タワーマンション
獲物はすぐに見つかった。
「あの人は女子アナの清水愛理じゃないか。なんてラッキーな日だ」
俺はすぐ女子アナの清水の後をつけることにする。このまま家に帰るのか。それとも仕事に行くのか調べてみる。
服の上からでもわかるいいボディラインだ。
清水愛理はタワマンに住んでいるみたいだ。
自動ドアが閉まる前にすぐ中に飛び込んで後をつける。エレベーターのの階数をみると、どうやら、5階のフロアで降りたみたいだ。
一人で住んでいるのか?それとも誰かと住んでいるのか?もう少し調べることにする。5階のフロアにある部屋を片っ端に見て回ったが、清水愛理の名前が見当たらない。
有名人なので表札に名前は出さないでいるのか。それにしても生活感があまりに無さすぎるのは不自然だ。
どの部屋の扉も錆びていて、かなり前から人が住んでいないように見える。
まるで廃墟のようで、高級タワマンとはうってかわってホームレスの住処になっているように感じられた。
誰も住んでいないだけならまだしも、錆びた扉や汚れた壁を直しもせずに放置するだろうか?いや、そんなはずはない。
そこで俺はもう一つの可能性を思いついた。
時空移動だ。何らかの時空間異常に飲まれた俺は、はるか未来のタワマンに到達してしまったのだ。
「なんて、な。」
そう呟いて、錆びた扉から目を離し、しばしたたずむ。いや、まさかそんな。
いや、俺は信じてない。俺は根っからの現実主義者だ。そんな非ィ科学的なことが俺の身に起きてたまるものか。
まったくビビっているわけではないが、俺はひとまず、他の階を確認するためエレベーターに戻ることにする。外側から見たエレベータもまた錆びだらけで、パネルの7セグメント表記の階数表示ランプも光が灯っていない。
「……。」
ビビッてない俺は一時撤退を視野に入れ、▽ボタンを押し込んだ。スコっという気の抜けた感触の後、ボタンははめ込み穴の中に入り込み、戻らなくなる。
「…………。」
オーライ。オーライ。大丈夫だ。俺はビビッてない。
俺はエレベーターの周りの壁を、じっくりと、爪先で叩いてみた。
コン、コン、コン……ペコン。
一か所だけ、明らかに音が軽い部分があった。まるで、壁の後ろに空間があるかのように。
俺がいたこの5階のフロア全体が、実は本物の5階を隠すためのダミー、つまり偽装フロアだったとしたら?
錆びた扉、生活感のなさ、それらのすべてが、人が住んでいないように見せかけるための演出だとしたら?
いくらなんでも大掛かりすぎて突拍子もないのだが、タイムスリップ説よりかは説得力がある。