追跡
エルヴァンは、湿ったジャングルの奥深くで、慎重に足を進めた。背の高いシダ植物が絡み合うように生い茂り、足元では湿った土がわずかに沈み込む感触がブーツに伝わる。空気は重く、熱帯特有の蒸し暑さが彼の額に汗を浮かべていた。背中に背負った軽量の通信水晶からは時折微かな魔力の波動が漏れ、遠くにいる議会の存在を思い出させた。
「現在位置、セクター7の北東部。目標の尾行を継続中」と、エルヴァンは低く抑えた声で通信水晶に囁いた。
目の前を進む二つの影――黒い装備に身を包んだ二人組は、まるでジャングルの闇に溶け込むように動いていた。
彼らの動きは熟練の暗殺者のそれで、足音はほとんど聞こえず、時折、枝を避ける際のわずかなマントの擦れる音だけが響いた。
エルヴァンの視線は鋭く、彼らの行動を一瞬たりとも見逃さないよう注視していた。
議会からの情報によれば、この二人組は、ジャングルの奥に隠された「聖域」に向かっている可能性が高い。聖域の詳細は不明だが、近隣で観測された異常な魔力の波動と関係があるとされていた。エルヴァンの任務は、彼らの目的地を突き止め、可能な限りその情報を議会に伝えることだった。
不意に、先行していた二人組が足を止めた。エルヴァンは反射的に大樹の陰に身を潜め、息を殺す。心臓の鼓動が耳の奥で激しく鳴り響く。
「…気づかれたか?」
彼がそう疑った瞬間、一人が地面に手を触れた。
一人が地面に手を触れてから少しすると、空間が歪んだかのように、先ほどまではなかった建築物が姿を現していた。
「何が起きたんだ!?さっきまで何もなかったはずだ……」
エルヴァンは、目の前に光景に驚きを隠せないでいた。
エルヴァンは、議会との情報共有をするため、少し離れた距離で移動をすると、気付かれないように気をつけながら、小型撮影機器を用いて、映像を議会へと送っていた。
しかし、議会側の人間は提供された映像を見て、驚きを隠せないでいた。
「な、なにも映っていない」
エルヴァンから送られてきた映像には、彼が目の前に見えている建築物の姿形も全く映っていなかったのである。議会側は、送られてきた映像について、戸惑いを隠せないでいた。