プライベート CROSS HEROES reUNION 第2部 Episode:21
「Prologue」
【エターナルベース/自由の意味編】
エターナルベースでは、次元不安定化に備えた資材回収と
MSパイロット再訓練が進められていた。
ジュドー、ガロード、三日月は訓練ドームで模擬戦に臨み、
それぞれプル&プルツー、ウィッツ&ロアビィ、昭弘と激突する。
模擬戦ながら全力の戦いは、彼らが最前線で生き抜いてきた証そのものだった。
訓練後、三日月は「ここで留まる意味」を問い、鉄華団としての在り方に迷いを見せる。一方ガロードは、ティファとの穏やかな時間の中で戦う理由を再確認する。
その頃、広場では強化人間の少女ドゥー・ムラサメが、プルとプルツーと語らっていた。
かつて“部品”として扱われてきたドゥーは、戦わなくても咎められないこの場所で初めて「自由」を知る。
プルは「生きているだけでいい」と語り、プルツーもまた、
強化された自分を否定しなくていいと気づく。エターナルベースは、
戦うために生まれた者たちに、戦わずに生きる未来を示す場所となっていた。
【超越者査定編】
界王神界、神域にすら干渉するその気配は、破壊神ビルスが超越者たちと共に
地球へ向かっていることを示していた。
老界王神は、破壊神の行動が「宇宙の均衡そのものの査定」であり、
下手な介入は破滅を招くと判断する。
同時刻、神浜市では魔女結界が異常活性化。魔女や使い魔は通常より過剰に増殖し、
明日香・れん・こころ・まさらの魔法少女たちは「魔女が何かを恐れている」
異常な兆候を感じ取る。連携攻撃によって魔女を討伐するが、
これは街に迫る“より大きな存在”の前触れに過ぎなかった。
やがて、破壊神ビルス一行(ウイス、ゼルレッチ、オーマジオウ人間態、トランクス)が
地球・神浜市へ降臨。暗黒魔界が“死に始めている”こと、神精樹の存在が
均衡を崩している可能性を確認し、世界の査定を開始する。
その最初の査定の場となったのが、偶然立ち寄った中華料理店「万々歳」。
由比鶴乃の作る「突出しないが毎日食べられる50点の味」を、
ビルスとウイスは“均衡を保つ象徴”として高く評価する。ゼルレッチとオーマジオウも、
人の営みが続く価値を認め、ひとまずは第一査定を合格する。
しかしこれは猶予に過ぎない。神々は、英雄たちが戦う「戦争の行方」ではなく、
世界そのものが生きるに値するかを見極めに来ていた。
破壊と創造の境界で、全ての歯車はすでに回り始めている。
【特異点編】
特異点リビルド・ベースにて、ペルフェクタリアは
カルデア屈指の武人・李書文と邂逅する。
互いの拳に宿る理を確かめ合うように始まった手合わせは、勝敗を競うものではなく、
「拳とは何か」「生き様とは何か」を問う、魂同士の対話へと昇華していく。
李書文の極みに触れたペルは、
“殺す拳”とは単なる破壊ではなく、「己を活かすための術」であることを学ぶ。
未だ至らずとも、確かな一歩を踏み出したペルは、武の道を進む決意を新たにする。
一方、夜の森で独り迷いを抱える退魔師・日向月美。父の影を斬った過去と、
その痛みは未だ彼女の心に残っていた。
そこへ現れたエリセとの手合わせ、そして鬼一法眼、玉藻の前、牛若丸との邂逅を
通じて、月美は「迷いは弱さではなく、力の一部」であることを知る。
牛若丸との稽古の中で、
“斬らずに収める剣”“光と影をあるべき場所へ戻す退魔”という新たな境地に辿り着き、
月美は恐れや迷いを否定せず、抱いたまま進む覚悟を固める。
カルデア司令室では、ダ・ヴィンチの分析により、
次なる戦場がエタニティ・コア遺跡であることが示される。
多くの英雄たちはリ・ユニオン・スクエアへ向かうが、
ペルと月美は特異点に残る決断を下す。理由はただ一つ――
ペルにとって最も大切な存在、平坂たりあの手がかりが、藤丸立香の知る夢の中に
あるからだった。
前線へ向かう仲間たちと、後方を守る者たち。
それぞれが「守るもの」を胸に、別々の戦場へ進んでいく。
【第二次エタニティ・コア 序章編】
特異点リビルド・ベースと、メサイア教団の空中要塞ユートピア・アイランド――
二つの戦線を越え、戦士たちがトゥアハー・デ・ダナンに集結する。
介人とソウゴは再会を果たし、宗介・かなめもまた、海上に“新たな大陸”と化した
ユートピア・アイランドの残骸を目にして、留守中に起きた事件の規模を痛感する。
クルツやマオら、後方で奮闘していた者たちも合流し、束の間の帰還ムードが流れる。
だが、ブリーフィングでテッサが告げたのは、さらに深刻な現実だった。
ユートピア攻略と同時期、TPU本部周辺にムゲ帝国の兵器・戦艦が突如出現し
再侵攻を開始。さらに戦闘の最中、謎の集団ライラーがナースデッセイ号へ内部侵入し、
トキオカ・リュウイチ隊長が拉致されたという。敵は単独ではない。
ミケーネ帝国、暗黒魔界、メサイア教団――それぞれが別勢力でありながら、
結果として同じ方向へ噛み合うように動いている。
テッサは、これが偶然ではなく、“複数の脅威を束ねる何者か”の存在を示唆する。
外では警戒灯が回り、嵐が終わらないどころか増していく気配が漂う。
甲板では悟飯とクリリンが、閉ざされた暗黒魔界航路の揺らぎを見つめ、
悟空たちの帰還を信じて待つ。いろは・やちよ・承太郎もまた、ペルと月美が
特異点に残った決断を知り、各々が“今できることをやるしかない”と覚悟を固める。
そこへ葉月考太郎博士(長官)から連絡が入り、エタニティ・コア遺跡周辺の警備が
秘密裏に強化されていた事実が明かされる。しかし直後、未確認勢力が遺跡へ接近。
ついに戦端が開かれ、ミケーネの戦闘獣軍団、ジオン族、竜王軍らが
エタニティ・コア強奪へと押し寄せる。
その瞬間、遺跡を貫く巨大砲撃――超獣機神ダンクーガが復活し、
敵陣を薙ぎ払って戦線に割り込む。操るは獣戦機隊。
彼らはトップシークレットで復元を進めており、完全ではないながらも、
“ムゲ帝国が動いたなら黙っていられない”と出撃していた。
獣戦機隊の野性と闘志は、落ち込んでいたマナカ・ケンゴの心にも再び火を灯し、
彼はトキオカ隊長奪還を誓う。
ダンクーガ参戦に呼応し、ゲッターチームも闘志を燃やし、ゼンカイジャーや
マジンガーチームも救援出撃の準備に入る。艦橋では情報整理が加速し、
テッサは「これからの戦いは一つの敵・一つの戦場ではない」と改めて噛み締める。
そして艦は新たな異世界反応――敵増援の兆候を捉え、全面戦闘が避けられない局面へ
突入する。甲児は宣言する。
「待ってろよ、忍さん! マジンガーZが今行くぜ!」
嵐は終わらない。むしろ、いま――さらに荒びを増していく。
【災天と昏炎】原文:霧雨さん
――――それは運命の裁定か、或いは滅びへの道程か。
暇を持て余すように待機していた天宮彩香は、
誰に気づかれるまでもなく恐るべきものを感じ取っていた。
破壊神ビルス、天使ウイス、魔道元帥ゼルレッチ、魔王たるオーマジオウ。
アマツミカボシの力が『彼ら』の降臨を予感させていたのだろう。
超越者の一人である虚数姫カグヤもまた、感じ取っていた。
同胞の降臨を、来たる裁定の時を。
CROSS HEROESに、裁定が下ろうとしていた――――。
時を同じくして、霧切は昏いものを未だ抱いたままだった。
一度復讐心にとらわれた脳髄が、それを手放せないように。
かに燃え盛るような劫火は消え去った。だが、復讐の昏炎は毒のように身を侵しながら、
まだ火の粉のように燃えている――――。
裁定と復讐。
その果てに彼らは、答えを見出すことはできるだろうか?
【暗黒魔界:撤退編】原文:ゼビウス(カソード)さん
ターレスの進化は、悟空達の力を遥かに超えていた。
彼の持つサイヤ人の特性と暗黒神精樹によるパワーアップの合わせ技は、
悟空の超サイヤ人3すらも凌駕してしまったのだ。残ったキン肉マンは『火事場のクソ力』を発揮し、応戦。一時は善戦するも、次第に追い詰められていく。
…そこに、謎の力を宿した、意識の無い悟空が戻ってきた。
古明地こいしが悟空の『無意識』を引き出して露わになったその力は、
今のターレスと見事に渡り合う。先程までの苦戦が嘘の様に、
ターレスの骨身に圧倒的な力を刻み込んだのだ。
だがそのまま勝利を得るかに思われた時、暗黒神精樹から光が昇った。
それは、ドラゴンボールから神龍が呼び出された光だった。
地上から消えていたドラゴンボールは、魔界の者に集められていたのだ。
そしてドラゴンボールから光が止むと、今度は赤黒くなったドラゴンボールが飛び散り…その一つが、ターレスに埋め込まれる。直後、ターレスの体から力の本流が放たれる。
大地を蹂躙するそれを凌いだキン肉マン達が見たのは、更なる力を得たターレスの姿。
『暗黒戦士』とも呼ぶべきその者は、『神』の領域に片足を踏み入れていた。
ターレスはその力で、キン肉マン達を一方的に叩きのめす。
先程まで戦いの主導権を握っていた悟空の『無意識』の力にすら、逆に圧倒する程に。
もはや戦いとは呼べない一方的な蹂躙に、彼らは成す術が無い。
だがそんな悟空達の窮地に、『魔界の神』が現れる。その名は神綺、悪魔将軍と共に魔界を作った神だった。
凶悪化したターレス、『無意識』の力の代償によって倒れ伏す悟空、
そして神綺という援軍。これ等の状況を前に、キン肉マン等が下した決断は
『撤退』だった。彼らはターレスを搔い潜り、アビダインへ撤退。
期せずして悪魔将軍達とも合流し、岸辺露伴が得た情報源と共にそのまま魔界から脱出。
こうして第一次魔界大戦は、幕を閉じた。
『神』と渡り合うには、彼らも『神の領域』に踏み込まなければならない。
…その時は、もうすぐそこまで迫っていた。
「清廉なるHeretics」
――特異点リビルド・ベース。
リ・ユニオン・スクエアは、エタニティ・コア遺跡に侵攻した
ミケーネ、ジオン族、竜王軍を追って、ゼンカイジャー、マジンガーチーム、勇者アレク、バーサル騎士ガンダム、 宗介たちの機影が、歪む空の向こうへ消えていく。
その光を、ペルフェクタリアは最後まで見送っていた。
隣には、日向月美。
「……行ったね」
月美が、小さく言う。
「行った」
ペルは短く答えた。感情は抑えられている。だが、無関心ではない。
前線に行かなかった理由は、単純だ。
ここには、まだ“取り戻していないもの”の手掛かりがある。
そして——ここでしか、できない戦いがある。
その時、通路の奥から、静かな足音が近づいてきた。
「まあ……やはり、こちらにいらっしゃいましたのね」
現れたのは、清姫だった。 陽に照らされ、和装の輪郭が柔らかく浮かび上がる。
「日向月美さま。あなたも……迷いを抱えたまま、残る選択をなさった方」
「……はい。それに、ペルちゃんだけを残していくわけにはいかないから」
月美は、ゆっくりと頷く。ペルは、清姫へ視線を向けた。
「藤丸立香」
唐突な名。
「あいつは、夢の中でたりあに会ったと言った。嘘の匂いは、しなかった」
清姫の目が、すっと細くなる。扇で口元を隠しながら、静かに答えた。
「ええ。ますたぁが嘘をつくはずはありませんもの」
声色は穏やかだが、その奥に熱がある。
「わたくしは、嘘が……大嫌いですの」
清姫は、静かに言う。
「世界を焼き尽くすほど、嫌い。それが理由で、誰かが壊れるのを見るのは……
耐えられませんわ」
ペルは、わずかに目を伏せる。
「……私は、嘘の匂いが分かる」
短い告白。
「だから、分かる。あいつは、本当のことを言っている」
清姫は、ゆっくりと頷いた。
「ますたぁは時折、夢の世界へ魂を引かれるのです」
その時、通路の奥から、はっきりとした足音が響く。 現れたのは、藤丸立香。
その半歩後ろにはカルデアの制服姿のマシュ・キリエライト。
「……呼ばれた?」
「ますたぁ♥」
清姫が、即座に声を上げる。ペルは、清姫にまとわりつかれる藤丸を
真っ直ぐに 見据えた。
「問いただす」
短く、しかし逃げ場のない声音。
「お前が見たと言う夢の世界に行く方法は無いのか?」
「行けるとは限らない。夢は、自在に行ける場所じゃない」
「……」
即答。おためごかしを言っても立ち行かない。それは藤丸なりの誠意でもあった。
落ちる沈黙を、柔らかい声が破った。
「……行きたい?」
全員が振り向く。熊のぬいぐるみを抱く金髪・碧眼の少女が、
影から這い出るように姿を現していた。
アビゲイル・ウィリアムズ。
その幼気な姿からは想像だにしない不気味なオーラが背後に立ち昇っていた。
(何だ、こいつは……)
「夢の世界……」
その額に、一瞬だけ幻のような鍵穴が浮かぶ。奥底で、何かが“瞬き”をした。
「門を開きましょう……」
ペルは、少女を見る。
「……たりあに……会えるのか?」
「あなたを呼んでいるわ。とても会いたがってる」
「……この魔力……」
マシュの声が、わずかに震えた。いつものアビゲイルではない。
「先輩……アビゲイルさんは……!」
盾を構えかけたその動きは、しかし途中で止まる。敵意ではない。
だが、人の手に負える領域ではない何かを、本能が感じ取っている。
アビゲイルは、困ったように首を傾げた。
「だいじょうぶ。こわくないわ」
そう言いながら、抱えていた熊のぬいぐるみを、ぎゅっと胸に抱き直す。
その言葉と同時に、空間が、きしりと軋んだ。“ここ”という場所そのものが、薄く伸びる。 ペルフェクタリアは、一歩も退かなかった。
目を逸らさず、少女の額に浮かぶ鍵穴を 見据える。
「たりあに……会えるんだな?」
アビゲイルは、指先で空をなぞる。空間に、細い亀裂が走る。
夢と現実の、境界線そのもの。そこから、微かに――
『……ペル……』
聞こえた。確かに、そこに――たりあの声があった。
ペルの身体が、ほんの一瞬だけ強張る。胸の奥で、何かが強く脈打つ。
――会いたい。ただそれだけの、純粋な意思。
月美も、気づいていた。隣に立つペルの空気が、僅かに変わったことを。
「……ペルちゃん……」
ペルは一歩、前へ出る。
「たりあ」
呼ぶ。
「私は、ここにいる。ここにいるぞ!」
アビゲイルは妖しく微笑む。
「会いたい気持ちが、門を開く……」
「会いたい。それ以上の理由は、ない。そのために、ここまで来た」
ペルがこれまで戦って来た理由。月美が、星羅に手を添える。
「……一緒に行くよ、ペルちゃん。戻る時も、戻れない時も」
藤丸は、マシュを振り返る。
「覚悟は?」
「……はい、先輩」
マシュは盾を構えた。次の瞬間――門が、完全に開いた。世界が裏返る。
視界が白く焼け、 次に色を取り戻した時、そこにあったのは――
「……ここは……?」
月美が呟く。
「似ている……私がいた世界にあった街に……」
ペル、月美、藤丸、マシュ……4人が立つ丘の下に広がる、
かつてペルが見た覚えのある街並みだった。だが、何かが違う。
一方、その頃。
特異点リビルド・ベース。ひとりその場に取り残された清姫。
「……まあ」
顔色が変わる。
「ますたぁに、マシュさんまで……大変ですわ……」
即座に踵を返す。
「ダ・ヴィンチさまに、報せなければ」
走り去りながら、清姫は歯を食いしばる。
門は開いた。胡蝶の夢が如き、現実と虚構の境界は、もはや判別できなかった。
丘を吹き抜ける風は、生温かく、どこか懐かしい。
街並みは確かに“存在”しているのに、人の気配が薄い。
遠くで聞こえるはずの生活音は、舞台装置のような無機質さを漂わせている。
「……ここは、嘘の世界だ」
ペルが低く言う。
「壊さないために、閉じている世界だ。嘘で街全てを包みこんでいる」
藤丸は周囲を見回し、息を整える。
「固有結界のような……優しくて、でも――徹底的だね」
マシュは盾を構えたまま、一歩前に出る。
「先輩。この世界、今のところ、敵意はありません。
ですが……拒絶は、はっきりしています」
月美は、街を覆う圧倒的な魔力を肌で感じながら静かに頷いた。
「途方の無い魔力を感じる……神浜市を結界で包み込んだ
キャスター・リンボのような……」
その街の名は、見滝原。
守護する者と、取り戻す者。清廉なる異端たちの邂逅が、いま、始まろうとしていた。
「たりあ……いるのか。この街に……」
「starting case.デュエリスト・ダークサイド phase.1」
存在しなかった世界
遥か虚数空間の深淵、追放の終点地にある暗黒の都市。
空に浮かぶ虚の城、その淡い光に照らされる黒い建物はまるで影絵のよう。
臨海の繁栄都市とは異なる幻想。
そこに、最近になって建立した塔がある。
くすんだ白き城よりも高く聳え立たんとする鉄塔。
神を祀る祭壇の如きそれの最上階に、それはいる。
「おお……我らが女神『メアリー・スー』よ……。」
教団使徒の一人が目の前に浮かぶ水晶、その中心たる最奥に誕生の時を待つように蹲る存在。
かの女神の名に、完全なる存在にして世界の破壊者、たる「メアリー・スー」の名を冠したのには、ある種の皮肉すら感じる。
「私だ。」
「お体の具合はいかがですか、魅上様。」
「私のことはいい。それよりも命令だ、お前たち『アィーアツブス強襲部隊』は童美野町に出向き、そこにいるアルキメデスの部隊に合流しろ。」
「仰せのままに。」
「それと、合流次第アルキメデスに伝えろ。」
「何でしょうか?」
「奴らからソロモンの指輪を根こそぎ奪う方法を思いついたとな。」
◇
赤道直下に人工的に作られし絶海の孤島。
天に聳える、か細くも確かに存在する塔の如きケーブル。
オゾンを突き抜け更なる高みを見んとするその正体は――――軌道エレベーター。
そこに、彼はいた。
『システム、オールグリーン。いつでも出発できます。』
遺跡にて千年パズルを回収した海馬瀬人は、ここにいた。
その建物のオペレーターたちが、軌道エレベーターを動かそうとしていた。
目的はただ一つ、主たる彼のために。
「お待ちしておりました!」
「準備はすべて整っております、海馬様!」
海馬は
「磯野、新型デュエルディスク発表のデモンストレーションとして、海馬ランドでデュエル大会を行う!お前たちはそのための準備を急げ!」
「はっ!」
軌道エレベーターは空へ空へと昇っていく。
こんなSF小説やアニメでしか聞かないような建物を作り上げられる技術力を使ってまで、何をしようというのか。
『お待ちしておりました、ミスター海馬。装置の準備はできております。』
「すぐに取り掛かれ。」
『かしこまりました。』
そうして彼は、装置に持ち込んだ千年パズルの入ったケースをセットする。
すると、装置中心部に浮かぶスキャナー部にパズルが現れ、浮かび上がった。
『この装置は、複雑なスキャニング処理が必要なため重力の影響を受ける通常空間では稼働できませんでしたが、宇宙空間を利用し、無重力下でパズルをスキャニングすればどのような……』
彼の目的は、冥府に帰った「カレ」を現世に呼び戻すことだった。
あの日、闘いの儀にて敗れ去り冥府へと帰った名もなきファラオの魂。
彼を倒すべきは己だったと悔やむ海馬の心には、今も彼の幻影が憑りついている。
消えない想い、終わらない妄念、永遠に続く執念のように。
『流石です、ミスター海馬。』
「つまらん世辞はいい。」
『失礼いたしました。』
「遊戯……。」
それゆえに、彼は全能力ともいえる力を注ぎ、冥府の扉をその手でこじ開けようとしている。
過ぎた強迫観念、と一言で片づけることは誰の口でもできよう。
だがそれでも、勝利と誇りで彩られた人生を生きる海馬にとって、唯一己に『敗北』を突きつけた彼を打倒することが生存理由となった彼にとってその台詞は最大の冒涜なのだ。
と、そこに連絡が入った。
「兄様、大変だ!」
「モクバか、どうした?」
「童美野町に例の奴らが来ている、ニュースでやってたメサイア教団だ!」
弟のモクバからの連絡。
それはメサイア教団の童美野町への進攻報告だった。
(……連中め、何が目的だ。)
海馬のこめかみがひきつく。
己が大願に、管轄外の狂気連中のせいで水を差されるわけにはいかない。
「連中は今何をしている?」
「今は大して動いていないみたいだけど……。」
「暴れるようなら叩き潰せ。」
「偽りの見滝原 - 優しい”嘘”の世界 -」
丘の上に立つ四人の背後で、門は音もなく閉じていた。
まるで最初から存在しなかったかのように、夢と現実を繋いでいた裂け目は、
空気の揺らぎすら残さず消えている。
アビゲイル・ウィリアムズの姿は、もうなかった。
「……消えた……」
「アビゲイルさんの力、でしょうか……」
マシュが、藤丸に問う。
「この世界に入るための鍵であり、案内人……」
月美は、静かに頷いた。
「……あの娘も、サーヴァントとか言う奴なのか」
アビゲイル・ウィリアムズという名は、もともと――歴史の中にあった。
それは英雄譚でも、偉業でもない。むしろ、人が人を疑い、恐れ、壊していった
記録の一部だ。
十七世紀末。新大陸、マサチューセッツの小さな町――セイレム。
信仰が秩序であり、疑念が罪だった時代。理解できない出来事はすべて
“悪魔の仕業”とされ、恐怖は連鎖し、やがて集団そのものが狂気へと変わった。
その渦中にいた少女の一人が、アビゲイルだった。
まだ幼い年齢。世界の理を知るには早すぎ、それでも大人たちの恐怖と期待を、
一身に背負わされた子供。
彼女は“見た”と言った。彼女は“聞いた”と告げた。
夜に囁く声を、黒い影を、理解不能な何かを。
それが嘘だったのか。錯覚だったのか。
あるいは――本当に、何かがそこにあったのか。史実は、答えを残していない。
ただ確かなのは、その言葉が、多くの人を死へ追いやったという事実だけだ。
裁かれたのは魔女とされた者たち。
だが、壊されたのは町であり、信仰であり、そして――子供たち自身の心だった。
人理の外側――人が決して触れてはならない領域と繋がってしまった者に与えられる、
「降臨者」と言う名の異端の座。
誰かの「会いたい」。誰かの「信じたい」。誰かの「救われたい」。
その想いが、力を持った時、彼女の額に、再び鍵穴が浮かぶ。
「普段のアビーには、あんな力は無い。彼女じゃない何かが、この現象を引き起こした……
と思う」
マスターである藤丸でさえも御し得ぬ、アビゲイルの秘められた力。
たりあに会いたいと強く願う魔殺少女、ペルフェクタリア。
次元を渡る奥義を伝承する退魔師の家系、日向月美。
