プライベート CROSS HEROES reUNION 第2部 Episode:20
「Prologue」
【赤髪と赤い彗星編】
青い空と蒼い海が広がる大海賊時代の世界。
その静寂を破り、突如として現れた未知の怪物が赤髪海賊団の船を襲う。
船長シャンクスは仲間を率いて応戦するが、常識を超えたその怪物の力に
苦戦を強いられる。
その時――空を裂いて現れたのは、異世界から飛来した巨大戦艦マザー・バンガード。
そこから出撃する三機のモビルスーツ――赤い彗星シャア・アズナブルのザクII、
宇宙海賊キンケドゥ・ナウのクロスボーン・ガンダムX1改、
そしてモビルファイター、アルゴ・ガルスキーのボルトガンダム。
異なる宇宙を渡り歩いた三人の戦士たちが、時空を越えてこの世界に現れたのだ。
激戦の末、シャアたちの援護を受けたシャンクスが覇王色の覇気を解放。
その圧倒的な闘気が怪物を粉砕し、穢れの兆候を打ち払う。
戦いの後、二人の“赤”――シャンクスとシャアは杯を交わし、
互いの世界を超えて語り合う。
その中で、シャンクスは“麦わらのルフィ”や“ゾロ”、“ドフラミンゴ”ら
有力者たちの消息不明を語る。
シャアはそれが自らの任務――“世界を侵食する穢れ”の調査と
関係していることを示唆した。
「穢れは、世界を喰らう。可能性を奪い、未来を消す――」
帰還したマザー・バンガードは、時空の狭間に漂う要塞エターナル・ベースへと降下。
そこは、あらゆる時代と世界のガンダムパイロットが集う“時の砦”。
出迎えたのは、穏やかさと冷徹さを併せ持つオペレーター、マリア・オーエンス。
彼女の指揮のもと、三人は偉大なる航路での戦闘報告を行う。
討伐した怪物こそ、“穢れ”の端緒。
それは世界そのものを蝕み、“可能性の戦士”たち――ルフィたちのように
未来を担う者を喰らい、その存在すら歴史から消し去る存在だった。
赤髪の海賊と赤い彗星、二人の邂逅は偶然ではなかった。
それは、異なる世界の英雄たちを結びつける“可能性の連鎖”の始まりだった。
マリアは静かに告げる。
「穢れを追跡します。そして――行方不明の戦士たちを必ず取り戻します」
シャア、キンケドゥ、アルゴは黙して頷く。
再び時空の闇へと挑むために。
【獣を超え、人を超え、出でよ神の戦士・断空我】
CROSS HEROESが誕生する以前――地底帝国のDr.ヘル、宇宙の帝王フリーザ、
歴史を歪めるタイムジャッカーなど、無数の悪がリ・ユニオン・スクエアを狙っていた。
だが、地球にはまだ知られざる切り札が存在した。それが“獣戦機隊”である。
彼らが駆る獣戦機は、生物の原初の力「野性」を増幅し、
理性の枷を外すことで真の力を解放する兵器。イーグルファイター、ランドクーガー、
ランドライガー、ビッグモス――四機が合体した時、獣を超え人を超えた神の戦士、
超獣機神ダンクーガが誕生する。
だが、彼らの教官であったシャピロ・キーツは、地球の限界を悟り、
宇宙の支配者ムゲ・ゾルバドス帝国に寝返った。裏切り、恋人の沙羅との決別、
そして地球への叛逆。若きパイロットたちは怒りを燃やし、己の野性を解き放ち、
ついにダンクーガへの合体を果たす。
幾多の戦いの果てに、ムゲ帝国は劣勢に追い込まれるが、宿命の敵・シャピロが
巨大兵器デザイアを操り再び立ちはだかる。
そして、もう一人の戦士――黒き翼のパイロット、アラン・イゴール。
父ロス・イゴールの遺志を継ぎ、ブラックウィングを操る彼は、
封じられた“ファイナル合体”の鍵を握っていた。
父の「人類の未来を託す翼」という願いを胸に、アランはダンクーガと一体化し、
ファイナルダンクーガが誕生する。
「獣を超え、人を超え、神をも超える――!」
激戦の果て、シャピロのデザイアは断空剣とファイナル断空砲により撃破される。
だが、全エネルギーを放ったブラックウィングは崩壊し、アランは己の命と引き換えに
仲間たちを救う。
その犠牲の直後、宇宙を覆うような暗黒の影――帝王ムゲが姿を現す。
燃える宇宙を前に、忍たちは互いに目を合わせ、頷いた。
「もう戻れねえかもしれねえ。それでも行くぞ。地球の未来のために」
獣の魂を宿す戦士たちが、最後の戦場へと飛び立つ。
――その雄叫びは、神すらも貫く「断空我」の咆哮となった。
【ユートピア・アイランド:断章】原文:ゼビウスさん
全てにおいて勝利したと思われていた、楽園島の一件の裏にて。
己のトラウマを破ったウルフマンや、奇跡を成した『友情』に、
改めて感嘆するネプチューンマン。
だが直後、彼は島中のマグネットパワーを搔き集め『鍵』を作ると、海中へと飛び込む。
突然の事態に戸惑いながらも、彼を追いかけた時、ウルフマンは海底に
無数のバミューダクリスタルを見た。
楽園島の一件を起こさせた、天然の火薬庫。楽園島の再来さえ有りうる…
そんな懸念さえ浮かぶ光景を前に、ネプチューンマンは結晶から全てのマグネットパワーを吸い取る行動に出る。
人体への負荷が掛かるレベルの膨大な量を溜め込み、パワーの出入り口である
『アポロンウィンドウ』にパワーを送り返し、二度と使われぬように『鍵』を以てロック。
そして、やはりというべきか直後に反動で全身がズタボロになる。
そんな彼を救出しようとするウルフマンだったが、そこに待ったを掛けた者がいた。
完璧・無量大数軍の一人、『完鎖』チェインズマンである。
「_この私『完鎖』チェインズマンが、この結末を手繰らせて貰った。」
ネプチューンマンが楽園島に来たのは、チェインズマンの差し金だった。
友を操り、あまつさえ重篤な容態に陥れた彼へ、怒りを滲ませるウルフマン。
だがネプチューンマンは、この危険な仕事を受けたのは全て『自分の意志』だと告げた。
「_私の言葉と行動に、『偽り』は無い…!」
「私は彼に『敬意』を示している。」
意識を失った彼にそう同意し連れ去るチェインズマン。
彼等の後ろ姿に後悔を募らせるウルフマンだったが、ネプチューンマンの言葉を思い出し、決意を表明する。
「_テメェ等の企み諸共、蹴りを付けてやるからなッ!」
「良い気概だ。その日が来るのを待っているぞ、正義超人。」
かくして、ここに一つの因縁が生まれた。
正義超人と完璧超人、両者が再びぶつかる日は、そう遠くない。
【虚数と影の邂逅】原文:ゼビウスさん
ミケーネ神による特異点侵攻。
その幕引きの引き金となった、虚数姫カグヤとシャドウ・アビィが邂逅した。
影は語る、理想の世界を。
姫は忠告する、理想が秘める堕落の危険性を。二人の超常は、今はまだぶつからない…
【暗黒魔界編:新たなる可能性】原文:ゼビウスさん
怒涛の快進撃を見せるピッコロ。
彼の宿した義憤、心が生み出す『可能性』という力は、
今のスラッグを相手取った上で完全な優勢を誇っていた。
そのまま激烈光弾にてトドメを刺す_直前、ターレスが阻止をした。
「_今死なれちゃ困るんでな。」
奇妙な文言を呟きながら、スラッグを一旦は瀕死に追い込んだ激烈光弾を
片手間で掻き消す。
そんな彼と戦っていた筈のベジータは、戦うのがやっとな程に傷付けられていた。
それ程までにターレスを高めた力の源は、奇しくも今まで悟空とベジータが示してきた
『可能性』だった。
「サイヤ人は、死の淵から蘇る度に強くなる…」
対抗して『超サイヤ人3』へと変身する悟空。
時空をも破る3の力は、一旦はターレスを追い込むも、残った神精樹の実によって
復活され、先の特性も相まって寧ろパワーアップの糧となってしまった。
目にも止まらぬ暴威を奮うターレスを前に、遂に悟空達が完全に敗れ去る。
失意と絶望が場を支配する…そんな中、立ち上がったのはキン肉マンだった。
火事場のクソ力を発揮した彼は、なんとターレスに喰らいついて見せた。
柔よく剛を制す、とはこの事か。
そして彼は師から受け継いだ『風林火山』を発揮する_!
