命名

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1人目

「ここさ、踊り場っていう名前にしよーぜ」
「ただの階段の途中じゃないか
実際に踊ったら危なくて仕方ないぞ
僕なら曲がり階段と名付けるね」
時は明治
高層ビルが建ち始めたばかりの日本
この命名に関しては絶対に譲るべきではなかった
今では後悔している

2人目

枚方銀蔵老人はベッドの上でため息をついた。
「違う。私じゃない。私の監督した現場でアイツが言い始めただけだ。私じゃないのに……」
そのせいで、階段で踊って致命的な事故に至ったとかいう全国のバカたちが、彼に筋違いの罵声を寄越すようになった。
「銀蔵さん。お手紙です」
感情を感じさせない声に彼は顔を上げる。家政婦のサチが手紙の束を手に立っていた。
「読んでくれないか?」
「何故です。私はあなたの秘書ではありません。あなたへの私信の内容を知るまでの権限も、それに見合った給金もいただいておりません」

3人目

銀蔵は、冷たく突き放すような物言いのサチの顔をじっと見た。彼女の瞳の奥には、どこか彼を責めるような、しかし諦めに似た暗い光が宿っている。
「お前は、アイツを知っているな」
銀蔵の言葉に、サチの表情が微かに固まった。 「…存じ上げません」