魂が夢の世界へと導かれる特異体質を持つ人類最後のマスター、藤丸立香。
そのファースト・サーヴァントであるシールダー、マシュ・キリエライト……
本来揃う事の無かった因子たちが特異点なる異質な場に集う事で、
此度の現象が引き起こされたと言う事なのか……
「……」
ペルフェクタリアは、丘の下に広がる街並みを見下ろしていた。見覚えがある。
「ここは……リ・ワールドにあった街だ。名を、見滝原……」
低く、断定する声。
「私の世界。その残骸だ。その一部を……丸ごと切り抜いたような……」
ペルが住んでいた世界、リ・ワールド。神によって再構成された世界。
数々の奇跡が繋ぎ合わされ、ひとつになった世界……
「滅びたはずの私の世界は、完全には消えていなかった。断片が集められ、縫い合わされ、嘘で固定された。壊れないように。誰も傷つかないように」
月美の胸に、嫌な予感が走る。
「……守るために、閉じた世界」
「そうだ」
ペルは拳を握り締めた。
たりあ。名を呼ばずとも、胸の奥が熱を持つ。会いたい。それだけで、ここまで来た。
「先輩は、夢の世界に“引かれる”と言っていましたね。今の感覚がそうなのですか?」
「うん。意図してじゃないけど……気がつくと、向こうから呼ばれる」
夢の世界に引き寄せられ、意識を失う藤丸。その姿をマシュは何度も観測してきたが、
その状況にマシュ自身も立ち会うのは初めてのことだった。
「ここは夢。でも、ただの夢じゃない。誰かの“願い”で維持されている世界」
「日向家には……代々伝えられている奥義があります」
全員が月美を見る。
「“次元を越える”。本来は、異界に堕ちた魂を連れ戻す、或いは異界へと送るためのもの。
夢、虚構、結界……そういう境界に干渉する術です。アビゲイルさんの力は、
それと似ている」
父・月光の奥義によって滅びゆく世界から逃がされた月美。
彼女は、はっきりとペルを見た。
「ペルちゃん。あなたが、ここで“たりあさんを取り戻す”なら……私も協力する」
「……ありがとう」
短い言葉に、重い覚悟が宿る。
「……行ってみよう。あの街に」
探索は始まった。街は静かだった。建物は整然と並び、人は行き交い、
信号は規則正しく点滅し、風に揺れる木々さえ“用意された背景”のように整いすぎている。
「……違和感が強い」
マシュが言う。
「人、街……全てが日常であるはずなのに、全てが異常に思えてくるような……
上手く説明出来ませんが……」
角を曲がった、その時だった。
「……あれ?」
誰かの声。
振り向くと、橋のたもとに、青い髪の少女が立っていた。どこか、懐かしい気配。
「美樹、さやか……?」
ペルの声が、僅かに揺れる。
「え?」
少女――美樹さやかは、きょとんとした顔でこちらを見た。
「……誰?」
胸が、冷たくなる。少し離れた場所から、赤い髪の少女が歩いてくる。
「おい、さやか。ゲーセン行くんだろ?」
「佐倉杏子……」
その悪友、佐倉杏子もまた、警戒した目でペルたちを見ていた。
「……っていうか、あんたたち、誰だよ。さやか、知り合いか?」
「いや……知らない……と思うんだけど……」
記憶が、ない。ペルは理解する。嘘を言っているわけではない。
かつてリ・ワールドで共に戦った仲間……この世界は、壊れないために、
削ぎ落とされている。痛みも、戦いも、喪失も。だから――彼女たちの“過去”も。
「……そうか」
ペルは、小さく息を吐いた。
「ここは、優しい嘘の世界だ」
ペルの呟きは、風に溶けるように街へ落ちた。さやかと杏子は、
その言葉の意味を理解できず、互いに顔を見合わせる。
「……何だよ、それ」
杏子は肩をすくめた。記憶は消されている。
だが、それでも魂の奥底までは、嘘で覆いきれない。
「意味分かんねえ。こいつら変だぞ。行こうぜ、さやか」
「う、うん……」
怪しいものを見るような目でペルたちを一瞥すると杏子はさやかを連れて去って行った。
「ペルちゃん、あの子たちは……」
「魔法少女だ。環いろは達と同じ、な。私の世界で共に戦った…恐らく…本人だ」
ペルの言葉は、確信と迷いの境界にあった。
「本人……?」
月美が小さく問い返す。
「記憶は無い。だが、魂の形が同じだ」
藤丸は、去っていく二人の背中を見つめていた。
「先輩……この世界、安定しているようで……どこか“脆い”です」
「……そうだね」
藤丸は、低く頷く。
「壊れないように作られてる」
誰かが、必死に縫い留めた世界。喪失を、喪失のままにしないための、嘘。
月美は街の空を仰ぎ、ペルが静かに息を吐いた。
「魔法少女は、戦う存在だ。願いと引き換えに、戦場に立つ者だ。
だが、今の彼女らは……」
「starting case.デュエリスト・ダークサイド phase.2」
超越者たちの降臨。
CROSS HEROESの「神」なるものたちへの接触の時が迫っているころ。
◇
エジプトの砂漠で、ディーヴァは商人から受け取ったタリスマンを眺めていた。
彼は目を閉じ、タリスマンの裏側に書かれた文字に触れる。
まるで誰かを悼むように、誓いを反芻するように。
不思議なことに、その文字は彼自身も驚くほど、すらすらと読めた。
プラナの力が故に解読を可能としたのだろう。
その文章がこれだ。
◆
――――かの王が抱く十の指輪が散らばりしとき、世界に混沌が満ち満ちる。
悪徳は栄えるが、それは砂上の楼閣とならん。
悪徳に抗う正義の星が、楼閣を打ち砕くがゆえに。
――――やがて星は神と出会い、神は星に力と御業を与える。
されど汝らが星ならば、ゆめこの言葉を忘れるな。
真の悪は、正義を謳う邪悪の秘儀なり。
――――やがて指輪は一つに集まり、それを追う星は大いなる船を得る。
かの洪水を越えし大船、邪悪の秘儀の懐へと向かわん。
――――邪悪はその秘儀により、十三の深淵より救世を謳う邪神を呼び寄せる。
邪神は完全なる絶望となりて、宇宙を閉じる大渦とならん。
是ぞ希望峰の混沌十字、その約束である。
――――誰もが沈黙するのであれば、渦となった宇宙は一つの矮星となり瞼を下ろす。
されど我らの志を継ぐ者が、挫くものとして叫ぶなら。
この護符は、希望の羅盤なり。
◆
「星、か。」
誰に聞こえるでもなく、ディーヴァはそうつぶやいた。
◇
「行くぜ!手札の『星辰砲手ファイメナ』と手札の『星辰竜ウルグラ』で融合召喚!来い!『星辰爪竜アルザリオン』!!」
「なかなかやるじゃねーか!だが俺の『巳剣』軍団に勝てるかな!?」
「あぁ!?」「おぉ!?」
「「やんのかコラァーーッ!!」」
腕に特徴的な機械をつけた若者たちが、街中でカードゲームに勤しんでいた。
彼らが使役するのは、近くの建物よりも巨大なモンスターたちの幻影。
ここは童美野町。
カードゲーム『デュエルモンスターズ』と巨大企業『海馬コーポレーション』が支配する熱狂の町である。
だがこの日は、一段とデュエルの熱に浮かされていた。
周囲を見れば、確かに多くの若者がデュエルモンスターズで遊んでいる。
というのも。
「相も変わらずすっげー盛り上がってるなぁ遊戯。」
「近いうちにデュエル大会が行われるし、みんな熱気立ってるみたいだね。城之内君。」
何でも近々、デュエルモンスターズの大会が行われるというのだ。
その裏で進んでいる陰謀を知る由もなく、彼らは切磋琢磨している。
雑踏の中で、城之内と呼ばれた学生服を羽織っているいかにも不良風な青年が、これまた遊戯と呼ばれた特徴的過ぎる髪型の小柄な少年と共に町を歩いていた。
『世界中のデュエリストたちよ!我が海馬コーポレーションは次世代最新型デュエルディスクの開発に成功した!近日中に……!!』
スピーカー越しに、海馬社長の高笑いが響く。
「新型デュエルディスクかぁ……くそ、またバイト増やさねぇとなぁ……。」
そうやって城之内がぼやいていると、彼らの前に謎の集団が集まった。
「君たち、武藤遊戯君に城之内克也君だね?」
周囲にいるラフな格好ばかりの若者たちとは打って変わった、軍服姿の集団。
ざっと十数名程度だろうか。
そんな彼らが遊戯たちを囲って、彼らを詰めている。
「キミたちは、一体?」
「我々の名前などどうでもいい、ただメサイア教団という組織の一員であることだけを理解していればよろしい。」
傲慢に告げられたその名を聞いて、二人は戦慄した。
自分たちはカードゲームばかりをやっているわけじゃない、ニュースで彼らのことは識っている。
まさか、こいつらが。
「メサイア教団!?」
「こいつらがニュースでやってた例の……!」
「君の銀の庭」
「なー、さやか! 今日の晩飯何にすんだ?」
「アンタ、食うか遊ぶかしか頭に無いの!?」
「うっせー!」
じゃれつき合いながら去っていくさやかと杏子。戦いとはまるで無縁の光景。
彼女らが辛く、苦しい思いをしてきた事は、共に戦ったペルが一番良く分かっている。
「今の彼女らは――戦う理由を、奪われている」
その一言が、重く空気に沈む。
「願いも、代償も、覚悟も……すべてが“起きなかったこと”にされている。
だから彼女たちは、魔法少女でありながら――ただの“日常の住人”として、
この街を歩いている」
マシュは、はっと息を呑んだ。
「……それは……守られている、ということなのでしょうか……?」
ペルは否定しない。
「だが、それは同時に――選ぶ権利を、失っているということだ」
藤丸は、静かに思いを馳せる。
「選ばなくていい世界……傷つかなくていい世界……」
「そして同時に」
ペルが続ける。
「“取り戻すこと”を、許さない世界だ」
街路を歩く人々の流れは、途切れることがない。
制服姿の学生、買い物袋を提げた主婦、談笑しながら歩く若者たち。
どれもが“日常”の記号として正しく配置され、過不足なく流れていく。
――その中に。
「ねえマミ、チーズを買うのです! 今日はケーキじゃなくて、チーズの日なのです!」
弾んだ声が、通りを横切った。
振り向いたペルの視界に入ったのは、金色の巻き髪を揺らし、
柔らかな笑みを浮かべる少女――巴マミ。その隣を、小柄な少女が跳ねるように
歩いている。
白い絹糸のような髪がウェーブがかって。丸い頬。
期待に満ちた、屈託のない表情。
「ふふ、なぎさ。この前もチーズ買ったばかりでしょう?」
「いいのです! チーズはいくらあっても困らないのです!」
――百江なぎさ。その少女を、ペルは知らなかった。
「……巴マミ……」
思わず零れた声は、届かない。マミは、こちらを一切認識しないまま、
なぎさの手を引いて歩いていく。マミもまた、さやかや杏子と同じく……
「マミ、急がないと売り切れちゃうのです!」
「大丈夫よ。ちゃんとあるわ」
笑い声が遠ざかっていく。チーズを買うために、ただそれだけの目的で。
ペルの胸が、微かに軋んだ。
「……巴マミは、知っている」
ぽつりと呟く。
「だが……あの子どもは……知らない」
月美が、慎重に言葉を選ぶ。ペルは、目を伏せる。
「だが……分かる。あの子どもも……魔法少女だ」
年の頃から言えば、小学生ほど。ペルとそう変わりないかも知れない。
なぎさは振り返らない。マミも、振り返らない。
二人はただ、穏やかな午後の買い物へと消えていく。
――戦いを知らないまま。
――絶望を知らないまま。
その背中を見送りながら、ペルは思考に沈んだ。
(嘘……)
ペルフェクタリアは、嘘を嫌う。それは生まれつきの性質であり、
幾多の戦いの中で磨かれ、確信に変わった信条だった。
嘘は、歪みを生む。
歪みは、世界を壊す。
だからこそ、嘘は排除すべきものだと、信じてきた。
――だが。
この街の嘘は、魔法少女たちを、あの苛烈な運命から遠ざけている。
契約もない。魔女もいない。絶望も、自己犠牲も、魂の摩耗も存在しない。
ただ、チーズを買いに行く少女がいるだけだ。
放課後にゲームセンターに遊びに行く少女がいるだけだ。
「……これは、善か」
ペルの唇が、微かに動く。
「それとも……悪か」
月美は、答えなかった。藤丸も、マシュも、言葉を挟まない。
誰も、簡単な答えを持っていなかった。悲しみも無く、苦しみも無い世界。
誰も泣かせない世界。それはカルデアも、CROSS HEROESも、目指す世界であるはずだ。
その時――。
視界の端で、影が揺れた。建物の影。路地裏。人の流れから外れた場所。
そこに、“何か”がいる。耳を澄ますと、微かな囁きが聞こえた。
「……Tu vois ?」
「Oui, elles sont encore là……」
「Quelle drôle de scène……」
フランス語。
クスクスと、忍び笑う声。まるで、観劇を楽しむ観客のような気配。
ペルの背筋に、冷たいものが走る。
「……いるな……」
低く告げる。
「人でない、何か」
マシュが、即座に盾を構えて、藤丸を守護する。月美も星羅に手を掛ける。
「魔力反応を確認……! 数は……多数。ですが……攻撃性は低い……?」
「観察しているだけだ」
藤丸が、苦い表情で言う。
「敵では……ない?」
月美は、息を呑んだ。その影は、確かにこの街を覆っている。
使い魔たちは、直接干渉しない。ただ、遠くから、くすくすと囁く。
「Un monde bâti sur un mensonge…」
「Combien de temps cela tiendra-t-il ?」
「Ils veulent vraiment y croire…」
ペルは、拳を握り締めた。
(この嘘を……壊すべきか)
壊せば、魔法少女たちは再び戦場に立つ。絶望と引き換えに、誰かを救う運命に戻る。
そして、またあの終わりなき戦いに身を投じる……
だが壊さなければ……“嘘で守られた箱庭”として、永遠に固定される。
「……選ばなければならない」
ペルは、静かに言った。
「嘘を壊す覚悟か。嘘を肯定する覚悟か」
藤丸は、ペルを真っ直ぐに見つめる。
「どちらを選んでも……後悔は、残る」
「ああ」
ペルは、否定しない。
「だが……私は、逃げない」
遠くで、マミとなぎさの笑い声が、完全に消えた。使い魔たちの囁きも、
風に紛れて遠ざかる。
偽りの見滝原。守るための世界。そして、選択を迫る檻。
――善と悪の境界が、これほど曖昧な場所は、他にない。
「たりあちゃん、に……会えたとしても」
藤丸が、慎重に言葉を紡ぐ。
「元の姿じゃない……可能性もある」
「それでもだ」
即答だった。
「それでも、会う。私は……確かめなければならない」
月美は、星羅に手を添える。
「ペルちゃんが選ぶなら……私たちは、最後まで付き合う」
マシュも、盾を握り直した。
「ペルさんの判断を、信じます。そして……この世界が何を隠しているのか、
必ず突き止めます」
藤丸は、三人を見渡し、静かに頷いた。
「……行こう」
街の中心へ。この“偽りの見滝原”が、最も優しい嘘を重ねている場所へ。
「……懐かしいわね。ペルフェクタリア」
「……暁美……ほむら」
この偽りの見滝原の創造主。リ・ワールドで出会ったときとは
まるで別人のような雰囲気。そして……
「……ペル?」
ほむらの背中からひょこり、と顔を出したのは……
「……たりあ!」
間違うはずも無い。二人は同時に駆け出した。抱きしめたい。この手で。
しかし……
「……!?」
ペルの両手は、空を切った。たりあに、触れられない。
「な、に……!?」
「そこに”在る”のは……平坂たりあの精神体……魂のようなものよ」
「始まりの3人」
暁美ほむらの静かな声が、凍りついた空気を震わせた。
「精神体……?」
ペルは、震える視線でたりあを見る。たりあは、そこに“いる”。
何処か寂しげな笑顔で、だが確かにそこに立っている。だが、輪郭がどこか曖昧で、
陽光を受けても影を落とさない。よく見れば足先も揺らめいている。
「リ・ワールドが滅びた時……」
ほむらは、視線を伏せたまま続ける。
「グランドクロスによる次元崩壊で、あの世界は滅びた。その瞬間、たりあの肉体は……
次元の歪みに呑まれて、情報ごと消えたわ」
「……そんな……」
月美が、思わず声を漏らす。
「魂だけが……辛うじて残ったの」
ほむらは、たりあの隣に立つ。
「この“偽りの見滝原”は、私が構築した箱庭。魔法少女たちを、
あの運命から解放するための世界……そして同時に、行き場を失った魂たちを
留めるための、停泊地でもある」
ペルの喉が、ひくりと鳴った。
「……私のせいだ」
低く、掠れた声。
「私が……守れなかった……」
たりあは、首を横に振った。
「違うよ、ペル」
その声は、穏やかで、優しい。昔と変わらない。
「ペルが、私を守ろうとしてくれたこと……ちゃんと、知ってる」
「だが……!」
跪くペルは、拳の中の土を握り締める。
「私は……“魔殺少女”だ。お前を守るために造られた存在だ。それなのに……!」
言葉が、喉で途切れる。あの時の光景が、脳裏に蘇る。崩壊する空。引き裂かれる大地。伸ばした手が、届かなかった瞬間。
「……私は、失敗した」
異世界からの帰還。連戦による疲弊。禍津星穢との対決。そして敗北。
たりあによって崩壊する世界から救われた。月美の父・月光と同じように。
「……ねえ、ペル」
たりあは、微笑んだ。
「こうして……話せるだけで、わたしは幸せだよ」
「……何……?」
ペルの瞳が、揺れる。
「だって……わたし、もう消えてなくなっちゃっても、おかしくなかったんだよ?」
たりあは、空を見上げる。
「なのに……こうして、ペルと、また会えてる」
「……そんな……それで、満足だと言うのか……?」
ペルの声は、怒りと悲しみと、自己嫌悪が混じり合っていた。
「肉体も無い……触れられもしない……それでも……?」
「うん」
たりあは、即答した。
「それでも」
その一言が、胸に突き刺さる。
「ペルが……生きてる。それが、何より嬉しい」
ペルの肩が、小さく震えた。
「……私は……」
「それにね、こうなったからこそ、あの頃のペルの気持ちが分かるの。
ペルがわたしの中にいた時の事を」
言葉が、続かない。
「……私は、たりあを失った世界で、生き続けている。それ自体が……罪だ」
「罪じゃないよ」
たりあは、優しく否定する。
「生きてることは……罪じゃない」
「だが……私は……」
ペルは、視線を逸らす。
「……たりあを、見殺しにした……」
ほむらが、静かに口を挟んだ。
「ペルフェクタリア」
その声音は、責めるものではない。ただ、事実を告げるためのもの。
「貴女は……あの時、最善を尽くした。それでも、救えなかった。
けれどそれは……貴女の罪ではない」
「……暁美……ほむら」
ほむらもまた、まどかを救うために永遠にも等しい時間を繰り返し、
まどかが目の前で命を落とす世界線さえ見続けてきた。
守るべきものを守りきれなかった無力感、挫折、絶望……それを知っているのもまた、
ほむらであろう。
たりあは、ゆっくりと首を振る。
「ペル」
その呼び方は、昔と同じだった。
「私ね……ペルに、後悔してほしくない」
「……!」
「ペルが……自分を罰し続けるの、嫌だ」
ペルの瞳に、微かな光が揺れた。
「……私には……それしか、残っていない」
「残ってるよ」
たりあは、微笑む。
「“今”が、残ってる」
「……今?」
たりあは、ペルを真っ直ぐに見つめる。
「あなたは……まだ、戦ってる。誰かを守ろうとしてる。わたしじゃない誰かも守る
魔殺少女として」
「……それは……」
「それが……ペルの答えなんだよ」
その時――。
「やれやれ……」
背後から、気の抜けた声が響いた。
「何やら、辛気臭い空気だな」
全員が、はっと振り向く。建物の影から、ひとりの男が歩み出てきた。
長身の黒いジャケットスーツ。首に提げたトイカメラ。
「……士さん!?」
藤丸が、目を見開く。特異点、リビルド・ベースにいたはずの士が
この偽りの見滝原にいたのだから。驚く一同に向けて、挨拶代わりにトイカメラの
シャッターを切る。
「どうしてここに……」
「通りすがりだ」
旅人の行く先は、例え夢の導く先であっても関係が無いと言う事か。
或いは、過去に強く結ばれた”繋がり”が成せる業か……
「……ここが“偽りの見滝原”、か」
街の風景を一瞥し、ほむらを見る。一度は旅を終えるつもりであった士に
再び力を与えたのは、ほむらであった。沈黙の中、士は、ふっと小さく鼻で笑った。
「……しかしまぁ」
その視線が、ペルとほむらの間を行き来する。
「3人、またこうして顔を突き合わせることになるとはな」
その言葉に、ほむらの瞼が、ほんの一瞬だけ伏せられた。過去を回想するように。
世界の破壊者と謳われたディケイドから、まどかに託された世界――
リ・ワールドを守る魔法少女として弓を引いた暁美ほむら。
仮面ライダー、魔法少女……そう言った超常的な力を管理し、世界の救済を掲げた組織
アベレイジの幹部だった魔殺少女ペルフェクタリア……
その物語は、敵対から始まった。
「状況は芳しくない……メサイア教団、その背後にいるグランドクロス……
連中は着々と勢力を伸ばしてきている。この“偽りの見滝原”も、例外じゃない」
士の言葉に、ほむらの黒く長い髪を掻き上げる。
「……そうでしょうね」
「この世界にも、攻め込まれるのは時間の問題だ」
沈黙。ほむらは、ゆっくりと息を吐いた。
「……協力しろ、と言いたいのね」
「そうだ」
士は、頷いた。
「この世界は、もう“隠れ家”じゃない」
対するほむらの答えは……
「……断るわ」
その一言が、場を凍らせた。
「……やはりそう言うか」
士が、眉をひそめる。
「この世界は……私が、守ると決めた場所よ」
ほむらの声は静かだが、揺るがない。
「私は誰の味方にもならない。この世界を脅かす者がいれば、倒す。それだけよ。
ひとつ言えるのは、平坂たりあ……その魂を貴方達に預けると言う事だけ」
「え……?」
「ペルフェクタリアと共にある……それは貴女も望むところだったはずよ、
平坂たりあ」
「英霊を召喚する技術を確立しているカルデアなら……たりあさんを
元に戻す方法も見つかるかも知れません」
「!? 本当か!?」
「もう行けないと思ってた夢の世界に来て……
もう会えないと思っていた人に会えたんだもん。不可能なんて無いよ、きっと!」
藤丸とマシュの言葉に、僅かながら差す希望の光……
「赤いガンダム、見滝原に現る」
藤丸とマシュの言葉に、微かな希望が差し込んだ、その瞬間――。
――ズズン……!!
