
張り詰めた空気の中、ターレスは気軽そうに挑発を投げる。
だがピッコロも、ベジータも、アビィも、ザルディンも、悟空でさえ出方を伺うばかりだ。
「_来ないなら、こっちから行くぞ。」
「っ!」
その声に、悟空達が弾かれたように身構える…その刹那。
ターレスの姿が掻き消え、悟空の後ろへと現れる。
そして彼の邪悪な気だけが、元居た場所から軌跡を描き、悟空の横を通り過ぎ…
「_グ、アアァァァァ!!?」
「ご、悟空!?」
瞬間、悟空の体を無数の衝撃が突き抜ける。
全身に打撃痕の様な傷が浮かび上がり、鮮血が宙を舞う。
喀血し、溜まらず膝を付く悟空。横目で嗤うターレス。
一連の流れを見たピッコロの顔付きは、芳しくなかった。
「今、悟空は攻撃されたのか…!?」
ピッコロの目には、邪悪な気が悟空の周りを僅かばかり渦巻いた事しか映らなかった。
「奴の速さは化け物か_」
そうして悟空に向けていた視線をターレスへと視線を戻した、その時。
「余所見していて良いのか?」
「は_」
気付けば、ターレスはピッコロへ向けて拳を構えていた。
そう認識した瞬間。
「ノロマめ。」
「っぬぅ!?」
ピッコロは咄嗟に腕を交差させ構える
同時にその腕へと強大な衝撃が走り、後方へと一直線に吹き飛ぶ。
再び拳を打ち込まれたのだ。
地面に足を着けて減速し、電車道を描きながらどうにか止まった。
「ま、まぐれだ…今、奴の攻撃を止められたのは…!」
その一瞬の攻防で、ピッコロは彼我の戦力差を思い知った。
「ク、クク。俺が俺じゃねぇみてぇだ…!」
ターレスもまた、膨れ上がった己の力に驚きを隠せない。
その気は更に膨れ上がり、既に人という域を超えつつある。
人の領域を出た力を得るのか、ターレスが人で無くなるのか、まだそれは分からない。
「だが、まだだ。まだ足りない…もっとだ!クク、ハハハ!」
その上で、ターレスは尚も力を求める。
果てなき欲望はとめどなく溢れ、続いていく。
彼は、神にでもなろうというのか?
「こやつを放置は出来んな。」
そんな中でも、ザルディンは槍を構える。
ノーバディ故か、恐怖心は無い。
しかし力の差を推し量れていない訳でも無い。
ただ武人として己の成すべき使命を果たすのみと、彼は心得ていた。
「同感。こういう力の欲しがりさんは、迷惑掛けるのが典型だからね。」
アビィもまた、気楽な口調とは裏腹に険しい顔つきで構える。
先の悪霊事変で、悟空達の力量はある程度知っていた。
その上で、今の蹂躙劇である。
警戒するには十分過ぎた。
「酷い言い様だな。力を求める位、誰にでもある欲だろ。」
「_そうだね。けど、物事には限度があるの、さっ!」
神妙な顔をした刹那、アビィは駆ける。
真正面からの飛び蹴り…否。
「後ろか。」
「へぇ、気付くかいっ…!」
寸前で後ろに回り込んでのトマホークチョップ。
全身を回して勢いを付けたそれを、ターレスは半身を捻って躱す。
「ぬえぇい!」
そこに、ザルディンが槍を振り下ろす。
刃渡りの大きな斬撃だ。
「遅いな。」
が、しかしターレスはソレも最小限の動きで躱す。
隙を突いた筈の一撃を、まるで予知していたかの様に。
二人の額に、冷や汗が浮かぶ…その時だった。
「_オラを忘れちゃ困るな!」
「ほぉう、立ち直ったか。」
走る衝撃。
ターレスが拳を交えたのは、悟空だった。
超サイヤ人3の輝きは未だ絶えず、ターレスの力に食らい付いている。