一方で、倒れた悟空達はロビン達によってアビダインに運ばれていた。
各々が治療を受ける中、悟空は古明地こいしによる『無意識の開放』を受けた。
自我の制限から解き放たれた悟空は、意識も無いままに謎の青白い気を纏って蘇る。
彼もまた、新たなる『可能性』を指し示して飛び立った。
『可能性』は正邪分け隔てなく力を与え、戦いを激化させていく…
【『存在しなかった』陥穽編】原文:霧雨さん
魅上は、激昂していた。
度重なるCROSS HEROESの抹殺の失敗に、ついには大司教にすら
怪訝と憎悪の目を向ける始末。
誰も彼もがそんな彼の暴走に不信感を抱き始めていた時―――思わぬ事態が。
彼は吐血した。
無理もない、脱獄の時から己の生涯を捧げ絶望したキラに、世界に滅びという別れを告げる為に全能力を捧げて来た。
その果てに彼が『女神』に託そうとしている、彼の真意とは―――。
【エジプト地下遺跡の決闘】原文:霧雨さん
一方、エジプトの地下遺跡でも大きく事が動き始めていた。
海馬と藍神=ディーヴァの「次元領域デュエル」が行われていた。
大型ドラゴンを並べ、一気呵成に畳みかける海馬であったが、
次元領域デュエルの特性を知り尽くしているディーヴァに翻弄され、
絶体絶命の窮地に追い込まれてしまう。
次の一撃で死が決定する窮地に、彼は―――神を呼んだ。
青黒き、王の守護神を―――。
やがて全てを粉砕し、再びの逆転にディーヴァを追い詰めるが、
そこにメサイア教団の兵士軍団と千年パズル回収という二つの危機が迫る。
かくして海馬たちは目的を果たし、ディーヴァに再選の約束を取り付けて立ち去る。
残されたディーヴァもまた、盟友の男とともに再びどこかへと消えていった。
その顔に、不敵な笑みを残して。
【特異点、そして第二次エターナルコア編】
――特異点メメントス深層を攻略した調査隊(ペルフェクタリア、日向月美、
門矢士=ディケイド、イリヤスフィール、太公望、沖田総司・オルタ、煉獄、
宇津見エリセ、モルガナ、スカルら)は、
大ショッカーと月美の闇・日向月光を退けて帰還する。殿を務めた結城丈二は
影の奔流を一身に受けつつ、謎の品を「門矢士に渡せ」とペルに託し、闇へ消えた。
地上では同時期、ミケーネ残党・ジオン族・竜王軍の連合がリビルド・ベースを急襲。CROSS HEROESとカルデアが死傷者ゼロで凌ぎ、虚数姫カグヤとシャドウアビィの
圧倒的介入が敵を退けるが、連合は再起を図る。
復興の最中、甲児や鉄也はかつての獣戦機隊を想い、イリヤは美遊・クロと再会を喜ぶ。そこへ「黄金の騎士」シャアが瀕死で現れ、敵の狙いが世界の心臓たる
エタニティ・コアにあると警告する。
一方、遺跡調査で判明した壁画は、異世界融合が終わりなき戦を呼ぶ
「ラグナロク」の真実を語っていた。過去から現在へ、英雄と悪が一本の叙事詩で繋がり、その再来が進行中だと。さらにカグヤは、メサイア教団の本拠が虚数空間最奥にあり、
到達には“次元を超える舟”が要ること、そして教団が「救済」の名で
世界終焉級の兵器=女神の覚醒を企て、各地の蛮行はそのための資源集積であったと
明かす。ダ・ヴィンチは虚数潜航船の建造を決意し、仲間たちはエタニティ・コア防衛と
女神計画の阻止を誓う。
その裏で、復活したシャピロ・キーツがメサイア教団に姿を現し、
ムゲ・ゾルバドスはショッカー大首領、マモー、ジークジオンらと共に
渾沌結社グランドクロスと連携。
エタニティ・コアを奪い、次元融合を加速させる策を練る。
互いに利用し合いながらも覇を競う悪の連合に対し、英雄たちは「虚数の海」への
遠征準備を急ぐ。ラグナロクの再来が迫る中、戦いは決戦の序章へと踏み出していく。
【神と神・序章編】
時の巣・トキトキ都で、破壊神ビルスは混乱する多世界の中心・地球を見下ろしていた。人間たちの罪と干渉の果てに秩序が崩れ、「いっそ星ごと消すしかない」と宣告する。
止めようとするトランクスの訴えも届かず、観測者ゼルレッチもビルスに同意。
未来の王・オーマジオウは沈黙のまま、若き日の自分――常磐ソウゴの選択を見守っていた。
ビルスは、虚数空間でCROSS HEROESと行動する虚数姫カグヤの存在を感知し、
地球への直接介入を決意する。だが、トランクスは一言だけ告げた。
「孫悟空さんがいます。あの人たちがいれば、地球は何度でも立ち上がる」
その名に破壊神がわずかに興味を示し、「会ってみよう」と呟く。
そして――時の大時計が動き出す。
破壊神、ついに地球へ。神との戦いが、今、始まろうとしていた。
「神々はかく語りき」
――界王神界に漂う穏やかな風が、突如として震えた。
時空そのものが、何か“重い存在”に軋みを上げたのだ。
大地が微かに鳴動し、樹々の葉が擦れ合う音が、まるで宇宙の悲鳴のように響いた。
「……ついに来おったか。この時が……」
老界王神はゆっくりと水晶玉に手をかざした。
弛んだ皺に覆われたその眼差しが見据える遠見の水晶の奥では
星々が霞のように流れ、ひときわ眩い光を放つ一点――青き惑星・地球が浮かんでいた。
「ま、まさか――破壊神ビルス様が!?」
慌てて駆け寄るキビト神――ポタラで不慮の合体を果たした現・界王神と
その付き人のキビト―――の声が震えていた。
神界の気流がざわつき、空間がまるで水のように波打つ。
「うむ。この振動、間違いない……ビルス様が“目覚め”ただけで、宇宙が怯えておる」
老界王神は水晶の光を指で弾いた。
瞬間、宇宙の地図が幾重にも展開し、無数の銀河が揺らめいた。
その中心で、ひときわ濃密な紫の波動が渦を巻いている。
それが、破壊神の気配――「神域にすら干渉する破壊の波動」だ。
「ど、どうします!? ビルス様が目をつけられたのであれば、地球は……」
キビト神の声が掠れる。老界王神は深く息を吐き、キビト神を窘めた。
「慌てるな。まだ“破壊”が行われたわけではない。じゃが――」
その視線の先、遠見の水晶には青く美しい地球が映る。
海と雲が織り成す静謐な球体。その上に、薄く紫色の光の筋が滲み出ていた。
それは確かに――ビルスの神気。
「よりにもよって、あの星か……! 孫悟空、ベジータ、そして……時の干渉者ども。
まったく、騒がしい連中が一堂に集う星に、破壊神が行くとはのう……
いや、だからこそ、か……」
界王神の沈黙を破るように、キビト神が青ざめた顔で叫ぶ。
「と、ということは……地球にいる“CROSS HEROES”たちも巻き込まれる……!」
「うむ。それが一番の懸念じゃ。下手をすれば、“破壊神”の気まぐれで宇宙ごと
消し飛ぶわい。そうでなくとも今の地球には破壊神のご機嫌を損ねそうな連中が
ウヨウヨしとる。あのお方が何を求めて動いたか……それが分かるまでは、
手出しは禁物じゃ」
界王神たちの胸中に、数万年もの昔から刻まれた恐怖が蘇る。
フリーザ、魔人ブウ、果ては多元干渉者との戦い――
それらはいずれも“秩序を乱す者”との闘いだった。破壊神とは、
宇宙そのものの“均衡”を体現する存在。怒らせることは即ち、宇宙法則への反逆。
どれほどの英雄も、理不尽の前では塵芥に等しい。
星や生命を生み出し、見守るのが界王神ならば、
それが存在するに値しないと判断したものを破壊するのが破壊神なのである。
「……地球の命運が、あの騒がしい星の住人たちに委ねられるとはのう。
ワシら神々が干渉する余地もないとは、皮肉な話じゃ」
老界王神の声には、老いゆえの諦観と、わずかな期待が混ざっていた。
――界王星。
その小さな星の空を、紫の閃光が横切った。
重力が一瞬反転したかのように空気が震え、北の界王が悲鳴を上げる。
「あ、あああ……! ビ、ビ、ビルス様がああああああ……ち、地球にぃぃぃぃ……!!」
額の汗が滝のように流れ、触覚が風に翻る。
界王星を包む気流そのものが、恐怖に怯える生き物のように唸っていた。
「ビ、ビルス様が地球に向かわれる……!? ちょ、ちょっと待て、
悟空たちは暗黒魔界とやらへ行っているはず……やばい、やばいやばいやばいッ!
これはまずいぞおぉぉぉぉぉぉ……!!」
界王の声は裏返り、明らかな動揺を見せていた。
お付きのバブルスが耳を塞ぎ、グレゴリーは金切り声で界王の周囲を飛び回った。
「ウホ……ウホウホ……!!」
「界王様! 落ち着いてください!!」
「落ち着けるかぁッ!! 悟空の大馬鹿者がビルス様と顔を合わせようものなら、
絶対に勝負を挑むに決まっとる!!」
界王は両手で頭を抱え、地面を転げ回った。
かつて悟空が界王拳を修めたこの地で、師たる神が弟子の暴走を恐れている。
界王のフリーザだけには手を出すな、と言う戒めを破り、悟空は勝負を挑んだ。
その再現が繰り返されようとしている。
悟空が「強い相手がいる」と聞けば、天災でも台風でも喜んで立ち向かう。
ましてや“神”と名のつく存在なら、尚更だ。だが、今回ばかりは次元が違う。
「頼む……! 悟空たちが戻って来る前に帰ってくれぇ……!!
ついでに悟空の知り合い達にも出会う事無く……!!」
界王の懸念は絶えない。彼が住まうこの界王星が今のような小天体になったのも、
その昔、かくれんぼの最中にビルスの機嫌を損ね、「見つけられぬとは退屈だ」と言われて
10分の1にまで破壊されたのが原因である。
以来、界王はビルスの名を口にするだけで胃が痛むようになっていた。
「くそぉ……あの時の“かくれんぼ事件”を思い出すだけで心臓が止まりそうだ……!」
小さな星の中に小さな悲劇があった。だが、今回は比べものにならぬ規模だ。
もしビルスの気まぐれが暴走すれば、界王星どころか銀河系ごと吹き飛ぶだろう。
界王は天を仰いだ。
紫の閃光は、遥か宇宙の彼方へと伸びていく。
その先にあるのは――地球。
「今度ばかりは……もう終わりかも知れん。何もかも……」
――再び、界王神界。
老界王神は目を閉じ、静かに呟いた。
「破壊神が動く時、必ず“均衡の歪み”が生まれる。
その歪みこそ、異界の者どもを引き寄せる“裂け目”となる……歪みが先か、神が先か……」
老界王神の声は、深い憂慮と共に宙に消えた。
「まったく、あの孫悟空たちはほんに宇宙の不安定装置じゃわい……
だが、見方を変えれば“希望”でもある。
悟空がどれほど神々の領域に踏み込めるか、それを見届けねばならぬ」
キビト界王神が問う。
「まさか……悟空さんが破壊神と、戦うおつもりで?」
「そうじゃ。奴とビルス様が出遭えば戦いは避けられんじゃろう。
神と人、破壊と創造、全ての均衡を決める邂逅になるやもしれん」
老界王神の眼差しが、騒乱の中心たる青い星に向かう。
風が止み、光が沈み、神々の世界は再び静寂に包まれる。
だがその静けさは、嵐の前の沈黙であることを、彼らは誰よりもよく知っていた。
「――頼むぞ、孫悟空。全宇宙の命運は、お主らに託されたのじゃ……」
老界王神の声が、神界の虚空に溶けていく。
その瞬間、界王神界の空に散りばめられた星々が、微かに脈動を始める。
まるで宇宙そのものが“破壊の予兆”を察し、心臓の鼓動を高鳴らせているようだった。
「……祈りは届くのでしょうか」
キビト神が小さく呟く。
「祈りは風に乗り、可能性となって広がる。
この宇宙がまだ滅びを望まぬならば、答えは必ず現れる」
老界王神の言葉は、まるで遥か昔に読まれた神託の一節のようだった。
「破壊と創造は、いつも隣り合わせじゃ。
滅びを恐れるな――そこに生の輝きが宿るのじゃからのう」
リ・ユニオン・スクエア。特異点。暗黒魔界。超越者たち……
すべての混沌はひとつに収束しようとしていた……
「ゲッターが生み出し2つの脅威」
全ての騒動を終わらせるために、地球の破壊を考える破壊神ビルス……しかし、その考えが新たな敵を呼び寄せようとしていることを当の本人はこの時はまだ知らなかった。
……ゲッター線。
人類を進化させるという未知の超エネルギー……本来ならばリ・ユニオン・スクエアには観測不可能なレベルのごく少量しか降り注がず、その影響は皆無にふさわしかった。
しかし、あることをきっかけにリ・ユニオン・スクエアに降り注ぐゲッター線は大きく増大することになった。
……そう、ゲッター線に選ばれし平行世界の住人、流竜馬が流れ着いたのだ。
ゲッター線に選ばれた身でありながら自身の世界のゲッター線が生み出し悪しき可能性を……最悪の未来を断ち切るために、ゲッターに抗い続ける道を選び、たった一人で数多の神々や仏たちと戦い続けている男……
彼はどういうわけか知らないが、そんな終わりの見えない戦いの最中、突如としてリ・ユニオン・スクエアに飛ばされてしまったのだ。
後に彼のかつての仲間である神隼人や武蔵坊弁慶がゲッター線と一体化した早乙女博士の手によってリ・ユニオン・スクエアへと飛ばされてきたのだが、彼らと違い竜馬がこの世界に飛ばされたのはゲッター線によるものなのかそれとも別の存在によるものかはまだ判明していない……
だがしかし、彼がリ・ユニオン・スクエアに飛ばされてきたことをきっかけに、リ・ユニオン・スクエアへ降り注ぐゲッター線は大きく増大し、その結果一つの可能性が生まれてしまった。
……そう、それは竜馬達ゲッターチームが元いた世界と同じ、ゲッター線が生み出す最悪の未来へたどり着いてしまう可能性であった。
この可能性が実現した未来では、人類はゲッター線に選ばれ、ゲッター線の意思に導かれるままに進化していった。
その結果人類はまるでミケーネ帝国の機械神や戦闘獣のように機械と……ゲッターロボと一体化し、互いに殺し合いパーツを奪い合ってただひたすらに進化し続けていく……まるで地獄のような世界へと化していた。
そしてそんな地獄のような世界でさらなる進化を重ねた人類はやがてゲッター線の化身ともいえる聖なるドラゴンを中心としたゲッター艦隊を作り出して地球を飛び出し、数多の星々を侵略し地球人類以外の全ての存在を次々と滅ぼしていくまさしく宇宙全体にとっての害悪そのものと化していた。
しかしその未来へと至る可能性が今揺るがされようとしていた。
メサイア教団が生み出そうする女神、丸喜の認知訶学、リ・ユニオン・スクエアを滅ぼそうとするグランドクロス、リ・ユニオン・スクエア内外から現れた人類を滅ぼしかねない数多の脅威、そして地球の破壊を考えている破壊ビルス……
本来、聖なるドラゴンはやがてゲッターの皇帝へと進化し、誕生した宇宙はその力で自身が誕生する未来以外の他の可能性が一切生まれずに他の世界と繋がりが完全に遮断された宇宙になる。
しかし、大昔からゲッター線が大量に降り注ぎゲッター線によって人類が進化してきた世界達と違い、リ・ユニオン・スクエアにおいてこの未来へと繋がる可能性が生まれたのは竜馬がやって来てゲッター線の降り注ぐ量が増大した最近になってから。
そのためリ・ユニオン・スクエアにおいてゲッター線が生み出した可能性の未来では他の世界での同じ可能性わ辿った未来と違ってまだ皇帝が誕生しておらず、ゆえに何かしらの要因で別の未来になってしまう可能性があった。
『未来が変わることは許されぬ』
『何としてでもこの未来を確定させねばならない』
『そのためにも、他の可能性は全て消さねばなるまい』
『リ・ユニオン・スクエアの未来が、この世界線へと完全に確定するその時が来るまで、なんとしてでもこの可能性を守らなければ』
リ・ユニオン・スクエアのゲッター線の意思は、自身が生み出すこの未来を確定させるために、ある決断を下した。
それはゲッター線の傀儡と化した人類を……聖なるドラゴン率いる未来のゲッター艦隊をCROSS HEROES達がいる現代のリ・ユニオン・スクエアへと送り込み、ゲッターの導く未来以外の可能性を生む存在……つまりは人類を滅ぼしたり停滞させたりゲッターが望む形とは異なる進化へと導いたりする可能性がある存在を全てを滅ぼすことであった。
そしてゲッターがそのような強硬手段を選んだ中、現代では反対にリ・ユニオン・スクエアで増大したゲッター線を危険視した者たちが動き出そうとしていた。
「……この世界にもとうとうゲッター線の魔の手が来たか……」
「安倍晴明がまた敗北してしまった以上、こうなれば我々自ら動くしかあるまい……」
「そう。多くの平行宇宙でもたらされたゲッター線が生み出し最悪の未来……何としてでも阻止せねばならぬ……!」
「そのためにも、何としてでも滅ぼさねばならぬ。
別の宇宙から現れしゲッター線に選ばれし者流竜馬とゲッターロボ、そして……ゲッター線に選ばれるであろうこの宇宙の地球人類を……!」
僧兵のような姿をしており、まるでゴリラのようなガッチリとした体型の神将『広目天』。
白いボディをしており、長剣を持ちどこかの獣神を彷彿とさせる髪形の神将『持国天』。
恐竜…いや爬虫類のような顔と黒いボデイ、体に巻き付けた龍が特徴的な神将『増長天』。
そして彼らのリーダーともいえる片腕に塔を、片腕に錫杖を携えている黄色の身体の神将『多聞天』。
四天王ともいえる四人の神々は、かつて晴明が従えていたゲッター線により駆逐された者達の末裔ともいえる存在である鬼や鬼獣を従えて地球へと向かった。
全ては、ゲッター線に選ばれようとしているこの世界の人類を滅ぼすために…!