地鳴りが、腹の底を揺さぶった。街の中心部から光の柱が立ち昇る。
「……なに……?」
月美が、咄嗟に踏み込んで体勢を整える。
見滝原の上空、赤黒い閃光が一点に収束し、次の瞬間――
――ズドォォォンッ!!!
爆音と衝撃波が、街を呑み込んだ。中心部の交差点が、
まるごと“抉り取られた”かのように消失する。アスファルトは溶解し、
建物の基礎ごと崩れ落ち、半径数十メートルに渡って巨大なクレーターが出現した。
「……今度は何だ、一体……?」
一同は現場に急行した。
「……次元転移の類か……」
そのクレーターの中央から、赤い光が立ち昇る。
雲を裂くように現れたのは、巨大な人型の影。全身、赤い装甲、鋭角的なシルエット、
ツインアイが不規則に点滅している。両肩にマウントされた大型のビット兵器。
士もまた、トイカメラを下ろし、視線を細める。
「随分尖った意匠だが……」
「まさか……ガンダムか……?」
ペル、そして士は数々の並行世界を巡った経験がある。
マジンガーやゲッターロボのような巨大人型兵器……「ガンダム」と遭遇した記憶。
赤い機体は、クレーターの縁から一歩踏み出した瞬間――
――ドゴンッ!! 足場が崩れ、再び地面が陥没する。
重すぎる存在。この世界の物理法則に、完全に適合していない。
「きゃああああっ!!」
周囲のビルから、人々の悲鳴が降り注ぐ。
粉塵が舞い、割れたガラスが雨のように落ちる。街は一瞬でパニックに陥った。
「……貴方達の仕業?」
ほむらが、冷たい視線を藤丸たちへ向ける。
「違います!! ……と、思うんだけど……」
藤丸が、即座に否定した。が、騎士ガンダムのような人間サイズのガンダムタイプとも
共闘した事のある手前、断言は出来なかった。
「……ですよね???」
「少なくとも、俺達も初めて見る手合だ」
「……信じるわ」
ほむらは短く答え、すぐに視線を赤い機体へ戻す。
その背後――クレーターの縁、空間が“捻じれる”ように歪んだ。
黒紫の靄と共に、異形の影が現れる。霊体と物質の中間。獣のような四肢。歪んだ顔。
「……グランドクロスの……魔獣……!!」
月美が、歯を食いしばる。あの、禍津星穢が従えていた、魔獣……
さらに――赤い光の門が、クレーターの奥に開いた。
そこから、ゆっくりと歩み出る一人の男。
黒いロングコート。仮面のような仮面具。胸元には、禍々しい紋章。
「……初めまして、諸君」
やけに芝居がかった、ねっとりとした口調。
「私は――グランドクロス幹部、“魂蒐集官”ディルク」
わざとらしく両腕を広げ、街の惨状を見渡す。
「くくく、私は運が良い。刻を渡る赤いガンダム。それを追っていて
まさかこんな場所に行き着くとは。くくくくく……」
ほむらの瞳が、細くなる。懸念は現実となった。
「……グランドクロス……まさか、本当に現れるなんてね……」
「はははっ、光栄だよ。それに、この箱庭は美しい魂に満ちている。狩り甲斐がある!」
その物言いは、どこか軽薄で、優越感に満ちている。
すると、ほむらの意識に、微かな“声”が流れ込む。
『……あなた……』
「……!?」
ほむらは、息を呑んだ。
それは、優しく、哀しげな声……誰にも聞こえない、心の感応。
『……この世界……危険……赤い……彼……』
“何者か”の思念。ほむらは、唇を噛みしめる。瞬間、赤いガンダムが、
ぎこちなくこちらを向いた。
「やれやれ……」
士が、一歩前に出た。その視線が、ディルクを射抜く。
「とうとうグランドクロスが直接攻め込んできたか。
おまけに謎のガンダムのおまけつきとはな」
ディルクが、薄く笑う。
「他人の世界に土足で踏み込み、その上、自分は安全圏から高みの見物……」
士は、肩をすくめる。
「三流の悪役ムーブのフルコースだな」
「な……っ!?」
ディルクの額に、青筋が浮いた。
「貴様……この私に向かって……!」
「グランドクロスは……叩き潰す……!」
ペルのその一言に、ディルクの余裕が一気に崩れた。
「……減らず口を……!!」
ディルクが、苛立ちを隠さず、魔獣に合図を送る。
「蹂躙しろ!! この街の人間どもの魂を狩り尽くせ!」
「何っ……!?」
魔獣の群れが、見滝原の街に一斉に放たれる。即座に藤丸が叫ぶ。
「マシュ!」
「はい、先輩! やああああああああああッ!!」
マシュが遠心力を込めたラウンドシールドをブーメランのように投擲し、
魔獣を連続して斬り裂く。
「急々如律令!!」
月美は呪符で魔獣を封じ込め、覆滅。放たれた呪符は魔獣の邪気を追っていく。
「きゃあああああっ……」
「禍腕――」
たりあに襲いかかる魔獣。ペルの両腕のブレスレットが怪しい光を放つ。
「祟撃ッ!!」
ペルの魔力を込められたブレスレットが、拳を突き出したと同時に射出され、
魔獣の顔面を貫通する。
「ギャウッ!!」
「グェボッ!!」
頭部を失った魔獣は地面に横たわると同時に、塵と消えゆく。
「ふひひ、その娘……実に美しい魂の色をしている……引っ捕らえろ!!」
「させるか……! グランドクロス……もう二度とたりあには触れさせん……!!」
魔獣は次々に生成され、見滝原の街へと疾走していく。
その光景を見下ろしながら、ディルクは恍惚とした笑みを浮かべていた。
「ふひひ……いい……実にいい……! 逃げ惑う魂の波動……箱庭とはいえ、
こんなに上質な素材が転がっているとは……」
両手を広げ、陶酔したように呟く。
「いやはや、望外の成果ではないかね?
幹部会議で自慢してやろう……“私一人で、この世界を制圧しました”と……!」
「……あいつ……」
士が呆れ混じりに吐き捨てる。
「完全に小物ムーブ全開だな……」
「だが……放置すれば、この世界そのものが持たない……!」
ほむらが、街の崩壊していく気配に眉を寄せる。
見滝原の空が、わずかに揺らめいていた。
建物の輪郭が、ところどころノイズ混じりに歪み始めている。
「……この“偽りの見滝原”は……私の魔力で維持している箱庭よ」
低く、しかし焦りを含んだ声。
「魔力の消費が臨界を超えれば……この世界は、形を保てなくなる……」
「……つまり……」
マシュが、事態を察する。
「ほむらさんが前に出続けるのは、危険ってことですね」
「そうよ」
ほむらは短く頷いた。
「ここで私が力を使いすぎれば……この街も、住民たちも、全部まとめて“崩壊”する」
その言葉に、ペルの拳が強く握られた。
「……なら……」
士が、一歩前に出る。
「この戦場のメインは、俺達が引き受ける……変身ッ!!」
【KAMEN RIDE DECADE】
ディケイドのマゼンタの装甲が、街の光を反射する。
「箱庭の管理人にまで戦わせるほど、俺達は落ちぶれちゃいない。
お前はこの世界の維持に専念しろ」
〈虚数の姫と認知の王〉
アビダイン隊が合流したトゥアハー・デ・ダナンでの会議は、暗雲の兆しを見せている。
暗黒魔界、ライラー、竜王軍、ジークジオン、ミケーネ神…数々の脅威が挙って侵略の旗印を掲げている事態は、余りに絶望的だったのだ。
「だが、どうする?相手は悟空やキン肉マンの火事場のクソ力でさえどうにもならなかったようなぶっ飛んだ連中だぞ。」
「チッ、貴様と言う奴は……そんな分かりきった事など、いちいち言わなくても良いのだ、マヌケめ……」
「マ、マヌケだァ!?」
事の重大さに、ベジータでさえも士気を考え避けていた明言。
それをヤムチャが口にし、そこを皮切りに会議は喧騒の模様を醸し出す…
「_良くない空気になっているね。」
喧騒を他所に呟くのは、丸喜拓人。
彼もまた、この地球を、ひいては多元宇宙さえ、ある意味で意中にしようと目論む脅威の一人。
であるにも関わらず、どういった風の吹き回しか、この会議の成り行きを傍観している。
「とはいえ、僕も余り人の事は言えないか。」
「_あれぇ?」
そんな丸喜に、背後から語り掛ける者が一人…
「ぽぺー、見かけない顔だね?」
「…驚いたな、気付かれるとは思ってなかったよ。」
「えへへ!あたしカグヤ、こう見えても勘が良いんだ。で、君は?」
気配を消していた、虚数姫カグヤだ。
彼女は笑みを浮かべてはいるが、声色はどこか平坦だった。
「僕は丸喜拓人、しがない学者だよ。」
「丸喜、拓人?」
カグヤが纏うピリピリした雰囲気を感じ取りながらも、丸喜は自らの素性を告げた。
その名前を聞いたカグヤは、目を細めて問う。
「妙だね…その名前は確か、ここの人達と敵対している相手の名前だったと思うけど?」
「その通り。僕はCHの敵で、本来なら営倉なんかに入れられている身だ。」
カグヤの質問に対して、丸喜は素直に答える。
「ふぅん。本来なら、ね。」
「まぁ、営倉自体が無いっていうのもあるけど…停戦協定を結んだ身というのが一番大きいかな。」
「そっか、確か魔界をどうにかするまでお互いに手出ししないって言ってたね。でも、何で会議に?」
「…アビィ君の声掛けでね。」
CHと丸喜・完璧超人一派の間に結ばれた協定。
魔界が力をつけ、多元宇宙を侵略するのを防ぐ為の一時的なものだが、同時にこの地球があらゆる脅威に害される事を防ぐ為にも重要な協定だ。
そして今、地球は数多の脅威に攻められようとしている。
「こんな未曾有の危機を見せられたら、僕らは黙っていられない。それを分かってて、僕に聞かせているんだろうさ。」
「乗せられてるって分かってて、動くんだ。」
「あぁ、アビィ君は強かだよ…あの子とは別の黒い物を、腹に秘めているね。」
肩をすくめて、参ったと言わんばかりの表情を見せる丸喜。
そんな彼に、カグヤがぽつりと漏らす。
「それって、黒いアビィ君?」
黒いアビィ。
その名を聞いた丸喜の表情には、わずかだが驚愕の色が浮き出ていた。
「君、あの子に会ったのか。」
「うん、特異点で偶然ね。そっか、君が彼の言う『優しい世界』を作る仲間だったんだね。」
「…そうだね。僕らは認知を利用して、完全で欠けの無い世界を作る。それが、武道との約束でもあるから。」
丸喜の反応を見て、カグヤは納得したように頷いた。
同時に黒いアビィが掲げていた『優しい世界』が、丸喜の集合無意識を利用した『認知の世界』だという事も理解する。
成程、理想の認識が広がる世界が一人一人に与えられ、その上で無意識を管理されれば、確かに諍いや憂い、増長すらも無い世界になる事だろう。
だが…
「でも、それって何だかつまらないね。」
「…つまらない?」
カグヤには、その理想がどうにも色褪せて見えた。
争いを無くす事は、確かに素晴らしい事かもしれない。
ここ数日のメサイア教団やミケーネ神等を見れば、争いはくだらないものでしかない。
だが、そんな事は“いつまでも”続けられるものではないのだ。
例えその認識が、外的要因によって崩されないとしても。
「永遠に変わらない世界を生きる者は、生き甲斐を失い続ける事になる。その時、人は壊れちゃうんだ。それすら治すんだろうけど…そうして形を保った存在は、果たして“人”なのかな?」
カグヤの言う事は、丸喜も分からない話ではなかった。
人の認知を書き換える…それは人の過去や今といった、在り方そのものを根底から変えてしまうという事だ。
その認識を不変であると定義してしまえば、人は永遠に変わらない存在として生き続ける事になる。
だがそれが本当に幸せと言えるのかは、また別問題だろう。
「“いつまでも”変わる事の無い世界。その世界の人間って、果たして“生きている”と言えるのかな?」
「……」
一息ついて、カグヤは今までの笑みを捨てて告げる。
「あたしはそんな“人形”、嫌だな。」
嫌悪に染まったその目に、丸喜は思わず息を飲む。
超常者の威圧…武道のソレと似通った圧に、丸喜は覚えのある恐怖を抱いた。
「_確かに、成長の無い人間は“生きていない”のかもしれない。」
同時に、カグヤの言う事にも一理あると感じざるを得なかった。
人は変わる生き物だ、更に言えば“成長”という変化を内包している。
成長が無ければ、人はただ生き続けるだけの肉塊に成り下がるだろう。
“人形は生きているとは言えない”
そう考えるカグヤの考えも、また一つの真理であるのだ。
きっと、ジョーカー達も、何よりクロウがそう考えている。
「けど、死ぬ事も殺される事も無い。それはきっと、“生きている実感”よりもずっと、価値がある筈なんだ。」
「生きている事よりも価値がある、か。」
「そうだ。理不尽な現実は、もう沢山だから。」
それでも尚、丸喜はカグヤの言葉に異を唱えた。
己の道を肯定する為に。
そして、生きていく上にある悲劇を否定する為に。
そんな丸喜に、カグヤは…
「そっか。」
思わず、笑みを零した。
完璧なモノに目が眩んで、憧れる。
不完全な者だからこそ成りえるその心境は、余りにも“人間”の在り様だったから。
丸喜一派という思想ではなく、ただの丸喜拓人という一人の人間を見たカグヤは、そこに“人間らしさ”を見出した。
「…?」
「うん、確信があるなら、きっと止めても無駄だね。君を止めるのは、あたしの役割じゃないし。」
丸喜の疑問も他所に、素直に引き下がるカグヤ。
争う意思が無いなら、カグヤとしても直接立ち塞がるつもりは無い。
だが。
「止めるのは、CROSS HEROESの役目。でもその前に、皆にその資格があるかの審判が、もうすぐ来る。」
「…審判。」
カグヤの告げた言葉に、丸喜は眉を顰める。
「確かに、人類全体の重合無意識が悲鳴のような物を上げている…それほどの存在が、来ているんだね?」
「そうだよ。“皆”が来ているの。」
丸喜の問いにカグヤはあっけからんと答える。
認知を操る丸喜だからこそ感じ取れた『ソレ』に、丸喜は…
「…僕はもう、戻らないと。エタニティ・コアの事もある。」
「うん、バイバイ。」
人知れず、彼は影の中へと消える。
後には、カグヤだけが残った_
「NEVER GIVE UP」
会議室を出た廊下の一角。
そこには、明らかに空気の沈んだ一団がいた。
キン肉マン。テリーマン。ロビンマスク。ラーメンマンら正義超人たち……
そして、バッファローマンも――腕を組んだまま、壁に背を預けている。
「……正直に言おう」
重い沈黙を破ったのは、キン肉マンだった。
「今回ばかりは……自信が無い」
その言葉に、誰もすぐには返せなかった。悟空やベジータですら凌駕する敵。
“火事場のクソ力”という切り札が、通じなかった存在。
奇跡の逆転ファイター、キン肉マンがこうも深く沈んでいる。こんな事は、
キン肉王座決定戦の最中、キン肉マンマリポーサ軍がひとり、ミキサー大帝によって
火事場のクソ力を封印されてしまった時以来だ。
その時だった。
――ドンッ!!
床を踏み鳴らす、重い音。
「うつむいてる暇があるなら、顔を上げろォ!!」
一斉に視線が集まる。
そこに立っていたのは、ウルフマンだった。
両の拳を握りしめ、鋭い眼光で仲間たちを睨みつけている。
「お前ら……何を今さらビビってやがる!!」
「ウ、ウルフマン……」
キン肉マンが驚いたように声を漏らす。
「敵が強い? ふざけるな!! 今まで楽勝の相手ばっかだったとでも言うのか!?」
ウルフマンは一歩、また一歩と近づく。
「悪魔超人! 完璧超人! どいつもこいつも、今度ばかりは“終わった”って
言われた相手ばかりだったはずだ!!」
ぐっと拳を握りしめる。
「それでも――お前らは立ち上がった!! 勝てる保証なんて、一度だって無かった!!」
「……」
「火事場のクソ力が通じなかったから何だ!! それで諦めちまうのか!
その程度の男だったのかよ、てめえは!!」
キン肉マンの胸ぐらを掴み、宙に持ち上げるウルフマン。
その言葉に、バッファローマンの目がわずかに動く。
「ぐ、ぐぐ……ぐるじい……!!」
「俺たちは――“力”だけで戦ってきたんじゃねぇ!!」
ウルフマンは胸を叩いた。
「意地だ! 諦めの悪さだ! 99回倒れりゃ100回起き上がる!!
みっともないと言われようが! 情けないと笑われようがな!
それ全部まとめて、キン肉マンなんだろうが!!」
乱暴に壁に向かって放り出す。沈黙の中、嗚咽混じりのキン肉マンが
ゆっくりと顔を上げる。
「……ウルフマン」
「なんだ」
「もし……それでも勝てなかったら?」
一瞬の間。ウルフマンは、ニヤリと笑った。
「その時は――」
「その時は?」
「立ったまま、負けりゃいい」
全員が息を呑む。
「逃げずに! 誤魔化さずに! “やれるだけやった”って胸張って、倒れりゃいい!!」
ウルフマンの声は、怒号ではない。それは――覚悟を叩きつける声だった。
かつて、悪魔六騎士がひとり、スプリングマンに敗れた時も、彼は最後まで逃げなかった。
例え勝てずとも、退く事だけはしない。それがウルフマンを支えるただひとつの柱だ。
「俺たちは、最初から“勝つためだけ”に戦ってきたんじゃねぇ!
“生き様”を見せるために戦ってきたんだろ!!」
その瞬間。
「……フフ」
ブロッケンJrが、静かに笑った。
「まったく……説教が板についてきたな、ウルフマン」
「うるせぇ!!」
完璧超人・クラッシュマンに敗れ去り、重篤なトラウマを刻まれたウルフマン。
一時は二度と戦列に復帰できないかも知れないとまで言われた彼が、
自分自身を奮い立たせ、キン肉マン達が不在のリ・ユニオン・スクエアを襲った
ユートピア・アイランド攻防戦を戦い抜いた功労者となった。
彼の存在そのものが、この絶望的な状況を覆すための気概……希望と言えよう。
「……よし。少なくとも、下を向いているのは終わりだ。ウルフマンの言葉、
極寒の吹雪の中でハートにウオッカを注がれた思いだぜ」
ウォーズマンも、静かに頷いた。そして――
「ありがとう、ウルフマン」
キン肉マンは、いつもの笑顔を取り戻していた。
「暗黒魔界に向かう前とは、立場が入れ替わってしもうたのう」
「次にまた情けないツラしやがったら、俺の張り手で気合を入れ直してやるぞ。
分かったな!?」
「応ともよ! ネバー・ギブアップじゃい!!」
ガッツリと手を取り合うキン肉マンとウルフマン。そう、まだ負けたわけではない。
この命ある限り……だがその一方で、トゥアハー・デ・ダナンの各区画では、それぞれが
同じ重さの現実と向き合っていた。
◆
医療ブロック併設の小会議室。
簡易ホログラムに映し出される、多元宇宙侵攻ルートの予測図を前に、
二人の魔法少女が並んでいた。
「……かなり、まずいですね」
環いろはの声は静かだが、隠しきれない緊張が滲んでいる。
「暗黒魔界、ジオン族、竜王軍……単独でも世界が傾く相手が、同時に動いてる」
七海やちよは腕を組み、視線を落としたまま続けた。
「希望的観測で“何とかなる”なんて言えない状況よ」
「それでも……」
いろはは一度、ぎゅっと拳を握る。
「それでも、逃げる理由にはなりません。ここには、守りたい“今”がある」
やちよは一瞬、目を閉じた。かつて何度も仲間を失い、“生き残ること”を
最優先にしてきた自分。だが今は違う。
「……ええ。生き残るためじゃない」
彼女は静かに顔を上げた。
「“誰かが生き続けられる世界”を繋ぐために戦う。そう決めたんでしょう?」
いろはは、はにかむように微笑んだ。
◆
格納庫上層、展望デッキ。
ルフィは手すりに腰掛け、足をぶらぶらさせながら言った。
「要は“すげぇ敵が山ほど来てる”って話だろ?」
「そう単純にまとめるな」
ゾロは刀の鍔に手を置いたまま、遠くを睨む。
「だが……まぁ、間違ってもいねェ」
「だったら決まりだな!」
ルフィは飛び降り、歯を見せて笑う。
「邪魔する奴は、全部ぶっ飛ばす!」
ゾロは小さく鼻で笑った。
「お前はいつも通りだな」
「当たり前だ! 怖ぇからって引っ込んでたら、海賊やってられねェ!」
一瞬、ゾロの視線が影を帯びる。
「……敵がどれだけデカかろうが、斬れねぇ理由にはならねェ」
「だろ?」
「船長が前に出るなら、俺はその道を切り拓くだけだ」
二人の間に、言葉はいらなかった。
◆
戦術解析室。重い沈黙の中、Z戦士たちが集まっていた。
それぞれの場所で、それぞれの覚悟が固まっていく。
「悟空とベジータがまたフュージョンとかしたらさ……何とかならないかな?」
クリリンの提案。あのブロリーを港区で制した融合戦士、ゴジータ。
「そ、そうか! その手があった!」
「すると思うか?」
悟空の言葉を即座に遮るベジータ。
「言ったはずだぞ。貴様と融合なんぞするくらいなら死んだ方がマシだとな」
「け、けどよぉ、他に何か打つ手があんのか?」
「……さあな」
つかつかと、ベジータは背を向け歩いて行く。
「何処行くんだ?」
「こんな所で腐ってる暇は無い。ブルマ、300倍のトレーニングルームの準備をしろ」
「覚星デュアルスターズ phase.1」
「ッ!……はぁッ!」
東京 某ホテル
真夜中、ホテルの屋上で天宮彩香は剣を振っていた。
アマツミカボシの力を得て以降、彼女はずっとこうしているというのだ。
「はぁ……はぁ……ダメだ……これじゃダメなんだよ……!」
疲れでひざを屈し、立ち止まるたびに、あの日の光景が瞼の裏に投射される。
あの曇天の日。
焔坂の手により降り注いだ、破滅の一撃。
それによって仲間のほとんどを失った。
あの日から、ずっと彼女は剣を振っている。
もう何も失わないように、と。そう誓って。
だが――――。
「でも、わからない。」
いつになく弱気な物言いで、彩香は膝をついていた。
何か、大いなる悩みを抱えているような。
そんな表情を浮かべていた。
「そんなところで何をしているんだ?」
かすかに、されど確かに聞こえる声がする。
彩香が振り向くと、そこにいたのは――――ジャバウォック島から帰ってきて同じようにご無沙汰していたリクだ。
「リク……さん?」
「そんなところで何をしているんだ?もう寒いだろ。」
「あっもうこんな時間か、ありがと。」
「……。」
彼は彩香の秘めたる悩みに気づいたのか、
「強くなりたい気持ちばかりで、どうすればいいのかが分からないんだ。」
「?」
彩香はその悩みを、リクに打ち明けた。
「……言い方が悪かった、技術的にどんな風に強くなるべきか。それが見えないんだよ。」
「……。」
「ボクは、どんな自分になりたいのかが、分からない。みんなを守りたいのに、どういう風に強くなりたいのかが分からない。」
愕然とした現実。
漠然とした未来展望。
その二つが、彩香の目の前を曇らせる。
熱意だけあれど、その方向性が定まらない自分が悔しくてたまらない。
「ごめん、彩香さん。実は兄から伝言を預かっているんだ。」
「なんて?」
「……これ以上、戦ってほしくないと。」
リクは続ける。
兄からの伝言、月夜の本心を。
「そんなのって……。」
「最後まで聞いてくれ。別に追放したいわけじゃない。だけどこれ以上強くなったら、彩香はどこか遠くへと行ってしまいそうで怖いんだってさ。」
ある意味での戦力外通告を、彩香は黙って聞いていた。
その本心を、本質を理解していたから。
兄は、妹を見捨てたいわけじゃない。
むしろその逆で、妹が遠い存在になってしまうのが、怖くてたまらないのだ、と。
「お前には、強さに溺れて優しさを捨ててほしくないって言ってた。」
彩香にはどうもピンと来ていない様子だったが、リクはその気持ちが分かっていた。
――――彼女が辿るであろう「最悪の未来」を想像する。
家族の仇、復讐にとらわれて力を欲し『そうなる』彩香の姿。
そして過去、力を求めるあまり闇に堕ちた自分の姿。
リクには、彼女の姿がかつての自分と重なって見えた。
だからこそ、兄の気持ちが痛いほどわかった。
「俺も、お前にはこれ以上……。」
一通りの話を聞いた彩香は、かつてない決意を込めた瞳で続けた。
妹からの解答を、ここにはいない兄に告げるように。
「言いたいことは分かった。でも、さ。あんな奴らを放置して、ボクだけ黙って見届けるなんて出来るわけがない。」
「……。」
「メサイア教団の、両親を殺した奴をこの手で叩き潰すまで、逃げるわけにはいかない。もしその果てにボクが闇に堕ちて世界の敵になるっていうなら、ボクは所詮そこまでの人間だったってだけだ。」
その決意を聞いたリクは息を強く吐いた後、立ち上がった。
「お前の主張は分かった。」
そして彩香の前に立ったかと思えば、キーブレードを手にして彼女に突き付けた。
「彩香、俺と修行しないか?」
「悪魔と悪魔、魂の交感」
崩れかけた見滝原の街の各所で悲鳴が上がる。
「助けて……! 誰か……!」
瓦礫に囲まれ、逃げ場を失った少女たちがいた。
美樹さやかと、佐倉杏子――かつて剣を振るい、血を流した“戦士”だったはずの二人。
だが今の彼女たちは、ただの中学生だ。
崩れたガードレールの向こうから、魔獣が唸り声を上げて迫る。
「……っ、杏子……」
「だ、大丈夫だって……たぶん……」
震える声で強がる杏子。しかし、足は動かない。
――その時。
「下がって!!」
藤丸が、二人の前に飛び出した。同時に、巨大な盾が空を裂く。
「――はあああああッ!!」
マシュのラウンドシールドが、突進してきた魔獣を正面から弾き飛ばす。
衝撃で地面が割れ、魔獣は呻き声を上げて消滅した。
「え……?」
「な、なに……?」
呆然とするさやかと杏子に、藤丸が振り向く。
「怪我はない!?」
「え、あ……う、うん……」
マシュは二人の前に立ち、盾を構えたまま微笑んだ。
「大丈夫です。ここは私たちが守ります……逃げ道、確保しますね」
その言葉が終わるより早く、マシュは盾で瓦礫を押し退け、通路を作る。
「今のうちに、あっちへ!」
戸惑いながらも、二人は藤丸に導かれて走り出した。
――彼女たちは忘れていた。自分たちが、かつてどれほどの覚悟で戦っていたのかを。
「何だろう……この気持ち……」
「あたし……達は……」
彼女らの「魂」に刻まれた、戦いの記憶が僅かに脈動する……一方、別の通り。
「……きゃっ……!」
巴マミが足を取られ、倒れ込む。その腕の中で、百江なぎさが泣きそうな顔をしていた。
「マミ……こわいのです……」
「大丈夫、なぎさ……すぐ立つから……」
だが、魔獣の影が、ゆっくりと二人を覆う。
「……!」
その瞬間、空気が裂けた。
「――星羅、一閃ッ!!」
月美の声と同時に、振り下ろされる剣。魔獣の動きが、ぴたりと止まった。
「覆滅」
霊力が弾け、魔獣は脳天から真っ二つとなり、左右の半身がそれぞれ真逆に
ズレ落ちたかと思うと、跡形もなく消滅する。
「え……?」
「……?」
月美は二人の前に着地し、静かに言った。
「怪我は?」
「だ、大丈夫……です……」
マミは状況を飲み込めず、困惑した表情のまま答える。
なぎさは、不思議そうに月美を見上げた。
「……おねえちゃん、誰なのです……?」
「……」
ほんの少し、柔らかく微笑んで。
――クレーター中央。ディルクは、見下ろすように戦場を眺めていた。
その背後で、全身を魔獣に纏わりつかれた赤いガンダムが唸るように駆動音を上げる。
「絶望と恐怖に彩られた魂もまた、美しい。行け、赤いガンダム。蹂躙しろ。
抵抗する者すべてを」
ガンダムのツインアイが、妖しく点滅した。
――ズン……!