「そぅら、喰らいな!」
「はあぁっ!!」
「てやぁ!!」
三人は、息を合わせてターレスを挟撃する。
アビィが速度で牽制し、ザルディンが無数の突きを放ち、悟空が四肢を振るう。
ここで必ず打ち倒す…そう言わんばかりに。
「クックック、ぬるい攻撃だ…!」
その気概を、ターレスは嗤う。
その場から一歩も動かず、重心を傾けるだけで其の全てを回避してみせる。
彼らの攻撃は、空を切るばかりだった。
「遊んでいるのか…!?」
「確かに面白くはあるな。」
嘗ての新惑星ベジータにおけるブロリーを思わせる戦いぶりに、悟空は焦りを募らせる。
即ち、その域に達しつつあるという事だ。
異様とも言える変貌ぶりに、悟空は無意識の内に恐怖を覚えた。
「だが、もう飽きた。」
と、冷徹な顔を突然に見せるターレス。
まるで虫を払うかのように、彼の左拳が悟空の顔面へと打ち込まれる。
「グアッ…!?」
「やはり、雑魚は嫌いだ…フンッ!」
挟撃が緩まった一瞬。
ターレスは腰を深く落とし、大振りの回し蹴りを放った。
今までよりも鋭いソレは、悟空の首を刈り取らんと迫り…血飛沫が、吹き上がる。
だが、上がったのは悟空の断末魔では無かった。
「っづうぅ!!?」
「小僧…!」
「ア、アビィ!?」
咄嗟に割り込んで入ったアビィの苦悶。
彼の両腕はへし折られ、どころか胸部にまでめり込んだ足が、あばらをも圧壊させていた。
トレンドカラーの蒼と銀は赤黒い血に染まり、砕けた骨がボロボロと零れ落ちる。
どう見ても致命傷だった。
「ゴボッ…」
「ふん、雑魚の癖にすばしっこさだけは一級品だな。」
「…流石に許せねぇな。」
「あぁ、ワシにもこの邪悪さは分かる。」
喀血し、倒れ伏すアビィ。
その様をターレスは鼻で笑った事に、悟空達は静かに憤慨した。
悪辣な笑みが、悟空にはどうにも気に食わなかった。
礼節の無さが、ザルディンの道義に障った。
「だったら何だ?」
「「『オメェ』『おぬし』を倒す。」」
「クハッ、やってみろ?」
そう言うと飛び上がり、無造作にエネルギー弾を数発撒くターレス。
斉射された殺意の塊は、倒れたアビィ諸共悟空達を葬らんと迫り来る。
「せりゃあぁ!!」
それ等全てに打ち込まれる、悟空の拳。
事も無げに打ち除けられたエネルギー弾は上空で爆散し、閃光と共に暴風を巻き起こす。
「野郎、見境無しか_」
「少しは出来るようだな?」
「っ!?」
その光を背後に、気付けば傍にいたターレス。
その事実に驚愕する悟空の鳩尾へ繰り出される、鋭いアッパー。
「ガァッ!!?」
深くめり込んだ拳は、悟空の肺を潰して酸素を無理やり噴出させる。
意識の外を付いた一撃に、悟空の超サイヤ人3が解けてしまった。
それを見て、ターレスは悪辣な笑みで告げる。
「ここからが、俺の復讐だ。」
本気なのは今からだ、と。
「せぇいっ!」
「があぁぁ!?」
空いている腕を引き絞り、突き刺した拳で悟空を引っ張ると同時に顔面へと叩き込む。
殴り飛ばされた衝撃で、鳩尾を千切りながら拳が外れ、血飛沫が舞う。
その血に塗れ、ターレスは嗤った。
「キン肉マン旋風(センセーション) の巻」
「げほっ……うわあああああああああーッ……」
超サイヤ人3の変身も霧散した悟空の体を鮮血が染め、
拳が赤黒く濡らす、ターレスのその笑みは嗜虐そのものだった。
「くっくっく……『俺が殺してやった貴様』も、そうやって惨めにのたうち回っていたぞ」