「ゲッターよ、そしてゲッターに選ばれる者よ……貴様らに我らが宇宙を汚させはせん!」
ゲッターが生み出した未来からの刺客とゲッターを恐れし神々……2つの脅威が地球へと降臨する日も、そう遠くはない……
「崩界の序曲・その残響を断つ魔法少女たち」
破壊神、襲来の兆し。その頃、地球・日本。
神浜市の夜は静かに濁っていた。人の目には映らぬ“波”が、街のあちこちで蠢いている。
結界の層が薄く、魔女の影がにじみ出していた。これまで比較的大人しく傾向であった
魔女の結界が同時多発的に暴走し、空間そのものがうねっている。
「……この感じ、今までと違う」
武術道場「竜真館」の師範代にして魔法少女、竜城明日香が薙刀を構え、
水色の魔力が彼女の足元に広がる。
「結界の内側で魔女が怯えてる……何かが“上”から来るのを怖がってるの」
五十鈴れんが、鎌を手に佇む。
無属性の彼女の魔力は、闇にも光にも染まらず、世界の“揺らぎ”を直に感じ取っていた。
「怖がってる? 魔女が……?」
「はい。わたしたちには分からないけど、魔女たちには“何か”が見えてる……のかと」
CROSS HEROESの面々が各地で戦っている今、神浜の防衛は現地の魔法少女たちが
担っていた。結界の奥で、魔女の使い魔たちが忙しなく蠢いている。
魔法少女よりも原初の感情と衝動に突き動かされて行動している魔女たちには、
やがて訪れる破壊神の気配をダイレクトに感じられているのかも知れない。
「おかしい……今日は満月でもないのに」
竜城明日香は、濡れたアスファルトに足をつけながら呟く。
水属性の魔力が彼女の身体を巡り、髪がほのかに青く光る。
薙刀の刃に映る煌めきが、波紋のように揺れた。
そこへ、テレパシーで仲間の声が届く。
『明日香ちゃん、結界の中心に魔女の反応! 使い魔と交戦中!』
「了解。私たちもすぐに向かいます」
短く答え、明日香は足元に魔力を集める。 水の輪が弾け、彼女の身体が軽やかに
宙を舞う。れんもそれに続いた。
「……数が多い! はああああああああッ!!」
粟根こころの武装は両手に携えた大型のトンファー。飛びかかってくる使い魔を
次々に殴り飛ばす。
「痺れてッ!!」
さらに、トンファーの先端を使い魔に突き刺し、スタンガンの要領で
超高電圧を流し込む。連鎖反応で周囲の使い魔たちにも伝達していく。
しかし、使い魔はさらにその数を増していき、こころの迎撃網を上回った。
「まずいっ……」
「――インビジブル・アサシン」
しかし、その毒牙がこころに届く事は無かった。無影の暗殺者……
加賀美まさらが蒼き鬼火と共に姿を現し、短剣一振りで以て使い魔を全て
細切れに切り刻んだ。一切の気配を悟らせない、不可視の魔法少女……
「まさら!」
(……あなたは傷つけさせない。例え何者が相手であろうと)
言葉は無くとも、まさらとこころは互いに守るべき特別な存在であった。
「……戦いはまだ終わっていない。気を抜かないで」
「うん! ありがとう!!」
分かっているのかいないのか、屈託のないこころの笑顔を向けられると、
まさらは素っ気なく顔を逸らした。
「……本当に、調子が狂う……」
「おーい! 大丈夫ですかぁーっ!?」
一足遅れで、明日香とれんが合流。
「うん、まさらが助けてくれたから……」
「そうですか。さすがです!」
「おしゃべりは良い。魔女を倒すのが先決」
「です、ね」
一同に集った魔法少女たちは、此度の魔女の結界の異常性を感じていた。
「使い魔もいつもより多い……」
「使い魔は、魔女が自分を防衛させるための存在。私達を警戒しているから?」
「それだけとは、思えません。が、何にせよ、長期戦で魔力を浪費するのは
こちらが不利になります」
魔法少女の魔力の総量には、限りがある。ソウルジェムだ。
使い魔を逐一殲滅していたのでは、魔女にたどり着く前に魔力が枯渇してしまう。
「まるで“何か”を恐れて逃げようとしてるみたい……です」
五十鈴れんが小声で呟き、鎌を握る。恐れ。逃避。それはかつて魔法少女になる前の
彼女の心に強く深く刻まれた感情であるが故に。
「理由は分かりません。でも、このまま放置したら神浜の街が飲み込まれてしまいます」
明日香が薙刀を構え、水の陣を展開する。
「私が前に出ます。粟根さん、結界をお願いします!」
「うん、任せて!」
耐久性に秀でた粟根こころの周囲に黄金の環が生まれ、四人を包み込む。
柔らかな光が闇の衝撃を受け止める盾となる。それを合図に、明日香が一歩踏み出す。
「さあ、行きますよ!」
「b0emkt@、h.! cok45! 4a84! r^@w=b0di! 6j5m! 0qdm! e7q@e7q@e7q@e7q@diqhue! diqhue!ーーーーーーーーーーーッ!!」
そして、ついに結界の奥底に待ち受ける魔女の元へと辿り着く。
「あの騒ぎよう……何かを、訴えている?」
「関係ない。さっさと仕留める」
「――跳襲斬ッ!!」
跳躍からの回転を加えた薙刀を振るうと、切っ先から水流が湧き上がる。
流れは渦を巻き、魔女の触手を切り裂いた。だが、数は減らない。れんが続く。
「追撃します……!!」
鎌が弧を描き、空間を裂く。影が霧散し、魔女の体勢が崩れた。
しかし、すぐに別の影がその欠片を吸収し、再構成を始める。
「再生した……!」
「中心がまだ生きてる」
まさらの声に、明日香が薙刀を構え直す。
「ならば! さらに激しく撃ち込む!!」
「取った……!」
透明化で魔女の背後に回ったまさらが、ダガーによる乱撃を見舞い、魔女を撹乱。
「水と電撃……! 明日香ちゃん!」
「はい! 合わせます!!」
こころがトンファーで地面を殴り砕き、高圧電流を地面に這わせて魔女に向けて放つ。
まさらが咄嗟に飛び退く。
「h@g@7g@7g@7g@7t@t@t@t@…!!」
感電する魔女に、明日香のトドメの一撃が繰り出される。
「心正しからざれば剣また正しからず……奥義ッ!! 竜真螺旋咆撃いいいいいいッ!!