一歩踏み出すだけで、地面が陥没する。巨腕が振り上げられた、その瞬間。
「――させるか!」
ディケイドが跳躍し、ブッカーガンの銃撃を叩き込む。
マゼンタの弾丸が装甲に火花を散らす。しかし、有効なダメージは与えられていない。
「ちっ……硬いな……!」
「ははは! 当然だ! 次元外規格の機体だぞ?」
ディルクが嘲笑する。
「機械を操る……まるであの男のようだ」
ペルは思い返していた。メサイア教団の末席、クレイヴ。
自らを機械に取り憑かせる特技「機巧憑依」にてCROSS HEROESを
思わぬ苦戦を敷いてきた男。ディルクはその名を聞くと肩をすくめ、薄く笑った。
「ふん……クレイヴか。功名心だけは一人前の、あまりに素行も出来も悪い男だった。
私の“魂の蒐集”を、力ずくで横取りしようとした愚か者だ」
侮蔑の混じった声。
「破門して正解だったよ。あれは“支配する側”の器ではない。
――操られる側がお似合いだ」
クレイヴはディルクに破門された後、メサイア教団の大幹部として成り上がる事を
目的としていたが、その結末は惨めなものであった。
「奴の機巧憑依は自らを機械に取り憑かせる必要があったが……この私は違う。
私が手なづけた魔獣を媒介とし、それを掌握さえすれば……これ、この通り。
これがガンダム! 悪魔の力よ! それが今、私の物に!!」
その言葉と同時に、赤いガンダムが唸りを上げた。
――ギギギギ……! 肩部のビットが展開し、赤黒い光が収束する。
「来るぞ!!」
士の叫びと同時に、ビームが放たれた。
――ズドォォォンッ!! 街区が、まとめて吹き飛ぶ。衝撃波が、ディケイドとペルを
弾き飛ばした。
「ぐっ……!」
「……っ!!」
アスファルトに叩きつけられ、二人は即座に体勢を立て直す。
「威力が桁違いだ……!」
「このままじゃ、押し切られる……!」
赤いガンダムは、ぎこちない動きのまま、再び腕を振り上げる。
その挙動は荒く、どこか“焦燥”を帯びていた。
その時だった。ペルの背後で、ふっと空気が揺らぐ。
「……ペル……」
淡く、か細い声。振り向いたペルの視界に、淡い光の輪郭が浮かび上がる。
肉体を持たぬ、精神体のたりあだった。
「たりあ……何を……!?」
たりあは赤いガンダムを見つめていた。
「……あのロボット……魂が……絡め取られてる……」
「やめろ! たりあ、無理をするな! 今のお前は……肉体を持たない精神体だ!
下手をすれば……」
たりあは、ペルを振り返り、ほんの一瞬だけ微笑んだ。
「……大丈夫……これ、あの頃のペルがいつもやってた事……」
――コンファイン。
かつて、たりあの記憶の番人として彼女の中にその身を宿していたペルが
得意としていた技。自らの存在を“物質”や“器”に重ね、内部に干渉する危険な能力。
「たりあ……ッ」
制止を振り切るように、たりあの輪郭が溶ける。光が、赤いガンダムへと吸い込まれた。
――暗闇。そして、閉ざされたコクピットにそのパイロットはいた。
たりあの気配に、彼ははっと顔を上げる。
『……誰だ……?』
そこにいたのは、二つの“存在”。
一つは、淡く揺らぐ、優しい光――たりあ。
そしてもう一つは、紫の瞳の悪魔――ほむら。たりあのコンファインの補助を
しているのだ。
「ほむらちゃん……」
「まったく、無茶をするわね。貴女を大切に想う人間の事も少しは考えたら
どうなのかしら。まぁ……悪魔が言う事ではないかも知れないけれど」
魂の交感。そこに、時間の流れは意味を成さない。たりあが、そっと言葉を紡ぐ。
「怖かったよね……一人で……」
『……っ……』
少年の喉が、詰まる。
『……声が……ずっと……戦え……壊せと……ガンダムが言っている……』
ほむらの表情が、わずかに揺れる。
「……この感覚……」
たりあも、気づいたように目を見開く。
「……似てる……」
声の主は、姿を持たない。ただ、歌のような響きが脳裏を流れていく。
ほむらは、確信に近い直感を覚えていた。
(……ラ……ラァ……?)
刻を超えて“何かを導く存在”。自分と、あまりにも似ている。
「魂の交錯せし場所、夜明け前」
たりあの言葉が、少年の心を包み込んだ、その瞬間だった。
「いい言葉だ……感動的だな」
冷たい拍手の音が、魂の空間に響いた。
「だが――無意味だ」
紫黒の靄が渦を巻き、空間そのものを侵食する。ディルクの精神体が、
歪んだ笑みを浮かべて現れた。
「魂の対話? 癒し? 笑わせる。それらすべて――私の“蒐集”の糧だ」
「……!!」
ほむらが、たりあへの行く手を遮る。そこへ。
「――させるか」
低く、鋭い声。その場に、新たな“輪郭”が立ち上がる。
黒と紅の霊力を纏った、もう一人の精神体――ペルだった。
「むごっ!?!?」
ディルクの醜い顔面を無言で鷲掴みにする。
「……ペル!」
「たりあ、下がれ。こいつは……私が止める」
「は、離せ、小娘!! ……んなあああああああ!!」
ディルクは無理矢理にペルの手を引き剥がし、身を退けた。
「完全な精神体で介入するとは……!!」
「コンファインは私の専売特許だ」
元々、己の肉体を持たない精神体の姿で存在していたペルにとっては、
たりあよりもその経験は長い。
「たりあが思い出させてくれたのだ。その身を以ってしてな」
ペルの瞳が、昏く、黒く、深みを増していく。
次の瞬間、精神世界が激突する。ディルクの魂が放つ支配の波動を、
ペルは真正面から受け止めた。
「ぐっ……!?」
「貴様の力は“奪う”だけだ。魂は――支配するものじゃない」
たりあが、そっとペルの背に手を添える。
「……ペル、一緒に……」
その瞬間、二つの光が重なった――融合。
月と太陽、相異なるもの同士……黒と紅、優しさと覚悟が交差し、新たな輪郭を結ぶ。
夜明け前。その名を、ペルフェクタリア・プリドウン。
ペルとたりあが一つとなった存在が、ディルクを見据える。
「な、何だその……!」
「出ていけ」
静かな命令。次の瞬間、魂の衝突が炸裂した。
ディルクの精神体は弾き飛ばされ、強制的にガンダムの外へと排出される。
「ぐ、あああッ!!」
――現実世界。
赤いガンダムから、黒い霊体が引き剥がされる。だが、ディルクは尚も嗤う。
「魂の融合だと……!? くふふ、だが……まだだ……まだ終わらんよ!」
周囲に蠢いていた魔獣たちが、一斉にディルクへと吸い寄せられる。
「魂よ、恐怖よ、絶望よ……すべて我が物に!」
肉体と精神が歪に融合し、ディルクは異形へと変貌する。
「虎の威を借る狐とは、まさにお前の事だな。薄汚い毛皮の衣の着心地はどうだ?」
ディケイド、月美、藤丸、マシュも集う。
「黙れぇぇぇぇぇえ! オオオオオオオ!!」
魔獣ディルクが咆哮する。魂と魔獣を継ぎ接ぎにした巨体が、赤黒い霊力を噴き上げた。
「――貴様らの魂も喰らってやる!!」
振り下ろされた腕が、戦場を薙ぎ払う。
「マシュ!!」
「受けます――!」
盾が悲鳴を上げ、マシュが膝をつく。
直後、衝撃波をすり抜けるように“別の圧”が走った。
「……お前が魂を弄ぶなら」
ディケイドが、カードを構える。
「――こいつがうってつけだ」
【KAMEN RIDE GHOST】
【カイガン! オレ! レッツゴー! 覚悟! ゴ・ゴ・ゴ・ゴースト! Go Go Go!】
橙のエネルギーが爆ぜ、ディケイドの装甲が変わる。
生死を超越し、歴史に名を刻んだ英雄たちの魂を受け継ぐ仮面ライダー、ゴースト。
黒いフードを脱ぎ去り、魔獣ディルクを正面から睨み据えた。
「命、燃やすぜ、ってな。はああああああああっ!!」
DCDゴーストが踏み込む。霊体化した拳が、物理を無視して魔獣黒衣を殴り抜いた。
「ギ……ッ!?」
「効いてる! 直接干渉してる!」
【FORM RIDE GHOST】
【カイガン! ムサシ! 決闘! ズバット! 超剣豪!】
何処からともなく飛来する赤いパーカーが、ディルクを周りを飛び回って翻弄。
『宮本武蔵、ここに推参!!』
DCDゴーストに覆い被さると、二刀流の大剣豪、宮本武蔵の魂を受け継いだ
ムサシ魂へとチェンジする。
「つあああああああああああっ!!」
ガンガンセイバーとブッカーソードの二刀流で、魔獣ディルクを
目にも止まらぬスピードで斬り刻む。弾ける火花。
「凄い! 歴史上の英雄の力をお借りして戦うのですね! まるで先輩みたい……」
「そうだよね……宮本武蔵って本来は男だよね……カルデアには女の子の武蔵ちゃんが
いるからさ……時々分かんなくなる……」
だが、魔獣ディルクは怯まない。怒りに任せ、藤丸へと標的を変えた。
「数々の英霊の魂を使役する……貴様を喰ってやる!!」
「――っ!!」
回避が間に合わない。ディルクから分離した魔獣の爪が、藤丸を引き裂こうとした、
その瞬間――影が、動いた。
「――油断だぞ、共犯者」
低く、冷たい声。
地面の“影”そのものが立ち上がり、黒い外套を翻す。
「……巌窟王!?」
「フッ……」
エドモン・ダンテスが、藤丸の前に立っていた。
蒼黒い炎が魔獣を包み込み、焼き払う。
「ギャアアアアアッ!!」
「熱いか? 苦しいか? それが貴様の背負いし罪だ……噛み締めるが良い!」
「――今よ」
悪魔ほむらの声。歩兵姿の使い魔達が背後に隊列に成し、槍を一斉に投擲する。
「……!」
魔獣たちに次々と突き刺さり、その動きを封じる。
「これ以上、この街で好きにはさせない」
月美もまた、その“隙”を逃さない。
「日向の力は……あなたたちのような闇を照らし、清めるために! 星羅――解放!」
霊符が月美の背後で円陣を描いて舞い、星座陣が完成する。
「星座閃ッ!!」
霊符陣による霊力ブーストが加わった強化版星座閃が放射され、魔獣たちを一掃する。
「今だ!!」
「合わせる」
プリドウンが踏み込む。DCDゴースト・ムサシ魂が、横合いから突撃する。
「魂はお前の喰い物じゃない」
「――人が生きる証だ!!」
【FINAL ATTACK RIDE GO GO GO GHOST】【OMEGA SLASH!!】
「でぇああああああああッ!!」
ムサシ魂が二刀流を振り抜いてディルクの魔獣黒衣を✕の字に切り裂き、
「相克剄・葬ッ!!」
アスファルトを踏み割るプリドウンの掌底が、魔獣ディルクの核を撃ち抜いた。
「ぐ……あ……!」
魔獣黒衣が霧散し、ディルクの身体を貫通する衝撃波。それは肉体のみならず、
精神をも撃ち貫く一撃。その背後に立ち並んでいたビル群もまた、空間を削り取ったように
一瞬にして消滅した。
「ぶほぇあッ……!! かっ……はっ……!!」
肉体と精神を同時に破壊されたディルクにはもはや戦う力は残されていない。
そこへ――最後の“扉”が開く。
「――夢の門、開放」
アビゲイルが静かに告げる。
「貴方の物語は、ここで終わり」
「や、やめろ……私は……!」
「――退場よ」
「い、嫌だああああああああああああああ……」
魔獣ディルクは、門の向こうへと引きずり込まれ、完全に消失した。
〈再燃する闘志〉
戦術解析室から出ていくベジータ。
重力300倍のトレーニングをすると言った彼の後ろ姿を見て、ピッコロは感心を覚えていた。
「腐ってる暇は無い、か。奴らしいな。」
「…あんなとんでもねぇ奴を見てああ言えるの、やっぱベジータはすげぇな。」
暗黒神精樹にドラゴンボール…嫌でもわかる力の差を思い知らされて尚、彼は闘志を失おうとしない。
自分のみの力を第一とし、ストイックにそれを鍛え続ける。
その姿勢は、気概の沈んでいたピッコロ達にとって、眩しいものに見えた。
だが…
「オラだって、負けたくはねぇ。けんどよ…」
悟空の声色は、珍しく落ち込んでいる。
「どうもちょっとやそっと修行したくれぇじゃ、今のあいつらには全く勝てる気がしねぇ…」
「…悔しいが同感だな。ただのサイヤ人だったターレスが、あそこまで力を付けるとは。」
ターレスが見せた圧倒的な力。
最早力という言葉では表現しきれないそれを目の当たりにし、そして実際に戦って、二人はどこか挫け気味だった。
ただの特訓であの域に到達できるとは、到底思えない。
戦闘力の桁が違う事は、重々承知の事だった。
…だが。
「けどやっぱり、オラ達には特訓しかねぇよな。」
悟空が、そう呟く。
そうだ、例え相手がどれほど強くとも、どれだけの高みに居ようとも。
それでも、自分達がやるべき事は一つしかない。
「ふん。お前は昔も今も、特訓バカだろう。」
「へへっ、まぁな。」
「よっし、くよくよしてんのはおしまいだ。オラ達もやるぞ!」
「だな! もうぜってー奴らに負けたくねぇかんな!」
仲間を、地球を守る。
そして何よりも、ライバルには負けたくない。
決意を固めた戦士達は、更なる高みを目指して動き出した。
◇
_アビダイン病室。
そこで一堂に会する者たちは、悪魔超人の中で主だった面々。
スニゲーター、サンシャイン、そしてスプリングマン。
それと、超人医師のドクターボンベだ。
纏う空気は、どこか重たかった。
その理由は…彼らの視線の先、ベッドに横たわっているアシュラマンとブラックホール。
「カカカッ…お前たち、そう暗い顔をするな。」
武道と相対し、深い傷を負ったアシュラマン。
あれから日数が立ち、体を起こせる程度には復活している。
「この通り、命は残って…っ!?」
「無理するなアシュラマン。傷はまだ、深い。」
「うっ、ぐ…悪魔6騎士ともあろうものが、情けない…!」
だが彼の体には、まだ多くの傷跡が見せしめと言わんばかりに刻まれており、痛みという存在感を放っていた。
武道から受けた敗北の印だ。
その傷跡が痛むたび、アシュラマンの心に屈辱の二文字が色濃く浮かび上がる。
ギリリッと奥歯を噛みしめ、その屈辱に押しつぶされんと堪えていた。
「……」
そして、そんなアシュラマンの隣のベッドで、ブラックホールは起きる兆しすら見せない。
彼に刻まれた傷跡は様々で、不特定多数からの攻撃を受けた事が分かる。
そのどれもが深い傷であり、特に腹部に刻まれた傷は深く、そして大きかった。
「BH…!」
ブラックホールに何があったか。
それは彼ら悪魔超人が、先んじて暗黒魔界に向かったあの日の事…
■
『_暗黒魔界へ向かうにあたり、ブラックホール。お前に忠告せねばならぬ。』
『私めに、でしょうか?』
いつもより一段と重い声色の悪魔将軍は、喉奥から絞り出すように告げた。
『今回の遠征…お前は、敵に倒されるだろう。』
『なっ…!?』
自身の敗北を、悪魔将軍は予言した。
その衝撃の一言に、悪魔将軍の配下たちが言葉を失う。
『やはり、ですか。』
だが当のブラックホールは、どこか納得した口ぶりだった。
いや、分かっていたのだ。
『この世と魔界を自由に行き来できる私は、アシュラマン様を人質に取りたい向こうにとって、邪魔者同然でしょう。』
この遠征は、アビィ達が魔界の現状を偵察する事と同時に、魔界で療養させていたアシュラマンを奪還する事も目的としていた。
だが、ソレは向こう…トワ達も承知の事。
そしてアシュラマンを奪わせまいと、様々な計略を巡らせているだろう。
そんな彼女らにとって、何人でも自在に移動させられるブラックホールは、人質戦略の大きな抜け穴となってしまう。
『あぁ…だからこそ奴らは、真っ先にお前を潰すだろう。』
故に、ブラックホールは絶対に狙われる。
少なくとも再起不能に至るよう、全力を投入されるだろう。
悪魔の、魔界人の本性を知り尽くしている悪魔将軍は、そう確信していた。
『済まない、魔界をまだ安全と思い込んだ私の采配ミスだ。そのせいで、お前を死なせるやもしれん。』
悪魔将軍は、取り繕う事をせずただ謝った。
己の浅慮を、怨恨の念を込めて。
だが、ブラックホールは…笑った。
『カーカカカ…謝罪には及びません。この命、元より悪魔将軍様の為に。』
責める意思など微塵もなかった。
寧ろ天命を仰いだと言わんばかりに、血気はやっていた。
そして、こう言い切る。
『敵が私を狙うというのならば、上等。』
その一言に、悪魔将軍は僅かに目を見開く。
この期に及んで、ブラックホールの闘志は全く折れていなかった。
そして彼は振り返り、仲間である7人の悪魔超人達へと叫ぶ。
『お前らァ!敵が俺を狙う奴等を、一人でも多く倒せ!!間違っても、俺を守ろうなんて考えんじゃねぇぞ!!!』
『『『おうっ!!』』』
何を迷う事なく、仲間たちは一斉に答えた。
みなが同時に拳を握りしめ、その拳で敵を打ちのめす事を宣言する。
彼らの結束は、友情の様に硬かった。
『_ふっ、頼もしい奴らだ。』
悪魔将軍はただ、僅かに呟いた。
そして…やはりというべきか、ブラックホールは集中して狙われた。
暗黒神精樹を食べ、異様なまでに強くなった魔界人たちによる集中砲火。
肉体を徹底的に痛めつけるような一撃の数々に、しかしブラックホールは耐えた。
耐えて耐えて、血塗れになってもひたすらに攻撃を受け止め続けた。
『悪魔は…ただじゃ死なねぇッ!!!』
動かなくなっても、それでもまだ耐えた。
一人でも多くの敵を仲間に倒させる為、執念で立ち続けていた。
次第に敵の攻勢が鈍り、やがて止んだ頃。
彼は、漸く倒れた。
■
その後はアビダイン隊と合流し、今の通りである。
「…こいつは、己の役割を果たしたのだな。」
傷だらけのブラックホールを見て、アシュラマンが確信する。
己が命尽きるまで、仲間の障害になるものかと気高く散った事を。
「このままベッドにいたまま、という訳にはいかんな。」
そしてその気高い散り様に応えると、より強く誓うのだった。
「かくてカーテンコールの幕は閉じる」
戦いの余波が消え去ると同時に、見滝原はゆっくりと“元に戻って”いった。
崩れ落ちていた建物は時を巻き戻すように再構築され、割れた舗道も、
壊れた信号機も、ガンダムによって引き起こされた地盤沈下も、クレーターも、
何事もなかったかのように元の位置へと帰っていく。
空を覆っていた禍々しい雲は晴れ、逢魔が時の薄紫の空が、いつもの穏やかな夕焼けへと
溶けていった。
人々は歩き出す。
「……あれ? 今、何してたんだっけ」
「さあ……早く家に帰ろう」
誰も、魔獣のことを覚えていない。
誰も、魂が喰われかけたことを知らない。
街は再び、“何も起きなかった日常”を取り戻していく。
それは、救いであり――同時に、残酷でもあった。
「……」
見滝原の街を一望出来る丘に、暁美ほむらは静かに立っていた。
眼下には、鹿目家。
「ただいまー」
「おかえり、まどか」
「ねーちゃ、おかえりー!」
下校し、玄関先で靴を脱ぐまどか。風呂上がりの母。夕食の準備をする父。
キャッキャとはしゃぐ弟のタツヤ。ごく当たり前の、平和な光景。
ほむらは、淋しげに、だが安堵の笑みを浮かべる。
「……よかった」
その一言は、誰にも聞かれなかった。背後に、気配が生まれる。
完全に元の姿へと戻ったペルフェクタリアと、傍らに漂う平坂たりあの精神体が、
並んでそこに立っていた。
「……あれが鹿目まどかか。人間としての姿は初めて見る」
「あの時……わたしとペルを助けてくれた人……気配だけしか感じ取れなかったけど……」
アベレイジとの最終決戦。ペルとたりあに助力をしたのが、
とある運命の水先案内人……そして、円環の理を司る神としての鹿目まどかであった。
ほむらは振り返らず、微かに口元を歪めた。
「見ての通りよ。世界は救われた。貴女たちのおかげでね」
「……一人で、背負うつもりだったんだな」
ペルの声は低く、しかし責める響きはなかった。
「まどかを守るためなら、嫌われるくらい安いものよ」
沈黙。夕暮れの風が、三人の間を吹き抜ける。
「……私は、分かった」
ペルが口を開いた。
「嘘には二種類ある。人を傷つける嘘と……守るための嘘だ」
ほむらが、僅かに目を細める。疎んじるように。
「私は、嘘が嫌いだ。だが……お前の嘘は、誰かを守るためのものだった」
ペルは、真っ直ぐにほむらを見た。
「それを、私は否定しない。私とて、たりあを取り戻せると言うのなら、
どんな手段を使ってでもそれを成そうとしただろう」
「……ふっ……分かったような事を言わないで」
ほむらは、一瞬だけ言葉を失い――そして、邪悪な笑みを浮かべてペルを睨むように。
「……私は悪魔なのよ。世の理を乱し、神を穢し、貶めたの。
貴女達の味方になったわけじゃない。グランドクロスがここに攻めてきたから、
どう言うわけか転がり込んできた貴女達を利用して、排除したまでの事。
美樹さやか達だって、まどかを円環の理から取り戻すのに巻き込まれて
たまたま人としての生活に戻る事になっただけ。私がそう仕向けたわけじゃない」
「だが、お前はたりあを助けてくれた。感謝する」
「そうだよ。ありがとう、ほむらちゃん」
しかし、ペルは些かも怯む事無く、たりあ共々、ほむらに礼を述べる。
「……はぁ。何なのよ、貴女達は……揃いも揃って」
「そいつらに皮肉は通じんぞ」
士の、草むらを踏みしめる足音。
「ディケイド……貴方も、この世界を破壊するつもりかしら?