ターレスが勝利した世界線……地球は植え込まれた神精樹によって
赤茶けた砂漠の星と化し、悟空を含めたZ戦士の屍もその糧となった。
彼はそんな世界からクォーツァーによって召喚されたのだ。
「良い気分だぜ……超サイヤ人がどうした? んん?」
倒れた悟空の頭を踏みつけ、ぐりぐりと躙る。
「ぎゃっ……あああああああっ……ぎ、ぎ……!!」
「何に化けようが、変わろうが、神精樹の実を食べ続けたこの俺こそが最強……
クォーツァーとやらに誘われた時は気が乗らなかったが、今なら少しは感謝してやっても
良いかも、なァッ!!」
「ぐあああああああああッ……!!」
「そ、孫ッ……!! ぬああああああああッ!!」
悟空の悲痛な呻きに、居ても立ってもいられずにピッコロは立ち向かった。
それが例え敵う筈の敵であっても、彼はこれまで同志を、仲間を見捨てる事だけは
しなかった。自らの身を投げ出すことになろうとも。そんな誇り高き戦士であるが故に。
「カカロットは……俺のものだ! 貴様なんかが手を出すなァァァーーーーーッ!!」
ベジータが飛び出すのもほぼ同時だった。永遠の好敵手。
いつか自身が悟空に勝つために。ナンバー1になるために。それがベジータと言う男を
常に前へ、前へ。上へ、上へと突き進ませてきたが故に。
「ほああああああッ!! たたたたたたたたたァッ!!」
「てぇやああああああああーッ!!」
ピッコロとベジータ。反目しながらも、密かに互いの存在を認め合ってきた者同志。
悟空の窮地を救うと言う共通の目的のためにターレスに猛ラッシュを叩き込む。
「はははッ……止まって見えるぜ」
しかし、ターレスは腕組みをしてピッコロとベジータの攻撃を全て避わしていた。
敢えて全て受けて見せたって良い、と言った余裕綽々ぶりだ。
「くそったれぇぇぇぇぇぇえッ!!」
これまで血の滲むような修行の日々で手に入れた力。それが得体の知れない果物ひとつで
こうも簡単に覆される。そんなものを認めてたまるか。許してたまるか。
だが腕を振るう度。脚を上げる度。どうしようもなく分かってしまう。努力だけでは
どうやっても埋められない絶対的な壁が目の前に聳え立っている事を。
「お遊戯の時間はもう終わりでいいか?」
「ぐおッ」
「がはッ」
たった一撃の肘打ちと膝蹴りで、ピッコロとベジータの意識が混濁する。
アビィは既に戦闘不能。絶望が場を支配する。
「さて――」
ターレスがゆっくりと歩み寄る。勝者の余裕、狩人の足取り。その気は膨張を続け、
天地を揺らすかのよう。悟空の呼吸は浅く、今にも止まりそうだった。
だが――。
「風よ、守れィッ!!」
ターレスの行く手を旋風の障壁が阻む。
「む……!?」
ザルディンだ。風を司るハートレスの力。
「でぇぇえいやあああああああああああああッ!!」
六振りの槍を次々に投擲、追い風に乗って加速度を増し、或いは軌道を変えて
次々とターレスに襲い来る。
「邪魔だああああああああッ!!」
紫色のオーラが、ザルディンの槍を諸共に弾き飛ばした。
「何とッ……おわああああああッ……」
その余波はザルディンにまで伝わり、空中を2回、3回と舞いながらも
風の力でようやく急制動させる。
「おのれ……!!」
「さてと、待たせたな、カカロット……」
未だ起き上がれずにいる悟空の前に立つターレス。
「いかん、我らも援護に……」
「無駄だと言っているのが分からんかッ!!