たあああああああああああああああッ!!」
轟音。渾身の魔力を込めた明日香の必殺技で魔女が脳天から立ち割れ、
黒い靄が爆散する。
「ーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!」
風が止まり、静寂が戻る。地面には、光る水溜まりが残るのみだった。
「……やったの?」
れんの声が震える。明日香が薙刀を下ろし、肩で息をついた。
「ええ、勝負アリです」
まさらが周囲を確認し、微笑む。
「敵性反応、消失。お見事ね」
こころが座り込み、嬉し涙を拭う。
「よかったあ……みんな無事でぇ……」
夜明けが訪れ、東の空が白み始めた。雨上がりの街に、水の香りが漂う。
戦いの痕跡を洗い流すように、噴水が再び水を吐き出した。
「日が昇る……」
れんがその光景を見上げる。
静かな朝。神浜の街は再び目を覚ます。人々は何も知らないまま、
またいつも通りの一日を始める。
だが、明日香たちは知っていた。
この街には、いや世界には、まだ見ぬ“波”が訪れようとしている事を。
恐怖も、希望も、同じ流れの中にある。薙刀を肩に担ぎ、明日香は仲間たちに振り返った。
「……行きましょう。次の荒波が来ても、また一緒に立ち向かいましょう」
「災天 phase.1」
「……。」
「どうしたディーヴァ、浮かない顔だが。」
マニは、盟友であるディーヴァを心配そうな顔で見ていた。
当の彼は、まるで何かを恐れているようだが。
「何か、強大なものを感じる。」
その声に反応するように、二人の鼓膜を存在しない声が震わせる。
「もうすぐだ」「気をつけろ」「恐ろしいものが来る」「今、日本に行くのは危ない」
「……何が来るかまでは分からないが、キミたちが恐れるくらいだ。相当のものが来るんだろうな。」
彼らは常人よりも集合意識や見えない感覚というものに敏感だ。
であれば、ビルスら超越者たちの来訪も容易に感じられるというものだろう。
「ディーヴァ、日本に何が来るんだろうな?」
「さてな、神様?或いはデュエルモンスターズのモンスターよりも恐るべき何か……としか言えないよ。」
でたらめに言った「神様」という所感は正しかった。
実際、破壊神であるビルスは言うに及ばず、並行世界の観測者であるゼルレッチ、虚数空間の支配者カグヤ、未来からの来訪者オーマジオウ。
彼らは事実「神様」というにふさわしい超常の力を持っているのだ。
「ならばどうする。」
マニの顔を見ながら、彼は答えた。
「今、日本に戻るのは死にに行くようなもの。あの気配が消えてから童美野町に戻って『奴』に復讐する。」
「復讐……か。」
その言葉に、マニは嫌な顔をした。
まるで、復讐なんて馬鹿馬鹿しいと言わんばかりの表情だ。
「どうした?」
「なぁディーヴァ、今からでも間に合う。復讐なんて…「やめにしないか?だろ?」…ッ。」
この時、マニは見た。
ディーヴァの黄金の瞳に揺らめく、昏き復讐の炎を。
「誰が何と言っても、ボクはやめないよ。」
「だが復讐など、それこそシャーディー様が望んでいることなのか?それは我らの波動を下げてまですべきことなのか?俺には到底思えない……。」
ディーヴァはシャーディーという男に恩があるようで、彼を殺した「奴」に並大抵ならぬ憎悪を抱いている。
友の制止を振り切ってまでも、為すべきことだと彼は思い込んでいる。
「それでも、奴はシャーディー様を殺した仇、今さらここで引き下がれるか……!」
◇
特異点
「!」
突如、カグヤの巨大なアホ毛がアンテナのようにピンと立った。
まるで、何かの来訪を予感させるような。
「へえ……みんな来るんだ。」
そうつぶやくカグヤ。
その顔は恐れるでもなく震えるでもなく、楽しそうな表情だった。
これから来る「何か」の正体が恐るべきものだと分かっていてもなお、能天気すぎる笑顔を浮かべている。
「おい、何が来るってんだよ青いの。」
その様子を見ていた罪木オルタが、ぶっきらぼうに話しかける。
しかしカグヤは能天気な表情を崩さずにこう答えた。
「なんて言えばいいんだろ……?」
いまいち煮え切らない解答に、罪木オルタは苛立ちを隠しきれないでいる。
「それはないぜうさ耳……なんかこう、あるだろ。」
斯くいう彼女もまた、どこか答えがまとまらない返しをする。
その内カグヤは的確な回答を思いついたのか、こういった。
「……神様とか、かな?」
◇
リ・ユニオン・スクエア 東京某ホテル
「ッッ!?」
昼寝をして、退屈そうに待機していた彩香が、突如恐ろしいものでも見たかのように起き上がった。
冷や汗をかき、恐怖にひきつった顔をしながら息を荒げる。
同時に、彼女の裡に宿っている存在――――アマツミカボシもまた、同じものを感じていた。
『主よ、感じたか?「恐るべきものたち」を。』
「うん……2、3人、いや「柱」か?それくらいかな。何かすごいのが来る。」
アマツミカボシは続ける。
『覚悟せよ、これは我が与えるような「試練」などではないし、「教団」の攻撃など優しく感じるようなものだぞ。』
「……。」
彩香は自然と、覚悟を決めたような表情になる。
迫りくる「恐るべきもの」の戦闘能力、異能の力を直感的に感じていたからだ。
それを受けて、アマツミカボシはこう言った。
『下手をすれば、世界が容易に終わるものだ。』
一手こちらが間違えれば、簡単に世界が終わるという恐怖。
そんな存在が、もうすぐ来るというのだ。
そしてこの時、アマツミカボシの言う「恐るべきもの」の到来を感じていたのは、このホテル内では天宮彩香とアマツミカボシのみであった―――。
〈第一次魔界大戦:正義の矜持〉
地球に再来する破壊神ビルス。
嘗てミケーネ神に奮われた破壊の力が降り立たんとする、その裏…
思惑の中心に立った男『孫悟空』は、暗黒魔界にて奇妙な様相を見せていた。
『何だぁ、コイツは?』
アビダインに集中砲火を掛ける魔界人の一人が、訝し気な声を上げる。
彼の眼前で船を庇う様に浮かぶ悟空は、謎の青白いオーラこそ纏っているものの、それ以外は傷塗れの容態にしか見えない。
品定めする視線を向け、そして…
『そんな傷で俺達とやりあおうってのか?ケッヒッヒ!』
未知への恐怖より先に、余裕が勝った。
その反応は他の魔界人も同意見だったようで、あちこちから嘲笑が上がる。
だが悟空は、まるで死人の様に何の反応を返さない。
『オイオイ、意識もねぇのか。ハァ…』
嗤いを通り越して呆れた魔界人は、悟空の懐へ潜り込み、アッパーカットを浴びせに掛かる。
「……」
『あぁ?避けやがった…?』
だが悟空はゆらりと体を揺らし、紙一重で回避する。
不気味ささえ覚える奇妙な体術に、再び訝し気に動きを止め。
「コォォ…」
その一瞬が、命取りとなった。
不意に風切り音が鳴り…
『ウゴォッ!!?』
刹那、周囲一帯に衝撃が走り、直後に腹を抱えて蹲る魔界人。
『オ、オイ?どうした_ヒィ!?』
『ア、ガガ…』
別の者が彼のどてっぱらを見ると、そこには風穴が空いていた。
直後、傷口から鮮血を散らしながら地の底へ落ちていく魔界人。
突然の事態に、戦慄が走る。
『な、何しやがった!?』
焦燥の色を浮かべ、構えを取る魔界の者達。
だが直後、閃光と衝撃が巻き起こり_
◇
「_侵略すること火の如くッ!」
「ガアァァ!!?」
パイルドライバーに掛けられたターレスが、脳天から地面に叩き付けられる。
まともな受け身も取れず、ターレスは吐血した。
「く、そぉ…!」
「見たか、レタスよ!これが『48の殺人技』じゃ!」
「ターレス、だ…クソッタレ…!!」
脳にダメージを負ったのか、起き上がる事すら困難だ。
力を直情的に奮ってきた剛の者であるターレスにとって、超人プロレスの様な柔の技は限りなく未知に近かった。
(小手先と捨て置いた物が、ここで来るとは…!)
経験が無い訳では無い。魔界にも、悪魔超人の中に柔の技を使う者はいる。
だが圧倒的な力を身に着けていたターレスは、ただ力でねじ伏せてきた。
正しい対処法が身に付いていないのだ。
「ちぃ…抜け、出せん…!」
その怠惰が今、彼の首を絞めていた。
「この『風林火山』、プロレスのイロハも知らぬ貴様に、敗れる技では無い!」
ターレスの四肢を極めて軋みを上げさせるキン肉マンは、そのまま上空へ飛び上がってフィニッシュに入る。
「これで仕舞いじゃ!『動かざること_」
決まるか、山の如し。ロメロ・スペシャル_!
…が、その時。
_ドォーーーォン!!!
「な、何ィーー!?」
轟音に、山が揺らぐ。
アビダインを襲った爆発を目にした時、キン肉マンは明確に動揺した。
「っ今だ!」
「しまった…!?」
その刹那に力が緩んだのを、ターレスは見逃さなかった。
キン肉マンの拘束から脱し、気弾を置き土産に後退。
「ぬわぁっ!?」
「コイツも喰らいなぁ!」
直後、炸裂する気弾に怯んだキン肉マン。
そこに『キルドライバー』が放たれる。
舞い上がった砂塵を裂いて迫りくるエネルギー光輪を前に、キン肉マンは身を捩る。
「ぐあぁ…!」
だが、僅かに右脇腹を掠める。
至近距離、更に言えば円形という形状が、回避を困難にしたのだ。
「ぬぅ…!」
鮮血を大地に咲かしながら、呻き声を上げるキン肉マン。
そんな彼に追撃を仕掛けたターレスは、挑発を投げかける。
「ふ、はは。お前の言う友情とやらが、足を引っ張ったようだな?」
「そんな訳が、あるか!」
反撃を許さぬ猛攻を前に、鉄のカーテンを展開して耐え抜く。
そして何とかターレスの攻勢を凌ぐと、両手を広げて掴み掛かった。
「火事場のクソ力は、ターレス。確かに貴様に通用した!友との絆こそ、私たちの剣であり盾なのだ!」
「いいや、一時のまぐれさ。」
だが先のダメージを感じさせぬ動きでいなすと、腹に膝打ちを食らわせる。
「ゴハッ…!?」
「そぉら、もっと喰らいな!」
そして勢いそのままに、キン肉マンに拳の乱打を浴びせた。
ミニガンの如き連打速度と衝撃が、超人ボディを蹂躙する。
「ぐあぁ……!?」
さしものキン肉マンも膝を震わせ、その攻撃に苦悶の声を漏らすしかない。
「うっ…ぐあぁっ!?」
「これが答えだ。お前達の馴れ合い…友情とやらが、俺を殺し損ねたんだ。」
たまらずふら付くキン肉マンを見て、そう吐き捨てるターレス。
キン肉スグルという男を鑑みれば、あの時、仲間の安否を心配するのは至極当然だ。
ターレスはその意識の隙を、友情の脆弱性と断言した。
そして、腕を引き絞ると共に告げる。
「そして、お前の死にも繋がるのさ!」
「ぐ、うおぉぉ…!!」
渾身の右ストレートが、キン肉マンの額に直撃。
突き抜ける衝撃に悲痛な声が上がり、肢体が地を転がる。
(み、認めたくはないが…確かに、強い…!)
力を出し切り、確かに優勢を勝ち取っていた上での、この結果だ。
自らの甘さと断じられれば、キン肉マンには否定しようがない。
そんな彼の迷いを表すように、紅蓮の輝きは、今は鳴りを潜めていた。
「フン…もういい、死ね。」
「ぐはっ…!!」
ターレスは飽きた様にそう告げると、キン肉マンの胴体を高々と蹴り飛ばし、トドメのエネルギー波を片手に溜め、解き放つ。
キン肉マン、万事休すか。
…その時だった。
「_へこたれるでない、キン肉マン!」
戦場に響いた喝に、顔を向けるキン肉マン。
「カ、カメハメ師匠ッ!」
「良いか、よく聞け!己に迷いが生まれた時は、己の矜持を…誇りを思い出せ!」
カメハメは、キン肉マンに激を飛ばす。
「友が危機に晒された時、お主を突き動かした物は何だ!?」
師の言葉が、キン肉マンに響き渡る。
心を奮い立たせる一言は、彼の体に再び熱い炎を灯した。
キン肉マンは鉄のカーテンを構え、襲い掛かるエネルギー波を迎え撃つ。
「それは…それは!」
一瞬光の中に消えた彼の姿…
だがやがてエネルギー波が止むと、無事な姿が露わになった。
「何っ!?」
「目の前で殺されようとしている友を…悟空との繋がりを守りたいという願い!」
「それは、甘さか?」
「いいえ師匠…友情を願ったこの思いは、決して甘さではありません!」
友を思い、キン肉マンは燃え上がる。
再びその身に纏うは、火事場のクソ力_!
「ターレスよ。友情が、何よりも尊い理由を教えてやろう…」
キン肉マンが告げた、不可思議な言葉…それを聞いた直後だった。
「っこの気は!?」
アビダインの方角から向かってくる気に、ターレスは再び驚愕する。
異様な圧こそ混じっているが、間違えはしない。
「……」
「そう、友情は必ず答えてくれるのだ。」
「カカロット…!」
この手で戦闘不能にした筈の悟空。
彼は奇妙な気を纏い、この場に再び現れた_!
