パンディスタンス☆カナムラ物語

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  • たいやき
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パンディスタンス☆カナムラは、毎朝六時三十二分にだけ、正しい位置に立てた。
それ以外の時間では、世界の方が少しずれている。

星印は本名だ。戸籍にも、保険証にも、職場の名札にも、きっちり☆が入っている。
理由は誰も知らない。両親はもういないし、役所は「仕様です」としか言わなかった。

彼の仕事は、立つことだった。
駅前広場の、白線と白線のあいだ。
パンディスタンス——それは踊りでも武術でもなく、ただ「そこに居る」という技術だった。

人は通り過ぎる。
犬も通り過ぎる。
選挙カーの声も、失くした傘も、全部、彼を避けて通る。

それでいい、とカナムラは思っていた。
自分が動けば、世界が揺れる。
だから動かない。だから立つ。

六時三十二分。
その一分間だけ、白線が呼吸をする。
アスファルトの下で、何かが「合った」と音を立てる。

その瞬間、カナムラは確信する。
ああ、今日も世界は壊れなかった、と。

ある日、広場に貼り紙が出た。

      「パンディスタンス禁止」

理由は書いていなかった。
理由は、たいてい書かれない。

カナムラはその日も立った。
星印が、少しだけ重かった。

警備員が来た。
「どいてください」

カナムラは動かなかった。
動かないことが、彼の全てだったからだ。

六時三十二分。
白線は、もう呼吸しなかった。
それでもカナムラは立っていた。

世界が先に、折れた。

白線が消え、広場が傾き、人々は自分の影を見失った。
誰かが叫び、誰かが座り込み、誰かが空を見上げた。

その中心で、
パンディスタンス☆カナムラだけが、正しい位置にいた。

後日、新聞の隅に小さく載った。

    「原因不明のズレ、自然に収束」

名前は出なかった。
☆も、もちろん。

翌朝、六時三十二分。
広場には何もなかった。

それでもどこかで、
パンディスタンス☆カナムラは、今日も立っている。
世界が思い出せるように。