ゾロゾロと徒党を組まねば何も出来ぬクズどもがあああああッ!!」
ターレスが大腕を振り上げると、ロビンマスクやウォーズマンらの前に
大規模な地割れが発生した。
「うおおおおおっ……」
「もういい。もうたくさんだ。カカロット、貴様をこの手で抹殺したら、
貴様の仲間も血祭りに上げ、その死体の山を墓の前に添えてやる。
そうすれば、あの世とやらに言っても寂しくはないだろう。心優しい俺からのせめてもの
贈り物だ……死ねええええええッ!!」
ついにトドメの一撃を加えんとするターレス……まさにその時であった。
「ふんぬぅァッ!!」
「何ィ……!?」
絶体絶命の悟空のピンチを救う、その男は……
「お、おめえ……!?」
稲妻のような声とともに、漆黒の空間を裂く巨影が降り立つ。
鍛え抜かれた肉体、額に煌めく王家のマーク。赤いマントを翻し、全身から熱気を放つ
その姿は――。
「キ、キン肉マン!?」
古傷の治療で戦線を退いていたはずのキン肉マンの復活。悟空が目を見開く。
ピッコロもザルディンも驚愕に声を漏らす。
「理由なんざ後回しだ! 仲間がピンチと聞いたら、駆けつけるのが
正義超人ってもんだろうが!!」
キン肉マンの咆哮が大地を震わせる。その瞳は真っ直ぐターレスに注がれていた。
「……フン、また雑魚が増えたか。このブタ面め」
「だーれがブタメンじゃいッ!! 私は生粋の牛丼派だァッ!!」
ターレスは鼻で笑う。だが、その直後――。
「こ、こいつ……!!」
ターレスの拳を受け止めたキン肉マンの手が振り解けない。
「は、離せ、貴様……!!」
「むううううううッ……!! どぉぉうりゃあああああああッ!!」
ターレスを引き寄せ、交差法気味の強烈なラリアットを叩き込む。
意識が一瞬揺らぎ、砂塵が舞い上がった。
「なっ……!?」
悟空たちは目を疑った。あのターレスが、後退した――!
「おおおおおッ!! これが、火事場のォォォォ!! クソ力ァァァァァァァァ!!」
キン肉マンの全身が紅蓮の炎のように輝く。
愛する友の眼差しが傷つき、倒れた時に呼び覚まされる極限の力を。
押し返されるターレス。頬を伝う汗。
「クソ力……? この俺を、押し戻すだと……! どんなインチキだ、こいつ……!?」
ターレスの眼光が鋭く光る。神精樹の実によって更に進化しつつある己が、
たかがブタ面超人に一歩退いた。理解不能――だが、確かに事実。
「覚えておけ、レタスとやら! お前のようにただ力を欲しがるだけの奴には、
私は負けんッ!」
「ターレスだッ!! ふざけるのはその顔だけにしろォッ!!」
キン肉マンの叫びと共に、もう一撃。拳と拳が激突し、衝撃波が四方八方へと走った。
その衝撃に悟空の意識が僅かに戻り、ベジータの額に汗が伝う。
ピッコロもザルディンも体勢を整え直す。
「火事場のクソ力……奴のパワーは底無しか……!?」
「あれがキン肉マンと言う男さ。自分のためじゃない、誰かのためにこそ、そのパワーを
無限に発揮する。不思議な奴だよ、まったく」
悟空はまだ立ち上がれない。だがキン肉マンが時間を稼ぐなら、
次の策を練る猶予がある。ブロッケンJrたちがここぞとばかりに悟空たちを運び出す。
「女神と運命の子と決戦の艦」
特異点
「何だこれは。」
特異点に、ルクソードの力を借りてやってきた若きモリアーティ。
カルデアのホームズがいたせいか、その腕に抱えた数冊の資料をどこか嫌そうにテーブルに投げつける。
「リ・ユニオン・スクエアのある場所で発見された『ある物』の製造方法だ。『女神』の正体、そのヒントになりえるだろう。」
一通りの話を誰かから聞いたのであろうモリアーティは、何かに使えるかとそう告げる。
「『女神計画』だと?」
その内容を簡潔に書くならば、こうだ。
・まず、健康なヒト受精卵の遺伝子を操作し「あらゆる技術・技能・能力に優れるように」設定する。
・それを複数生成し、培養槽内で赤子まで育成。
・こうして生まれた『候補生』を地下ジャバウォック島で『訓練』、そのうち全ての才能に優れたものを『女神』として運用する。
時には地上にも出し、人間を教導することもある。
(脱落者は即刻処分!ひどいッ!)