「幕間・拳理交錯 ― ペルフェクタリア vs 李書文 ―」
――特異点、リビルド・ベース。
昼下がりのカルデアには、まだ戦場の余韻が残っていた。
ミケーネ帝国との防衛戦、メメントス深層での探索――幾多の異界の英雄たちが
力を尽くし、命を削った。今はその静けさの中で、
医療室や工房が忙しく立ち働いている中、少女が歩いていた。
ペルフェクタリア。
忌式暗殺拳を修め、禍津星 穢を追う“魔殺少女”。
静かな視線が場を見渡す。異国の剣士、魔術師、忍者、聖女、機械兵。
世界の理を越えた者たちが、ここでは肩を並べていた。
その一角――朱色の道着を纏い、丸眼鏡のサングラスをかけた
白髪の老拳士の姿が目に留まる。
呼吸の一つさえ無駄のない静けさ。彼の名を、知らぬ者はいない。
李書文。
八極拳を極めし老拳士。カルデア随一の武人であり、静寂の中に鋼の理を宿す男。
「……見ぬ顔だな。異界の戦士か?」
「そうだ。ペルフェクタリア。魔殺少女だ。」
「魔殺、とはまた大仰な……だが、拳士の匂いはする」
老拳士はゆるりと向き直った。その動きの一つ一つが、すでに技だった。
ペルはわずかに口角を上げる。
「試してみるか。老師」
「呵呵……面白い。では手並みを見せてもらおう」
闘技場にざわめきが広がる。
「おいおいおい、あのちびっちゃいの、李老師とやるのか……!」
「死んだわ、アイツ」
マシュと藤丸も駆け寄り、観戦の輪に加わる。
「李老師と……ペルさんが、試合を?」
「うそ、まさかここで!? 老師、手加減してくれるでしょうね……」
李書文は両腕を腰に回し、ただ静かに佇む。ペルもまた一言も発せず、
裸足で地を踏み締める。
「先手をくれてやる。来い」
陽光が二人を照らす中――試合が始まった。
風が鳴る。一歩。その瞬間、ペルの姿が掻き消えた。
「なかなか……」
「――八咫烏ッ!!」
黒い閃光。空中から回転を加えて振り下ろされる踵落としが風を裂く。
拳と脚が交錯し、大気が爆ぜた。マシュが息を飲む。藤丸が思わず目を閉じる。
「悪くはない。童と侮った事、まずは詫びよう。そして儂に片腕を使わせた事……
褒めてやる」
(私の蹴りを受けて微動だにしない……)
李書文は1ミリもその場から動いていない。片腕を翳し、ペルの足先を受け止めている。だが、その地面には稲光の如き無数のヒビ割れが走っていた。
(私の八咫烏の威力を地面に逃がした……?)
「では、次はこちらの番かな……」
空いている右の拳を握り、ゆっくりと引き絞る。
(来る……!!)
「容易く……死んでくれるなよ? 疾ッ!!」
瞬時に掴まれていた足首を解いた瞬間、身体を激しく横回転させる。
李書文の拳が弾け、ペルの頬を掠めた。 その拳圧は衝撃波となり、遠く離れた観客席の壁を砕いた。
「よくぞ避わした」
「直撃をもらうわけにはいかないからな……」
「然り」
「……これが極められた“拳”。
人間がここまでの領域に達せられるものなのか……」
体術と呼吸、重心と理―― すべてが等しくスローモーションのように見える。
瞬き一つの中に詰め込まれていた。 ペルが着地し、李書文が構えを変えた。
拳と拳が交錯する。理と意志の衝突。武の極致に達した者同士の“対話”だった。
言葉ではなく、魂で語り合う。それが拳士の戦いだった。
ペルが連撃を繰り出す。李書文は身を沈め、掌底でそれを受け流す。
一歩、半歩、わずかな重心の移動だけで攻撃を外すその姿は、
まるで武の化身そのものだった。
「当たらない……一発も……!」
「心の有り様。思考の在り処。拳とは肉体の一部であると同時に、
形なき心を表現するものだ」
その言葉に、ペルの動きが一瞬止まった。そこを突くように、李書文が攻勢に出る。
ゆらり、と全身の力を抜き切ったと同時に、刹那の瞬間に全神経を集中させて放つ。
「――ッ!!」
鉄山靠。ペルの体が吹き飛ぶ。地面を転がり、砂塵の中に姿を消した。
「ふううう……」
だが、李書文の眼はまだ鋭く光っている。老いた身にしてなお、
闘気は研ぎ澄まされていた。彼にとって戦いとは、生きることそのものだった。
拳を使わねば、己は朽ちる。それが、李書文という男の矜持。
「……けほっ」
砂の中から立ち上がる影。ペルフェクタリア。
黒髪が乱れ、 赤いスカーフが風にはためいていた。
彼女の瞳には、かすかな光が宿っている。
「その拳……確かに理に適っている。一切の迷いが無い……」
「ふむ、儂の鉄山靠をやり過ごしたか」
「あなたの見様見真似だ。完全ではなかったが……」
最初の一撃。ペルの八咫烏の威力を”殺した”李書文の技術。 不可避と判断した鉄山靠。
ならばどうする――その答え。
「殺すと一口に言っても、それは相手の命を奪うためだけでは無いと言う事か……
自分の命を活かすために殺す術……」
「そうだ……それでこそ拳だ。力だけでは足りぬ、心だけでも足りぬ。
拳とは、生き様そのもの。同時に己を活かすための術でもあると知れ」
そう言うと、李書文が拳を引いた。
「見事だ。魔殺少女とやら。真髄に近づいたようだな」
「まだ……至らない。あなたの“拳”には遠い」
「呵呵……至らぬならば、進めばよい。止まるな。拳とは障壁を砕き、進むためのものだ」
ペルは深く頭を下げた。李書文は腕を組み、わずかに頷く。
広いスタジアムがクレーターや地割れで荒れ果てた静寂。
そこには戦いの勝者も敗者もいなかった。
「はあ、肝が冷えました……」
観客席のマシュが安堵の息を漏らし、藤丸が微笑む。
「凄いんだね、あのペルって子……只者じゃないとは思ってたけど……」
藤丸がペルが戦っている姿を見るのは、これが初めてのことであった。
「……若き拳士よ、道を違えるな。理なき力は、必ず己を滅ぼす」
「心に刻んでおく。老師。手合わせ感謝する」
「呵呵……生前は壊す事しか能の無い我が拳であったが、若い者にも見所があるようだな」
彼は薄く笑った。陽光の中、深い皺の間に柔らかな光が差す。
ペルもほんの少しだけ、表情を緩めて。
「主との契約も存外悪くないものよ。異界の拳士と拳を交わせるなど、
儂の若い頃には考えられなんだな」
「カルデアとは、不思議な場所だ。いろんな世界の“生き様”がある」
「そのすべてが“理”の形だ。拳も、剣も、魔術も、心もな」
当初はたりあの手がかりを唯一知る藤丸立香との接触が目的であったペルであったが、
特異点、カルデアのサーヴァントたちにも興味を示し始めていた。
「世界は私の思っていた以上に広い……また、やろう。老師」
「呵呵……“无二打”と呼ばれたこの儂に、また、か。面白い奴よ。良かろう。
その時は、今より深く打ち合おうぞ。さて……では、茶にでもするか。
異邦の客人に馳走してやろう」
〈第一次魔界大戦:未完全の■■〉
再び戦場へ姿を現した孫悟空。
傷だらけの彼は青白い気を纏い、目を閉じたまま佇んでいた。
そんな彼に対し、ターレスは静かに驚嘆する。
「カカロット…あのまま野垂れ死んでたかと思ったが、まだ生きていたとはな…正直侮っていたさ。」
確かな手応えはあったと、自負していた。
故にそこから生き延び舞い戻った『強者』への称賛を、惜しげもなく口にする。
「腐ってもサイヤ人…いや、『友情』とやらか?流石だな。」
「貴様のその言葉は、結果だけを見た上っ面の物に過ぎん。」
が、そんな彼の言葉をキン肉マンが一蹴した。
「ほう?」
「この結果は、私や仲間との友情があればこそだ。それを見ず何を口にしようと、その言葉は軽い!」
「オイオイ、折角褒めてやったってのに説教かよ?」
わざとらしく肩を竦める。
「クックック…なら取り繕うのは止めだ。友情だの何だの、実際は小細工の類だろうよ。」
その挑発に、キン肉マンが目の色を変え。
「貴様、やはり_」
「口を止めるのだ、キン肉マン。」
…カメハメが、その先の言葉を止めた。
「し、師匠…!?」
「キン肉マンよ、友情を侮辱され怒るのは分かる。だが、ベラベラ喋るばかりが友情では無いぞ。」
「…チッ。」
キン肉マンを言葉で、ターレスを視線で制する。
意中を突かれたターレスは、つまらなさそうに舌打ちをした。
(このジジイ、力はともかく頭はキレるか)
ターレスも愚かではない。
『友情』とやらで、キン肉マンは今の自身を力で確かに圧した。
故に彼らの語る『友情』には、何かしらの実態があると考えている。
その正体を探らんと、ターレスは敢えて愚かさを演出していた。
「喋るばかりが、友情では無い…」
一方のキン肉マン…スグルは、その警句を反芻していた。
そして悟空を見やり、気付く。
(…悟空の奴、気を失っているのではないか?)
今までリングで失神した者たちを見てきたからこそ、分かる。
悟空の顔付きに、意識の気配は見当たらない。
即ちそれは、無意識のままキン肉マンの元に駆け付け、戦わんとしているのだという事実。
その事実が…言葉を制した事を含め、全てに納得をさせた。
「分かりました、師匠!」
確信を得たキン肉マンは、それ以上語る事を敢えて止めた。
「まぁいいさ、もう話す事も無い…カカロット、そのブタ面共と一緒にあの世へ送ってやる!」
そう告げると、全身に力を籠め筋肉を張り詰める。
そして筋肉の隆起した腕を引き絞り、悟空へと突撃を仕掛けた。
「死ねぇ!!!」
「させん!『肉のカーテン』ッ!」
だが、横合いからキン肉マンが割り込み、肉のカーテンで受けた
「ぐぅお…!一撃が、重い…!!」
唸るキン肉マン。
鉛のような鈍い音の響きが、その威力を物語る。
しかし、守りは揺らがない。
「クソ、邪魔者がぁ!」
悪態を付き、重ねて拳を打ち込む。
肉を打つ音が甲高く響き、キン肉マンは苦悶に顔を歪ませる。
だが、それでも耐え続ける。
まるで破れる気配は無い。寧ろ打ち込まれる毎に、堅固さと気迫に、磨きが掛かる…!
「ぬぅ、おぉ、おおおぉ!!」
「ば、化け物めっ…!」
さしものターレスも、その堅牢さに気圧され一歩引く…その時、気付いた。
「カ、カカロットは何処だ…!?」
後ろに居た筈の、悟空の姿が消え失せている。
キン肉マンに気を取られていたが、意識を逸らしてはいない…故に、驚愕していた。
逃げたか…一瞬、そう思考が過りかけて、気付く。
キン肉マンの黒い瞳に写る己と、その背後の青白い光に…
「っ後ろか!」
振り向くと同時に右正拳を繰り出し、肉の打ち付ける音が響く。
しかし、悟空の体を打ち貫いた音では無い。
「……」
「コイツ、受け止めやがった…!」
ターレスの拳を、悟空が左手で受け止めたのだ。
「さっきまで死にかけだった癖に…どんな手品だ!?」
そう呆気に取られるターレスをよそに、悟空は空いている右手を悠然と引き、構える。
「…何だ、随分と余裕のある動きじゃないか?」
奇妙な余裕に、ターレスは何処か言いしれぬ恐怖を覚えた…刹那。
悟空の姿が、掻き消える。
再び起きた事態にターレスが呆気に取られた、その瞬間。
_ダダダダダッ!
「_グアァッ!!?」
何十にも重なった殴打の音が鳴り響く。
ターレスの体が幾重にも打ち貫かれたのだ。
「な、何が…一体_」
痛みに喘ぎながら背後を見ると、悟空が残心を取って佇んでいる。
どうやら真正面から横切りつつ、拳を打ち込んだようだが…
(構えた所を見ていたのに、攻撃の瞬間が見えなかっただと…!?)
その速さは、異常の一言に尽きた。
暗黒神精樹によって最凶戦士と化したターレスから見ても、挙動や気配を目に映らせない。
来ると分かっていても、反応出来ない…それがどれだけ恐ろしい事かは、言うまでも無いだろう。
ターレスも例外ではなく、僅かながらも恐怖した。
「何をした、カカロット…!?」
「……」
その言葉に、悟空は何も答えない。
(訳が分からねぇ…!)
