妻
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6時間前
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白鳥ナミ
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四十五歳になって、祭りに行く理由は減ったと思っていた。
それでもその年、俺は二本松のちょうちん祭りに足を運んだ。理由は単純で、久しぶりに同級生五人が集まることになったからだ。
提灯の明かりは、昔より少し眩しく感じた。
人混みの中で交わす近況報告は、仕事、親のこと、体調の話ばかりで、笑いながらもどこか現実的だった。
祭りのあと、駅前の飲み屋に入った。
狭い店で、肩を寄せ合うように座る。
そのとき、カウンターの端にいた女性が妙に目に入った。特別きれいというわけでもない。ただ、笑い方が静かで、こちらを気にする素振りもないのに、なぜか視線が戻ってしまう。
理由は分からなかった。
二時間ほどで店を出て、俺は一人、もう一度祭りを見に戻った。
提灯の列は変わらず、太鼓の音が腹に響く。さっきまでの賑やかさが嘘のように、心は静かだった。
そのとき、肩をトントンと叩かれた。
振り返ると、さっきの女性が立っていた。
「あら、偶然だね!」
声は想像よりも軽かった。
俺が言葉を探していると、彼女は続けた。
「ここで話すのも何だから、飲み屋に行こう!」
断る理由は浮かばなかった。
二人で移動した店で、何を話したのか、細かいことはあまり覚えていない。ただ、会話の間に沈黙があっても、不思議と落ち着いていた。
祭りの灯りは、もう見えなかった。
一年後、彼女が妻になるとは、
その夜の俺は、想像すらしていなかった。