・女神として運用する際はその機能に問題があってはいけないので、当代『女神』の記憶を魔術的に消去・改竄。完全に『機能』だけの存在とする。
「そして完成された『女神』が人間を支配、彼女によって生み出された法によって管理される、と。」
一通りの内容を見たホームズは、苦虫をかみつぶしたような表情を隠しきれずにいた。
何しろ、デザイナーベイビーという一点において同じ人物を知っているから。
「……生命倫理的にもむごい話だな、マシュ君にはとても聞かせられない。」
「だがそれ以外の問題もある。」
モリアーティは、溜息を吐きながら続けた。
「本来ならばその寿命は『かなり短い』のだよ、持って10年が限度とされているし実際その記録もある。そんな奴の『治世』が長続きすると思うかね?」
「永遠に続くとはとても思えない。あらゆる意味で善悪の判断も怪しげな10歳の子供に、大国の国王をさせるようなものか。」
「しかも『お前は完璧だから』という理由で補佐官や親政の類もいない。結果は目も当てられないものになるだろうネ。」
沈黙する。
頭の中で、その結果を演算する。
子供とは総じて暗君、とは限らずもその大半が酸鼻な腐敗を為しているとはよく言ったもの。
だが今回はその根源の一つたる親政の類もいない。
きっと無邪気で身勝手――――以上の地獄が待っているだろう。
「ところで、この資料をどこで手に入れた?」
「ジャバウォック島という場所、ある少女の生まれた場所だ。」
「その少女も、同じように?」
モリアーティは微笑みながら答えた。
「少なくとも『今』の彼女は『まとも』だ、その辺は幸運というべきか。」
◇
「舟を強化するにしても作るにしても、あそこに行くなら少なくとも4つ必要なものがあるよ。」
「聞かせてもらおうか。」
リビルド・ベースの別室では、ダ・ヴィンチちゃんが虚数姫カグヤから「艦」の製造ないし強化に必要なものを聞いていた。
必要なものは4つ。
「まずは『甲板』、それもただ『堅い』だけじゃない。虚数空間の粒子にも蝕まれない絶対の鋼鉄で出来た甲板がなきゃ途中で沈没する。」
「ふむふむ。」
「二つ目は『炉心』、無限にも等しいエネルギーを生み出す炉心で、これがないと存在しなかった世界までは船ではいけない。」
「確かに、未知の空間を航行する以上は必要になるか。」
「三つめは『砲塔』、教団兵士は今虚数空間から地上を攻撃する為の艦隊を用意している。あいつらは虚数空間に入ってきたあなた達をすぐに攻撃するでしょうね。だからこちら側も防衛のための機能が必要となる。」
「やっぱりそれも必要かぁ。」
「最後に必要なのは『羅針盤』、存在しなかった世界へ舟を導くためにどうしてもこれがなきゃダメ。」
甲板、炉心、砲塔、羅針盤。
どれも強力な艦を作るには必要不可欠なものではあるが。
「そして、あたしは『羅針盤』については一つ心当たりがある。」
〈第一次魔界大戦:新たなる可能性〉
「お主に!これ以上、好き勝手はさせんっ!!」
誰が予想し得ただろうか。
「まさか、火事場の力なんざに圧されるというのか…!?」
超サイヤ人3すらも凌駕した力が、キン肉マンに圧されている等と。
ターレスは、目に見えて驚愕していた。
(所詮は極限状態が齎す筋肉のリミッター解除…だが、このブタ面が振るうコレは、違う…!)