一歩距離を取るターレス。
そして構えを取り直し、今度は横合いから回り込んでの蹴りを繰り出した。
「テヤァ!!」
「……」
が、その攻撃に手応えは無かった。
躱された…そう認識した瞬間、2つの衝撃がターレスに走り、血飛沫と共に体が宙を舞った。
「カハッ…!?」
何が起きたのか一瞬分からなかった。
だが横で足を振りかぶった姿勢を取っている悟空を見て、再び理解する。
「躱して蹴り返したのか!?デタラメが…!」
二度、脳裏に巣くう恐怖心。
ソレに突き動かされる様に、蹴り飛ばされた勢いそのままに距離を取る。
面倒極まりないこの状況は、ターレスにとって全く面白くなかった。
故に、唯一の打開策である”アレ”が心中の殆どを占めだした。
(早くしろ、スラッグ_)
内心でそうぼやいた…その瞬間だった。
_ゴオォ…!!!
「く、暗くなった…?」
戦場に響き渡る風切り音と共に、辺りが暗闇に包まれる。
元々暗かった暗黒魔界が、真夜中の様に黒に染まる。
…唯一、神精樹から立ち上る黄金の光を除いて。
「何の光だ…!?」
(遂に来たか…!)
驚愕を露わにするカメハメ。
だがターレスは分かっていた。
ソレを今か今かと待ちわびていたのだから。
(神龍。)
ターレスにとって、まさに希望の光だった。
(さぁ、今の俺すら上回るという”魔界の伝説”とやらを、さっさと出しな…!)
_ゴオォ…シュウゥゥ……!
「光が、赤くなっていく…!?」
「…何?」
だが次の瞬間、光が赤黒く染まる。
ターレスの思い描いたモノとは全くの別物。
そして完全に色が変わった…その時。
唐突に光が絶え、空が元の色に戻り…
「っ何か来るぞ!」
神精樹から、六つの赤い光が尾を引いて飛び散った。
その内の一つが、ターレスの元へと飛来する…!
「なっ…!?」
余りの速さを持つソレは、不意打ちめいてターレスの胸に直撃。
…刹那、ターレスの体が熱を帯びる。
そして…
「があぁぁぁぁ!!?」
赤黒い邪悪な気の奔流が瞬き、膨れ上がって彼を包み込んだ。
「災天 phase.2」
幻想郷
「ッ!!」
空を見ていた八雲紫が、禍き気配を感じていた。
彼女は遠い空の彼方にある暗黒魔界で、何かが起きている事を悟った。
そしてそれは、災厄の如き「何か」を生んでしまった、と!
「紫様、今日は凪の日で……!?」
紫の式神であり眷属でもある、九尾の姿をした少女「八雲藍」もまた、同じものを感じていた。
「魔界の方か、猛烈に嫌な予感がする。」
「彼ら、大丈夫かしら……。」
◇
赤い光を取り込んだターレスから放たれる邪悪な黒い気の奔流が、周囲一帯に『破壊』を以てその力を示しつつあった。
膨れ上がる瘴気の奔流は、魔界の木々を吹き飛ばし、岩盤を砂になるまで砕き、雑魚の魔獣や魔族を悉く殲滅していく。
その様子はさながら、人間の形をした災厄だ。
「禍々しい気、これほどとは……!」
ザルディンは六槍を盾にし、己を纏う風を最大限に吹き荒らすことで身を守っている。
だが、じりじりと追い込まれつつある。
肌を刺す電流のような瘴気は、疾風でも防ぎきれない。
「流石に拙い……サイクス!」
聖暈船で村紗と共に雑魚敵を倒していたサイクスの下に、ザルディンから念話による連絡が入った。
「どうした。」
「拙いぞ……あのターレスとかいう小僧、急速に力を高めつつある!」
「さっきから感じているこの強い瘴気、そいつのせいか。」
「ああ……間違いない!」
ⅩⅢ機関の中でも戦闘能力が高く、その上で策士としての一面を持ったザルディンには一発で理解できた。
心なきノーバディには似つかわしくない焦燥、そこまでを演じなければならないまでの危機。
「ならばどうする、こちらは雑魚魔獣の対処で手が回らんぞ!」
下した結論は、実に理性的であった。
ザルディンは下唇を噛みながら、目の前にいる暴威を前にして言いきる。
「実に業腹だが、一度撤退し体勢を立て直す。それしかあるまい!さもなくば諸共全滅だ!」
撤退。
一度この暗黒魔界を去り、状況と実力を立て直す。
戦いその者からの逃避ではない以上、屈辱ではあるが、恥ずべき行為ではない。
「……お前らしい結論だ、だが問題がある。」
サイクスは続ける。
「逃げること自体に問題はない。お前が恐れるほどの力なのだから、撤退は賢明な判断だ。だが、そうして逃げる俺たちをターレスとやらの一派が見逃すと思うか?それこそあの『樹』が爆発でもしない限りそうはならんだろう。」
そう言って、サイクスは奥にある神精樹を睨んだ。
あれほどに獰猛で、凶悪なサイヤ人、ターレスが逃げる自分達を見逃すわけがない。
きっと「逃げるなよ」と兇暴に笑いながら、蹂躙の惨劇をしてくるに違いない。
そうなれば、全滅という最悪の未来だってあり得る。
「つまり……。」
「『撤退経路を確保するまで、誰かが時間稼ぎをしなければならない』、だろう?」
ターレスの近くにいる誰かが、撤退までの時間を稼ぐ。
稼がないといけない時間は、どれほどになるかは分からない。
5分かもしれないし、1時間かもしれない。
それまでにターレスたちがこちらの狙いを看破するかもしれない。
そもそもの話、あれだけの膨大な力を纏った彼を相手に何分何秒持ちこたえられるかの問題もある。
「だが、誰かがやらなければ皆死ぬ、ならばやるしかあるまい。」
死だってあり得る危険な戦線。
誰かはその渦中にいなければならない。
ザルディンは、そこで戦うと言いきった。
「なに、殿は任せろ。この身が靄に砕けようとも成し遂げてやる。」
「星と影のあわい ― 大天狗と導師たちの夜語り ―」
森は静かだった。
風が梢を渡り、夜の気配を運ぶ。遠くで虫が鳴き、どこか優しく響いていた。
ここはリビルド・ベースから少し離れた森の広場。メメントスから帰還した日向月美が、
ひとり休息を取っていた。
中央で、月美は神刀・星羅を握り、夜空を仰ぐ。
「……私は、まだ弱い」
呟きは風に溶けた。
闇・月光――自らの父を象った影との戦い。勝利を得ても痛みは消えない。
斬ったのは、かつて自分を守ってくれた人の“面影”だった。未練、迷い、心に残る焔。
もう一度、父に会いたい――その想いをメメントスに利用されたのだ。
「……月美さん」
振り向くと、白い神事服の少女・エリセが立っていた。
夜気の中でもその瞳はまっすぐで、どこか月美を案じている。
「こんな時間まで起きてたら、身体が冷えるよ」
「……眠れそうに、なくて」
「だろうね。私も似たような夜を過ごしたことある。だから――少し、体を動かさない?」
エリセは天逆鉾を構えた。挑むように、優しく。
月美はわずかに微笑み、刀を抜く。
「……ありがとう」
「それでいい」
二人は向き合い、森が息を潜めた。
「やあああッ!」
先に動いたのは月美。霊符を放ち、射手の焔が夜気を裂く。
対するエリセは身をひねり、蒼紫の魔弾を放った。
「フライシュッツ!!」
焔と弾丸が衝突し、光が森を照らす中、肉迫する月美とエリセ。
刃と鉾がぶつかるたび、霊気が火花を散らした。
だが、それは殺意ではなく、互いを確かめ合うような優しい闘気だった。
やがて静寂が戻る。ふたりは息を整え、月を仰いだ。
「……少しは気が紛れた?」
「ええ。でも……」
月美は刃を見下ろした。
そこには、まだ拭えぬ迷いが映っていた。
「私は、未だ父の面影を追っている。それでみんなを危険な目に……」
その声はかすかに震えていた。
エリセは天逆鉾を下ろし、隣の倒木に腰を下ろす。
「月美さん、それは“弱さ”じゃないと思うよ」
「……え?」
「大切な人を忘れられないのは、ちゃんと愛してた証拠だよ。
それを“利用された”ことに怒るより、想える自分を誇りに思っていい。
だって、それがあなたの力なんだから」
その言葉は、夜風のように柔らかく胸に染みた。
月美は小さく息を吸い、目を閉じる。
「……あなたは、強いですね」
「ううん。全然。わたし、嬉しかったの。退魔師のあなたが、邪霊を引き寄せる体質の私を
仲間だって言ってくれた。だからメメントスであなたがシャドウに取り込まれた時……
助けられて、本当に良かったって思った」
エリセが笑う。その笑みは夜の灯のように温かった。
と、その時である。
「かんらからから、青春と言う奴か? いやいや、若い若い!」
夜風を裂くような豪快な笑い声。
森の奥から紅の甲冑を纏う女が現れる。白髪に黒白の羽飾り――鬼一法眼。
「……この気配、本質は人ならざるものですね」
「む? ほう、察しが早い。さすが退魔師の血筋よ」
肩に止まった黒い烏が鳴くと、森がざわめいた。
「構えるな構えるな。そう反応が良いと、ついからかいたくなるのよ」
かんらからから――と笑う声に、月美の警戒が解けかけた時……。
「……退魔師。お主、迷いを悪と決めつけすぎだ」
「……!」
「影がなければ光もない。闇を斬るだけでは理は歪む。
祓いとは、光と影をあるべき場所へ戻すこと――それが真の退魔よ」
月美は息を呑んだ。
その言葉は、父の影を斬った自分への答えのようだった。
「天の星は何故輝くと思う?」
「真っ暗な夜の闇の中にあるから……」
「左様。儂が京で弟子を取っていた頃もな、似たような若造がいた。
闇を憎み、闇を滅ぼそうとして、結局己まで闇に呑まれおったわ」
「……弟子、ですか」
月美が小さく問い返すと、鬼一は懐かしむように空を見上げた。
「源義経――名は聞いたことがあろう? そう。あやつもまた、光に焦がれ、闇を恐れた。 だが……人は光だけを見つめ続けることはできぬ。闇に怯えず歩むためにこそ、
退魔師はあるのじゃ」
ふいに鬼一が背後を振り返る。木々の間から二つの影が姿を現した。
「――ほれ、来たぞ」
「まったく……夜の森で大声を上げないでくださいまし」
扇を手にした玉藻の前が呆れ顔で現れる。
「ふふっ、やはりこちらでしたか」
その後ろから、静かに歩く牛若丸の姿。
「師匠、また夜に出歩いておられたのですね」
「おお、遮那王!」
遮那王とは、源義経の幼名である。
「あれが牛若丸……さん……す、すごい格好……」
