宇宙の法則を持続させるため、5000億年前からα-327惑星の神殿で自転車をこぎ続けるサイモンと、サイモンが疲れて休憩したせいでワープしてしまった宇宙飛行士アンナの突飛なラブストーリーと、その破綻

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1人目

シャカシャカ――
シャカシャカシャカ――
ただ、ペダルが、チェーンが、ホイールが擦れ、回転する音だけが響いている。白亜の柱の立ち並ぶ神殿からは、遥か星々の海が全周囲に広がっている。その中央、演台の如く一段高い台座の上に、ひどく場違いなものが置かれている。先ほどから音を立て続けている自転車である。
スポーツタイプではない、日用のシティサイクル。ピンク色のフレームには刺々しい爆発エフェクトとともに、立体的な描き文字で「BIG BANG!」とペイントされ、リスを擬人化したようなキャラクターが驚いている様子がペイントされている。その自転車に騎乗している、擦り切れて、襤褸になったトーガの名残を辛うじてひっかけている、ギリシャ彫刻のような肉体の男。
目を開けているがどこを見ているわけでもなく、半開きの口は呼吸の外は何もしない。ただ、その右腿を前に、下に、左腿を後ろに、上に、ただただそのようにペダルを回転させ続けている。彼はもはやそれが誰に課された苦役か、何の咎に科せられた罰か、そんな事も覚えておらず、ただ、何を考えることすら忘れて漕ぎ続けている。
スタンドに持ち上げられた後輪はただカラカラと回転している。人間には理解できない神話的機構が、その車輪の回転が齎す何らかの力を変換し、宇宙の全ての法則を不変かつ普遍足らしめているのだ。
これは、自らの名すらも忘れ、全てを支える奴隷へと堕とされた彼が、今ひとたび自らの人生の主人へと立ち直り、そして破滅するまでの物語だ。

2人目

シャカシャカシャカ――ビリビリ…
ボロのトーガが車輪に巻き込まれて破れ、彼はスッポンポンになった…。
彼は意に介さずに自転車を漕ぎ続ける。

シャカシャカシャカ――ぐ~、ぐぎゅ…
すでに無くなったと思った空腹のアラームが鳴る。
それでも彼は意に介さずに自転車を漕ぎ続ける。

シャカシャカシャカ、シャカシャカシャカ…。
星海に浮か白亜の神殿で、ただ一人 彼は自転車の一部品であるかのように漕ぎ続ける。
今までも、これからも…過去も現在も未来も…それは変わらないと思われていた。
宇宙の いずこかで…退屈な甲高い笛や乱暴に打ち鳴らされるドラムの音の合間に
白痴の魔皇が身じろぐ。
星海に波紋が生まれ、森羅万象の理(ことわり)に破愚(バグ)が発生する。
(俺は何をしてるんだろう…)
闇に満たされた空虚な頭蓋(ずがい)に僅かに残された彼の欠片が目覚め…
生物として当然の食欲や疲労から来る睡眠欲がビックバンが起こして彼はサイモンとなる。
「休むな!漕げ!漕ぎ続けろ!お前は漕ぎ続けなければならない!」
(何でだ?何で、そうしなければならない?)
頭の中で木霊(こだま)する声はサイモンの疑問には答えてはくれない。
一定のリズムで漕がれていた自転車に乱れが生まれる。
神殿の上、高次元のベールが破れ歯車やピストンが露わになる。
(…ダオロスの夢幻螺旋体)
奇妙な角度の正7面体で作られた13の顔を持つ積層構造物。
不可思議な いくつもの半球体と輝く金属とが長い可塑性の棒で連結された
それ合間から『ベールを剥ぎ取る者 ダオロス』がコチラを見ていた。
(もう…限界だ…)
グラリと自転車からサイモンの体が転げ落ちる。
大理石の床に仰向けに倒れ、ただただ何も考えずにアレを見上げる。
時空間のベールの破れ目が広がっていく…。
サイモンに向かってダオロスが近づいてきて…熱い何かに触れたように飛び退く。
「%$*?」
(猊下?誰だ?)
「私だよサイモン。覚えてないだろうがね。少しだけ時間をあげよう。
それで永遠の牢獄より解放され甘美なる終焉を得なさい」
落ち着いた声…そこで、意識が途切れた。
―――
「ちょっと!起きなさい!起きってってば!」
目覚め…眩しい…空腹…疑問?
(ここには俺しか居ないと記憶している…)
上半身を起こし、辺りを見る…。
見慣れた神殿に、見慣れない原始的な宇宙船があって…
リスを擬人化したような小柄で可愛らしい女が自分の側にいた。
「…私はアンナ!貴方は誰?ここは、どこなの?答えなさい!」
「俺は…サイモン…だと思う。そう記憶している…」
これが彼と彼女のファースト・コンタクトだった…