明らかに彼個人を超えた力が、どこからともなく湧いて出ている。
そうとしか説明出来ない膂力が、ターレスを立ったまま海老反りにさせていく
「せぇい!」
「ぬぉ_!?」
重心が乱れた所を、キン肉マンが片足を引っ掛けて横転させる。
ターレスは受け身を取れずに、頭を打つ。
「ウ、ウゥ…」
「今じゃあぁ!!」
ターレスを素早く引っ張り立たせて組み付き、後方へ跳躍。
空中で弧を描き、真っ逆さまに落下し…
「フライング・スープレックスーーーッ!!」
「ガァ!?」
ターレスを脳天から、大地へと叩き付ける!
その衝撃が地を砕き、クレーターを作り上げた!
「がっは…!」
頭部から体を突き抜ける衝撃に、肺の空気が漏れ出るターレス。
「クソ、こんな事が…!」
だが、ターレスもやられてばかりでは無い。
叩き付けられた衝撃を利用し、両腕で跳躍。
拘束から抜け出すと一瞬にして距離を取った。
彼の額には脂汗が浮かんでいた。
(俺が、押し負けただと?)
今の力に、絶対の自信を持っていた。
そんな力を挫かれた彼は、僅かながらに恐怖を覚える。
「…今の俺が、そんなモノに負けるかぁ!!」
しかし、それ以上に彼の怒りに火が点いた。
彼は吠えて、キン肉マンへと迫る。
「テリャアァッ!!」
「ぬおぉぉっ!!?」
怒りのまま繰り出される右ストレートが、キン肉マンの左頬を打ち抜く。
激情を乗せた一撃に吹っ飛ばされ、二転三転と後方へ転がるキン肉マン。
まともに入った…ターレスは、確かにその手応えを感じて。
「…ふん、所詮はまぐれの産物_」
「_まだ、まだじゃいっ!」
「なっ…!」
しかしキン肉マンは立ち上がる。
脳天を揺らす一撃が入った筈の彼は、二つの足で確かに地を踏みしめている。
そして口角から流れる血を拭い、ダメージを感じない眼力をターレスに向けた。
「悟空が、友が血を流してでも戦ったのだ!ここで私が倒れる訳には、いかんッ!」
「何…!?」
両手を広げて構え、組み付きに掛かるキン肉マン。
その気迫に気圧され、ターレスは意識の隙を突いて組み付かれた。
「正義超人の…」
「う、おぉぉぉ!!?」
「底力じゃあぁぁぁいっ!!!『48の殺人技』の一つッ!」
そのまま駆け抜け、ターレスを振り回す。
「『風林火山』---ッ!!!」
『奇跡の逆転ファイター』の異名が、今発揮される_!