「? 何か?」
牛若の軽装は、布の少なさを恥じる様子もなく、ただ機能を重んじた武者の姿だった。
「動きやすければそれで良いのです」
凛とした声。そこに一片の迷いもない。鬼一が笑う。
「はっはっは! どうじゃ退魔師、見目麗しいであろう?」
「師匠……そういう褒め方はやめてください」
牛若はため息をつき、月美の剣に目をやった。
「折角だ。遮那王よ、一手指南してやれ」
「心得ました」
牛若が抜刀。空気が変わる。刃が月の線を掬う。
「――参ります」
疾。残像が三つ、四つ。星羅が反射で迎え、火花が夜の鱗のように散る。
踏み込み、退き、また寄る。速さと閃きが幾度も交差した。
「速いッ……息を継ぐ間もない……まるで激流の中に晒されているみたい……!!」
「なかなかの手前。私も少しは気を入れて打ち込んでいるつもりですが……」
星羅の軌が微かに弧を描き、斬らず、絡め、受けて解く。
牛若の足が一足ぶん退き、驚く。
「……今のは、“断たずに収める”剣――」
「光と影を居場所へ戻す……真の退魔、でしょう?」
ぱん、と玉藻が扇を打つ。
「お見事ですわ、退魔師どの。理の通り道が、すうっと通りました」
鬼一はかんらからと笑い、肩の烏を撫でる。
「星と闇を抱いて一手に返す。名も良い。“星影一会”――刃を重ね合わせ、縁を繋ぐ。
星が繋がり合って、星座を成すようにな」
牛若が丁寧に鍔を合わせて礼を取る。
「迷いを捨てたのではなく、置き所を見つけた剣。……美しい」
月美は胸の奥の焔が静まるのを感じた。
「お父さんの影も、怖くない。恐れも、迷いも、私が抱いて、連れていく」
夜風がそれに応えるように頬を撫でる。梢が鳴り、狐火が二つ三つ、星の間を渡った。
「よし、今宵の稽古はここまでじゃ」
鬼一が大団扇をくるり。
「学びは満ち、腹は空く。風呂も飯も、温かいうちが良い」
「……出ました、老師の締め台詞ですわ」
玉藻があきれ顔で笑い、エリセが小さく肩を揺らす。
「元気出たみたいだね、月美さん」
「うん――ありがとう、みんな」
空は澄み、星は近い。
光と影のあわいで、退魔師は新たな兵法を覚えた。
「……では、退魔師殿? 授業料代わりに、風呂で僕の背中を流してもらおうかな?」
「え、ええ!?」
「師匠! ……すみません、退魔師どの。師匠は昔から美しい女性に目がなく……」
「かんら、からから!」
〈第一次魔界大戦:暗黒戦士の誕生〉
血の濁流を想起させる、赤黒い奔流。
先の神精樹によるパワーアップとは、まるで比較にならない暴威。
その波動は天変地異の如く、空を覆い尽くしていく。
「_あぁ、気分が良い。」
その真っ只中で、ターレスは静かに歓喜する。
「トワの奴、とびっきりのサプライズをしてくれたな…」
これが何なのかは、実際のところ何も知らない。
聞かされていたのは、魔界の伝説とやらを復活させるという言伝だけ。
これが伝説の実態なのか、或いはトワ個人の謀略なのかは預かり知る所ではない。
だが、ターレスにとって真偽はどうでもよい。
今ある力…胸に埋まっている"禍々しい一星球"こそが全てだった。
「おわぁーー!!?」
そして今まで彼と対峙していたキン肉マンは、彼の発する破壊の奔流に押し流されていた。
「ぐお、おぉぉ…!なんじゃ、この凄まじいパワーは…!?」
強靭な肉体は破壊こそされないものの、やすりの様に体を削っていく。
こうなれば、肉のカーテンも何も無い。
最早余裕など無いが、やはりというべきか、共に戦っていた悟空の事が頭を過った。
「悟空は…!?」
そう呟いた時、キン肉マンに降りかかる破壊の奔流が、突如としてぴたりと止んだ。
思わず空を見上げると、そこに一人の男の背中を見た。
「……」
「ご、悟空ッ…!」
彼はターレスから溢れるドス黒い濁流を、片手で弾いていた。
未だその瞳を開かず、無意識のままに。
一見平然としていても、実際は身体の至る箇所から流血している。
それでも、まるでキン肉マンを守ろうと濁流を受け止めている。
「_えぇい、私が受けよう!」
「…!」
キン肉マンが悟空の前に出たのは、咄嗟の判断だった。
逆らえない筈の濁流を掻き分け、肉のカーテンで真正面から受け止めに入ったのだ。
結果、キン肉マンの体はあちこちがボロボロになっていくが、悟空の体はこれ以上傷付かずに済んだ。
「…よぅ、まだ生きていたか。」
「ハァ、ハァ…」
「惨めなもんだぜ、互いに庇いあってこのザマか。」
やがて濁流が止み、ターレスが声を掛ける。
キン肉マンは、先の戦いに輪をかけてズタボロになっていた。
ターレスが嘲笑するように、今のキン肉マンは満身創意だ。
だが…それでも。
「この傷が、惨めなものか…!」
それでも、キン肉マンの眼は死んでいない。
このターレスという悪鬼羅刹を、必ず打ち倒すという決意に満ちていた。
「では、どうしようもない惨めさを思い知るがいい。」
片手に溜めた邪悪な気を、キン肉マンへと無造作に向ける。
すると滝の如きエネルギー波が巻き起こった。
「ぬおぉぉ…!??」
先の濁流すら上回る、破滅の奔流。
肉のカーテンを以てしても凌ぎ切れない力を前に、その腕に幾重にも傷が出来ていき、キン肉マンが苦悶を溢す。
「…!」
その声に反応してか、悟空の腕がピクリと動く。
次の瞬間、その姿が搔き消え…瞬時に、ターレスの背後へと回り込んだ。
「ッチィ!」
咄嗟にターレスが振るった空いた手が、拳と交差する。
「テヤァ!!」
エネルギー波を止め、再度腕を振るうターレス。
悟空もまた腕でブロックするが、直後腹部に衝撃が走る。
ターレスの蹴りが腹に食い込んでいたのだ。
意識の無い悟空の顔が、苦悶に歪む。
「クックック…随分と緩い守りだ。」
「っ……」
「一手先は上手く出来ても、それ以上は無理なようだな?」
変わらず沈黙を守る悟空に、しかしターレスは嗜虐的な笑みを浮かべた。
一瞬見せた表情だけで、底は知れたと言わんばかりに。
「では、死ねぇ!」
打ち付けていた拳を振り払い、ノーモーションのエネルギー波を放つターレス。
悟空は後方へ宙返りをし、躱した直後にターレスへと拳一閃。
まず避けられなかっただろう威力の拳が打ち込まれ、ターレスの身体がわずかに揺らいだ。
「ぐっ…貴様ァ!」
だが、それだけだ。
ターレスは歯を食い縛り、攻撃で硬直した悟空の頭へと拳を叩き込む。
ぐらりと悟空の体幹が揺らぎ、そこへ回し蹴りが放たれた。
「私を、忘れるな!」
寸での所でキン肉マンが割り込み、彼が蹴りを受ける。
だが威力は殺しきれず、悟空諸共錐もみ回転して吹き飛ばされていく。
「がっ…!?」
(ぬぅ、強い…!)
大地を転がる悟空達。
二人がかりでも、今のターレスへ有効打を一撃も与えられない。
共に死力を振り絞って善戦しているつもりだが、それでも逆に遊ばれている感覚さえ覚える。
この強さを前にどうすれば良いか、キン肉マンにはまるで思いつかなかった。
「…どうした、二人掛かりでその程度か?」
「ぐ、ぬぅ…!」
ターレスは、まるで余裕の態度を崩さない。
今やこの程度、歯牙に掛けるまでもないという事か。
「なら、お遊びはお終いだ。」
彼は両手を構え、気を集中させる。
そうして掌に顕れる2つの黒い輝きは、ブラックホールの様に冷たい。
今まで以上の邪悪な力を感じるそれを前に、キン肉マンは冷や汗を浮かべた。
(こんな物を喰らえば、ひとたまりも…!)
だが、最早避けるだけの時間も余力も無い。
せめてもの抵抗にと、肉のカーテンで悟空を庇う。
そしてターレスが腕に力を籠めると、ミニガンの様にエネルギー波が放たれる。
「二人仲良く、あの世へ行きな!」
刹那の迷いも無い光が、キン肉マン達を瞬く間に飲み込む。
連続で巻き起こる強大な爆発。
辺り一帯の大地が余波の烈風でめくり上がり、砕けていく。
凡百の者ならば跡形も無く吹き飛ぶ破壊力だと、一目で分かるだろう。
その輝きを一瞥し、ターレスは歓喜の声を上げる。
「ククク…ハハハハ!結局はこの程度か!」
嘲るように、呆れるように笑うターレス。
あれ程拮抗していた筈の戦力差が、一瞬にして崩壊したのだ。
悟空を、キン肉マンを、彼等が起こした善戦を、全てを笑い。
「ハハハ、ハーハッハッハッハッハ……ハァ、馬鹿馬鹿しい。」
…ターレスは笑うのを止めた。
まるで、燃え尽きたかのように。
「これ程までに復讐心を駆り立ててくれた癖に、こうもあっさりと終わるとはな。」
ターレスは、静かに空を仰ぐ。
「…いや、これで良いのさ。」
ターレスは自嘲し、ゆっくりと眼を閉じようとした。
「_あら、勝ち誇るにはまだ早くてよ?」
彼の耳に届く、女性の声。
ターレスは思わず目を見開いた。
眼前の爆炎から、その声は聞こえた。
…この魔界に神精樹を植えてから、先日までに幾度か相対した"神"の声。
「よう神様。こんなところまで、ご足労な事だな。」
「お陰様でね。あんな魔力を撒き散らされたら、誰だって気になるもの。」
爆炎が晴れ、露わになるその姿。
シルクの様に滑らかな長い銀髪。
赤いローブを纏い、3対の白い翼でキン肉マン達を庇う出で立ちは、超越者のよう。
有無を言わせない威圧感を漂わせる其れに、キン肉マンはただただ問いかける他無かった。
「あ、貴方は…?」
「私は神綺、魔界を作った神よ。」
そう名乗る彼女を遠巻きに見た霊夢は、一人ぼやいた。
「…こりゃまた懐かしいわね。」
「IRON Brother & Sister」
――エターナルベース。
破壊神の始動、悪の同盟軍のRUS侵攻……それに連動しての次元境界の不安定化が
続く中、ベースでは新素材の調達とMSパイロットの再訓練が行われていた。
「ジュドー、こっちはもう終わったぜ!」
ガロード・ランのガンダムXディバイダーが、資材コンテナを掴んで母艦に戻る。
ΖΖガンダムのジュドー・アーシタが笑いながら応じた。
「相変わらず仕事が早いな。ティファが見たら喜ぶぞ!」
「当然さ!」
ガロードは胸を張る。
「ティファのためなら、どんな任務だって頑張るに決まってるだろ!