何せ、世界の破壊者ですものね」
「言っただろ、通りすがりだ。用が済んだら、去るだけさ。
この世界を破壊するかどうかは……お前の今後の身の振り方次第だな。
それに、一応借りもある。それを返しただけだ」
旅荷を降ろしかけた士にネオディケイドライバーを与えたのは、ほむら。
その後の彼の活躍は、言うまでもないだろう。
「この世界は、ここまでだ。俺達は、次に行く」
ペルは小さく頷いた。
「暁美ほむら」
かつての友の名を呼ぶ。ほむらが一度だけ振り返る。
「孤独に慣れるな。また会おう」
「……さっさと行きなさい。それと、ひとつだけ教えておくわ」
——……
———―……
風に吹かれる草の音が、ざわざわとほむらの言葉を連れ去っていく。
「本当か、それは……!?」
「どうかしら。悪魔の言葉、信じるか信じないかは、貴方たち次第よ。
とりあえず、もうこの街で騒動を起こされるのはご勘弁願いたいわね。さようなら」
士は、ペルとたりあを連れ、丘を下っていく。その背中を、ほむらは黙って見送った。
見滝原に残されたのは、悪魔ほむらただ一人だった。
遠くで重低音が響く。赤いガンダム――戦場を離れ、ゆっくりと空へと上昇していく。
そのコクピットの中でパイロット——シュウジ・イトウは
地上からこちらを見上げているほむらの姿を発見した。
「……君も、全てを捨て去ってでも望む、たったひとつのものを求めたのか」
刻を超える魂の波長。繰り返される悲しみ。孤独。永遠の螺旋の環……
メビウスの環の中から抜け出せずにいる。
「僕は彼女に引き寄せられた、というわけか」
赤いガンダムは旋回し、宇宙の彼方へと進路を取る。機体が光の中へ消えていく。
「だけど、僕のいるべき場所は、ここではない。そう……ガンダムも言っている」
見滝原には、何も残らない。人々は日常へ戻り、誰も空を見上げない。
だが確かに、ここには魂の戦いがあった。
誰にも知られず、誰にも語られず――それでも、確かに。
沈む夕日は、カーテンコールの幕引きにも似ていて。
赤いガンダムが空へと溶けていった、その直後。
高台とは別の場所――見滝原の外縁部。
マシュ・キリエライト、藤丸立香、そして、日向月美が立っていた。
「行ってしまわれたのですね……赤いガンダム」
マシュが、少し寂しそうに言った。
「まさか、夢の世界でガンダムやグランドクロスの幹部と戦う事になるとはね。
グランドクロス……本当に恐ろしい連中だった。こんな街中で白昼堂々大暴れするなんて
正気の沙汰じゃない」
「縁があれば、引き寄せられる。良くも悪くも」
月美が一歩前に出た。
「私たちがここに来たのも……偶然じゃないのかも知れません」
どこからともなく、幼い声が響いた。
「お話は、ここまで」
振り返ると、そこに立っていたのはアビゲイル。穏やかに、静かに微笑んでいる。
「アビー」
藤丸が、ほっとしたように息を吐く。リビルド・ベースを発った時のような
魔性の気配は失せている。「門」を開いたのはアビーの意志か、それとも何か別の意志か。
マシュが周囲を見回す。士、ペル、たりあも合流した。
「門矢さんたちも来られました」
「悪いお夢は、これっきり」
アビゲイルは、静かに告げ、彼女が小さく手を掲げる。
「――門は、開いたわ」
空間が歪み、特異点へと続く“夢の門”が姿を現す。
向こう側には、リビルド・ベースの光景が揺らいで見えた。
「帰ろう。みんなの所へ……」
「覚星デュアルスターズ phase.2」
存在しなかった世界
「希望ヶ峰学園評議委員会?」
円卓の間でエイダムとビショップが会談をしていた。
話題として提示されたのは、かの希望ヶ峰学園のトップ、評議委員会なる連中のことだ。
「実をいうとな、あの老人連中のうちの数人はグランドクロスの使徒にして我が同志なのだよ。魅上が執心しているかの『女神』の技術も、元を辿れはその源流(ルーツ)は評議委員会に紛れた我らが同志の計画に行きつく。」
「人工的に全能の存在を作り上げる狂気、カムクラプロジェクト。それを発展させたのがあの『女神』と?」
「最も机上の空論、没になった計画だがな。江ノ島盾子の実母はどこかでそれを知ったのだろう。彼女があの悍ましきジャバウォック島でやった『女神』の実験は却下された机上の空論を自己流に解釈、実行した劣化コピーに過ぎん。」
エイダムはため息交じりに続ける。
「超高校級の才能だけではなく魔術、異能、神秘、伝承、伝説、神話、技術、権能。人類史のすべての『叡智と力』を統合し統制し具現化、そうして生まれた全能の神が暴威の嵐として愚民どもに配給する。それが我らが掲げる本来の『女神』計画。計画名メアリー・スー・プロジェクト。」
創られし全能の存在、メアリー・スー。
その名が創作の世界において一種の忌み名、警鐘の名として扱われている点を鑑みても、この計画の悍ましさがうかがえるというものだ。
「で、何が言いたい?」
「再認だよ、劣化コピーに過ぎんとはいえ魅上らの鋳造する『女神』の完成が近いということを聞いて少しセンチな気分になっただけだ、捨て置いてくれ。」
はいはい、とビショップは呆れ交じりにつぶやく。
「ところでだがエイダム同志、そろそろ地上との『繋がり』を強める最後の一手を打とうと思うが、いいか?」
「最後の一手、だと?」
ビショップは口角を邪悪にゆがめる。
「トラオム、否。希望ヶ峰学園跡地を基点に『悪霊』を放つ。その混沌から生じる魔力の揺らぎを利用し、我々が地上に干渉した座標と存在しなかった世界との間にパスを開きたいと思うが、いいか?」
悪霊、という言葉を聞いたエイダムは目を見開いた。
何かがおかしいと思ったからだ。
「悪霊だと?幻想郷は守矢神社の湖につなげた廃棄孔はすでに崩壊したのだろう?あの規模の廃棄孔など、滅多に作れるものではないのでは?」
確かに幻想郷での悪霊異変は悍ましく恐ろしいものだった。
今でも人間の里では『あんなのは二度とごめんだ』と零す者もいる。
だがその悪霊を生み出していた廃棄孔はCROSS HEROESの活躍により崩壊、悪霊が生まれることは二度とないと思われている。
「こんなこともあるだろうと思って、バックアップを用意してある。」
「バックアップ?」
「劣化コピーという言葉を聞いてな。エイダムよ、ヨツバグループの今を知っているか?」
◆
「もうこんな時間か、今日はこの辺りにしておこう。」
東京の某ホテル屋上、彩香とリクは特訓をしていた。
剣を打ちあい、駆け回りながらの剣術鍛錬。
実戦に近い鍛錬の中で、何かを見いだせないかと彩香は思っていた。
しかし、一朝一夕で身につくほど鍛錬は甘くない。
まだその『何か』は彼女の中で霞がかっている。
「お前の剣さばきには力みが残っている、もっと肩の力を抜くんだ。」
「言ってることは分かるけど……いまいち見えないんだよなぁ。」
その問いに対する、リクなりの解答。
心というもの、光も闇もよく知っているという点で彼は明確な回答を持っていた。
「言い方を変えるよ、お前はお前の思うまま、なりたい自分を想像するんだ。」
「誰かの為の物語」
“夢の門”は、静かに脈打っていた。
空間そのものが呼吸しているかのように歪みの縁が淡い光を散らし、向こう側――
リビルド・ベースの白い廊下と整然とした照明の列が揺らいで見える。
足裏の感覚が抜け落ち、内臓が一拍遅れて浮く。
視界がほどけ、色と距離が引き裂かれていく。夢の層を抜け、特異点の座標へと
接続される“転移”の瞬間。――そして、光が途切れた。
次の瞬間、白い廊下が“現実の輪郭”を取り戻す。特異点、リビルド・ベース。
落ち着いた照明、空調の均質な風、金属と消毒の匂い。戦場の泥と血の気配を断ち切る
人工の清潔さの中で、最初に立香が気づいたのは――背後の慌ただしい足音だった。
「マシュさん!? ますたぁ!? 一体どこに……っ!」
甲高い焦燥の声。清姫だ。廊下の角から飛び出した彼女は、“帰還者”の数を
一瞬で数え――想定と一致しないことに顔色を変える。
「……急に消えてしまうものですから、わたくし、わたくし……」
清姫にとってはほんの数分前。目の前で二人が掻き消えた、説明不能な喪失の感触。
「そっか……向こうとこっちで、時間の流れが違ったのか……」
リビルド・ベースの時間軸では、消失という異常事態の警戒が整い切る前――
“混乱の隙間”へ、彼らは戻ってきていた。
「……ダ・ヴィンチちゃん、状況を説明するよ」
藤丸の声は落ち着いているが疲労は隠せない。マシュが一歩前へ出て、
ホログラム卓の前に立つ。
「私たちが迷い込んでいた世界、通称、見滝原市で発生した事件――
正確には、“改変された日常世界”に干渉していた存在についてです」
その言葉に、ダ・ヴィンチの表情から軽薄さが消える。
「暁美ほむら。先輩が夢の世界で遭遇したとされる人物です。
彼女が構築した世界は、願望と後悔を縫い合わせた“安定した嘘”でした」
「嘘……?」
「ま、まあまあ……」
ぴくり、と清姫の目が据わる。嘘を憎悪する彼女が同行していたなら、
バーサーカーの気質も相まって街は炎に包まれていたかもしれない。
「魔法少女たちの戦いも、犠牲も、代償も――すべてが“起こらなかったこと”として
再定義されていた世界です。けれど……それは守るための嘘であり、
同時に、成長と選択を奪う牢獄でもありました」
マシュは言葉を選びながら続ける。
「わたしたちは、彼女の意志そのものを否定したわけではありません。ただ――
“誰かの犠牲の上にしか成立しない安定”を、そのまま受け入れることが
できなかったのです」
「……マシュ、藤丸くん。君たちが見て、歩き、選択した“夢の世界”はね。
単なる精神投影でも幻覚でもない」
ホログラムの淡光が、ダ・ヴィンチの横顔を理知的に縁取る。
「世界として成立していた。因果を持ち、時間を持ち、“拒絶すれば崩れる”だけの
実在性を備えていたんだ」
夢であって夢ではない。嘘でありながら否定し切れない“現実”。藤丸が小さく息を呑む。
ダ・ヴィンチは無言で視線を横へ移す。そこにいたのは――たりあ。
壁際に立ち、無意識に胸元を押さえる彼女の輪郭はどこか曖昧だった。
「こちらは、平坂たりあさんです」
「そうか、君が……話は聞いているよ。会えたんだね、ペルフェクタリアに」
「……うん」
それが、今のたりあに残された唯一の拠り所。だが彼女は視線を伏せたまま揺れている。
魂の位相が定着していない――“世界のどちら側に属するか”を問われ続ける状態。
(……似ている)
ダ・ヴィンチは、ほんの一瞬だけ視線を落とした。
胸の内で、言葉にならない感情が 静かに輪郭を持つ。
平坂たりあ。
魂だけの存在となり、肉体を失い、しかし完全に“死んで”はいない少女。
彼女の隣に立つペルフェクタリア――アベレイジの研究によって切り出された人格の断片。 オリジナルから生まれ、守るために作られ、そして独立した存在。
カルデア前所長、マリスビリー・アニムスフィア。
彼が構想し、推し進めた“デミ・サーヴァント計画”。人為的に英雄の力を宿す。
計画のために生み出されたデザインベビー。体と霊基を接合し、
“世界の危機に最適化された存在”を作る――魂を二重化し、存在を接ぎ木し、
個人を“機構”へと変換する思想。 れが、マシュ自身の出自。
選択ではなく、与えられた使命。 “生き残るために英雄になった”少女の物語。
彼女は、静かに立っている。
いつも通りの、優しく、理性的で、慎ましい姿勢。だがその在り方が
どれほど歪な前提の上に成り立っているのかを、ダ・ヴィンチは知っている。
マシュは、後に選び取った。人として生きることを。
戦う理由を、自分の言葉で語ることを。だが、たりあはまだ、その途上にいる。
(……生き方を選べなかった子どもたち。彼女らは、同じ場所から始まっている)
「……ねえ、あなた」
不意に、柔らかな声が割り込んだ。ナーサリー・ライム。 物語の英霊。
子どもの心に寄り添うために編まれた、優しき幻想。
「ここはね、“帰る場所が分からない子”が、少し休んでもいい場所なの」
たりあの指先が、わずかに震える。 自分に向けられる無条件の優しさに、
どう応えればいいのか分からない子どもの反応。
「あなたは、まだ“決めなくていい”。体がなくても、名前が揺れていても、
ここに居ていい」
「……」
ペルの脳裏に、別れ際の光景が蘇る。暁美ほむら。
『……平坂たりあの肉体は、まだ消えていない』
『!?』
『完全に破壊されたわけじゃない。ただ……“彼女が戻るべき世界”から、
切り離されているだけ』
それは希望であり、残酷な事実でもあった。
『グランドクロスによる世界の滅び。厳密に言えば、封印に近い。
時の止まった、永遠の牢獄』
『本当か、それは……!?』
『どうかしら。悪魔の言葉、信じるか信じないかは――貴方たち次第よ』
ほむらはそれ以上踏み込まない。越えてはならない線を知っていたからだ。
(ほむらさんの言っていた事が本当なら……私の世界も……お父さんたちも……)
ペルやたりあと同じく、禍津星穢に滅ぼされた月美の世界。奪われた日々。
もしかしたら、取り戻せるかもしれない。ペルが、たりあの精神体と再会できたのと
同じように。
「むにゃ……」
いつの間にかアビゲイルは士に背負われ、すやすやと眠っていた。
「いい気なもんだぜ。人を散々振り回しやがって……俺はこいつを寝床に運んでくる」
愚痴りながら、士はその場を後にする。
「……では、当面の目標は、たりあくんの肉体を取り戻す方法、
グランドクロスに封印されたと言う世界の発見、或いは解放と言ったところか」
「難しい事はいいわ。たりあ、一緒に遊びましょう?」
「……うん!」
ナーサリーに連れられ、たりあもリビルド・ベースの構内へと入っていく。
「たりあが……笑っていた。今は、それだけで良い。だが、必ずたりあの肉体も、
封印されたと言う世界も……取り戻してみせる」
新たな力と目標を得たペルフェクタリアは、静かなる決意を燃やすのであった。
「覚星デュアルスターズ phase.3」
「なりたい自分、か。」
彩香は瞑想をしながら、自室でリクに言われた言葉を反芻していた。
何度も忘れないように、刻みつけるように。
瞑想、という手段を選んだのは単に精神鍛錬を含めているわけじゃない。
港区での一件、ロンドンでの一件。
己を律せず暴走してしまったことを省みるため。
二度あったことを三度も起こさないように、己を律していた。
「……幻想郷でのアレは、良かった。」
思い返す、過去の戦い。
幻想郷で自分はどういう風に戦っていた?
己が得物、アマツミカボシの容を持ち替え、臨機応変に戦った。
時に大太刀、時に大剣、時に――――。
考え方次第で、いろいろできる。
そして何よりも、身に合っていた。
己のスタイルと相性が良かったのだ。
当然帰結する、一つの問い。
「あの能力を、いろいろな形で揮う事が出来たら。」
もしあの力、戦闘スタイル/得物の変更を自由に変えることが出来たら?
剣だけじゃない、槍に薙刀、弓に鉄槌。
武器の種類は無限に用意できる。
「そうか、ボク……難しく考えすぎてたんだ。」
『何かを思いついたようだな、主。』
傍らに置いた神體:アマツミカボシが彩香に語りかける。
「ああ、こびりついていた悩みを晴らす鍵が見えた。」
『鍵、か。』
アマツミカボシが、彼女の鍵たりえたリクのことを思い浮かべたのだろう。
キーブレード、心を繋ぐ鍵、こうして繋がる因果を感じ取っていた。
『お前が今どのような策を考えていようがこれだけは心せよ。力を徒に振るうこと、暴威を以て仇敵を叩き潰すこと。それは己の身を焼き尽くす破滅となりえる。この定理だけは我にも崩せん。』
「要するに『罪を憎んで人を憎まず』、だろ?分かっているよ……ま、こっから先君のことをこっぴどく使いつぶすことになるかも。」
『なッ!?』
天宮彩香、覚醒まであと少し……?