◇
アビダイン 病室
「く、くそったれ…!」
「これ、動くでない。」
半ば薄れている意識の中で、微かに藻掻くベジータ。
そんな彼を制するのは、ドクターボンベだ。
ロビン達によって運び込まれた悟空達は、ボンベの治療を受けていた。
「ベジータ達、どうなっちまうんだ…?」
「こやつ等は傷こそ多いが、実態は軽い脳震盪で意識が薄れているだけじゃ。それより…」
「ぁ……」
「悟空と言ったか、こやつが最も深刻だった。」
ウーロンにそう告げるボンベの目付きは、険しかった。
超サイヤ人3だった為に、激しく気を消費した上で、出血過多の負傷を負った事が容態を深刻にさせた。
「ここに運ばれる前にお主が輸血をしていなければ、或いは死んでいたかもしれん。」
「マジかよ、あっぶねぇ~…」
「うむ…人生長しと言えど、死後にブタの妖怪が輸血を行う日を拝むとは思わなんだ。」
「もうツッコまねぇからな。ったく…」
軽口を叩くウーロンだが、その表情は暗い。
「一通りの処置は真っ先に済ませた。仙豆とやらも、食わせられるだろう。」
「んじゃ行ってくるぜ。死ぬなよ、悟空。」
ボンベの言葉を聞き、足早に立ち去るウーロン。
彼とて、悟空とは古くからの仲だ。
死の際にいると言われて、心中穏やかでいれる程、無情では無い。
彼は足早に、部屋を出た。
(得体の知れん物を病人に食わす等、本来なら許さんが…)
そんなウーロンを無言で見送るボンベ。
医者殺しと言える奇跡の豆という産物を、ボンベは初め気に食わなかったが…
(古傷を抉られたキン肉マンを、ああも復活させられてはな。)
重症だったキン肉マンは今、ターレスと互角に張り合えている。
その事実を思ってか、敢えて何も言わなかった。
「…おーい。僕の部屋から秘蔵のワイン持ってきて欲しいんだけど。」
「えぇい、病人が…いや子どもが酒を飲むでない!」
「えー…真面目だなぁ。」
「当たり前の倫理じゃ!」
一方で喧しい方…アビィに対しては容赦無く口出しした。
腕こそまだ折れたままだが、いつも通り喋っている。
「それにお主、治っているのは表面だけであろう。」
「…まーったく、最近は本心見抜くのがトレンドなのかな_ゴホッ。」
だが真の容態を看過されると同時、アビィは吐血する。
ボンベが咄嗟に袋を差し出さなければ、白いシーツは赤黒く染まっていただろう。
「傷病は全てお見通しじゃ、医者じゃからな。」
ボンベの見立て通り、治っているのは表皮だけ。
折れた骨やソレが突き刺さった内臓は、グチャグチャのままだった。
血の塊が入った袋を二重梱包し、消毒するボンベ。
「_そして、そこのこいしとやら。」
「え、こいしちゃん?」
「……」
そんな彼が徐に呟くと同時、その場の全員にこいしの存在が認識される。
悟空の傍に、いつの間にかこいしが立っていた。
「悟空に何の用じゃ?」
「今、この人の自我は薄れている。」
「…?」
無感情な声が紡いだ言葉は、この場にいる全員の疑問を駆り立てる。
「固い自我で、無意識さえ支配下に置いていた。けど、今なら_」
そう言って続きを喋ろうとした、その時。
_ドオォーーーォオン!!!
「っ伏せろ!!」
突如、病室の壁を爆炎が突き破り、天井を焦がす。
同時に部屋が…アビダインそのものが傾いていく。
全員の安否が危ぶまれる緊急事態の中、電子音声が響く。
『申し訳ありません。集団相手の為に迎撃間に合わず、被弾しました。』
「察するに重力制御が死んだと、これ以上は帰りも危ういね…」
「大丈夫。」
J.A.S.T.I.S.と言葉を交わすアビィ。
彼の苦悩を他所に、こいしは悟空の胸に手を置く。
「こいしちゃん、大丈夫って…?」
「この人が、悟空が全員倒すから。」
突飛な発言に、誰もが意図を読めぬ中。
こいしは目を瞑り、腕先にそっと力を籠める。
そして…
「_無意識の開放。」
言葉を紡いだ、刹那。
悟空から溢れ出す眩い光が、場を包み込む。
視界が白く染まる中で、バサリ、と布が落ちる音が響いた。
「…バカな。」
最初に口を開いたのは、ボンベだった。
「こやつは、まだ意識が無い筈だ。」
「うん、今も意識は無い。だから_」
「彼は今、無意識だけで動いてる。」
直後、目を閉じたままの悟空は、蒼白い気を纏って船外へと飛び出した。