エターナルベースの懐事情が潤えば、美味いメシも食わせてやれるしさ!」
その横で、ガンダムバルバトスルプスレクスを操る三日月・オーガスが静かに言った。
「……こっちも終了。素材は全部回収した」
通信越しにオルガ・イツカの声が響く。
『よし、上出来だ。お前ら、そっちが終わったらシミュレーションに移れ」
「了解!」
ジュドー、ガロード、三日月――三人はそのまま訓練区画へと向かった。
訓練ドームに展開された仮想戦場。AIが無機質な声で告げる。
『対戦相手:選定。シミュレーション、開始します』
次の瞬間、目の前の虚空に赤い光。
現れたのは――キュベレイMk-II(プルツー機)。
「わあ、プルツーが相手なの?」
「ふん、ジュドーとベタベタして……お気楽だな、プル!」
「へへ、プルツー、羨ましいんでしょ?」
「だ、誰が! 訓練だからって手加減しないぞ!」
エルピー・プルの遺伝子によって生み出された瓜二つのクローン体、それがプルツーだ。
ネオ・ジオンのニュータイプ兵器として悲しき兵器として生み出された強化人間。
だが、このエターナルベースではその呪縛からも解放され、こうして姉妹のように
生活を共にしている。
「お手柔らかに頼むぜ、プルツー!」
ΖΖが発進、プルのキュベレイMk-2がそれに連動。
「ジュドー、行くよ!」
「おう、プル!」
同時刻、別ブロック――ガロード・ランの前に現れたのは
フリーデン隊のクルー、ウィッツ・スーの可変機型高機動MS・ガンダムエアマスターと
重火器武装MSのロアビィ・ロイのガンダムレオパルド。
「ウィッツとロアビィが相手か!」
「面白ぇ。勝負だ、ガロード!」
「たまにはこう言うのもアリかな」
ガロードの胸に、熱いものがこみ上げる。Xの字の背部ブースターを展開し、
全力で加速。
「ガロード・ラン、行っちゃうぜェ!!」
そして三日月・オーガス。システムが静かに告げる。
『対戦データ照合――登録名:ガンダム・グシオンリベイク。』
「……昭弘か」
モニターに映るのは、鉄華団において三日月に次ぐMSパイロット、
昭弘・アルトランド。筋肉質の体格に恵まれた寡黙な男。
「……シミュレーションとは言え、やるからには本気で行くぜ、三日月」
「手加減する方が逆に面倒だしね」
「へっ、言いやがる」
三日月は迷いなく鉄槌を構える。
「ファンネルッ!!」
宙に散る無数のプルツー機のファンネルが花弁のように展開し、ΖΖを取り囲む。
「こっちだって!!」
それを迎撃すべく、プル機も負けじとファンネルを射出。
赤と黒のキュベレイMk-2。パイロットも機体性能もまったくの互角。
プル機とプルツー機のファンネルの攻めと守りの応酬による光の中、
ジュドーが操縦桿を引き、ΖΖガンダムが急上昇。
「行くぞ、ZZ!!」
ΖΖが反転、背部からビームキャノンを逆撃。その光の帯がプルツー機のファンネル群の
射線を切り裂き、一時断ち切る。一瞬、流れが止まった。
「くっ……!」
「もう一撃……何っ!?」
「おっと、ごめんよ!!」
戦闘機形態となったウィッツのエアマスターが、ZZの前を横切りながら
バルカンによる斉射を浴びせかける。
「おわっ!?」
「隙ありだよ!」
「なっ……!」
プルツー機の掌から放たれるビームガンの連射。ΖΖの装甲をかすめ、火花が散る。
装甲表面に施された対ビームコーティングのおかげで深刻なダメージには至っていない。
「へへっ、やるじゃねぇか! チャンスを見逃さなかったな。
でも――負けないかんね、妹分!」
「い、妹……!? ジュドーの奴、相変わらず変な事言ってあたしを惑わせる!」
「あたしもジュドーの妹だもん!」
「お前は黙っていろ、プル!」
別ブロックでは、三機のMSが宙域を縦横無尽に飛び回っていた。
足の早いエアマスターが高速機動を活かして戦列に合流、レオパルドが長距離砲撃で牽制。
ガロードのディバイダーはその狭間を突き抜ける。
「よう、おかえりさん、ウィッツ」
「俺が向こうに行ってる間にやられてなくて何よりだったな」
「ウィッツ、ロアビィ! 二人まとめて相手してやるぜ!」
「上等だ! 昔の“新人ガロード”じゃないんだろうな!」
「そっちこそ、腕が鈍ってないか見せてもらおうじゃないの!」
ロアビィのミサイルポッドが一斉発射される。
ガロードがビームマシンガンで狙い撃ち、弾幕を誘爆させるがその爆炎の中から
エアマスターが突貫してくる。
「このっ!」
ビームマシンガンの弾丸がエアマスターの翼を掠める。バレルロールで避けきり
そのまま突っ切ってきた。
「おっと危ねぇ! 狙いが正確になってやがる……あの頃のガキとは違うな!」
「へへ、おだてても何も出ねえぜ? それにまだこっちには奥の手がある!」
かざしたシールドが展開し、エアマスターとレオパルドを照準に捉える。
「やべっ……」
「アレか!」
「ハモニカ砲ッ! 喰らえええええええええええッ!!」
シールドを兼ねた19連装大出力ビーム砲。一度に大多数の敵を攻撃する事が出来る
応用性の高い武装である。ドームが震えるほどの光の奔流に飲み込まれた
ウィッツとロアビィが笑ってシミュレーション空間から消えていく。
『あーらら、一本取られたね、どうも』
『やるじゃねぇか、ガロード! 今度は負けねぇぞ!』
勝負を決し、ガロードは深く息をついた。
「……いい勝負だったぜ、二人とも」
ガンダム・バルバトスルプスレクス vs ガンダム・グシオンリベイク。
鋼鉄の巨人二機が真正面から突進。
バルバトスの鉄槌が、グシオンリベイクのシールドに叩きつけられる。
「流石に硬いな、グシオン……昭弘に似て、ガチムチだ」
「俺もこいつもそいつが取り柄だからよ!!」
グシオンの脚部スラスターが閃光を走らせ、低軌道で突進。
重装甲の拳が三日月の機体に食い込む。衝撃で警告音が鳴り響くが
三日月は微動だにしない。
「……こいつを使うか」
淡々と呟くと、尾部ワイヤーを連動、縦横無尽に飛び回ってグシオンを斬りつける。
「ぐおっ……!?」
「取った」
次の瞬間、太刀を素早く抜き放ち、轟音と共に、グシオンの胸部を刺突。
光が爆ぜた。残滓のように、昭弘の声が響く。
『……ホント、容赦ねえな、お前』
「後で食堂奢るよ」
『タイムアップ。シミュレーションを終了します』
〈第一次魔界大戦:一時終局(前編)〉
エネルギー波からキン肉マン達を守った魔界の神、神綺。
ターレスの暴力的な圧を前にして、彼女はただ不敵な笑みを浮かべていた。
「御機嫌よう、キン肉マン。貴方の事は"彼"から聞いているわ。」
「わ、私の事を知っているのか!?彼とは…?」
その問いに、神綺は答えない。
代わりに身を翻した神綺は、一転して鋭い目付きをターレスへと向けた。
彼女の視線の先には、不敵に笑うターレスだ。
「随分な余裕ね…あの樹で何かやっているとは察していたけど、その球っころは危険ね。」
「だろう?ククク…これさえありゃ、全宇宙を跪かせる事だって、夢じゃないさ。」
堪え切れない笑いを漏らすターレスを、神綺は黙って見据える。
彼女の目に宿るのは、憤りだった。
「魔界の秩序を乱しておいて、今度は宇宙…大きく出たわね。」
「ハッ、今暴れてるのは、他でも無い魔界人だろう?」
「そう誑かしたのは、貴方達でしょうに…!」
神綺は飛び上がると、無数の弾幕を展開する。
怒濤に押し寄せるそれ等に、ターレスはエネルギー波を照射して薙ぎ払い、空けた空間へと回避。
そのまま正拳突きを放つと、拳圧が弾幕を一直線に破砕。
尚も威力の落ちない余波が神綺を襲うが、即座に羽根で身を包み、その衝撃を和らげた。
「隙が見えたな?」
「っ!」
しかしその硬直を狙いすまし、ターレスが急接近。
真正面から、貫き手を放つ。
(イ、イカン…止められん…!)
「まずは一発、喰らってみな!」
庇おうとするも、体中の傷が痛み、咄嗟に上空へ飛べないキン肉マン。
そのまま脳天に拳が打ち付けられる_
「_夢子。」
刹那、神綺の一声で、何者かが間に割り込んだ。
その者が構えた燃え盛る剣が交差し、火花を散らす。
「チィ、貴様もいたか…!」
「当然です。」
続けざまに繰り出される弾幕を前に、後方へと距離を取るターレス。
夢子は無数の弾幕をターレスへと射出し、気弾とぶつけ合って相殺。
暴力的なまでの爆炎が膨れ上がり、壁の様に両者を分断する。
壮絶な戦いに、キン肉マンはあわあわと震えた。
「ヒエェ…あの力と対等に渡り合っておる…!」
「いいえ、違うわ。」
神綺は、爆炎に煌々と照らされる夢子を見つめて語る。
「夢子の腕、震えているでしょう?さっき、拳に剣を打ち付けた時のよ。」
彼女の言う通り、夢子の腕には僅かだが震えが出ていた。
「た、確かに…!」
「夢子は、私が作った中で最強の魔界人。その夢子の腕を、たった一撃…それも武器越しの衝撃で震えさせるなんて…最早、神の領域よ。」
そう語る神綺は、静かに歯噛みし戦慄していた。
「_ゴハッ…!」
そこに追い打ちをかけるが如く、悟空は突如として全身から血飛沫を上げ、がくりと項垂れた。
「悟空!?」
「彼のその力、どうやら重い代償があるようね。」
動揺するキン肉マンとザルディンに、神綺は静かに呟く。
ターレスとの戦いで、今のターレスにも何とか食らいついていた力。
そんな得体の知れない力の代償は、やはり大きかった。
「ま、拙い…レタスとやらが見たら、黙ってないでは無いか…!」
死に掛けとなった悟空は、チームのウィークポイントだ。
思わぬ危機に、キン肉マンが冷や汗を流す。
「ならば、悟空を運ぶ任を請け負おう。」
「ザルディン…!」
そこに口出ししたザルディンは、悟空を背負った。
「アビダインから来たお主は、脇腹の傷が治っておった。治す手段があるのだろう?」
「…あと一度だけだが。」
「十分だ。」
彼は槍を竜の様に連ならせて宙に浮くと、そのままアビダインへと飛翔する。
「逃がすか、カカロット!」
その後ろ姿を捕らえたターレスが、追撃に掛かる。
だが。
「させんッ!」
間に割り込んだキン肉マンによる、肉のカーテン。
ターレスは思わず弾かれ、悟空達をみすみす取り逃がしてしまった。
「貴様…そんなに死にたいか?」
「いいや、死ぬ気は無いさ…!」
「なら、死んだ方がマシだったと思わせてやる…!」
静かな怒りの色に染まった台詞と共に、腕が引き絞られる。
キン肉マンは、腕に力を込めて構えた。
だが…
「ハァッ!!」
「グアァッ!!?」
拳一閃。
ターレスの拳は、なんと肉のカーテンを貫き、キン肉マンの顔面を捉える。
烈風を伴う衝撃がキン肉マンの頭部を突き抜け、鮮血が風に乗って舞う。
「あが、ぁ…」
ぐらりと体幹が揺らぎ、僅かだが意識を持っていかれるキン肉マン。
「もっと喰らいな!」
「させないわ。」
続けざまに連撃を叩き込もうとするターレスだが、神綺がキン肉マンを庇いながら飛び去る。
寸での所で回避をしたが、ターレスの追跡は止まらない。
「逃がさんぞ!」
「夢子…!」
「仰せのままに。」
その妨害をせんと、夢子が合間に入って弾幕を展開する。
「貴様ら、邪魔だァー!!!」
しかしターレスは邪悪なオーラを高め、弾幕を薙ぎ払ってしまう。
その余波で硬直した夢子に、渾身の右ストレートが放たれた。
「っつぅ…!?」
見事に直撃した痛烈な一撃は、夢子を吹き飛ばし、蹲らせる。
そこへ、更に追撃を掛けようとするターレス。
「さ、せん…!」
だが、ギリギリで意識を取り戻したキン肉マンが割り込み、拳を受け止める。
ターレスは舌打ちをしながら、一旦距離を取った。
「チッ…まぁいい、あの世へ行くのが遅くなっただけさ。」
(何か、何か逃げる方法は無いか…!?)
勝機どころか、逃げる事すら叶いそうに無い。
正に絶望と呼べる状況に焦りを募らせた…その時。
『オメェ達、生きてっか?』
頭の中に、声が響く。
(その声…無事なんだな、悟空!)
そう、悟空のテレパシー能力だ。
嘗てベジータ達が地球に襲来した時にも使われた、悟空の余り知られていない能力の一端である。
『あぁ。ウーロンの持ってた仙豆のお陰で、何とか生きけぇれた!』
どうやら、ザルディンは無事に悟空をアビダインへと届けたらしい。
『後はオメェ達も、ソイツから逃がすからな。』
(逃がすって…一体、どうするんだ?)
『ソイツを吹っ飛ばしてくれ、隙を突いて瞬間移動すっぞ!』
(そうか、瞬間移動か!)
キン肉マンの目に、希望の光が灯る。
「何だ貴様…急に顔色を変えて_」
「_二人とも、一気に攻めるんじゃ!」
「っ分かったわ!」
彼の目を見た神綺が、弾幕を生成。
夢子も無言で頷き、同様にナイフを生み出して射出。
ターレスへと、強烈な弾幕が浴びせられる。
「な_」
「テリャアー!」
「ぐあっ…!?」
咄嗟に弾幕を殴って搔き消すも、そこへ不意打ち気味に放たれたタックルが見事に直撃。
強靭な質量によって、ターレスは大きく弾き飛ばされる。
その瞬間を狙い、悟空がキン肉マンの元へと瞬間移動した。
「二人とも、悟空に捕まってくれ!」
「え、えぇ…」
キン肉マンが呼びかけると、神綺と夢子は悟空に捕まる。
そして悟空はターレスを見て、口を開くとこう告げる。
「またな。」
直後、悟空達は消え去る。
一人残されたターレスは、顔を怒りに染めて叫んだ。
「ク…クソッタレェーーー!」