◆
存在しなかった世界の会合は、まだ続いていた。
「ヨツバグループ?あの死にぞこないの企業がどうした?」
エイダムが死にぞこないとせせら笑った企業、ヨツバグループ。
かの企業はキラ事件への関与とそれに伴うかの如き重役の変死により、その株価は大暴落した。
だが、当時の社長の人徳と懸命で誠実な信頼回復の姿勢が幸いし、金融部門を中心にその勢力を取り戻しつつあった。
というのは表向きの話であり、実際はどうかというとそうでもないらしく――――。
「人徳に篤くここまでグループを復活させた先代社長が辞任すると決まって以降、企業内部は二つの勢力に分かれている。穏健派と急進派、ここではあえて『キラ復権派』とでも言おうか。」
「キラ復権派?」
ビショップは続ける。
「『キラの意志は今も誰かに引き継がれている』と信じきっている、それがキラ復権派だ。奴らには我らのペーパーカンパニー越しに『新事業』として品種改良を施した『悪霊』のデータを渡している。キラ復権派に我らの素性を明かしたら話はすんなりと進んだ。そればかりか『救世主』呼ばわりだったよ。」
「その実、早いところ手柄を上げて出世したいだけの烏合の衆。滑稽なことだな。それで?その悪霊とはどういうものだ?」
エイダムは、新たなる悪霊の脅威という話に食いついた。
ビショップはそれに応えるようにして、厳重に蓋されたシャーレを懐から取り出す。
小さい小さい、柔らかな光沢をもつ7ミリ程度の小さな黒い卵だ。
「幻想郷のと比べて性能は些か弱体化しているが、その分量産化と小型化には成功しているし攻撃力も人間を葬り去る分には申し分ない。何しろ今回は『卵』を隠す必要があったからな、性能はどうしても落とさざるを得なかった。」
「そうか。」
「連中の仕事は営業から自動車、建築、リゾート開発。いろいろやっている以上『新世代のAIロボット開発事業』と称せばまあ通る。『卵』の段階でこの小ささだ、隠ぺいもそう難しくはあるまい。」
量産型された悪霊。
弱体化こそしているが、その攻撃性能は人間相手ならば些かの問題もない。
これであれば隠ぺいはできようが――――そんなものを搭載したロボットが、一度は落ちぶれたとはいえ復活し、その不死鳥ぶりを世界に轟かせた企業の希望にそんな悪意が宿っていては希望もクソもない。
「そのロボットはもう出回っているのか?」
「そう急くなエイダム同志、卵を搭載した個体はもうすぐ世界中に出回る。」
ビショップはかつてないくらい、邪悪に笑っていた。
「弱体化した悪霊とて魔術的にもたらす混乱は凄まじいことになる。その揺らぎに乗じてこことトラオム跡地との巨大なパスをつなぎ、女神を地上に光臨させる。」
「私を追放した連中に知らしめてくれよう、最後に勝ったのは我らだとな……!!」
「最後の査定」
ビルスは、万々歳を出たあともしばらく空を見上げていた。
神浜の夜空は、宇宙から見れば取るに足らないほど濁っている。
だがその下で営まれる日常は、思った以上に重く、確かだった。
破壊神として幾多の文明を見てきた。繁栄を誇り、慢心し、やがて自滅する星。
人類もまた、その系譜から外れてはいない――
(だが……)
万々歳の主人――由比鶴乃の父が、ぎこちないながらも誠実に料理を差し出す姿。
失敗しても笑い、客を楽しませようとする不器用な優しさ。皿を並べ、湯気に目を細め、
客の一言に一喜一憂する、あの男の背中。
力も、野心も、世界を動かす術も持たない。それでも誰かの腹を満たし、
心を温めることに全力を尽くす。その営みは、神の尺度では測りきれない。
「……ふむ」
ビルスは箸を置き、低く唸った。
「破壊すべき文明ではない、か」
それが、第一の査定結果だった。
「文明の価値というのは、いつも厄介ですね。滅ぼす理由は数えきれないほど
見つかるのに、残す理由は、だいたい取るに足らないものばかり」
「……ふん」
ビルスは鼻を鳴らす。
「腹を満たすだけの料理。失敗を笑って誤魔化すだけの店主。
確かに、宇宙規模で見れば塵以下だ」
それでも、と言葉を続ける。
「塵が積もって、星はできる」
ウィスは一瞬だけ目を丸くし、すぐに微笑んだ。
「おや。ずいぶん人間寄りの表現をなさいますね」
人類は愚かだが、まだ“救済に値する余地”がある。その判断をもって、
ビルス一行は神浜を発ち、各地の漫遊を続けた。
――その時までは。
◇
ウィスが、軽やかな手つきで水晶球付きの杖を回していた。
「おやおや……これは興味深いですねぇ」
映し出されているのは、地下施設で、無数の黒い“卵”が並ぶ光景だった。
メサイア教団の新たなる企み。
「悪霊の量産、ですか。しかも人間の手で」
「…………」
ビルスの表情から、先ほどの柔らかさは消えていた。
そこに、時の王――オーマジオウの声が割り込む。
「避けられぬ未来だ」
彼は静かに言った。
「人類は、何度滅びを免れても、必ず“禁忌”に手を伸ばす。
力を制御できぬ者が、力を得たがる――それが歴史だ」
低く、だが重みのある声。
「英雄や魔王だけが時代を作るわけではない。名も残らぬ選択の積み重ねが、
未来を歪めも、支えもする」
オーマジオウが君臨した西暦2068年。仮面ライダーと言う人智を超越した力は
必ずしも清廉潔白だとは限らない。善意が力を求め、正義が独占され、
やがて世界そのものが王を拒絶した時代。
守護する力は破壊するための力に。善を成す力は誰かの悪に。それらはすべて表裏一体。
その全てを手に入れてしまった最低最悪の魔王は、人類に恐れられ、疎まれ、
やがて人類の敵となった。
「だからこそ、人類は危うい」
オーマジオウは言った。
「善を信じつつ、禁忌に手を伸ばす衝動を、同時に捨てきれない」
それが再び繰り返されるのか、否か……その瀬戸際に立っている。
オーマジオウもまた、ビルス同様にこの世界の人間たちが新たなる未来を選び取れるのか
どうかを査定している。
「並行世界でも同じだよ。どれほど“善なる分岐”を選んでも、必ずどこかでこうなる」
彼は水晶球の中の“卵”を見つめ、嘲笑を浮かべた。
「魔術と科学を混ぜ、責任を分散させ、 『自分は直接手を汚していない』と信じ込む。
実に人間らしい」
ビルスの尻尾が、ゆっくりと揺れた。
「……ボクは、甘かったか?」
「いいえ」
ウィスは即座に否定する。
「貴方は正しく“今”を評価しました。ですが人類は、“今”だけで完結しない存在なのです」
水晶球の映像が切り替わる。そこに映ったのは――
メサイア教団。悪霊を“資源”として扱い、神を呼ぶための燃料として計算する者たち。
そして、その裏で手を結ぶ渾沌結社グランドクロスの影。
「……」
ビルスの瞳が、冷たく光った。
「女神を呼ぶ、だと?」
「ええ。しかも彼らは、“自分たちが選ばれる側だ”と本気で信じている」
ウィスは淡々と告げる。
「破壊されるのは他者。裁かれるのは世界。自分は――例外」
オーマジオウが、低く言った。
「その思考こそが、滅びの合図だ」
ゼルレッチも頷く。
「人類はいつも、最後の一線を“自分だけは越えていない”と思い込む」
沈黙が落ちる。やがて、ビルスは立ち上がった。
「……これ以上の査定は、不要だな」
その声には、怒りよりも――失望があった。
「……なるほどな。人類は、自ら“神を呼ぶ理由”を作り出した」
ビルスは低く呟いた。
「滅びるに値する理由も、生かすに値する理由も、どちらも揃っている」
破壊神は拳を握り、そして開く。
「最後の査定だ。CROSS HEROESとやらに会う事にしよう。それですべてを決める」
「……!!」
トランクスの首筋に冷や汗が伝う。
その名が出た瞬間、場の温度がわずかに下がった。
CROSS HEROES――
多元世界の英雄たちが交わり、善と悪の狭間で戦い続けている存在。
トランクスは喉を鳴らし、無意識に背筋を伸ばしていた。
(とうとうこの時が来てしまったか……)
メサイア教団と相対してきたのは、拳を振るい、血を流し、時に迷い、
時に後悔しながらも――それでも退かなかった者たち。
孫悟空――力を求め、道を極め続ける戦士。ただ「強い相手と向き合う」ことを
選び続けてきた。 その単純さは、しばしば世界を救い、同時に世界を危うくもした。
常磐ソウゴ――仮面ライダージオウ。
未来を知りながら、それでも“選ばぬ”ことを選んだ王。
すべてを支配できたはずの男が、支配しない未来を望むという事実そのものが、
人類史の例外だった。
彼らが属するCROSS HEROESは、正義を掲げるための組織ではない。
ましてや、神に認められるための集団でもない。メサイア教団が掲げる“選民”とは真逆だ。
トランクスの胸に、微かな熱が灯る。
(もし……ビルス様を止められるとすれば、悟空さんたちしかいない)
トランクスは、はっきりとそう思った。
(あの人たちは……人類が“諦めなかった証明”そのものなんだ)
ビルスは、そんな彼の内心を見抜いたように視線を向けた。
「面白い。神に縋らず、王に委ねず、それでも立つ者たちか」
拳を開いた掌に、破壊の気配が揺らめく。
「ならば見せてもらおう。滅びる理由を覆せるかどうかを。
この星が、ただ壊される存在なのか――それとも、まだ“選び直せる”のか」
暗黒魔界から帰還し、苦い敗走を味わった矢先の、破壊神達の来訪。
果たして、悟空たちはいまだかつて無い危機を乗り越えられるのか……
(……頼みます)
ウィスは静かに杖を鳴らした。空間が歪み、次元の裂け目が開く。
トランクスは、その光の向こうにいる仲間たちの姿を思い浮かべた。
「次の行き先はCROSS HEROESの集結地点で?」
「うむ……いや、待て。少し寄り道をする」
「予感と実感、迫る悪意」
「彩香、ちょっといいか?」
「あっ兄さん。」
瞑想を終え、天井を見ながら寝そべっていた彩香。
そんな彼女の下に、兄の月夜がやってきた。
「さっきCROSS HEROESの皆からお呼ばれがあってな、今後のことについて別動隊の俺たちにも伝えたいとのことだ。」
「そっか、全員集合って感じかな。」
別動隊として動いていた彼らの下に、CROSS HEROESからの呼び出し。
流星旅団の次なる目的地は、彼らの待つ集合地点だ。
「トゥアハー・デ・ダナンまで流星旅団全員とシャルル遊撃隊、後はアルケイデス氏と幻想郷から地上に招き入れた早苗の10人で行く。」
「他の皆は?」
「ルクソードから『我らとデュマ君はここで調べものをする』って言われたよ。燕青達にもこのことを伝える、お前もそろそろ準備をしてくれ。」
「分かった。」
そういいながら、彩香は鞄に諸々を準備する。
いつになく真剣な彼女の様子を見た月夜は、つい口走ったかのように言った。
「彩香、なんか……雰囲気変わったか?こう、迷いを断ち切ったような?」
本人としても、正直無意識下での発言だった。
月夜の言う通り、彩香の雰囲気、顔つきは変わっていた。
曇りのない、自身にあふれた無垢さを含んでいて、その上で覚悟を決めたような、そんな顔に。
「そうかな?」
◇
CROSS HEROESの別動隊たるシャルル遊撃隊の皆も、同じものを感じ取っていた。
「リク、どうし……た?」
シャルルマーニュが、外に出たリクに話しかけるも、彼の恐怖を帯びた顔に即座に驚いた。
いつも冷静な彼とは思えない冷や汗をかき、空を仰いでいる。
来たる『何か』の放つオーラに、戦士としての本能が怯えているのだろう。
「何か、嫌な予感がする。」
これから出会う『何か』の正体、それらが放つオーラ。
リクの勇士としての直感が、そのオーラを感じ取らせていたのだ。
「何かって……確かになんか背筋がぞくぞくするというか。」
「私の知るギリシャの神とも異なる……もっと恐るべきもの、か。」
そんな彼らの傍らに、同じように集合地点へと向かうアルケイデスがやってきた。
彼もまた、恐ろしい何かを肌で受け取っていた。
「大いなる試練が、迫ってきている。」
彼の言葉、試練。
なるほど、その言葉には一定の真実味があるだろう。
何しろこれから彼らが乗り越えるべき試練の相手は、文字通り神にも等しい存在なのだから。
「なあデミックス。」
「何?」
いつもの調子で話しかけるデミックスとは対照的に、いつになく曇った顔の江ノ島は、次の瞬間信じられない言葉を吐いた。
後に彼女自身も「なんでこんなことを言ったんだ?」って自分の発言が信じられないような反応をするくらいの、予想外な言葉を。
「……少なくともあんただけは、あたしの傍から消えてほしくない。」
その言葉を聞いたデミックスの瞳孔が一瞬、大きく見開く。
音に聞こえた彼女とは思えない、あまりにも憂鬱で真剣すぎる言葉。
やがてデミックスは、照れたようにふるまいながら返した。
「……………………………………………………ナニソレ、愛の告白? そういう空気じゃないでしょ。」
「そんなんじゃないけどさ、その……あんたとも会ってから長い付き合いだし。」
◇
存在しなかった世界 女神を孕む鉄塔
「銭形……か。」
魅上は、巨大な水晶に封印されし女神の偶像を前に考えていた。
あの日何故かやって異邦者にして闖入者、銭形警部。
彼の精神力、しぶとさは確かに一級品、人の域を超えた正義への執念を持っている。
それでもこの虚数空間の深淵、生身の人間であれば虚数の粒子に蝕まれその体は10秒も持たず消え去ってしまう。
だが銭形は、この深淵に生身で潜入し生還した。
「なぜ、生きている……生きていた……?」
誰かの助けがあったと思ったのは、狂気に苛まれた彼の脳髄でも理解できた。
(きっと、その『援護者』はこの虚数空間の特性を知っていて、彼に潜入を任せたのだ……そうとしか思えない。)
そう思い悩む彼の下に、地上の『兵士』より報告が入った。
『魅上様、斥候より報告です。』
「なんだ。」
『”神敵”、CROSS HEROESの一同が敵艦に集結している様子です。恐らく、何かしらの情報共有のために一度集結するものかと。叩くのであれば、今がチャンスです、いかほど致しますか?』
その言葉を聞いた彼は、恐ろしい言葉を吐く。
「――――虚数揚陸艦アポカリプス、虚数駆逐艦バニッシャーを数隻派遣する。既に100隻以上の建造は終わっている以上、試験運用には十分だろう。地上時間で何時間後に到着するか、分かるか?」
恐るべきは、地上進撃用の戦艦が既に作られていたこと。
それも100隻以上も。
そんなものが地上を襲うとなればひとたまりもない。
『計算によれば、現在の地上とのパスを利用すれば24時間後には到着するものかと。』
魅上は逡巡したのち、決断した。
「分かった、すぐに送り込む。」
「孤高の求道者と運命の裁定者」
――界王星。
「うおりゃああああああっ!!」
「ほおおおおおおおおおっ!!」
重力十倍の大地を、緑と橙色の残像が駆け抜ける。
「フッ……今の蹴り、前よりキレが増してるぞ悟空! そらぁぁぁっ!!」
「へへっ、おめぇもな! 良いパンチだ!」
大地が、悲鳴を上げていた。
ベジータが300倍の重力トレーニングを開始すべくCROSS HEROESを離脱したのに続き、
孫悟空は瞬間移動で界王星を訪れていた。
その修業相手として呼ばれたのが――鉢巻を巻き付けた黒い面長の帽子と
白いローブ。緑色の肌。キツめに結んだ厚めの唇にストイックと孤高さを湛える戦士、
パイクーハン。
かつて西の銀河を守護した英雄であり、あの世一武道会で悟空と競い合った戦士。
地獄で反乱を起こしたセルやフリーザ軍団を一撃の下に叩き伏せた強者である。
力に溺れず、誇りに驕らず、ただ「強さとは何か」を己に問い続ける求道者。
悟空にとって彼は、好敵手であり、戦友でもあった。
「むんッ!!」
「つありゃあッ!!」
悟空とパイクーハンの修行は、もはや「稽古」という言葉では追いつかない領域に
達している。 拳と拳が交わるたび、空間そのものが歪み、界王星の地表に
無数の亀裂が走った。
「はああああッ!!」
悟空の放った連続打撃を、パイクーハンは真正面から受け止める。
ガード越しに伝わる衝撃だけで、周囲の雲海が吹き飛ばされ、重力に耐えかねた大地が
陥没していく。
「休憩だ」
修行を一時切り上げ、パイクーハンは静かに言った。
「まったく……急に呼びつけてきたかと思ったら、修行の相手をしろ、とはな」
「はっはー、流石だぜ、パイクーハン。ひとりで修行するより、修行相手がいる方が
張り合いがあるかんな!」
星全体が大きく傾ぎ、ポツンと建てられた界王の家がぐらりと揺れた。
「ちょ、ちょっと待ったああああ!!」
悲鳴と共に、界王が家の中から怒鳴り込んでくる。
「お前たち、この星を壊す気かーっ!!」
「悪い、界王様。でもオラ、もっと強くなんなきゃいけねえからさぁ」
「それだ、悟空。私も気になっていた。お前、何かを焦っているな?
何故そんなにも急進的な力を求める。付け焼き刃の力では、身につかんぞ」
「そ、そりゃあ……今、地球が大変な事になっててさぁ……」
悟空を遥かに凌ぐ強敵たちの出現。それらと渡り合うには今以上の強さが必要だ。
しかし、時は待ってくれない。
だが、そのやり取りを遮るように――空間が、静かに“裂けた”。
界王星の上空に、紫色の歪みが生まれ、そこからいくつかの気配が降り立つ。
「何だ……!?」
「ふむ、ここでしたか」
「……やはりな。界王にしては強すぎる力を感じると思ったんだ」
ビルスとウイス。
そして一拍遅れて、オーマジオウ、ゼルレッチ、トランクスの姿。
界王は、その光景を見た瞬間、泡を吹く。
「ぎょえーっ!? ビ、ビ、ビルス様!? な、なんでこんな所に!!」
「あり? トランクスじゃねえか」
「ど、どうも、ご無沙汰してます、悟空さん……まさかこんな所で再会するとは……」
「!? ビルス……破壊神ビルス、様……!?」
パイクーハンもその名を聞いて戦慄する。神の上に立つ東西南北の銀河を司る
4人の界王の頂点に立つ大界王よりもさらに上位の存在・界王神と対を成す、破壊神。
それが今、眼の前に……
「ビルス様? おめえがビルス様か!!」
「!!!!!!!!」
悟空の無邪気な声とは裏腹に、その場の空気は一瞬で凍り付いた。
反射的にパイクーハンと界王は絶妙なコンビネーションで同時に悟空の後頭部を叩いた。
「ぁ痛っ!?」
「向こう見ずにも程があるだろう、貴様!」
「ホンット、お前と言う奴は!!」
「……ほう」
ビルスは、ゆっくりと悟空に視線を向けた。
「ボクの名を聞いても、そんな反応とはね。面白い男だ」
「へへっ、だってオラ、あんまり神様とか詳しくねえし……」
悪びれもせず頭を掻く悟空。界王は泡を吹いたまま叫ぶ。
「そ、そういう問題ではない、悟空!! 前にも言ったであろう!
そのお方はね、気分ひとつで銀河をも消し飛ばせるのだぞ!!」
「へえー! すげえな!」
一方で――パイクーハンは、一歩も動けなかった。
だが、その全身から発せられる闘気は、わずかに張り詰めている。
恐怖。そして警戒と理解。
(……なるほど)
パイクーハンは、ビルスの“気”を感じ取り、即座に悟る。
(この存在は、戦士の延長線上にはいない。
力の質そのものが違う……気を感じられない……まさしく“破壊という概念”)
そんな彼に、ビルスの視線が向けられた。
「ふむ……見慣れぬ戦士だね」
「……パイクーハンと申します」
一礼はするが、膝は折らない。それを見て、ビルスはわずかに口角を上げた。
「ほう。礼儀は弁えているが、卑屈ではない。嫌いじゃないよ」
「光栄です」
短い応答。だが、その裏でパイクーハンは確信していた。
(この場に、ビルス様が現れた理由……単なる視察ではない)
そして、その視線は再び悟空へ。
「ソンゴクウ……と言ったね」
「ん?」
呼びかけられた悟空は、きょとんとした顔で振り返った。
その瞬間、界王星の空気がさらに一段、重く沈む。ビルスの視線は鋭く、
だが興味深そうでもあった。
「君が、界王神界や時の王までもが騒ぎ立てる“例の戦士”か」
「例の……?」
悟空は首を傾げるが、ウイスが一歩前に出る。
「地上で起きている異変。その中心に、必ずあなたの名があるのですよ、孫悟空さん」
その言葉に、パイクーハンの表情が引き締まった。
(破壊神が動く事態……悟空が焦っていた理由はこれか……地上での異変……
どうやら相当の緊急事態が起きているようだな)
ビルスは腕を組み、低く続ける。
「CROSS HEROESと言う集まりに興味があってね。その中に君の名があった。
トランクスからも聞いているよ。あのフリーザを倒したんだってね」
「え? ああ、まあ……」
「……そこで、だ」
ビルスはゆっくりと一歩前に出た。
その一歩だけで、界王星の重力がわずかに軋む。
「地上で広がり始めた混乱を――神の理を踏み越えた“外側の戦争”を――
君たちCROSS HEROESに止められるかどうか……それを、ボクは見極めに来た。
その筆頭であるキミの力を見せてもらう事でね」
悟空、パイクーハン、トランクス、そして界王までもが、息を呑む。
ビルスの金色の瞳が、悟空を射抜いた。
「出来ない、と判断すれば……“破壊神の仕事”になるだけだ」
悟空は、ゆっくりと顔を上げる。
恐怖はない。迷いもない。ただ――強い決意だけが、そこにあった。
「止めるさ」
「……ほう」
「神様がどうとか、難しいことは分かんねぇ。けどな――
仲間が守ろうとしてる世界を、壊させるつもりはねぇよ。それにさ。
破壊神と戦えるっちゅうなら、こんなわくわくする事ぁねえしな」
ビルスはしばらく黙っていたが――やがて、くつくつと喉を鳴らして笑った。
「開戦!第二次エタニティコア防衛戦!」
「ウォオオオオオオオオオ!」
一方その頃、エタニティコアのある遺跡ではエタニティコアを狙ってやって来たミケーネ帝国やジオン族竜王軍連合を獣戦機隊の4人が乗るスーパーロボット、ダンクーガが蹴散らしていた!
「ば、馬鹿な…!?たった一体でミケーネ帝国の部隊を蹴散らすとは…!?」
「ほう、中々やるようだな…!奴ら以外にも人類にはあのような戦士がいるとはな…!」
ミケーネ帝国の部隊を指揮しているのは無敵要塞デモニカに乗ったゴーゴン大公、そして特異点でCROSSHEROESと戦った勇者ガラダブラの二人。
ダンクーガのあまりの強さに驚愕するゴーゴン大公に対し、ガラダブラは強者を目にして血をたぎらせていた。
「なんなのだあれは!?」
「ええい!?この世界にはいったいどれだけ鋼の巨人がいるのだ!?」
「クックックッ…!騎士ガンダム打倒のためにジークジオンの誘いに乗ったが……まさかあのような巨人と戦うことになるとはな…!やつと戦う前の準備運動としてはちょうどいい…!」
一方ジオン族竜王軍連合のモンスター達を率いるのはネオブラックドラゴンに加えて特異点でCROSSHEROESと戦っていた騎士ゼノンマンサと呪術士ビグザムの3人。
そのうちネオブラックドラゴンに関してはミケーネのガラダブラ同様に血をたぎらせていた。
「どうした?これで終わりか化け物共!」
「くっ…!人間ごときが調子に乗るなよ!」
「我らの戦力はこんなものではない!」
ミケーネ帝国もジオン族竜王軍連合もそれぞれ更なる戦力を次々と戦場に投入していく…!
「っ!?まだこんなにいるのかよ!?」
「ミケーネ帝国にモンスター軍団……どちらも物量においてはムゲ帝国に匹敵するか…!」
「しつこい奴らだね!」
「なんとでも言うがいい…!」
「いくら貴様らが強かろうと、追加の戦力を投入し続ければいずれは限界を迎える!」
「へっ!上等だ!テメェらが全滅するのが先か俺らがくたばるのが先か、決めてやろうじゃねえか!」
「これでもなお闘志を燃やすか。人間共にしては流石だと言っておこう…!」
「だが我らの勝利は揺るがない!ゆけ!」
ミケーネ帝国の戦闘獣軍団とジオン族竜王軍連合のモンスター軍団が再びダンクーガに襲いかかる……が、その時…!
「光子力ビーム!」
「っ!?」
どこから無数の光線やビームが降り注ぎ戦闘獣やモンスターを次々と殲滅していく!
「っ!今の攻撃は…!」
「来たか、CROSSHEROES…!」
そこに現れたのは、甲児が乗るマジンガーZであった!
「マジンガーZ…!甲児か!」
「忍さんたち大丈夫か!?」
「へっ!お前に心配されるほど腕は落ちてねえよ!」
「ちょっと忍!」
「ハハハ、忍さんも相変わらずでなによりだよ!」
そしてマジンガーZに続き、グレートマジンガーが、ビューナスAが、ボスボロットが、ゲッターロボが、レーバテインを始めとしたウルズチームのASが、ウルトラマントリガーが、ウルトラマンZが、ナースデッセイ号とガッツファルコンが、そしてヒソウテンソクが次々と戦場に到着!
