奇襲

4 いいね
3000文字以下 30人リレー
1週間前 210回閲覧
  • SF
  • 性的描写有り
  • ホラー
1人目

「ん?おい、お前ら!何をしている!」
「…あ?」
「なんだテメェ!」
操縦室に足を踏み入れた瞬間、カレドは三人の男と鉢合わせた。
二人は操縦席を占拠し、もう一人は隅の椅子に腰を下ろしながら酒をあおっている。
どいつもこいつも目つきが悪く、粗暴さを隠そうともしない。
「見てわかんねぇか?仕事だよ、仕事!」
酒を持っていた男がよろりと立ち上がり、手元の瓶を床に落とした。
ガシャン、と派手に割れる。
「うおッ!?クソッ……てめぇ!弁償しろ!」
「いや、俺のせいじゃないだろ…」
「黙れ!俺様の酒を台無しにしやがって!」
どう見ても、この船の乗組員ではない。
カレドは内心で大きく息を吐いた。
――やれやれ。眠っている間に宇宙海賊に襲撃されたらしい。

2人目

酒瓶を割った男は、まだ喚き散らしている。「てめぇ、聞いてんのか!俺様の酒だぞ!」
カレドは冷静さを保つことに努め、一歩も引かずに海賊たちを見据えた。
「俺は弁償などしない。それよりも、お前たちに聞きたいことがある」

3人目

酒瓶を割った男は、耳障りな甲高い声で笑った。
「あぁ?聞きたいことだと?この状況で随分と図太いじゃねぇか!いいぜ、何が聞きてぇ? ただし、つまらねぇことだったら、その場で頭ぶち抜くぞ」
酒瓶を割った男は、瓶の破片を足で蹴散らしながら、カレドの周りをゆっくりと回り始めた。
カレドは静かに、落ち着いた声で尋ねた。
「この船には、お前たちが欲しがるような金目のものは積んでいない。運んでいるのは、ただの極秘研究資材、それも、お前たちが手を出せば、所属する組織ごと消される類の厄介な代物だ」
カレドはそこで言葉を区切った。海賊たちの動きが、ピタリと止まる。
「お前たちは、その情報を知らずに船を乗っ取ったのか?それとも、この研究の手伝いをしてくれるつもりか?」
酒瓶の男が警戒心に満ちた目でカレドを睨む。

4人目

酒瓶の男ー仮にヴィルドと呼ぼうーはカレドに聞き返した。
「その研究ってのは何だ?嘘だったら…」

いや、脅迫の方が近かったかも知れない。
とにかく、カレドは会話が途切れないように慌てて繋げた。
「そこまで詳しい事は言えない。ーただ、証拠はある。歩いて取りに行く訳にはいかないから取って欲しいんだが、そこのーそうそう、その棚の三段目にある赤いファイルだ」
「あーっと…『N23ヶ原に関する研究』?何だそりゃ」
カレドは、黙読すれば良かったのに、と思ったが、口出しまではできなかった。
「『N23ヶ原とは、非常に不安定な防空壕の連続です。しかし、防空壕には必ず『石本の間』があり、その部屋には番号付けがされています。研究結果によるとー』
ん?待てよ?これって、噂の『海賊騙し』じゃないか?別名『海賊ホイホイ』。これがどれだけ上手く出来ていても、やっぱり、それがホントとは限らないじゃあねぇか」
カレドは多少なりとも驚いた。ヴィルドがそこまでの頭脳を持ち合わせているとは思っていなかったからだ。カレドが何かを言おうとする間もなく、ヴィルドは仲間に話しかけた。
「おい見ろよ。こいつ、海賊ホイホイ渡して来やがった」
がー、どうやら、二人の仲間は興味がないのか、雑にあしらいながら辺りを見渡した。カレドは何かを探している、と思った。そして、それはヴィルドもそうらしくー。

5人目

ヴィルドは赤いファイルから顔を上げ、嫌な笑みを浮かべた。
「海賊ホイホイねぇ。ま、こういう手合いの船にはよく積んである代物だ。運送屋もなかなか図太い真似をする」
その目はカレドを値踏みしている。
ヴィルドは乱暴にファイルを開き、乱雑に綴られた紙面を視界に収めた。ファイルには、非異常性耐性の無い人間がその内容を視認すると、自動的に通称『N23ヶ原』内部の座標へと転送されるという異常性が仕込まれている。
「『研究結果によると――』」
ヴィルドの読みかけの言葉が、パチッという軽い電気的な音と共に途切れた。
彼の身体はまるで粒子が霧散するかのように、一瞬でその場から完全に消失した。
ヴィルドはこれが海賊ホイホイだとわかっていながら読み上げて、消えた。好奇心には勝てなかったのか、自分だけは大丈夫だと根拠のない自信があったのか…とにかく愚かな事をした。