更にナースデッセイ号に乗っていたゼンカイジャーやアレクとローラ姫、バーサル騎士ガンダム達が戦場へと織り立つ。
「久しぶりだな獣戦機隊」
「ウルズチームか…!それにあの巨人とガンドールに似た戦艦は……」
「もしかしてウルトラマントリガーにGUTSセレクト!?話には聞いてたけど、共闘するのは何気に初めてじゃない!?」
「あれがムゲ帝国から地球を守ったスーパーロボット、ダンクーガ…!」
「やべえよ、俺実物を生で見たの初めてだぜ!?」
獣戦機隊にGUTSセレクト、どちらも地球内外からの様々な脅威から地球を守ってきたチームであるが、お互いの活躍を耳にしたりすることはあれど直接共闘するのはこれが初めてである。
「久しぶりね沙羅さん」
「さやかじゃないか!そっちも相変わらず元気そうじゃない!……ところでそっちのマジンガーによく似た2体はなんだい?」
「グレートマジンガーにヒソウテンソクよ。詳しいことはあとで話すわ」
「クックックッ…!まさかこんなところで再開するとはな、騎士ガンダム!」
「ネオブラックドラゴン…!」
「本当ならエタニティコアの力を得て貴様を倒すつもりだったが、貴様がその気なら今ここで滅ぼしてくれる!」
「いいだろうネオブラックドラゴン、今日こそ決着をつけるぞ!」
「おのれCROSSHEROES!貴様らに我々の野望の邪魔はさせん!
貴様らとモンスター共を葬り去り、エタニティコアを手に入れて我らミケーネがラグナロクの勝者に…全並行世界の支配者になってくれる!」
「それはこちらのセリフだミケーネ帝国よ!」
「エタニティコアを手に入れラグナロクに勝利し、全並行世界を手に入れるのは我々だ!貴様らにもCROSSHEROESにも渡さんぞ!」
「ごちゃごちゃうるせえんだよ!」
「むっ…!?」
「なに!?」
「テメェらさっきから好き放題言いやがって、そのくだらねえ野望、俺たちとゲッターが粉々にしてやらぁ!」
「へっ、あっちの赤いロボットのパイロットも中々やるじゃねえか、俺たちも負けてられねえぞ!」
「「「OK忍!」」」
「ミケーネにもモンスターにも、エタニティコアは絶対に渡しはしない…!」
「あぁ!全世界の未来のためにも、必ずエタニティコアを守り抜いてみせる…!」
「いくぜ!全力全開だー!」
「やってやるぜ!!」
CROSSHEROESと獣戦機隊、ミケーネ帝国、そしてジオン族竜王軍連合、3つの勢力に全世界の運命がかかった大決戦が今ここに開始した!
「メサイア艦隊包囲網/神に挑む場所」
第2次エタニティ・コア防衛戦の勃発、
悟空、ベジータがそれぞれの修行に出た頃……
――トゥアハー・デ・ダナン艦内、ブリッジ。
艦橋に緊急警報が鳴り響き、戦況モニターが一斉に切り替わる。
「な、なんだこれは!?」
「未確認艦影……いや、艦隊!? 空間転移で突然出現しました!」
映し出されたのは――異様な紋章を掲げた、メサイア教団艦隊。
「……来やがったか」
低く呟いたのは、ピッコロだった。
「やはりな。ミケーネやモンスター共が前面で暴れてる間に、
本命が裏から来ると思っていたぜ。奴らの考えそうな浅はかな手口だ」
腕を組み、冷静に分析する。 索敵モニターに降って湧いたように現れた
メサイア教団の艦隊。熱源反応がモニターを埋め尽くさんばかりに増えていく。
「……! ユートピア・アイランドの時と同じか……!」
ゲイツは想起する。ユートピア・アイランド攻略戦の最中に現れた
メサイア教団所属の艦船を。
「恐らく……メサイア教団の本拠地から送り込まれたものだろう」
カグヤ、及び特異点からの帰還組からもたらされた情報……メサイア教団の本拠地、
「存在しなかった世界」。虚数の海を渡り、地上へと転移する術を確立している。
つまり……
「奴らの本拠地を直接叩かねば……際限無く送り込まれてくるメサイア教団の戦力と
永遠に戦わねばならんだろうな」
「くそっ、メサイア教団の奴ら、一体どれだけの戦力を抱え込んでやがるんだ……
一隻いくらすんだよ、あの艦……」
ピッコロの推察は正しかった。虚数の海を超えるためには
メサイア教団の技術と同等の性能を持つ「船」の建造が必要となる。
考え無しに湧いてくるメサイア教団の波状攻撃にヤムチャが愚痴る中、
「彼らの目的は、勿論我々でしょうね……」
ただでさえ、同時多発的に発生した事態に対応するために戦力が分散している。
如何なトゥアハー・デ・ダナンであっても補給や修理無しに
無限に戦い続ける事は出来ない。やがて、数の暴力に対応できなくなるだろう。
「よし……こっちから打って出るか」
天津飯は拳を打ち付け、出撃に臨む。
「通常兵器ならミケーネ帝国の戦闘獣を相手にするよりは、まだマシだ。
孫やベジータも修行を始めている。今の俺達に必要なのは、戦力を高めるための時間だ。
ハッキリ言って、今の俺達は戦力も頭数も足りていない。
トゥアハー・デ・ダナンは今のうちにこの海域から離脱してくれ」
「確かにな……俺もジオン族のモンスターと戦った事があるが、それを思えば
メサイア教団が何だってんだ。俺も行くぜ!」
「僕も!」
ヤムチャやチャオズもそれに続く。
「じゃあ、僕も……」
「いや、悟飯やピッコロはこっちに残っててくれ。これからの戦いには、
お前たちの力がきっと必要になる。メサイア教団の連中、
また急にトゥアハー・デ・ダナンの近くに現れるかも知れないしな。
そんな時に戦える奴が必要だろ?」
悟飯を制するクリリン。4人のZ戦士は、トゥアハー・デ・ダナンの退路を開くため、
敢えて斥候を買って出たのだ。
「こっちの事は頼んだぜ、ピッコロ」
「ああ。だが、無理はせんことだ。地球のドラゴンボールは敵の手に渡ってしまっている。
死ねば、それまでだぞ」
「俺だってそうそう死ぬつもりは無いさ。嫁さんも娘もいるんだからな」
――界王星。
重力十倍の地に、張り詰めた沈黙が落ちていた。
孫悟空の前に立つ破壊神ビルスは、腕を組み、興味深げに目を細めている。
「さて……孫悟空」
両手を腰に回したままビルスが一歩、前へ出る。
「全力を見せなさい。今のキミが如何ほどのものか……確かめてあげよう」
「いいんか? 驚いてひっくり返っちまうぜ? そんじゃあ、遠慮はしねえぞ!」
悟空の気が、爆発的に膨れ上がる。
「――これが……超サイヤ人!!」
黄金のオーラが噴き上がり、地面がひび割れる。
「……ほう」
だが、悟空は止まらない。
「まだまだだ……!」
髪が逆立ち、雷光が走る。
「――超サイヤ人2!!」
界王星の空が鳴り、観測していた者たちが息を呑む。
「悟空さん……あの頃よりも、さらに……!」
傍らで、トランクスも拳を握りしめる。悟空は、さらに気を高めていく。
「……最後だ!」
重力が、悲鳴を上げた。
「はああああああああああああああああッ……!!」
長く伸びた金色の髪。弾けるスパーク。眉毛も消失し、眼光は更に険しく。
圧倒的な気が、界王星全体を包み込む。
「面白い……英霊に非ず、真祖にも非ず……一介の人間が鍛錬でここまでの域にな……」
ゼルレッチは杖を突き、微笑を浮かべる。
「だが、まだ“届いてはいない”」
オーマジオウもまた、動じない。
「仮面ライダーではない、人を超えた人間……それもまた、違う未来への可能性か」
「セルゲームの頃の悟飯さんも凄まじかったが……悟空さんはその限界を
さらに超えたのか……凄い。やはりあの人は、とてつもなく凄い……!」
手に汗握るトランクスをよそに、ビルスは涼しげな顔を崩していなかった。
「……どうだ? ビルス様。これが、超サイヤ人3だ」
「ふむ……フリーザを倒したと言うのは、どうやらまぐれと言うわけではないようだ。
で、それが目一杯ってわけ?」
「!? お、おう……そ、そうだけど……」
「分かった。かかっといで」
「余裕見せてっと……怪我すっぜ!!
つああああああああああありゃああああああああああああああああッ!!」
先手は悟空。超サイヤ人3の輝きを纏い、地面を蹴った。
「行くぞぉぉぉぉぉぉッ!!」
――一瞬。悟空は、ビルスの懐へと踏み込む。拳が、破壊神の顔面へ迫る――
渾身の一撃。
「……ふっ」
だが。ビルスは、ほんのわずかに首を傾けただけだった。
拳は、虚空を切る。その衝撃波が、嵐のように吹き荒れた。
「なっ!?」
「残念」
「ま、まだまだああああああああああああッ!!」
悟空は叫びと共に踏み込み、拳と蹴りを畳み掛ける。
超サイヤ人3の膨大な気が渦となり、界王星の大地を抉り取っていく。
「だあっ! はあっ! これでもかぁぁぁ!!」
拳――
蹴り――
回し蹴りからの肘打ち。
しかし。
「……遅いね」
ビルスは一歩も動かず、 ある時は半歩だけ身を引き、ある時はわずかに体を捻るだけで、
すべての攻撃を紙一重でやり過ごしていた。
「ば、馬鹿な……!」
愕然とするパイクーハン。
「超サイヤ人3の連撃を……あんな動きで……!」
「一発も……当たっていない……」
トランクスの声が震える。
「み、見ちゃおれん……!!」
既に諦観めいた界王。しかし悟空は歯を食いしばり、さらに踏み込んだ。
「くそっ……! だったら……!」
気をさらに解放し、渾身の正拳を放つ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
それでも――
「……やれやれ」
ビルスは、ため息混じりに呟く。次の瞬間。ビルスの姿が、悟空の視界から消えた。
「えっ……!?」
「此処に畏怖の叫びを phase.1」
畏怖というものには種類がある。
だがそも、畏怖とは恐怖とは違う感情である。
傷つくことを知らない勇猛果敢さへの尊敬。
恐るべき天変地異の力強さへ向けられた戦慄。
鬼神の如き戦闘能力への憧憬。
幽霊を見た時の恐れとは全く異なる、一種の愛情や嫉妬心にも似た感情。
それこそが、畏怖である。
◇ ◇
場所は変わって童美野町。
城之内はアルキメデスの詰問を受けているところだ。
語気を強め、威圧するかのごとき問いかけに、城之内と遊戯は引くことしかできない。
「ディーヴァとはこの男だ。」
アルキメデスは業を煮やしたように、写真を取り出し遊戯達に見せた。
「これって……藍神くん!」
「藍神……偽名か、まあいい。」
「今、この藍神とやらはどこにいる?」
「知らないよ。」
「お前たちの通う高校(アカデメイア)に最近になって転校してきたことは調べがついている。お前達ならば知っているはずだ。」
彼らの目的は、藍神……否、ディーヴァを叩き潰すことでエジプトで『消された』兵士たちの仇を討つこと。
しかし残念ながら、彼は今ここにいない。
「本当に知らねぇんだ、俺たちは確かに藍神のことは知っている。知り合ってばっかだけどよ、それでも藍神は俺たちの仲間なんだ!」
「下らんな。」
城之内の懇願を一笑の冷笑に伏す人理の裏切り者、アルキメデス。
仲間を何よりも大事にし、誇りとする城之内にとってその行為は嘲笑よりも許されざる悪意。
「お前たちの仲間かどうかは関係ない。この男は我々の仲間を消した大量殺人鬼、その事実は変わらない。それとも何か、お前が仲間だと言えばこの男がいかな罪を犯しても許されるほど、お前は偉い存在なのか?」
「大量殺人鬼だって、そんなはずはねぇ!どこまで馬鹿にすりゃあ気がすむんだお前は!!」
心の奥底で抱いた怒りを隠すことは遂にできなかった。
その顔を見てアルキメデスは何かを指示するように、右手を挙げ、傲然と言い放つ。
「まあ、どうでもいい。私はお前たちと高尚な対談を臨むつもりはない。」
そう言い切った時、遠くから『声』が響いた。
物を震わせるような、魂を切り刻むような、厭な声だった。
喩えるならば、それは天変地異の前触れを告げる黙示録の喇叭。
「この声は私の『同志』が発している警告だ、我々に従い藍神とやらをここまで連れてこい。さもなくばお前たちに命はない。」
「っ!」
「言っておくが我々はデュエリストなどではない、お前たちお得意のデュエルモンスターズによる解決は望めない。よく考えて行動することだな。」
せせら笑うアルキメデスと兵士ども。
「くそ……遊戯、先に行っててくれ。」
「でも……「いいから!」……!」
対する彼の声は本気だ。
城之内は友を守るために、ここは一歩も引かない気だ。
「分かった。」
退かぬと決めた友の覚悟を無碍にするわけにはいかない。
遊戯は全速力で学校まで向かっていく。
教団兵士はどうすればいいのかわからぬまま、銃口を遊戯に向けることなく待機の姿勢を取っている。
「逃げるか、まあ何をしようと無駄なことだ。我ら教団に従わぬ反逆者のお前をすり潰した後、絶望に濡れる奴をじっくりとなぶり殺しにしてやろう。」
学士には似つかわぬ嗜虐、邪悪な愉悦に満ちた表情で、城之内へ殺害宣告をした。
これに対して彼が臆することは―――なかった。
「はッ……アルキメデス、か。」
「そうだとも、確かに私はシラクサの学士、アルキメデスに間違いはない。」
臆することなく、彼は自らの真名を明かす。
アルキメデス、数多の殺戮機巧を作り出したシラクサの学士にして人理の裏切り者。
それを城之内が知ったとしても、彼が恐れることはない。
何しろ、ただの人間に英霊は倒せない。
彼の識る限り、城之内克也はどこにでもいるただの人間、凡骨だ。
「俺は馬鹿だし難しいことは考えられねぇし、お前がどういうことをしたのかもさっぱり分からねぇ。歴史に残るくらいスゲーことをしたんだろうなってのは分かるけど、言ってしまえばそれだけだ。」
そういう彼の眼は、何かに燃えていた。
怒りでもない、侮蔑でもない。もっと単純で熱烈なまでの覚悟。
少なくとも、教団の兵士の数名が震えるくらいに。
「―――負け惜しみの大言壮語でも吐くか?」
「でもよ、お前とこうして話しているからこそ分かったことがある。」
城之内は凄絶に笑いながら、アルキメデスを見据えて言い切った。
「お前ら、人を殺したことないだろ。」
「……何?」
当然これはハッタリだ。
彼らをここに釘付けにするために、挑発の意図を以て言った言葉に過ぎない。
「そうやっていっぱい銃を持った兵士連れてきておいて、偉そうなこと言って因縁つけてきている割には一発も攻撃してきてねぇじゃねーか。遊戯だってやろうと思えば後ろからやれたのに、その銃は飾りか?」
「!」
「メサイア教団ってその程度かよ。東京の港区ぶっ飛ばしたくせして、こういう時に限っては銃も打てないってのか、ええ!?」
舌打ちをして、アルキメデスは右手を挙げる。
その指示が意味するところ、即ち―――『城之内を殺れ』だ。
「……やれ、バー『させるかよ!!』……ッッ貴様は!」
殺害指令を出そうとした瞬間、それは奇跡のように舞い降りた。
特異点、ソロモンの指輪、教団の干渉、超越者たちの降臨。
遊戯達の知らない数多もの要素で『揺らいだ』ことによる人理の悲鳴。
その声を聴いて、その英霊は、舞い降りた。
「そこをどいてなアンタ、この野郎は吾がやる!!」
驚きのあまり尻もちを搗く城之内を背に立つのは、銀の鎧を身に纏い、槍と盾を装備した褐色の好漢。
その黄金瞳と銀色の髪のたなびく様には、清廉なまでの勇ましさを感じる。
「人理の使いっ走りが……邪魔をするか!」
「孫悟空、破壊神に敗れる」
悟空の視界から、完全に――ビルスの姿が消えた。
「えっ……!?」
次の瞬間。土煙の向こうから悟空の眼前にぬう、と伸びる破壊神の指が、
悟空の額を弾いた。
コツン。
――乾いた、あまりにも軽い音。その数瞬後……
「――おわあああああああああああああああッ!?」
遅効性の衝撃。空気が砕け、悟空の身体が音速を遥かに超えて吹き飛ぶ。
界王星の地表を黄金の残像が削り取っていく。
「ご、悟空さぁぁぁん!?」
トランクスが悲鳴を上げる。
「い、今の……指で……!? 何だ、一体何をしたんだ……ただのデコピンにしか
見えなかった……」
パイクーハンの目が見開かれる。
超サイヤ人3の肉体が、指一本で打ち上げられたという事実を、思考が拒絶していた。
「だから言うたんじゃ……愚か者めが……」
沈痛なる界王。彼には最初からこうなる事が分かっていた。この光景を……
破壊神の恐ろしさを……
「ちっ……きしょうッ!!」
悟空は無理矢理に復帰し、急上昇する。意識が一瞬、白く飛ぶ。
「……っ、く……!」
脳が揺さぶられ、平衡感覚が消失する。超サイヤ人3のオーラが乱れ、
金色の輝きが不安定に揺らいだ。
――脳震盪。それでも悟空は、必死に気を整え、体勢を立て直そうとする。
「……くそ……まだ、だぁっ……!」
遥か下方、界王星の地上から――涼しげな声が、はっきりと届いた。
「どうしたい? その程度で終わりかい?」
「……っ!!」
挑発。ビルスはまったく本気を出している様子は無い。
「……なめんなよ……!」
黄金の気が、再び燃え上がる。
「まだ……やれる……!!」
悟空は身体を反転させ、急降下する。大気を裂き、流星のように再突入。
「うおおおおおおおおおおおおッ!!」
拳を振りかぶり、全霊を込めた突撃。
――だが。
「……無駄だよ。その程度のスピードじゃあね」
ビルスは地上へと突っ込んでいく悟空の傍らに並ぶように瞬時に高速移動し、
――トン。
首筋に、正確無比な当身。
「――ぐあ、がっ……」
音すら立たない一撃。だがそれは、悟空の意識を完全に断ち切るには十分だった。
黄金のオーラが霧散し、長い髪が元の黒髪に戻る。
悟空の身体は力を失い、ゆっくりと地面へ落下する。
「……勝負あり、だね」
ビルスは淡々と告げる。
トランクスとパイクーハンは、言葉を失っていた。
「……ま、負けた……悟空さんが……」
「一発も……まともに攻撃を当てられず……あまつさえ、たったの二撃……
悪い夢を見ているようだ……こ、これほどまでとは……」
界王は、顔を覆い、呻く。
「……これが……“破壊神”の領域だ……」
「破壊神のお手並み……拝謁させて頂いた」
「人智を超える、とはまさにこの事か」
ゼルレッチやオーマジオウも、ビルスの底知れぬ実力に感嘆を漏らす他無かった。
ビルスは眠っている悟空を見下ろし、わずかに目を細める。
「これがCROSS HEROESの筆頭とはね……ちょっと拍子抜けだったかな」
そして、背を向ける。
「行こう、ウイス。次は……“CROSS HEROES”のところだ。面白い奴がいると良いけどね」
「かしこまりました」
(悟空さん……!)
パイクーハンや界王が倒れたまま動かない悟空の下に駆け寄る光景を見送りながら……
トランクスはビルス一行に同行して行った。
「まずい……ビルス様がCROSS HEROESに会う……!!
まずい、非常にまずいぞ……!!」
界王の触覚が、地球の方角へと差し向けられる。
(……ベジータ……聞こえるか……わしは界王じゃ……)
遠く離れた場所で300倍の重力トレーニングに励む、もう一人のサイヤ人へ。
「!?」
突然頭の中に響いた声に、ベジータは反射的に動きを止めた。
300倍の重力下。全身から汗が噴き出し、筋肉は悲鳴を上げている。
「……界王だと……?」
苛立ちを隠さぬ声。だが、その内心には嫌な予感が渦巻いていた。
(落ち着いて聞いてくれ、ベジータ……事は一刻を争う……)
「何があった?」
名を出した瞬間、界王の沈黙が答えだった。
(……悟空が……破壊神ビルス様に敗れた……)
「……なに? カカロットが!? それに……破壊神ビルス、だと……!?」
空気が凍りつく。ベジータの拳が、無意識のうちに震えた。
(超サイヤ人3をもってしても……一撃も当てられんかった……
いや……当てる事すら、許されなかった……)
界王の声は、かつてないほど重い。
(遊びだ……ビルス様は……本気ですらなかった……)
歯を噛み締める音が、重力室に響いた。
「……ちっ……! 一体何がどうなってやがるんだ……!!」
悟空。何度も何度も、自分の前を走り続けてきた男。
その背中を追い、追い越し、再び置き去りにされてきた永遠の好敵手。
それを倒したのが、破壊神ビルス。二重の意味で、ベジータはショックを受けていた。
ベジータがまだ幼少の頃。父であるベジータ王が這い蹲るように頭を垂れていた存在を
朧気ながらに覚えている。それが、破壊神ビルス。
ある日を境にぱったりと姿を見る事は無くなった。破壊神は一定の周期で
長き眠りに就くためである。それは人間の感覚とはかけ離れた時間の筈であった……
そのビルスがいつの間にか目覚め、悟空と戦い、これを下した……と言う
青天の霹靂が如き報せはそう易易と飲み込めるものではなかった。
(……ビルス様は……地球へ向かわれた)
「……!」
「CROSS HEROESのところだ……お前も知っての通り、地球の混乱は今や
手が付けられないところまで来ておる……ビルス様は、これまで遥か彼方より
CROSS HEROESの行動がそれを鎮められるかどうかを見定めておられた……
だが、とうとう自ら結論を下すおつもりのようだ……」
ベジータは、静かに立ち上がる。
「……くそったれが……!」
その表情から、怒りは消えていた。あるのは――冷え切った覚悟。
ベジータは、静かに立ち上がる。
「界王……一つ、確認させろ」
(……なんじゃ……)
「ビルスは……俺たちを――裁くつもりなのか?」
界王は即答できなかった。その沈黙が、何よりの答えだった。
(……破壊神とは……宇宙の均衡を保つ存在……繁栄し過ぎた文明、
制御不能となった力……それらを“壊す”役目を負う神じゃ……)
「……選別、か」
ベジータは小さく息を吐く。
父・ベジータ王。フリーザの前で誇りを折られ、そして――ビルスの前で跪いた王。
幼い日の記憶が、脳裏をよぎる。震える膝。額を床に擦りつける父の背中。
王であるはずの父が、神の機嫌一つで生死を握られていた光景。
(気の毒じゃが……地球はもう、終わりだ。宇宙全体の秩序のために……
ビルス様は地球を破壊なさるだろう……)
「ふざけた事を抜かしてんじゃねえ! そんな手前勝手な都合で消されてたまるか……!!」
ベジータは急ぎ、CROSS HEROES本隊の元へと向かい飛び出して行った。
〈外より来たる者〉
「戻ったか、丸喜。」
特異点中枢にある、丸喜パレス。
相も変わらず白一色に染まった、彼ら丸喜一派の世界救済研究所。
そこへ帰還した丸喜達を、武道は出迎えた。
「珍しいね、出迎えるなんて。」
「いつも奥で座ってるのに、どうしたの?」
「…少々、厄介な事になっていてな。」
吞気なシャドウアビィとは対照的に、武道の声色は珍しく焦燥感を孕んでいる。
普段はその巨体に似つかわしい静寂さと、時折憤怒を見せるばかりの武道。
そんな彼だからこそ、丸喜にとってその焦りは際立って見えた。
「もしかして、エタニティ・コアの事かい?」
「ほう、CROSS HEROESの方で話していたか。」
だが丸喜には心当たりがあり、正しくそれは正解だった。
一拍置いて、武道は続ける。
「知ってると思うが、動いたのはミケーネの者共に、例のモンスター共だ。」
「…彼らが、また動いたんだ。」
先刻、特異点を強襲したミケーネ神。
そして一時は丸喜一派と共同戦線を組んでいた、竜王軍とジークジオンの連合。
彼らが次に目標として定めたのが、地球のエタニティ・コアだった。
「奴らはエタニティ・コアを通じて、地球を自らの物としての形に変化させようとしている。」
エタニティ・コアは、一種の錠前だ。
世界の形を守る番人であり、同時に世界改変の切り口でもある。
この錠前を解錠した者こそ、世界を掌握すると言っても過言では無い。
CROSS HEROESも武道も、エタニティ・コアの重要性は把握していた。
「エタニティ・コアを奪われる事は、何としても食い止めねばならん。だが…」
そこで武道は、何故か言い淀む。
いつもの彼からは信じられない、どこか気弱な様子だ。
普段の武道が一切見せない一面だった。
「_今、この地球に何か強大な…ミケーネとは違う『神』に近しい気配がある。それも、幾つもだ。」
荘厳なる声で、武道はそう語る。
彼の口にする『神』の言葉は、ミケーネ神達の事を言う時とはまた違った重さを含んでいる。
その一方で、丸喜にはその『神』に覚えがあった。
「もしかしたら、CROSS HEROESを…人類を査定に掛けようとしている、超常の存在かもしれない。」
「ほう。」
「それこそ…武道がこの地上に降りる前の、神だった様な。」
それは確かに、武道にとって無視できない内容だった。
「彼らの船で、その内の一人と接触したんだ。青髪の少女だけど、集合無意識とは全く繋がっていなかった。」
「成程な。人の形をした、人ならざる者か。」
「恐らく、他にも…」
この地球に生きる人類を、すべての生命を査定に掛ける存在。
武道には、その存在に幾つもの心当たりがあった。
(よもや、調和の…いや、この気配は別だ。)
一瞬脳裏を過ぎった、超人を選別せんとする存在…その可能性を除外する。
そして生命全体を選別する存在に思慮を巡らせた時、一つの答えに辿り着く。
「…破壊神ビルスだな。」
武道は、その超常者の名を呟いた。
破壊の権化。
地球規模では無い。
たかだか一つの星における一地方の神話程度は容易く超える、宇宙規模の破壊の化身だ。
「人の手では解決できぬと見たか、厄介な。」
「…確かに、事態は神の領域にすら踏み込んでいる。」
武道の口ぶりからは、またも焦りが感じ取れた。
そこから武道ですら畏怖する事態なのだと、丸喜は直感で理解する。
「それだけでは無い。人類単体でも、既に危険な域に達している。」
同時に、そんな存在が来訪した理由にも当たりが付いていた。
「それはもしかして…」
「あぁ、メサイア教団だ。」
メサイア教団。
人類の選別・浄化というキラ思想を掲げ、技術力を以て台頭する一大勢力。
各国に潜んだスパイ・魔術的な介入など、実質的な政治的影響力は今や列強諸国に迫る程。
だが、テロリストだ。
「粛清という名の同族殺しを刊行している人類では、手に負えないと見られても仕方あるまい。」
メサイア教団によって、数多の人間が殺された。
彼らに対抗する為に、流星旅団を初めとした対抗組織も生まれた。
詰まる所、人類は未曾有の危機に晒されている最中にも関わらず、滅亡規模の内輪揉めをしているのだ。
超越者から解決能力が無いと見られるのも当然だろう。
「CROSS HEROESが査定に落ちれば、破壊神共が直々に介入するだろう。だが…」
一呼吸置き、再び口を開く。
「その時は私が出れば良い、やるべき事は何も変わらぬ。」
「…あぁ、僕らが人類を救えると示せば良い。」
彼らは、己に課した役割にただ最善を尽くす事を誓う。
互いに信じた理想の為。
「うむ、私も外へ出向くしよう。竜王との蜜月もこれまでだと、私自らが示さねばな。」
武道はそう告げると、その巨軀をゆっくりと動かす。
丸喜もまた、動こうとして。
「それじゃあ僕は…あれ、アビィ?」
そこで初めて、シャドウアビィが案山子の様に黙ったままだったと気付く。
彼は何故か、空の上を見上げていた。
「どうしたんだい、空を見て。」
「…何か、来る。」
その呟きに、丸喜は一瞬戸惑う。
超越者たちが来る事は、先に口にしたばかりだ。
まさか聞き逃したのだろうかと思った時、彼は続けて言う。
「武道の言ってたのとは、別の何か。懐かしい感じがする。」
「…別の、超越者?」
「あ、分かった。」
「パパだ。」
◇
「_まったく、彼らの人材にはほとほと驚かされるよ。」
アビダインの操縦席で、一人ぼやくアビィ。
彼の後方にあるビデオモニタには、メサイア教団の艦艇がずらりと並んで砲撃を仕掛けてきている。
駆逐艦、揚陸艦、果ては戦艦と正しく大艦隊だが、いつものアビィなら問題では無い…筈だった。
「とんぼ返りでボロボロだ。」
大海原から視線を落とし、アビダインの船体を見る。
目に映るのはひしゃげた傷の数々。
純白だった装甲はすっかり陰もなく、各所の傷口から漏れた油圧オイルで黒ずんでいる。
アビダイオーへの変形も、現在は不可能だ。
これでも彼自身の手で24時間掛けて修理してはいたのだ。
だが全快にはドッグ入りが必要だった。
「…やるしか無いかぁ。」
殆どどん詰まりの状況。
だがアビィには、一つ手がある。
「なるべく皆には見せたくなかったんだけどね、命を奪うのは。」
アビィは自身に取り込んだあらゆる生命力を自在に使う。
皆には表立っては見せなかった、禁忌の力だ。
…そしてメサイア教団の艦隊には、艦隊を動かす『無数の命』がある。
「僕もさ、皆を死なせたくないからさ。」
だが彼の声は、酷く冷え切っている。
目に宿るは殺意、心には覚悟。
眼下の大艦隊を見下ろし、彼は決断する…
「彼らの命を_」
「_その必要性は無い、僕の愛しい息子よ。」
「_はっ?」
その刹那、嫌に暖かい声が聞こえ。
次の瞬間…
◇
「なんだ、アビダインが光っている?」
その様子は、十神達から確認できた。
アビダインを覆うように、淡い光が形を作っている。
「…!?」
「ま、眩しい…!」
その光に思わず目を覆い、再び目を開けた時。
「き、消えた…!?」
そこに、アビダインはいなかった。
「Innocent World/ベルベット・ルームの看守」
――特異点、リビルド・ベース。
偽りの見滝原からの帰還を果たした一行は、戦闘の喧騒から切り離されたこの場所で、
ようやく安息を取り戻していた。
中庭に面した広間では、子どもたちの笑い声が響いている。
クラス:アサシン、ジャック・ザ・リッパーが無邪気に走り回り、ポール・バニヤンは
床に腰を下ろしながら、小さな木製ブロックを積み上げていた。
その中心にいるのは、精神体となった平坂たりあだった。
半透明の身体。だが、表情は穏やかで、確かな温もりを湛えている。
子どもサーヴァントたちは、彼女が“完全ではない存在”であることなど気にも留めず、
自然に手を伸ばし、声をかけていた。
「ほら、ジャック。走ると転ぶよ」
「だいじょーぶだもん!」
その光景を、少し離れた場所から見守る影がある。
――ペルフェクタリア。
腕を組み、壁にもたれながら、無言でその様子を見つめていた。
感情の起伏は抑えられている。だが、視線だけは一瞬たりとも外れない。
たりあが楽しそうに過ごしている。それが、今の彼女に許された、唯一の救いだった。
やがて、隣に立つ気配。
「……優しい時間だね」
声をかけたのは、日向月美だった。
月美もまた、その光景をどこか切なげに見つめている。
「見滝原に辿り着いて、たりあちゃんと会えた事だけは、良かったと思う」
ペルは、短く頷いた。
「……ああ」
「ほむらさんが言っていたね。禍津星 穢に滅ぼされたはずの“リ・ワールド”……
そして、失われたたりあちゃんの肉体」
ペルの視線が、わずかに鋭くなる。
「消滅したと断定するには、情報が足りない。私がたりあによって脱出した後の
世界がどうなったのか……」
「そう……盲点だった。私もお父さんの秘奥義によって助かったけれど……
世界の結末を確認していない」
ペルもたりあも、禍津星穢によって滅びの現象に見舞われた。
世界は跡形も無く消滅したのか、もしくはまだ存続しているのか……
「たりあの肉体は、まだどこかにある可能性が高い。リ・ワールドも同様だ」
「禍津星穢に直接問い質せれば……けど、ここの所、あいつは姿を現していない」
「まだ何かを企んでいるのか……こちらの動きを探っているのか……」
同じ頃――リ・ユニオン・スクエア。
メサイア艦隊の包囲網から距離を取るべく航行するトゥアハー・デ・ダナンと
随行するアビダイン艦内。
医療ブロック脇の休憩区画。消毒の匂いと、低く唸る機関音が混じり合う空間で、
二人は並んで座っていた。奥村春は、膝の上で手を組み、俯いたまま動かない。
その隣で、佐倉双葉は床に座り込み、端末を抱えたまま画面を見つめていたが、
指は止まっていた。
「……ねぇ、双葉ちゃん」
先に口を開いたのは、春だった。
「私……足手まとい、だったよね」
「…………」
双葉はすぐに返事をしなかった。
それが答えではないと分かっていても、沈黙は春の胸を締めつける。
「皆、前で戦ってた。雨宮くんも、明智さんも、喜多川くんも……
私は、魔界の瘴気に当てられて、判断も鈍って……」
暗黒魔界でのノワールはアビダインの防衛……後方支援に回っていた。
『こ、来ないで! 撃ちますよ!?』
『ふひひ、怯えてやがるぜ、この女!』
『戦いが怖いなら、俺達が遊んでやろうか!?』
『ひっ……!?』
暗黒魔界のならず者たちは、皆、悪意に満ちていた。暴力、強盗、殺人、そして……
ありとあらゆる悪が日常となっている世界。
大手企業のオクムラ・フーズの令嬢であるノワール――奥村春――は裕福な家庭に育ち、
本人もまた秀仁学園の屋上で家庭菜園を開くような、穏やかな生活の中で生きてきた。
それだけに、暗黒魔界という場所は精神の消耗も激しかった。
「“心を折られやすい場所”だって分かってたのに……」
「春」
双葉が、顔を上げた。その表情は珍しく、はっきりと落ち込んでいる。
「……それ、私のセリフ」
双葉は端末を抱き寄せ、歯を噛みしめる。
「暗黒魔界、データ取れなさすぎ。通信ノイズ、観測不能、因果律ぐちゃぐちゃ……
“分析役”として、ほぼ何もできなかった」
双葉は、いつもの自虐混じりの調子ではなく、真剣に続けた。
「私、いつも後ろから皆を支えてた。だから今回も、“なんとかなる”って思ってた」
拳が、きゅっと握られる。
「なのに……蓮たちが前で全部受け止めてるの、見てるしかなかった」
暗黒魔界で前線を務めたジョーカー、クロウ、フォックス。乱戦の中で乱入してきた、
アクマイザー3との死闘を、双葉――ナビ――は見ていた。
その強さは圧倒的で、ジョーカーの奇策が無ければ、危うく命に関わっていただろう。
それをただ、ただ、見ているしか出来なかった。春は、そっと双葉の方を向く。
双葉は苦笑する。
「ハッカーが、“情報拾えない”とか、RPG的に最悪イベントだよ」
冗談めかした言い方。けれど、その裏にある悔しさは隠せていなかった。
大事な人を眼の前で失う……もう二度とごめんだと思っていたのに。
しばらくの沈黙のあと、春が小さく息を吸う。
「私ね……“優しさ”は、どんな世界でも通じるって、思ってた」
「……うん」
「でも暗黒魔界は……優しい心を、最初に壊そうとしてきた」
春は、視線を落としたまま続ける。
「怖くて。雨宮くんたちが遠くに感じて……自分が、すごく弱く思えた」
その言葉に、双葉は目を伏せた。
「……それ、正常反応」
「え?」
「暗黒魔界で“平気”な方が異常」
双葉は、鼻を鳴らして笑った。春も、小さく微笑む。
「次は……次こそは、ちゃんと“私にできる形”で、支えたい」
「うん。その時は――フルスペック双葉様、見せてやる」
トゥアハー・デ・ダナンが、メサイア艦隊の追撃から逃れるべく航路をゆく。
艦内の照明が一瞬、わずかに揺らいだ。
その異変を、誰よりも先に感じ取ったのは――雨宮蓮だった。
(……?)
胸の奥が、引き込まれるように重くなる。これまでにも幾度となく経験した感覚。
(これは……)
足を踏み出そうとした瞬間、床の感触が失われた。
音が消え、色が溶け、世界が反転する。
どこまでも深い、暗い牢獄が、蓮の前に広がっていた。
「……やっぱり、ここか」
鉄格子。
鎖。
静寂の中に、微かに漂う人影。
「ようこそ……囚われし客人」
聞き慣れた、不気味な低音。禿げ上がった白髪、充血した瞳、鷲の嘴のように
尖った鼻の礼服姿……ベルベットルームの主人・イゴールが、奥のチェアに腰掛けている。
その傍らには、青いワンピースに黒のドロワーズ。頭には蝶を模したカチューシャを付けた金色の瞳とプラチナブロンドの少女……ラヴェンツァが控える。
これまで、心の怪盗団を陰ながら導いてきた……看守。
「……暗黒魔界の件、だな」
蓮は落ち着いた声で答えた。だが、心の奥では理解している。
「お世辞にも、褒められた結果じゃなかったろう。怪盗的に言えば、お宝を盗み出す事無く
出戻りを食らったようなものだからな」
「此処に畏怖の叫びを phase.2」
「人理の使いっ走りが……邪魔をするか!」
こめかみを怒りで引きつかせながら、アルキメデスはその猛将を睨んでいた。
最高の蹂躙劇に水を注す、謎の闖入者。
「おい、そこの!ここは吾に任せて逃げるんだ!」
尻もちをつく城之内に声をかける。
だが彼は驚きで固まったまま、動けずにいる。
「いいから逃げろ、この男は吾が倒す!」
「わ、分かった!」
その一声で漸くと気を戻した彼は、その場を走って去っていく。
「追いますか?」
「いやいい、その前に藍神がここに戻ってくるかもしれん。この町をしらみつぶしに探せ、散れ!」
「「「はっ!」」」
アルキメデスの一声で、兵士がその場を散っていく。
逃げまどう住民、残されたのは二騎のサーヴァントのみ。
「……その槍、その瞳。些か若いが……『プトレマイオス』か?」
プトレマイオス、征服王イスカンダルと共に世界を征服した若き猛将。
そして同時に、かつての古代エジプトを統治した王でもある。
二つの全盛を持った白天と黒夜の英霊、それこそがプトレマイオス。
「どうやら吾の真名を知っていたようだナ。」
「貴様の名など、私が生きていた時代に飽きるほど聞いたよ。」
生きた年代、という点で考えてみるとアルキメデスの言には一定の説得力がある。
プトレマイオスの没年と、アルキメデスの生誕年はかなり近いどころか、わずか4~5年ではあるが両者ともに生きていた時期があった。
それだけではなく、アルキメデスが学問を収めたとされるエジプトのアレクサンドリアは、老年のプトレマイオスが治め、生き、没した都。
であるならば、アルキメデスがその名を知識として知っているのも無理はない。
彼に真名看破の能力はないが、霊基に刻まれた知識がプトレマイオスの名を導くに至った。
「面白い。私がその槍ごと粉砕してあげよう、先輩。」
「そうかい、だったら来るがいいサ、後輩!」
槍を構え、学士を見上げる猛将。
空中に浮かび、猛将を見下ろす学士。
「殺戮技巧、シラクソン・ハルパゲー!」
振り下ろされる巨大な鉤爪。
ソリッドビジョンなどではない、現実。
「効かん!」
道を駆け抜けながら、プトレマイオスはその槍から青い光を放つ。
光は雨のようにアルキメデスを貫かんとするが、彼は周囲に浮かばせた歯車型のチャクラムを使って防御する。
防御した隙に、叩き付けられる鉤爪のクレーンを足場にアルキメデスに肉薄せんと迫るプトレマイオス。
「見え透いている!」
独楽状に変えた歯車の上にとび乗り、後方へ下がりながらアルキメデスは鏡を取り出す。
その鏡は中天にて輝く太陽の光を集約させていく―――!
「答えを出そうか、貴様のつまらない答えをね!」
「来るか!」
放たれる光に、プトレマイオスも構えた。
自らの右手に、光の魔力を込め始める。
「喰らえ―――アルキメディアン・リフレクション!」
「させるか―――!」
二つの光が激突する。
光と光、熱と熱の奔流。
「……その光、大灯台の鏡か!プトレマイオス!」
「そっちだって、さっきの光線は吾の宝具と似ているようだが!」
光は両者の間、その中心でぶつかり合い、周囲に散らしていく。
互いのエネルギー量は同じ、拮抗状態だ。
「ならば仕方あるまい、隠し玉はとっておいておきたかったが……。」
だが―――アルキメデスにはまだ奥の手があった。
「!!」
「来い、バーサーカー。」
『自動英霊召喚システム「オモヒカネ」起動:令呪装填 命令:直ちに眼前敵の元まで向かい、攻撃を開始せよ』
機械音声が指令を上げると同時に、それは姿を現した。
その姿を誰かに言うならば金属を組み上げて作り上げられた、機械仕掛けの蜘蛛としか言いようがないデザインの巨大な『何か』。
体長は目測で5メートルほど。
背には神が背負う光輪を装備し、童美野町の地を踏み砕きながら、まるで金属同士をこすり合わせような総毛を立たせる音を上げて叫んでいる。
「――――――!!」
その咆哮は逃げ遅れた住民やデュエリストのみならず、プトレマイオス本人すらも身じろがせた。
「何を呼び出したんだ、一体……!!」
「Epilogue Aeria Gloris~天の栄光~」原文:霧雨さん
「貴様の前にこの怪物を呼び出させる訳にはいかなかったが、全ては大義の為だ。精々遊んでいろ!」
アルキメデスはそういいながら、霊体化しその場を去ってしまった。
そこに残されたのはプトレマイオスと、謎の機械仕掛けのバーサーカー。
「――――――!!」
魔力を排熱し、その鉄腕を振るいながら迫る。
プトレマイオスは槍を大地に突き立て跳躍し、迫る鉄腕の攻撃を回避する。
「ちっ!」
機械仕掛けのバーサーカーは自身に搭載された、刃の如く鋭い尾を振り回しながら建物ごと彼を切り裂かんとする。
その一挙手一投足が「破壊」という形で出力され、爆炎と暴威の嵐となってプトレマイオスを破壊しようとしていた。
しかしそこは猛将、その全てを防ぎ、躱し、その隙をついて反撃していく。
「おおッ!」
「■■■■■■■■―――!!」
バーサーカーが両の拳を突き合わせるだけで、周囲が爆発する。
その爆発すらも防ぎ切り、ビルを駆け上って跳躍。
右手から青白い光の投射によりバーサーカーの霊核の破壊を狙う。
「喰らえ、アレクサンドロスの光を!」
放たれる光線が、一条の星の如くバーサーカーの核目掛けて放たれる。
その光に気づいて、バーサーカーは両腕を使い光線を防いだ。
アーク溶接を思わせる閃光と熱が、鋼鉄の腕を融かす。
「そう簡単にやられてはくれないか!」
「―――、―――!!」
あまりにも重厚な筐体とは思えない、俊敏な動きと跳躍力で『それ』は天高く飛ぶ。
そして、お返しといわんばかりに光輪の虹光を一点に集約させ、プトレマイオスに投射した!
(何か拙い!!)
プトレマイオスは直感的に、かの虹光が「恐るべきもの」であると理解した。
自分が放った光とは思えない、死の虹。
迫る光から感じ取れる、悍ましきモノの数々。
炎、病、雷、天災―――即ち『厄災』!
人類が抗えぬ絶対の絶望、それが虹の形で投射され、プトレマイオスの霊核を抉り取らんとする!!
「くそぉ!!」
虹光に包まれ、姿が見えなくなる。
傍から見れば、誰もがプトレマイオスの消滅を予感するだろう。
だが、その様子を上から俯瞰していたアルキメデスだけは理解していた。
「チッ、”空間を切り離して”逃げたか―――。」
やられたのではなく、逃げた。
術理の解析に優れた慧眼を持つアルキメデスには、その仕掛けが分かった。
きっと、プトレマイオスは周囲の空間を切り離すことで、バーサーカーの厄災投射攻撃が届かない次元にまで移動した。
「もはや戦闘は無意味だ、撤退せよバーサーカー。」
『「オモヒカネ」バーサーカーに撤退命令 霊体化処理完了』
舌打ち交じりのアルキメデスの指示を受け、鋼鉄のバーサーカーはそこから姿を消した。
彼は、プトレマイオスの消失、否、逃避を見てもなお安心できずにいた。
『アルキメデス、どうかね新たなサーヴァントは。』
そこに存在しなかった世界のビショップから連絡が入る。
彼の声はどこか楽し気である。
「ああ、性能的には最高だ。これならばCROSS HEROESも打倒できるだろう。」
『そうだろう。』
「だが一つ問題がある、人理が寄越したサーヴァントがここに来た。」
『そうか、やれそうか?』
「そいつはかの叡智の王、プトレマイオス。口惜しいが一筋縄ではいくまいよ―――。」
◇
海上 十神のボート
「起きろ、そろそろダナンに着くぞ。」
十神に起こされる流星旅団とシャルル遊撃隊、そしてアルケイデス。
アルケイデスが外を見ると、トゥアハー・デ・ダナンの艦が見える。
だが、何か様子がおかしい。
「異形の何かに、攻撃を……あの紋様は!」
「メサイア教団か、俺たちが集まるのを嗅ぎ付けてもう動き出したか!」
細長いひし形の、異形の宇宙船の如き”艦船”が砲撃をしているではないか。
月夜とアルケイデスはそのマークから、艦船の正体がメサイア教団により送り込まれたものであると気づいた。
「どうする、うまく接近できるか……!!」
十神が購入したボートには、自己防衛手段となりえる兵装は搭載されていない。
そして相手の武装は、こんなボート程度ならば簡単に破壊できよう。
一撃でも喰らえば全員お陀仏、絶体絶命。
「私が甲板に出て、奴らの砲撃を撃ち落とし続けよう。」
そう名乗りを上げたのは、外ならぬアルケイデスであった。